松本人志も「行かない」派  賛否両論の「人間ドック」には行くべきか?

松本人志も「行かない」派  賛否両論の「人間ドック」には行くべきか?

©iStock.com

 先日、おもしろい番組がありました。医師でありながら、「ヘイヘイドクター」という「医療関係者あるある」のネタで人気上昇中のピン芸人、しゅんしゅんクリニックP(以下、しゅんP)さんが12月13日、トークバラエティ番組「ダウンタウンDX」(日本テレビ系)に出演。その際、松本人志さんに「松本さんが全然、人間ドックに行かないって噂聞いたんですけど」と質問しました。

 これに対し、松本さんが「僕は行かないですね」というと、しゅんPさんは「マジでヤバいですよ」「早期発見、早期治療が原則ですからね」と指摘。松本さんが「検査行ってるのに、何も見つからなかったっていうのが多いでしょ」と反論すると、「それが大事なんじゃないですか。何を言ってるんですか」「お笑いの王様だとは思いますけど、言い訳はめちゃめちゃベタですよ」と松本さんを叱ったのです。

■明石家さんまも「検診なんか受けたことない」?

 これを読んで、思い出しました。実は少し前に、明石家さんまさんが司会を務める「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)にレギュラー出演している生物学者の池田清彦さん(早稲田大学名誉教授)にインタビューしたのですが、池田さんも明石家さんまさんもがん検診や健康診断を受けていないのだそうです。池田さんは、こんなふうに話していました。

「病気しないんだ、あの人。タレントを40年間やってるけど、『2日続けて寝込んだことない』って言ってたよ。病気は1日で治しちゃうって。医者にも行かないし、さんまさんも武田邦彦さん(中部大学特任教授・『ホンマでっかTV』に環境評論家として出演)も俺も、検診なんか受けたことない。この前、人生相談で『うちのお父さん受けないんで行くように言ってください』って言われたけど、俺ら困っちゃって(笑)」(曽野綾子他『60歳からの新・幸福論』宝島社)

 さんまさんが向上長(司会者)を務める「さんまのお笑い向上委員会」(フジテレビ系)の「モニター横芸人」としてブレイクのきっかけをつかんだしゅんPさん。果たして、吉本の大先輩で、恩人であるさんまさんにも、人間ドックに行くよう叱ることができるでしょうか。

■「余計なお世話」だと思います

 しかし、医師であるしゅんPさんには悪いのですが、がん検診や健康診断に行かないからといって、他人や身内を叱るのは「余計なお世話」だと思います。なぜなら、何度か紹介してきましたが、がん検診や健康診断を受けたからといって、長生きできるという確固たるエビデンス(科学的根拠)はないからです。

 現在、国は「死亡率を下げる効果がある」として、肺がん検診(胸部X線検査)、胃がん検診(胃バリウム検査)、大腸がん検診(便潜血検査)、乳がん検診(マンモグラフィ検査)、子宮頸がん検診(細胞診)の5つを推奨しています。

 しかし、私が書いた週刊文春の記事「この検査、必要なし」(2018年9月13日号)でも指摘しましたが、「胸部X線検査」や「胃バリウム検査」は有効性に疑問があり、これらをがん検診として行っているのは世界でも日本くらいなのです。

 がん専門医として著名な勝俣範之医師(日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授)ですら、胸部X線検査について「死亡率を下げる確かなエビデンスはなく、がんの見落としが多いなど精度管理もできていません。ムダなんだから、やめればいいんです」と記事でコメントしています。

■とくに問題なのは「過剰診断」による治療

 乳がん検診についても、死亡率を下げる効果はあったとしてもとても小さく、EBM(科学的根拠に基づく医療)の実践家として知られる名郷直樹医師(武蔵国分寺公園クリニック院長)も次のように指摘しています。

「デメリットを考えると、乳がん検診はコストがかかる割に効果が小さい。集団検診として公費をつぎこむのはやめて、乳がんリスクが高い人だけ受けられるようにするほうがいいかもしれません」(「専門医が勧める受けるべき検査」週刊文春2018年11月29日号)。

 この中で一番メリットのあるのは大腸がん検診ですが、それですら皆さんが思うほど大きな効果ではありません。また子宮頸がん検診は信頼性の高いデータはないものの、「コストが安いので、集団検診に適している」(名郷医師)という評価です(前出の記事および、名郷直樹著『検診や治療に疑問を感じている方! 医療の現実、教えますから広めてください!!』ライフサイエンス出版など参照)。

