「俺は奴隷じゃない」「洗脳された」日本語“最強”技能実習生の独白日記

中国人の元技能実習生が独白「洗脳された」「働けば働くほど、見えてきた闇黒」

記事まとめ

  • 入管法の改正問題もあり、メディアでは外国人技能実習制度への批判の声が上がっている
  • 技能実習生の経験がある中国人が、日本行きまでの経緯やブローカーなどについて綴った
  • 「今、考えたら勉強というか、まさに洗脳そのものと思います」などと経験を独白した

「俺は奴隷じゃない」「洗脳された」日本語“最強”技能実習生の独白日記

「俺は奴隷じゃない」「洗脳された」日本語“最強”技能実習生の独白日記

2018年3月、范への取材前の『QQ』での会話。日本語が上手すぎる……

 今年(2018年)12月8日に可決された入管法の改正問題もあり、メディアでは外国人技能実習制度への批判の声が上がっている。「技能実習」「国際貢献」といった建前とは裏腹に、実質的には人手不足に悩む日本の中小企業に低賃金労働者を送り込む制度と化していることはご存じの通り。問題が極めて多い制度であることは言うまでもない。

 私は2017年末ごろから、この技能実習生問題に関連する仕事が増えた。なかでも印象に残った取材相手が、今年の春に『Newsweek 日本版』の特集記事で取材した范博文だった(『Newsweek』の記事の表記は「範博文」)。

■辞書をまるごと暗記した達人

 彼は中国内陸部の江西省南昌市出身の29歳の労働者だ。学歴は高等専科学校卒(事実上の高卒)で、直近の職業はガードマンである。

 范とは中国のSNS『QQ』の技能実習生コミュで知り合ったが、なぜか異常なほど日本語の読み書きができた。通常、技能実習生は仕事上で必要な最低限の日本語しかできない例が多いため、彼はかなりの変わり種だ。理由を聞いてみると、日本に来てから職場でバカにされたので腹が立ち、辞書をまるごと一冊暗記して覚えてしまったらしい。

 彼はなんと日本語能力試験の最高レベル、N1の取得者だった。趣味はスマホを使って、日本のYahoo!ニュースなどの報道記事を読むことだという。

■技能実習生当事者の肉声

 そんな范は帰国後、特に「技能」を活かす場も得られず田舎町のガードマンとして暮らしていた。だが、春の取材以来、私を含めて何人かの日本人と知り合ってから考えを変えたらしく、一念発起して学歴を付けるために日本に留学しようと考えたのであった。

 彼が目指したのは、筆記試験なしの面接のみで合否が決まる某私立大学のAO入試だ。私は半年前に彼を取材した縁もあって受験用の来日のビザ取りを手伝い、府中市内にある私の仕事場に1週間ほど泊めてあげたのだった(だが、無骨すぎる性格が誤解を招いたのか、元技能実習生の経歴のせいで就労目的だと思われたのか、面接には落ちてしまった)。

 とはいえ、せっかく3年ぶりに日本に来たのに大学受験だけで帰るのはもったいない。そこで、技能実習生時代の経験について彼に文章を書いてもらい、それを私が記事にしてみることにした。

 最初は適宜、私が校正や再編集をしようかと思ったのだが、文章を見るとそのままのほうが味がある気がしたので、原文そのままで紹介していきたい。技能実習生の経験者本人が、これだけまとまった量の肉声を日本語で語るのは、おそらく本邦初だろう。じっくりとお読みいただきたい(以下、手記部分は原文ママ)。

■「皆さん、こんにち」

<皆さん、こんにち、范博文「ハンハクブン」と申します。生まれも育ちも中国内陸部にある江西省南昌市です。年齢は29歳、趣味はあらゆるジャンルの記事を読むこと、東洋経済、日刊スポーツ、ニューズウィーク、東京新聞など、毎日は名だたる雑誌や新聞を読み漁るのです。そして古銭、銅貨、銀貨などを集めること、一枚一枚を通して東亜細亜の歴史や貿易関係が見えて来ますからです。

