落合陽一×古市憲寿「平成の次」を語る #3 「堂々とお金儲けできるやつが勝つ」

 メディアアーティスト・落合陽一氏と、小説「 平成くん、さようなら 」を発表した、社会学者・古市憲寿氏。「平成育ち」のトップランナー2人の対談3回目!( #2 より続く)( 『文學界』2019年1月号 より転載)

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■いまだに「新商品がすごい」と思われてる日本

古市 今の日本が抱えている問題をそうやって一個ずつ潰していくと、結局のところ何が一番問題なんだろうね?

落合 価値が積み上がらないことじゃないですか。日本は電化製品とか車とかの製造業の文化に親しみ過ぎちゃって、すべてが減価償却でゼロ円になる世界線(*4)に乗っているんですよね。日本は少子高齢化を迎えていて、新しいものを生産できないので、それを転換するしかない。新しいものを生産できなくなった国は、古くなるにつれて価値が上がっていく世界線に転換しないとGDPは下がり続ける。

 ヨーロッパの巧いところは、少ない労働人口に対して古いものをブランドに転換して積み立てることで、GDPが緩やかに増加する社会構造を作れていること。日本はヨーロッパと対照的で、新築の家が一番高いし、新車が一番高いし、腕時計にしても何にしても、時間が経過することでブランド価値が上がることがなくて、「新商品がすごい」と思っている。これをどう転換できるかが問題になってくるんじゃないですかね。新機能開発の自転車操業を突破しないと。

古市 GDPのかなりの部分は人口構造に依存するよね。これだけ高齢者が多くて現役世代が少なければ、GDPはそう簡単に上がらないんじゃない?

落合 そこがポイントで。デンマークは世界で12番目に高齢化が進んでいて、高齢化率は19.68パーセントだけど、GDPは増加に転じている(日本の高齢化率は世界一位の27.05パーセント)。

古市 でも、デンマークの合計特殊出生率は1.71あるけど、日本は1.44まで落ち込んでる。子どもが産みやすくて、人口規模の小さい北欧は、この場合どれくらい参考になるかな。

落合 たしかに日本は特別ヤバい。ポイントになるのは、日本には置いておくだけで価値が上がるようなものが少ないことなんですよ。人口が減ると生産できる量が減るんだから、情報か信用によって価値を付加していくしかない。それなのに今の日本は、古くなった地域があればとりあえずぶっ壊して再開発をする。あれは圧倒的に無駄じゃないですか。そんなことをするんじゃなくて、その土地がブランド化されて地価が向上して、新たに建てなくても高い価値のある場所が作れればいいわけです。ヨーロッパや中国の古い街並みはそれを実現している。東京もそれを目指そうと口では言っているけど、結局のところ全部壊して新しいビルを建ててしまう。

古市 日本の場合、地震の問題があるから難しいよね。

落合 古いビルでも耐震構造を満たした以降のやつを改修すれば崩れないじゃないですか。地震が来たら一発ですっ飛ぶような建物を建て直すのは大事だけど、壊さなくていい建物でも壊しますよね。

古市 安っぽく作って、それを30年で壊していく。

落合 あのスタイルは、人口ボーナスがあった時期にはよくハマると思うんですよ。そこで労働する人もいれば生産する人もいる。でも、人口減少社会は尻すぼみだから、「地震でも倒れない建物を建てて、それをしばらく壊しません」とやっていくしかない。これは家に限らず、車もそうだし、電化製品や家具でもそうなんですけど、そういう状態をどうやって作っていけるかが勝負だなという気はします。

(*4)世界線 アインシュタインの相対性理論において提唱された概念。2009年に発売されたゲームソフト「STEINS;GATE」でも取り上げられた。世界線は無限に存在するが、世界は一つの世界線に収束されるため、どんな行動を起こしても同じ未来に収束するとされる。

■東京は建物が多すぎるという問題

古市 ヨーロッパに行くと感じるけど、結局のところ新しいビルのほうが便利じゃない? リノベーションした素敵な家もあるけど、やっぱり水道管は古くなっていくし、新しい建物のほうが個人的には好きだな。ロンドンのザ・シャードとか。

落合 まあ、ヨーロッパの人たちは寒くても我慢して住んでますよね。ただ、日本人からするとそれが倹約に見えるけど、資産価値を向上させるために我慢しているわけで、結構金融的な話なんだと思いますよ。

古市 ヨーロッパだと、住み続ければ買ったときより不動産価値が上がっていくからね。だから建物を大事にして住むことが合理的だけど、日本ではそうじゃない。地震が多くて人口が減っていく国だと、住宅価値は下がらざるを得ないんじゃないのかな。

落合 だからそこを変えないと。しかも土地によりけりですし。東京は――東京でも千代田区・港区・中央区に限った話ですけど――放っておいても2040年ぐらいまでは過密していくので、しばらく住宅価値は上がり続けますよ。

古市 その3区はしばらく上がり続けるとしても、東京全体で見れば高齢化は深刻だよね。

落合 多摩ニュータウンとか。そうなったときに、建物を適度に間引くことが必要なんだろうな、と思ってます。古い建物をいくつか残しつつ、人口が減ったぶんだけ周りの建物を潰していくと、地震や火事が起きても周りに延焼しないし、需要と供給のバランスも整えられる。都市計画法の規制があって、市街化調整区域に指定された離島や集落だと、今ある建物に住み続けるぶんには問題ないけど、それを取り壊すと新しい建物は建てられないように規制されているでしょう。そういう規制をそこらじゅうでやっていくと、綺麗に収まると思います。

