落合陽一×古市憲寿「平成の次」を語る #2 「テクノロジーは医療問題を解決できるか」

 メディアアーティスト・落合陽一氏と、小説「 平成くん、さようなら 」を発表した、社会学者・古市憲寿氏。「平成育ち」のトップランナー2人の対談2回目!( #1 より続く)( 『文學界』2019年1月号 より転載)

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■超高齢化社会の未来図

古市 落合君の本で描かれる未来はすごく面白いと思うんだけど、一方で既得権益というものがある。日本には地方議員が3万人以上、国会議員だけでも約700人。こうした権力者たちが一瞬で死ぬ――それこそ『シン・ゴジラ』のようにヘリコプターに乗った偉い人たちがゴジラのビームで全部死ぬ――ということがあれば変わるかもしれないけど、そんなことは起こらないよね。そうすると、どうやって新しいことが進んでいくんだろう?

落合 ひとつは実装してしまうこと。もうひとつは信じること。僕の中では、皆もう「背に腹はかえられない」と思っているんじゃないかという希望的観測があるんです。既得権益の側も、日本がデフォルトに近しい状態になったらさすがに困るでしょう。既得権益が困ることは何かというと、通貨価値や社会的信頼が壊れることだと思うんですけど、日本円が紙クズになりうるような危機が起これば、ちょっとは期待できるかなと個人的には思うけど。

古市 日本がデフォルトすることはないんじゃないかな。日本の経済規模はIMFが救えるレベルではないからデフォルトは現実的ではない。その前に国際的に協調して日本円を立て直そうとすると思う。あるいは、借金を目減りさせるためにインフレを起こすか。 

落合 その段階で危機なのかと。インフレを起こすか、歳出をめちゃくちゃ減らすか。歳出を減らすために社会保障費がカットされるとなったときに、既得権益層は相当困るんじゃないですか。社会保障費がカットされると、75歳以上の人が生きていくのは一気に大変になる。

古市 お金がないから社会保障費を削るという選択は口でいうほど簡単じゃないよね。シルバーデモクラシーという言葉もあるけれど、この国は圧倒的に高齢者が多い。日本が民主主義国家である以上、社会保障費を大幅にカットできるかな。個人的にはかなり悲観的なんだけど。

落合 背に腹はかえられないから削ろうという動きは出てますよね。実際に、このままだと社会保障制度が崩壊しかねないから、後期高齢者の医療費を2割負担にしようという政策もある。議員さんや官僚の方々とよく話しているのは、今の後期高齢者にそれを納得させるのは難しくても、これから後期高齢者になる層――今の65歳から74歳の層――にどれだけ納得していただけるかが一つのキーになるんじゃないか、と。今の長期政権であればそれが実現できるんじゃないかと思うんですよね。

■安楽死の議論は避けて通れない

古市 財務省の友だちと、社会保障費について細かく検討したことがあるんだけど、別に高齢者の医療費を全部削る必要はないらしい。お金がかかっているのは終末期医療、特に最後の1カ月。だから、高齢者に「10年早く死んでくれ」と言うわけじゃなくて、「最後の1カ月間の延命治療はやめませんか?」と提案すればいい。胃ろうを作ったり、ベッドでただ眠ったり、その1カ月は必要ないんじゃないですか、と。順番を追って説明すれば大したことない話のはずなんだけど、なかなか話が前に進まない。安楽死の話もそう。2010年の朝日新聞による世論調査では、日本人の7割は安楽死に賛成している。それにもかかわらず、政治家や官僚は安楽死の話をしたがらない。

落合 安楽死の話をすると、高齢者の票を失うと思ってるんですかね?