 がん検診にはメリットばかりでなく、がんを見落としてしまう「偽陰性」や、逆にがんでないものを異常ありと診断してしまう「偽陽性」、命を奪わない病変をがんと診断して治療してしまう「過剰診断(過剰診療)」などのデメリットがあります。

 とくに問題なのが過剰診断で、治療する必要のない病変なのに、手術を受けたり抗がん剤治療を受けたりすることもあります。つまり、「早期発見、早期治療」は、しゅんPさんが力説するほど、いいことばかりではないのです。がん検診は効果が限られていることや、デメリットもあることを理解したうえで、自分の判断で受けるか受けないか決めるべきものだと言えるでしょう。

■「長生きできる」証拠はなかった

 がん検診以外の定期健診についても、欧米でたくさんの臨床試験が行われましたが、いずれも「長生きできる」という証拠を得られませんでした。デンマークの研究者らが14件の臨床研究を統合し、18万人分のデータを解析した2012年の論文でも、定期健診を受けても心臓病、がんの死亡率は下がらず、寿命を延ばす効果も確認できないと結論づけられています( BMJ, 2012. 345:e7191. )。

 そればかりか、この研究では定期健診を受けると「病気」と診断される人が増え、コレステロールや血圧を下げる薬の服用が増えることも指摘しています。つまり、定期健診を受けても寿命は延びないのに、ムダな治療を受ける人が増えて、ムダな医療費が嵩んでいく可能性が高いのです。

■デンマークは定期健康診断制度の導入をストップ

 こうしたことから、諸外国では定期的な健康診断を見直す動きが出ています。デンマークでは研究者の説得によって、政府の選挙公約だった定期健康診断制度の導入を取りやめたそうです。

 また、カナダでも伝統的に行われている毎年の健康診断がエビデンスに支持されていないとして、年齢・リスク等に応じた対応に改めることを推奨する報告が2017年に予防医学特別委員会(CTFPHC)によって出されています(独立行政法人経済産業研究所・関沢洋一主任研究員スライド「エビデンスに基づく医療(EBM)からEBPMが学ぶこと」2018年12月14日より)。

 さらには、米国総合内科医会も、過剰な検査や治療を避け、適正な診療を推進する「チュージング・ワイズリー(賢い選択)」運動の中で、「健康な人に毎年の身体検査は大抵不必要で、益よりも害をなすことが多い」と勧告を出しています(Choosing Wisely“Health Checkups”)。

■がん検診・定期健診を受けないのは「賢い選択」かもしれない

 明石家さんまさんや松本人志さんが、こうした医学的なエビデンスのことを知っていたかどうかはわかりません。ですが、「がん検診や定期健診は受けない」というのは、「賢い選択」である可能性もあるのです。繰り返しますが、「人間ドックを受けろ」と、他人がとやかく言うべきではありません。

 むしろ日本では、エビデンスを軽視したムダな検査が横行しています。たとえば、がんが増殖すると高くなる「腫瘍マーカー(がんがあると血液中に増える物質)」は、消化器の炎症や喫煙でも高値になったりするので、がん検診としては役立ちません。

 にもかかわらず、オプションのがん検診として有料で実施している人間ドックや健診センターが少なくありません。また、前出の文春の記事などでも指摘しましたが、肝機能検査や心電図検査なども、専門医からムダと指摘されています。みなさんが定期的に受けている検査の中にも、エビデンスのないムダな項目が多いのです。

■かかりつけ医を持つことをお勧めします

 なお、誤解のないように付け加えますが、ここで問題点を指摘しているのは、ふだんから「健康」な人に対して行う検診や健診のことです。もし、病気と思われる体の重大な変化やなかなか治らない症状があった場合には、早めに医療機関に行って、詳しく診てもらうべきです。

 その際、注意しなければならないことは、そうした症状や病気があるときには、がん検診や人間ドック、健診センターに行くのではなく、かかりつけ医や各診療科の外来で診てもらうべきだということです。

 がん検診、人間ドック、健診センターは「何も症状がない人」が見てもらうべきところで、そこでは病気の詳しい検査や診断はできません。にもかかわらず、「気になる症状があるから」と検診や健診を受けに来る人がいるそうですが、それは間違いなのです。

 明石家さんまさんや松本人志さんにも、がん検診や人間ドックに行かない代わりに、気になる症状があればすぐ診てもらえ、適切なアドバイスができる「かかりつけ医」を持つことをお勧めしたいと思います。しゅんPさん、過剰な検査や治療をしない良心的なお医者さんをお2人に紹介してはいかがでしょうか。

(鳥集 徹)

関連記事(外部サイト)