中野信子が目撃した、「たたかわない」がモットーのテレ朝・大下容子アナが生放送中に「たたかった瞬間」

中野信子が目撃した、「たたかわない」がモットーのテレ朝・大下容子アナが生放送中に「たたかった瞬間」

大下容子さん

「入社29年、仕事しかしてこなかった。自分を変えたいけれど…」テレ朝・大下容子アナの知られざる“後悔” から続く

 みなさまのお悩みに、脳科学者の中野信子さんがお答えする連載「あなたのお悩み、脳が解決できるかも?」。今回はテレビ朝日アナウンサー・大下容子さんからの人生相談に回答するスペシャル対談をお届けします。(前後編の後編/ 前編 を読む)

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■能力が低い人ほど自分を過大評価する「ダニング=クルーガー効果」

大下 確かに、私はまとめの一言は断定的に言わないようにしています。「これはこうでこうなんです」と言い切ってしまえるほど物事を分かっているわけでもないですし、そこは観ている方が考える余白を残してもよいのではないかと思うので。

中野 『ワイド!スクランブル』の視聴者は、そういうところに好感を持つのではないでしょうか。多くの場合、断定的に結論を言うことをテレビでは求められがちではありますけれど、あえてそこを「皆さんはどう思いますか?」とオープンクエスチョンにしておくことの価値を、尊重している番組ではないかと個人的には感じています。それは大下さんのキャラでもあり、ポリシーでもあると思っていました。

大下 でもそれは知性なんでしょうか。そもそも私は、自分の選択に自信を持ったことがまったくないですし。自分は間違っているのではないかと、いつも不安を抱えています。

中野 自信がないというのは、逆説的ですが、知性ないしは知性の体力の表れといっていいものなんです。

 アメリカのコーネル大学とイリノイ大学の研究グループが行った研究があります。研究では学生たちにユーモアの理解度のテストをします。一方で、自分のユーモアのセンスに自信があるかどうか自己評価を報告してもらいます。すると、理解度テストの成績が悪かった学生ほど、自分のセンスを高く評価していたことが分かったんです。

大下 自分にはユーモアのセンスがあると思っている人ほどユーモアを理解していない(笑)。面白い研究ですね。

中野 この研究は2000年にイグノーベル賞を受賞しました。

 例えば容姿についても、恋愛や仕事においても同じことがいえる蓋然性が高いでしょう。能力が低い人ほど自分を過大評価する……これをこの実験をした2人の研究者の名を取ってダニング=クルーガー効果といいます。自信がある人はむしろ気をつけなければいけないということかもしれません。

 大下さんはいつも不安だということですが、10代の成績優秀者は不安傾向が高いということが分かっています。不安だから勉強する。だから成績がいい。成績がいいのなら自信を持っていいはずなのに、まだこれでは勉強が足りないと考えるわけです。

 大下さんはいつも徹底的に準備していますよね。人知れず調べものをしたり、きちんと裏を取ったりしたうえで番組に臨んでいるのに、本人はちっともそれをアピールしない。だから私がここで言います!

■イケイケの女性アナウンサーなんて別世界の存在

大下 いえいえ、私の仕事は、出演者の皆さんに輝いていただく環境をどのように整えるかということでして。自分が太陽のように発光できる司会者もいますが、私は、人が輝いて、そのおこぼれの光を少しいただけたら(笑)。

中野 大下さんは小顔でスタイルもいい。それでも女子アナブームに乗ってイケイケでいくということをなさらなかったですね。

大下 そんなイケイケの女性アナウンサーなんて別世界の存在で考えたこともなかったです。学生時代にテニスラケットを抱え、いっぱしの東京の女子大生気取りで渋谷を歩いていたら、「あんた、地方から出てきたでしょ」と声をかけられたくらいですから(笑)。

中野 アクセサリーのチョイスなどいつも見事だと思っています。デーブさんも「あの人はおしゃれでいつもセンスがいいよね」と大下さんのことを陰で褒めていらっしゃるんですよ。今日もモノクロの装いに一つだけ大きなブローチで、控えめだけれど上品な主張があるもので、素敵でした。

 サブからメインのMCになられた時、服装のさじ加減をすこし変えられたかな、と思いました。ワントーンコーデできりっとまとめたり、ほんの少しの変化なんですが、そこに自分が番組を引っ張っていくという覚悟を私は感じました。

 ファッションというのは非言語的メッセージです。例えばロイヤルファミリーは言葉を発しない分、ファッションで伝えるということを意識的にしているようです。

 大下さんは主張があっても本当に控えめで、最近上梓されたエッセイのタイトルも『たたかわない生き方』。大下さんらしいですね。

大下 私が考えたのではなく、編集者の方がこのタイトルで書いてみませんかと企画を持ってきてくださいました。自分には確かにそういうところがあるので、なんで分かるんだろうと驚きました。本を出すのは初めてで、本屋さんで見つけるとつい買ってしまいます(笑)。