古市 本当はそんなことないと思うんだよね。なぜなら、今の60代や70代は自分の親世代の介護ですごく苦労してるんだよね。そういう65歳の人は、定義上は高齢者ではあるけれど、もしかしたら安楽死には肯定的かもしれない。65歳以上を一緒くたに高齢者と捉えると、見誤ってしまうことが多い。橋田壽賀子さんは92歳で『安楽死で死なせて下さい』という本を出したけど、死にたいと思っている高齢者も多いかもしれない。この超高齢社会で安楽死や延命治療の議論は避けては通れないはず。

落合 終末期医療の延命治療を保険適用外にするとある程度効果が出るかもしれない。たとえば、災害時のトリアージで、黒いタグをつけられると治療してもらえないでしょう。それと同じように、あといくばくかで死んでしまうほど重度の段階になった人も同様に考える、治療をしてもらえない――というのはさすがに問題なので、コスト負担を上げればある程度解決するんじゃないか。延命治療をして欲しい人は自分でお金を払えばいいし、子供世代が延命を望むなら子供世代が払えばいい。今までもこういう議論はされてきましたよね。

古市 自費で払えない人は、もう治療してもらえないっていうことだ。それ、論理的にはわかるんだけど、この国で実現できると思う?

落合 災害時に関してはもうご納得いただいているわけだから、国がそう決めてしまえば実現できそうな気もするけれど。そういったことも視野に入れないといけない程度に今、切羽つまっているのでは。今の政権は長期で強いしやれるとは思うけど。論理的には。

■「この問題は結構ヤバいな」

古市 今の政権は社会保障費の削減にはあまり関心がないでしょ。あと、それを実現しようとすると、日本医師会が反対すると思う。日本医師会は最強のロビーイング団体とも言われている。頭が良くて、お金もあって、時間まである人たちの集まりだから。日本では医療費の7割、後期高齢者の医療費なんて9割は公的負担だよね。つまり医者って後期高齢者に対しては9割公務員。しかも本当の公務員と違って、患者を治療するほど儲かる仕組み。だから、日本医師会がロビーイングを頑張るのはとても合理的だと言える。政治家や財務省も、医師会を敵に回してまで予算を圧縮しようとは思わない。そして高齢者の家族も、病院が面倒をみてくれるならいいかなと考える。こうやって、複数のアクターがそれぞれの目線で合理的な行動を取る結果、既得権益が維持されてしまう。

落合 たしかに9割公務員だと考えると面倒くさいな。でもなんとかしないと。

古市 長期的には「高齢者じゃなくて、現役世代に対する予防医療にお金を使おう」という流れになっていくはずなんだけど、目の前に高齢者がものすごい数いるわけだよね。政治家もお医者さんも、何千万人もいる高齢者を無視したくない。難しいのは、一人の悪人や、一つの欠陥がこの状況を招いているんじゃなくて、合成の誤謬の結果として社会保障の問題があること。そこに風穴を空けるのはかなり難しいよね。

落合 たしかに、そこが重要。高齢者の延命治療はある程度自費で払うことにして、在宅化をすすめれば、社会保障費をカットしつつステークホルダーを納得させることができるんじゃないか。でも、現状を変える必要がないわけですよね。この問題は結構ヤバいな。どうするんだろう?

古市 もうどうにもならないんじゃないの?

落合 いやいや、どうにもならなくはないでしょう。考えないと。背に腹はかえられないとなれば――。

■国家の寿命と自分の寿命、どっちが先に尽きるか

古市 その危機感を日本全体で共有できればいいんだけどね。人口ボーナスは終わりました、信じられない勢いで少子高齢化が進んでます、認知症患者は2025年には700万人を超えます……。客観的にヤバい情報はたくさんあるけれども、背に腹はかえられないという意識は共有されていない。

落合 彼らにとってはそうかもしれないけど、僕の中には危機感はある。彼らはローカル最適に動いているけれど、それをいかにして局所解とは異なる振る舞いをしてもらうか――これは結構大きな話題だけど、どうするんだろう。俺だったらどうするだろうか。目の前にジャブジャブお金を落としてくれる人たちがいて、それによって国家の寿命が減っていることは明らかである、と。そうなると、これはもっと広い観点でロビー活動するしかないんじゃないですか?

