「文具にかける金額は年間200万円」「自宅には段ボール200箱分の文具」海外でも活躍する“文具マニア”がハマった“沼”への入り口

「文具にかける金額は年間200万円」「自宅には段ボール200箱分の文具」海外でも活躍する“文具マニア”がハマった“沼”への入り口

文具ソムリエールの菅未里さん ©文藝春秋 撮影・上田康太郎

 ペンやノート、ハサミ、電卓……。仕事でもプライベートでも、暮らしに欠かせないのが文具。近年では機能性に優れ、女性をターゲットにした文具も多く登場し、もともと興味がなかった人からの注目も高まっている。さらにその魅力にハマり、抜け出せなくなってしまう“文具沼”という言葉も――。

 そんな“沼”にハマってしまったのが、文具ソムリエールの菅未里さん。国内外のトレンドに精通し、商品企画や執筆、テレビや雑誌への出演など、その魅力を発信している。彼女はどのようにして沼にハマってしまったのか。自身の活動や、思い出の文具などについて話を聞いた。(全2回の1回目/ 続きを読む )

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■2013年から“文具ソムリエール”に

――菅さんは2013年頃から“文具ソムリエール”として活動されていますが、具体的にどういった活動をされているのでしょうか。

菅 メディア出演やSNSを通して、文具を広く、たくさんの人に知っていただく活動です。

――情報はどのように収集しているのですか。

菅 実は、文具もお洋服のように展示会があるんです。コロナの期間中はオンラインなどでも定期的に展示会がありますし、他にもメーカーさんから新作のリリースを直接送っていただくこともあります。ただ、リリースが出ないものもあるので、そういったものは店舗に行って探したりしますね。

――メーカーさんとも密に仕事をされているのですね。

菅 そうですね。私はもともと販売の仕事をしていたので、その頃からのお付き合いの方もいらっしゃいますし、メディアに出るようになってからコンタクトを取って、いろいろと情報交換させていただいているメーカーさんもいます。今は企画監修というかたちでメーカーさんと一緒に作らせていただくこともあります。

■海外でのトークイベントも

――菅さんは国内だけではなく、海外でも活動されているそうですが、海外ではどんなことをされているのでしょうか。

菅 海外にもいろいろなメーカーさんがあるので、工場見学だったり、国際カンファレンスに参加して、世界のいろいろな国の売り場作りを学ばせていただいています。あとは、トークイベントでお話しさせていただくこともあります。

――トークイベントではどういった事を話されるんですか?

菅 日本はすごく文具が豊富な国なので、最新作をごっそり持って行って、現地のファンの方に「こんな文具がいま日本で出ていて、この国でも数カ月後には出ます」みたいな話をしています。

――現地のメーカーの方ではなく、ファンの方に向けてなんですね。

菅 そうですね。イベントは現地の卸売業者などが主催者で、来る方は文房具ファンなんです。そこで通訳さんを挟んでわーっと話す感じですね。

――今まで何カ国くらい訪れたのでしょうか。

菅 あんまり数えた事はないんですけど、ドイツ、イタリア、フランス、上海、台湾、タイ……。改めて今度数えてみます(笑)。

――日本は海外より種類が豊富なんですね。

菅 国にもよるんですけれども、やっぱり日本って優秀な会社が多いです。特に世界的な筆記具メーカーは多いですよね。パイロットとかゼブラ、三菱鉛筆、セーラー万年筆、プラチナ万年筆とか、筆記具を中心に多いですね。安くて質の良いものが手に入るというのは日本のすごく大きな特徴だと思います。

■きっかけは小学生時代の“おもしろ消しゴム”

――文具界のインフルエンサーとして活躍中ですが、そもそも菅さんがその魅力に目覚めたきっかけはなんでしょうか。

菅 私は元々、あんまり人前で話すのも得意じゃなくて、学校でもクラスメイトとわいわいしゃべるっていうタイプではなかったんです。

 小学生の時に“おもしろ消しゴム”という、サッカーボールとかお寿司の形をした消しゴムがすごく好きで、いろんな種類をたくさん集めていたんですね。

 それをたまたま学校に持っていって、机の上に置いておいたらクラスメイトの子が「何、これ」って話しかけてくれて。それで、「あ、面白い文具を持っていると話しかけてくれるんだ」っていう(笑)。それがきっかけでハマっていったって感じですね。

――きっかけは些細なことだったんですね。そこからさらに“沼”へとのめり込んでいったのはなぜでしょうか。

菅 小学校の時の“おもしろ消しゴム”で人と話したのをきっかけに、中学校・高校でも同じ手を使って、ちょっと周りと違う文具を持っていくというのをずっとやり続けていたんですよね(笑)。そのうち「文房具っていろいろあるんだ」っていうことに気付いて、いろいろと買うようになっていって、それが今に至る感じです。

 大人になってからは大型雑貨店の文具部門で働いていました。いまの文具ソムリエールというのも運良く仕事にできましたね。

■高校生で手にしたトンボ鉛筆ズームシリーズ

――ご自身にとって思い入れのある商品はありますか?

菅 高校生の頃に父親にねだって買ってもらったトンボ鉛筆の『ズーム707SH』という2000円くらいのシャーペンですね。今は高いシャーペンって沢山出ているんですけど、当時はあまりなかったので、思い出深いですね。今は使い込み過ぎて剥げてきちゃったので、大切に引き出しの中に入れています。

 このシャーペン、「本当に大丈夫? 書ける?」っていうくらい、本体がすごい細いんですよ。それを学校で使っていると、クラスメイトから「細っ! 何これ」って言われるくらい。

――そんなに細いんですね。書きづらくはないんですか?

