「片付けブーム」の先駆者・辰巳渚が息子に伝えたかったこと

「片付けブーム」の先駆者・辰巳渚が息子に伝えたかったこと

撮影:大河内禎(「おとなスタイル」掲載)浅草の仕事場兼自宅で執筆中の辰巳渚さん

  『「捨てる!」技術』 (宝島社)のミリオンセラーなどで知られる文筆家・生活哲学家の辰巳渚さんが、突然のバイク事故により52歳の若さで、帰らぬ人となったのは今年の6月26日のことだった。その早すぎる死の直前まで執筆していた遺作 『あなたがひとりで生きていく時に知っておいてほしいこと−ひとり暮らしの智恵と技術−』 が、1月11日に文藝春秋より発売される。本書は、2017年春に大学進学のためにひとり暮らしを始めたご長男のことを思って書かれた本だった。辰巳さんの原稿執筆を手伝っていたフリーエディター・家事セラピストの石井香奈子さんに辰巳渚さんとの思い出を聞いた。

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 辰巳渚さんは2000年に出版されベストセラーとなった『「捨てる!」技術』の作者ということから、「片付けブーム」の先駆者としてのイメージが強く、また『家事塾』の創設者のため「家事をきっちりとこなす、家事にうるさい人」のように思われがちです。

 ですが、本当の辰巳渚は、おしゃれで可愛くて、そしてちょっと抜けたところもある、とても愛すべき存在です。お財布を忘れるのも日常茶飯事、講座の資料が見つからなくて大騒ぎするなど、彼女の周りはいつも笑いで溢れていました。家事についても「自分で掃除するのに、椅子を持ち上げるのは面倒だけど、お掃除ロボットのために上げるのは苦にならないのよ」などと言うお茶目なところもたくさんありました。

■狭くても快適な家と合理的な暮らし方

 私が、辰巳さんと初めてお会いしたのは、約4年前のこと。ある雑誌で『家事がラクになる家作り』をテーマに辰巳さんをご自宅で取材させてもらったときのことです。初めて訪れた浅草の家は、浅草の町屋をご主人とタイルを1枚1枚貼ってリフォームする、こだわりの家でした。狭くても快適で、そして辰巳さんのお気に入りの家具が設えられ、可愛い小物がいたるところに飾られていました。辰巳さんは「自分や家族が、いかに快適かが大切なの」と語っていました。さらに「私が快適じゃないと意味がないから、2階のトイレを潰して洗濯機置き場にしたの」。そんな合理的な暮らし方も教えてくれました。その家は、家族のための自宅であるとともに、家事塾の仕事場でもあるため、訪れるすべての人に居心地のいい家でした。

■整理や収納の実践よりも「暮らし」が大切

 私は、仕事柄、何人もの片付けのプロの方にお会いしますが、辰巳さんはそうしたプロの方たちのような整理や収納の実践の話というよりは、いつも「暮らし」についての話をしていました。彼女が提唱する『家のコトは生きるコト』は、単に、片付けや、家事の作業ではなく、「人としての暮らしについて考えていく」生活について説くものでした。

 私は、すっかり辰巳さんに魅了され、彼女の元で家事セラピストについて学びました。そこでは「家事とは何か、すっきりした暮らしとは何か」について、「歴史の中で日本の暮らしはどう変遷してきたのか、またこれからどう変わっていくのか」、そして「自分にあった生活はどんなものなのか」について考えていきました。

 さらに辰巳さんは、生活を哲学として捉えることで社会に貢献したいと考え、2016年11月『生活哲学学会』を設立、同時に地域の産業を盛り立てるための人材育成事業として『生活・地域ファシリテーター』養成講座を2017年6月にスタートさせました。「女性の力がこれからの日本を変えていくのよ」と熱く語る姿は多くの女性に支持されました。

■独り立ちするすべての子どもたちへ

 今回発売になる辰巳さんの著書『あなたがひとりで生きていく時に知っておいてほしいこと』の執筆は、2017年春に大学進学のために家を出たご長男を思ってのことでした。生活・地域ファシリテーターの第1期生として学びながら、仕事のお手伝いをしていた私は、似たような年頃の息子を持つこともあり「あなたなら、私の考えがわかるから」と制作の手伝いを依頼されました。2017年夏のことです。

 2018年4月、辰巳さんはさらなる事業展開を目指して、念願だった「株式会社 生活の学校」を設立しました。そんな多忙の中、半年以上の期間を経て、何時間にも及ぶ話し合いのもと、辰巳さんのお話を私が書き起こし、それを元に辰巳さんがご自身で執筆し、この本は制作されていきました。そして完成に近付いた2018年6月26日、大好きな北軽井沢で大好きなバイクでの事故で、辰巳渚さんは急逝されてしまいました。

 今も、私のパソコンには、本の制作のために録音した音声データーがたくさん保存されています。辰巳さんは、いつも楽しく朗らかな笑い声で語っています。辰巳さんのご子息やお嬢様だけでなく、独り立ちするすべての子どもたちに向けた、優しい想いがこの本には詰まっているのです。

 辰巳さんの想いを、ひとりでも多くの方に受けとってもらえることを願っています。

INFORMATION

辰巳渚さんの遺作「あなたがひとりで生きていく時に知っておいてほしいこと」(文藝春秋刊)の出版を記念し、1 月 12 日 ( 土 )14 時30分より池袋コミュニテイ・カレッジで辰巳さんの生きた道を振り返りながら、人生100年時代に辰巳さんの哲学をどう生かしていけるのか、生前から親交の深かった各界の識者による特別講座を行います。(鼎談)光畑由佳(モーハウス代表)× 淀川洋子(家事塾代表)× 野上秀子(生活の学校代表・元セブンカルチャーネットワーク社長) お申込みはこちらまで。

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(石井香奈子)

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