古市 そんな団体ってあるのかな。お金と時間があって頭が良い人たちに敵うのはかなり難しいと思うけど。

落合 金がなくて時間があって頭が悪い人は世の中に一杯いますよ。その層にけしかけるようになると、社会不安は増しますね。誰にとっても嬉しくない。

古市 社会保障費を削れば国家の寿命は延びる。若い世代にはいい話だけど、それでも一人あたりの利益はとても少ない。だから社会運動も起きにくい。

落合 つまるところ、今が背に腹はかえられない状況かどうかは日本医師会のようなステークホルダーの判断に頼るしかないんですかね。ある意味では今、チキンレースをしているわけですよね。ローカル最適が目の前にあるから、日本社会がぶっ壊れるギリギリまで局所解の中にいる。

古市 日本医師会というのはわかりやすい例だから出したけど、本当は、あらゆる人がチキンレースをしてるんじゃない? 多くの高齢者は無意識に「国家の寿命と自分の寿命、どっちが先に尽きるか」というレースをしていて、おそらく自分の寿命が先に尽きるから、この国を変えようと思わない。会社単位だともっとそうかもね。「俺の定年までは大丈夫。何とか逃げ切れそうだ」って。

落合 チキンレースで発想している人たちは、チキンレースの世界でしか生きてないからな。俺はチキンレースだと思ったことがまるでないから、わからんのだけれども。でも同じ世代はそう考えて動き始めている気もする。

■日本はテクノロジーと親和性が高い

古市 結局は、自分の見える範囲における合理性だけを追求する人が多いと思う。落合君は何でそんなに日本という単位でものを考えようと思ったの?

落合 何だろう。目の前に問題があって、面白そうだったからかな。普段は国際学会で発表して研究してグローバルにものを作っているから、その反動かも。

古市 そこで日本という単位になったのは、たまたまスケールがちょうど良かったから?

落合 単純な話として、「ローカルトレンドとグローバルトレンドが異なっているのが面白いな」と最近思うようになって。日本におけるローカルトレンドは人口減・少子高齢化・テクノロジー導入だけど、グローバルトレンドは人口増・多子若年化・省人化技術vs.属人タスクなんですよね。そう考えると、ローカルトレンドのほうがテクノロジーと親和性が高いのが面白いな、と。

古市 日本はテクノロジーと親和性が高いというのはその通りだよね。労働人口が減っていくわけだから、テクノロジーで代替するしかない。

落合 それは医療問題にも共通することで。ああ、なるほどね。テクノロジーの場合、そういう状態をどう解決するかというと、オープンソース化する。医療費の問題を解決するためにも、医薬品のオープンソースが出てくればいいのかもしれない。

古市 医薬品の世界は、それこそ世界的なメガ製薬会社がガチガチに特許を抱えてるんじゃない?

落合 特許は25年で切れる。もう一つ、これは日本の国内法の面白いところなんだけど、研究開発に利用する場合は特許権の侵害に当たらないので、研究開発に使うのであれば訴訟リスクが低い。世の中には賢い人とクリエイティブな人がいるので、そうやって抜け道を探すんじゃないですかね。

古市 そこにも法律の壁があって、家族以外の第三者が高齢者の介護をするとき、痰の吸引をするためにも資格が必要で、すごく厳密に既存の法律が決めちゃってるじゃん。

落合 第三者が吸引をするのは法律の壁があるけど、自分で吸えるようになればいい。自分で痰を吸引するためのオープンソースの機械が出てくれば、医療や介護に必要なコストは下がると思うんですよ。一度それが開発されると、オープンソースの安いものが例えばAmazonで買えるようになってくる。

古市 それは本当にそうだね。知り合いで入院している人がいるんだけど、検索能力がすごく高いから町のお医者さんより自分の病気に詳しくなって、自分から治療方法を提案している。アーカイブされている論文を検索する能力があれば、自分に対する適切な治療方法を発見して提案できる。医療情報のオープンソース化が進んでいけば、結果的に医者が役立たない状況がやってくる可能性はあるよね。それで医療はある程度解決できるとして、介護はどうなんだろう。排泄や入浴の補助を完全にこなしてくれるロボットは、いつかはできるとしても、すぐには難しいんじゃない?