菅 それが全然書きづらくないんですよ! 本当にちゃんと設計されていて、全然疲れないですし、すごくかっこいいんです。トンボ鉛筆のズームシリーズって結構かっこよくて、今でもおすすめです。

■コロナ前は週3〜4回お店を回っていた

――店舗にはどのくらいの頻度で通われているのでしょうか。

菅 コロナ前は週3〜4回行ったり、1日にまとめて何軒もまわっていましたね。コロナの時期はあまり行けなかったので、オンラインで買い物していました。

――素人感覚だと、そんなに頻繁に行っても商品ラインナップはあまり変わらないと思うのですが……。

菅 意外と新作が頻繁に入荷されているんですよ。あとは、全国にある系列店だと同じようなラインナップに見えても、お店によってお客様層が違うので、取り扱っている商品が微妙に違ったり。店員さんの裁量で仕入れるお店だと特色が出てくるので、そういうのを比べてみるのも結構楽しいんです。

――たしかに1つのアイテムでも色違いが数種類あったりしますよね。

菅 そうなんです。5つの色があっても、あっちのお店では3種類、こっちのお店では2種類、みたいなピックアップする色の違いとかもあったりして。そういうのも結構面白いんですよ。

■年間200万円くらい購入した年も…!

――文具は実際に購入されるのですか?

菅 買う事が多いです。

――結構お金がかかりますよね。今までの購入総額はいくらでしょうか。

菅 総額はちょっと怖くて計算してないんですけど、一番多い時で年間200万くらい買っていた事があって、このままだと破産するなって思いました(笑)。

――年間200万円はすごいですね。購入したものはすべてご自宅に?

菅 自宅にあります。でも廃番だったり、型が変わったり、お仕事で紹介できないようなものは、取っておいてもどうにもならないですし、仕事で紹介する際に取り違えてしまう危険があるので、そういった文具は家族に譲ったりしています。

――今まで購入した中で一番高級なものは?

菅 モンブランの万年筆で20万円くらいです。キャップの先の部分にモンブランのロゴの形にカッティングされたダイヤモンドが入っているものです。これは大きな仕事が決まった時のご褒美として買いました。書き味もすごく良くて気に入っているんですけど、落としたら嫌だから出張には絶対持って行かないです(笑)。

■引越し時には、文具だけで段ボール200箱分

――ご自宅には何点くらいのアイテムがあるのでしょうか。

菅 数えた事がないんですよ。去年、引っ越しをしたんですけど、その時は文具だけで段ボール200箱分くらいありました。

――すごい量ですね。すべて把握されているのですか?

菅 いえ、結構分かんなくなります(笑)。「あれ? 買ったのにな……」っていう、買ったはずなのに無いみたいなことはありますね。100%把握はできていないです。たまに間違えて同じものを買っちゃったりします。

――筆記用具をはじめ、ホチキスやハサミなど様々な商品がありますが、菅さんが一番好きな文具はなんでしょうか。

菅 難しいですね……。やっぱり筆記具類、ペンとかとノートですかね。一番使うので。

■細分化されてアイテムが増えている文具

――近年はデジタル化が進んで、文具を使う機会が減ってきていると思うのですが、そのぶん新作のアイテム数も減っていたりするのでしょうか。

菅 文具事務用品の市場規模は減少傾向ですが、ニッチな悩みに対応した様々な文房具が発売されて、個人の悩みに対応した商品がたくさん出ています。ものすごく細分化されていっているんですよね。

 例えば、“静音設計”のボールペンとかですね。ノック音が無音じゃないけど、すごく静かだったり、“黒インクのバリエーションが6色”とか。「え、その機能いる?」みたいな(笑)。でも実際に使うと、「おー!」ってなる文具が多いので、アイテム数で言ったらすごい増えているんじゃないかな。

――デジタル化の波に逆行している感じがしますね。

菅 そうですね。仕事で書く作業というのは、ほとんどデジタルでなんとかなってしまう。お手紙や書類作成もそうですけど、メールもありますし、全部賄えてしまうんですよね。最近はどちらかというと、実用より趣味の世界が広がっていっているなって思います。

■9年前は女性の文具ファンが少なかった

――今後、文具ソムリエールとして皆さんにどんなことを伝えていきたいですか?

菅 やっぱり文房具の魅力を沢山の人に知っていただきたいですね。最近、嬉しいのが“文房具マニア”みたいな方じゃなくても、「ボールペンはこだわって使ってるんだよね」とか、そう言ってくれる方が増えてきたので、もしかしたらもう達成されているかもしれないです。

 あとは、「最近の女性って文房具好きだよね」って言われるようになったんですけど、その一言を聞くとめちゃくちゃテンション上がりますね。

――昔は女性のファンは少なかったんですか?

菅 私がこの活動を始めたのが約9年前なんですけど、当時は女性の文具ファンが少なかったんですよ。やっぱりお仕事で使う機会が多かったので、文房具の担い手はどちらかというと男性が圧倒的に多くて。

 それが女性の社会進出だったり、メーカーさんが女性にヒットするデザインとかいろんな物を作ってきたことで、本当にここ10年でガラッと変わったんですよ。ここ数年では“文具女子博”という、可愛い文房具を集めた女性をターゲットにしたイベントも開催されていて、より人気が高まってきたので仲間が増えて嬉しいです(笑)。

――いつか自身のブランドを立ち上げたいという想いもあるのでしょうか。

菅 あんまりないですね。在庫負担が怖くて(笑)。私はもともと売り場にいたので、“長期在庫”とかって言葉が怖すぎて得意じゃないんですよ。だからスポットでちょこちょこってコラボさせていただければいいなって思います。

進化系ボールペン・多機能ケース・自立するボード…文具ソムリエール・菅未里が選ぶ「新生活“必ず役に立つ文房具”ベスト10」 へ続く

(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))

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