中野 その気持ち分かります。私も自分の本が出ると本屋さんに出かけますよ(笑)。

■大下さんの「人に巻き込まれないようにする術」

大下 本書の中でも紹介していますが、中野さんに以前、「大下さんの人に巻き込まれないようにする術、すごいですよね」と言われたことがあります。そんなこと言われたことがなかったのでびっくりして、よく覚えているんです。

中野 大下さんほどTPOをわきまえ、きちんと人に合わせてくれる人はいないと思うんですが、踏み込み過ぎずに意外とスッと引くときがありますよね。

大下 昔からソーシャルディスタンスを取るほうかもしれません。近しくなり過ぎると、余計なことを言ってしまったり聞いてしまったりするかもしれないので。

中野 他の人には言わないのに、パートナーや仲のいい友人には要求してしまうということがありますよね。

 愛着を作るオキシトシンは幸せホルモンと呼ばれますが、過剰に分泌されると相手のことを別の世界を持った別の個体として認識できないような認知の状態が作られて、自分の正義やルールを相手に要求するようになりがちです。

 大下さんは近くなり過ぎず、適切な距離で穏やかにホバリングしている。控えめで穏やかで、でもたたかわないと言いつつ、実は毎日たたかっていますよね。

大下 中野さんとは別の日にコメンテーターとして出演していただいている田中ウルヴェ京さんから「アスリートのようだ」と言われたことがあります。

 アナウンサーは正確に伝えることが最も大事なのですが、災害報道でもコロナに関することでもどうしても専門用語が多くなり、正確さだけでは重要な情報が伝わらないことがあります。ですからどうやったら分かりやすく伝えられるだろうかと頭をフル回転させる。それが私の毎日のたたかいですね。

中野 本番中に司会者にカンペが出ると、普通はそのまま読みます。大下さんは瞬時に短く簡潔に、でも的確に言い替えて伝えるんです。こういう言い替えは他の人はできない、すごいなと思う場面がしばしばあります。

大下 瞬時というと先ほど中野さんはダニング=クルーガー効果の実験の話をパッと出されましたが、本番中もたくさんある知識の引き出しから最も適切かつユニークなものをパッと出してくれます。

■本番でもサラッと吐く毒

中野 考え過ぎるとステレオタイプの薄いコメントになってしまうような気がするんですよね。「考え過ぎてはダメだ」というのは東大工学部の大先輩である建築家の伊東豊雄先生から言われたことです。

 先生の「東京遊牧少女の包(パオ)」という1985年の作品があります。これはファミレスやファストフードの店、シアターを居場所にして都市空間を自由に彷徨う少女たちのための家で、だからキッチンやリビングはなく、『ぴあ』などの情報雑誌を置く家具とオシャレをするためのブースがある。当時の少女たちのリアリティが再現されたものでした。

 優等生的な発想や計算からは出てこない、もう一歩先にある伊東先生の生々しい知性というものに私は感銘を受けたんですね。

 私もたくさん勉強して、知識を熟成させて、芳醇なウイスキーのようなお話ができたらなと思うんですよ。

大下 中野さんのお話はいつも簡潔で深くて、記憶に残るコメントがたくさんあります。「最短距離が最適解ではない」など、胸に刺さりました……。たくさんしゃべってもぜんぜん残らない方も……あ、そんなこと言ってはいけない。

中野 大下さん、本番でもサラッとまさかの毒を吐くことがありますよね。それが聴けるとなんだかうれしい。

大下 中野さんも時が経つにつれてじんわりと効いてくる毒を時折含ませていることに私、気づいていますよ(笑)。どうぞこれからもよろしくお願いします。今日はありがとうございました。おかげさまで私は安心して、自信のないまま、やっていきたいと思います。

なかののぶこ/1975年東京都生まれ。脳科学者。東日本国際大学特任教授。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。医学博士。2008年から10年までフランス国立研究所ニューロスピンに勤務。著書多数。

おおしたようこ/1970年広島県生まれ。テレビ朝日エグゼクティブアナウンサー。慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、93年にテレビ朝日入社。現在は、平日昼の『大下容子ワイド! スクランブル』でメインMCを務める。

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なかののぶこ/1975年東京都生まれ。脳科学者。東日本国際大学特任教授。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。医学博士。2008年から10年までフランス国立研究所ニューロスピンに勤務。著書多数。

おおしたようこ/1970年広島県生まれ。テレビ朝日エグゼクティブアナウンサー。慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、93年にテレビ朝日入社。現在は、平日昼の『大下容子ワイド! スクランブル』でメインMCを務める。

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text: Atsuko Komine

(中野 信子/週刊文春WOMAN 2022 創刊3周年記念号)

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