落合 今、介護施設と一緒に車椅子のプロジェクトとか色々やってますけど、きっと10年か20年で実現できますよ。今共同研究先では、労働時間の15パーセントぐらいは車椅子を押してるそうです。押すだけならロボットで動かせばいいし、技術的には明日にでも開始できる。だって、自動車工場では資材がライントレーサーで運ばれてるんだから、見た目がダサくてもよければ、線を引けばすぐに導入できる。

■認知症になってもITで普通に暮らすことができる世界に

古市 ベッドから車椅子に移るのは?

落合 パナソニックや深?のスタートアップが作ってましたね。ベッドにつながる車椅子。むしろ車椅子を押している時間の長さのほうがネックになっていて。でも、その作業量はテクノロジーで圧縮できる。

古市 他に介護で問題になることを挙げると、排泄の補助をどうするか。

落合 そこで一番面倒くさいのは、排泄しているかどうかわからないところですよね。それはうちの研究グループでもホットな話題で、よくその話はしてるんだけど、テックで何とかなりそうだなという気はする。研究はされているから。

 排泄に関して何がコストになっているかというと、今はAさんが排泄したかどうかをチェックして、Bさんをチェックして、「Cさん、そろそろトイレ行きましょうか」と声をかけている。無駄な待機時間がすごく長くて、それによって労働力が失われている。でも、その人がトイレに行きたくなっているかどうかを判別できれば、大幅に改善できますよね。今のセンサー技術で、トイレに行きたいと感じているかを検出する仕組みは作ることができる。検出する方法は何パターンかあるから、ぼくらの研究チームは2023年ぐらいまでに何個かモデルケースを老人ホームで動かしてみて、どれぐらい効果があるか、コスト算定はどれぐらいかを検証できるところまで持っていきたいと思っていて。だから、あと10年で介護の現場に導入できるんじゃないかと思います。

古市 他に問題があるとすれば、認知症の問題かな。2025年には国民の20人にひとりが認知症になると予測されているよね。

落合 そうなってくると、社会はまわらなくなっていきますよね。残りの人が対応に追われるわけですから。そこにテックを導入するということも背に腹はかえられない課題で、スマホ+HMOやロボットによる認知症の補助については議論されてますよね。同じ話を何回聞いてもロボットは答えてくれますから。それに、認知症に関していうと、平常なときと平常じゃないときがあるのと、周囲が気づいているときと気づいてないときがありますよね。そこを判別するのはテックが得意な分野なんです。認知症の人にずっと誰かが付き添うのはかなりコストが高いけど、テックが判別して、そろそろ平常じゃない行動を取り出しそうだと察知できれば、そこで人間がアシストできる。モーションキャプチャーの機械は意外と安くなってきているので、それを設置していけば、あとはデータサイエンスで解決できそうな課題ですけどね。やり始めるかどうかが肝要。

古市 でも、認知症を治すのはまだ当分先になりそうだね。アルツハイマー型認知症の治療薬はできると言われているけど、万能の特効薬は難しそう。

落合 しばらく治りはしないかもしれない。しかし、研究開発や治験も進んではいる。薬で治すだけでなく、認知症になってもITで普通に暮らすことができる、何とか頑張って、あと10年でそこに着地したいんですよね。

#3 に続く)
写真=佐藤亘

平成くん、さようなら

古市 憲寿

文藝春秋

2018年11月9日 発売

(橋本 倫史/文學界 2019年1月号)

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