 こんな私なんですけれど、ある日、心機一転というか、日本に研修生を送り出すとある下請けか孫受けという仲介業者のところに訪ねて日本に行けば儲かる話を聞いて日本行きを決めました。後の祭りなんですけれど、まるでニンジンがぶら下げられた馬みたいになった気がします。「3年間、よく働いていれば30万元(注.約489万円)ぐらい貯められるよ、人生一発逆転だぞ」、「ほらあの、帰って来た研修生に聞いて、いくら稼いだの? 30万元或いはそれ以上でしょう。」と言われました。

 ところが、日本行きの研修生になるには仲介業者に支払う仲介手数料が馬鹿にならないほど、必要です。私は決めた以上、支払いを決意、親の支援もあって一括払いをしました。金額はなんと46000元(注.約75万円)、私にとって間違いなく大金なんです。夢見るばかりにバカを見たといえるでしょう。>

■実習生は出国前から手数料を取られる

 いやはや見事な日本語だ。上記の文章に登場する「仲介業者」とは、中国国内でのブローカーのことである。彼らは技能実習生の送り出し機関の下請けとして存在し、実習生は出国前から手数料の名目で多額の搾取を受ける。近年の中国人は仲介手数料を自前でまかなえることが多いのだが、ベトナムなどより貧しい国では手数料を捻出するために桁外れの借金をするため、いっそう悲惨な状態で来日することとなる。

 中国の場合、日本での3年間の技能実習を通じて400万〜600万円ほどを貯められるという甘言をエサに、ブローカーが出稼ぎ希望の労働者(=技能実習生)を集めている。これは実習生側に、高額な仲介手数料への不信感を感じさせないための方便だ。なお、日本側の受け入れ機関や企業はこれらの実態をほとんど把握していないか、黙認していることが多い。

 ちなみに技能実習生は、中国国内では「研修生」と呼ばれている。これは平成22年の日本側の法改正前の名称(現在の技能実習1号に相当)だが、この呼称が定着しているようだ。

■徒競走と算数――バカバカしい選抜試験

<そこで知り合った同じこころざしを持つ人が何人かいました。後に仲間となった3人はほとんど私みたいに底辺社会で息苦しく暮らす、日本行きを通して一攫千金を夢見る若者達、1人はシンガポールで出稼ぎ経験を持ち、ほかの2人は出国経験無く、誰かが紹介してもらい仲介業者を通して送り出し機関に来ました。

 それで握手、走りを通して体力はあるかどうかをチェックしたり、小学生レベルの算数をしたりしたというばかばかしい選抜に参加した後、テストに合格して組合が運営する技能実習生を受け入れる日本語学校で勉強し始めました。>

 ブローカーによりスカウトされた技能実習生たちは、日本側の監理団体(組合とも。後述)と提携する「送り出し機関」と呼ばれる組織に集められる。そこでは、徒競走や算数のような「ばかばかしい選抜」を通じて非熟練労働者としての最低限の能力をチェックされた後、ごく簡単な日本語教育や日本社会でのマナー研修を施される。

■日本の公共施設に立ち入るな?

<今、考えたら勉強というか、まさに洗脳そのものと思います。何故かというと、日常会話も読み書きもかけ離れる言葉ばっかり、「原型を使ってはならない、できるだけ丁寧な言い方をすべき」と言われ、守らなければ罰を加え、そしていろいろ可笑しなルールをつけられたり、守らされたりと、要求されました。

 日本に来た以上、日本のルールと法律を守ることが当たり前のこと、そう思われてもしょうがないが、ただし公園や駅の待合室にすら入ることが許されません、つもり日本の人に研修生の存在を見せたくないのでは?>

 下の段落の内容を補足しておこう。范によれば、中国国内の研修と、来日後に監理団体(後述)が開いた研修の双方で、技能実習生は日本の公共施設に立ち入るなと指示されたらしい。おそらく、社会生活を制限して逃亡を防止する意図からそうした指示がなされているのだろう。

 技能実習生たちは日本への到着後、いったん監理団体と呼ばれる日本側の受け入れ機関に集められ、それから国内の各企業に配属される。この監理団体の仕事は企業に対する実習生の斡旋と、来日した実習生たちの監督(監理)だ。しかし、監督業務を真面目にやらなかったり、トラブルが起きた場合に顧客である企業側の肩を持つ団体が多いことが、問題をより深刻にしている。

■「『君の名は。』の舞台です」に絶句

<それでもいっぱい稼いで今までとは違う、豊かな人生を歩むことを信じ、町工場に入り働き始めました。だが、私達を迎えたのは年季の入った町工場、そのなかで働いていた人も年上ばかり、これから扱う染色機も私達より年上なんです。職場で使われる言葉もほとんど方言だし、タメ口もしょっちゅう聞こえるし、日本語学校で教えてくれた言葉とは次元が違うレベルといえると思います。その優しい日本語が消えてがっかりしたわけ、洗脳されたと思われるわけ。

 町工場での仕事中に「なんでやおめえ、仕事できなきゃ、国に帰れ。わいわいうるせぇ、早く仕事せよ。ボーっとするんじゃねえ、仕事に戻れ」、こういうふうに言われても腹立つんですけど、研修生の身である以上、受け身にならざるを得ませんでした。>

 技能実習生たちが日本で配属される場所は、多くが地方の第1次・第2次産業の現業の職場だ。受け入れ企業の8割は、従業員数が49人以下の中小企業である(個人経営に近い会社も多い)。

 ゆえに、大企業と比べると財務基盤や法令遵守意識が薄い企業も多い。経営者や従業員が外国人慣れしていないケースもまま見られる。差別的な言動を自覚せずにおこなったり、外国人に対して方言で仕事の指示を出してそれが通じないことを理由に相手を罵倒するような例もあるということだ。

 ちなみに范とは別の人だが、アニメ映画『君の名は。』を見て日本が好きになり技能実習生に応募した結果、岐阜県内の縫製工場でひどいセクハラに遭った中国人女性に取材したことがある。中国側でブローカーの説明が不十分なこともあり、最近はワーキングホリデーと勘違いして技能実習生になってしまう中国人もいるのだ。

 私が「あなたがいま働いているこの場所が、『君の名は。』の舞台の岐阜県なんですよ」と伝えたところ、彼女はしばらく絶句したまま動かなかった。

■8年間で174人が死亡

<それでもとりあえずそれらに目をつぶってがんばって働くしか考えてなかったのです。ところが染色という仕事は日々、身体に害を及ぼす染料に触れ合い、運ぶこと、工場内で漂う臭いも鼻を突くほど、非常に苦しかったんです。

 仕事帰りに疲れ果てた私達を待つ帰る家が、会社側が提供した寮なんです。4人で40平米ぐらいという小さい空間に住んで、電気代や光熱費などを含めず、家賃だけでも5万円ぐらいです。>

 范本人に聞いたところ、工場での仕事は「朝から晩まで300度から500度の高温の液体で染料を煮て布を染める」ようなものだったらしい。中国国内では「実習」の内容が危険作業である説明どころか、日本で肉体労働に従事することすらまともに伝えられていなかったという。

 付言すれば、12月13日に法務省がおこなった野党合同ヒアリングによると、2010〜2017年の8年間で死亡した技能実習生は174人もいる。だが、問題は労働環境の劣悪さだけではなく、そもそも賃金が低すぎることだった。

■手取り額は11万円ほど

<それで働けば働くほど、見えてきた闇黒がたくさんあります。給料が安いし、残業代含め手取り額は11万円ぐらいしかなかったし、毎月、会社側が日中両方の組合に管理費を支払い、実に迂回して私達から取ったお金としか思いません。そして3ヶ月ごとに必ず来る監理団体の人間は私達、弱者という研修生を守る側に立つべきなのに、会社側の言いなりになってしまいました。利益がある限りではそうするわけ。

 どういうことで誰も早く帰国することを考えるようになるのでしょう、わたしもそうでした。もうこの仕事は私の夢に叶うどころか、損するばかり、帰国することを決めたわけ。>

 ここで范が書く「会社側が日中両方の組合に管理費を支払い」とは、実際は受け入れ企業が日本側の監理団体に払っている管理費だと思われる。金額は月額3万〜6万円程度だ。一種の中間搾取であると指摘される例も多い。

 ちなみに、この監理団体は日本人経営が多いものの、なかには帰化した中国系日本人や、中国人配偶者を持つ日本人が運営している組織も少なくない。日本で成功した中国人が、技能実習生になる貧しい中国人やベトナム人を搾取する構図も存在するのだ。

 范はこれらがバカバカしくなり、また受け入れ企業の経営が傾いたこともあって、3年(現在は5年)の実習期間の満了を待たずに帰国した。彼は引き続き述べる。

■染料工場で働いたが、帰国後はガードマン

<まあ、悪い事ばかりではなく、日本の素晴らしいところもたくさん見られてすごく嬉しい気持ちに、闇があればひかりもあるのです。太陽が落ちれば必ず朝になって上るのです。

 毎日辞典を覚えつ忘れつ繰り返し暗記し丸ごと覚えたあと、日本語を通じ、厳しい情報統制が行われた中国では見えないことがたくさん見られ、勉強にもなると思います。その後、帰国したとはいえ、もう一度日本に来たい気持ちもこころの中に植え付けました。 

 ふるさとに帰ってから学歴もないし、大したことスキルもない、というわけで山田電気みたいな電気屋で働いて、その後、警備員もしました。仕事の合間を縫ってネットを通して毎日4時間ほど、日本語の勉強をしたり、様々な記事を読んだあと、感想文を書いたりしてだんだん留学生としてもう一度チャレンジしたいという夢を膨らませ、留学することを決定しました。>

 技能実習制度の建前は、発展途上国の若者に「先進国」である日本の職場の技能を伝え、母国でそれを発揮してもらうことで国際貢献をする――、というものだ。ただ、岐阜県の染料工場で働いた范が帰国後はガードマンになっている例からもわかるように、圧倒的多数の実習生は、帰国後に技能を母国に伝えたりはしていない。

 日本で技能実習生に与えられる仕事には、弁当の箱詰め(どう考えても5年もかけて技能を蓄積しなくていい)や、瓦ぶき(瓦がない国でこの技能をどう活かすのか)などもある。そもそも国も雇用側も働く側も、制度に関わる全員が技能の習得など考えていないのだ。

■范のようには声を上げられない技能実習生たち

 実質的な労働者であるにもかかわらず、実習生に職業選択の自由や移動の自由が事実上ほぼ認められないシステム、本国と日本国内の双方に存在する多額の中間搾取、一部の監理団体の不作為のせいでパワハラやセクハラを訴え出られないブラックな職場環境など、外国人技能実習制度の問題点は多い。

 しかしながら、今年12月の入管法改正でも、技能実習制度は廃止されずそのまま残った。極端な低賃金の労働力を5年間固定的に使い続けられる制度は、人手不足に悩む日本の中小企業にとってすこぶる好都合であるうえ、すでに強固な利権構造が出来上がっていることから、政府としても廃止するわけにはいかないのだろう。

 さておき、元技能実習生の范はそれでも日本が嫌いにはならず、あらためて日本語能力を活かして留学しようと考えたのだが、今回は残念ながら面接に落ちてしまった。しかしこう話す。

<やはり日本は先進国には先進国なりのいいところがたくさんありまして生まれつきの反骨心を持つ私はどうしても倒れ、ひどい仕打ちを受けたところでひっくり返したいんです。 

 人生とは不思議なもの、倒れたまま、立ち上げられず、終わりか、それとも勇気を持って何度も自分に社会に挑戦するか、人生を大きく左右することはきっとできます。失敗しては立ち上げ挑戦します。私はそう思います。>

 范自身は前向きだし、日本語もできるので、将来はなんとかなるかもしれない。だが、彼の背後には范よりずっと日本語がヘタで、もっと危険だったり安かったりする仕事に従事させられ、メディアに体験を告発する機会もない技能実習生が何十万人も存在している。

 日本の社会を支えている、外国人労働制度の闇はあまりにも深いのだ。

(安田 峰俊)

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