古市 都市計画にもっとレギュレーションがあって然るべきだというのはその通りだと思う。でもさ、今の日本の景観を守りたいと思う? この中途半端な景観を。

落合 現状は全然思わないけど。でも、規制をかけて間引いていくと、良い感じになると思いますけどね。都心は建物が多過ぎると思う。

古市 東京は人口密度が高いと思われているけど、東京都はマンハッタンやパリに比べて人口密度が低くて、結構分散しちゃってるんだよね。

落合 広く見れば、東京は分散してますよね。中心部は人口密度が高くても、西側に人口密度が低い地域が広がっている。奥多摩なんて一キロ四方あたり23人しか住んでないんですよ。

古市 多摩ニュータウンが計画された時代は、距離の問題は交通の発達が解決するという発想があったんだよね。でも、結局ゴーストタウン化してしまった。郊外の問題というのも、自動運転や新しいテクノロジーで解決できるんだろうか?

落合 多摩はわからないけど、リニア中央新幹線が開通すれば、品川から甲府まで25分ですよ。25分というと、僕が通っているつくばより遥かに近い。そうなったときに、甲府に間引かれた土地が増えると僕は嬉しいですけど。広いと作品作りも研究もやりやすいので。

古市 リニアで25分って遠くない? 乗り降りと待ち時間を考えたら、もっとでしょ。

落合 25分は近いですよ。俺はつくばに通うのに往復2時間かかるけど、つくばエクスプレスに乗っているあいだは作業してるから、遠いと感じたことはないかな。満員電車には乗りたくないけど、座って作業できるなら全然苦にならないですね。

古市 僕は友達の家まで車で15分かかるだけでも遠いと感じるから、できれば仕事先から徒歩圏内に住みたいけどな。

■オウム事件でアートを作りにくくなった

落合 平成で話したかったテーマが一つあって、それはオウム真理教事件なんですよね。日本がブランド価値が向上しない社会になってしまったきっかけの一つは、オウム真理教事件だったと思うんです。今の日本って、デザインやファッションは作れるけど、アートや宗教を相当作りにくくなっていると思うんですよ。そのダメージは大きかったな、と。

古市 オウム真理教の事件によって、宗教にネガティブなイメージが付与されたってこと?

落合 そう。すごく美しいと言われるアートは、本質的には宗教的な価値を持っている。宗教画から始まったアートが、アートという宗教になっている――これが現代アートの世界ですよね。でも、日本みたいに宗教がネガティブになり過ぎて、実物価値を重視するようになると、アートを馬鹿にするようになる。「何でこの絵が100億円もするの?」と馬鹿にしたがるけど、それを100億円だと信じて市場ができるから100億円になる。すごくシンプルな構造なんだけど、そこが弱まったのが大きかったなと思うんですよね。

古市 宗教を信じる日本人はたぶん減っているけれども、おまじないとか前世とか、スピリチュアルなものを信じる人は増えているよね。アメリカではマインドフルネスとか流行っているけど、あれも宗教に近いでしょ。

落合 その点では、世界は身体性に回帰しつつあって、そこからしばらく経つと宗教に戻るんだと思う。ただ、ヨーロッパもアメリカも宗教性が高くて、キリスト教が根ざしている地域は多いし、宗教のダイバーシティは大切にされてますよね。生活と価値観と美意識に根差した価値源泉。宗教のような信じられるものを作るというのはすごくクリエイティブなことだけど、あまり大規模なものは出てきてないですよね。

古市 オウム以降にあの規模の宗教ができるかというと――それはもう、AppleやFacebookでいいんじゃないの? あれも一個の宗教でしょ。

落合 それは外国からもらってきた「宗教」ですよね。昔はソニーやトヨタやホンダといった「宗教」があったんだけど、それと同じように信じられる宗教的なものが国内から出てこない限り、日本のGDPは上がらないと思う。

古市 でも、国内から信じるに足る宗教は出てこないんじゃないかな。3.11以降、日本国民が何を信じたかというと、アメリカが自国民に避難勧告を出したことで「放射能がヤバいんじゃないか」と考えたり、台風情報でもヨーロッパやアメリカの気象庁の情報を見たり、あんまり国内のことを信じられなくなってるんじゃないかと思う。

落合 その中でも、僕は信じられるものを探そうと思うんですけどね。宗教には、ライフスタイルやドグマやブランドといった価値を保存する機能があると思うんです。それができなくなってしまうと、他国の産業に情報サービスの時代には絶対負けてしまう。だって、情報サービスには質量がないから。ビットコインやイーサリアムだって「宗教」だし、日本円だって一つの「宗教」といえなくはない。われわれが新しい価値を発行できなくなれば、価値は減る一方なんですよ。

古市 平成という時代に日本が発行できた新しい価値があるとすると……ポケモンとか?

落合 ピカチュウは世界的な通貨かもしれない。新しい価値になり得たんじゃないですか。でも、ポケモン以外に何かあったっけ?

■汗をかかなくてもお金が儲かるようにならないと駄目

古市 日本国内でだけ流通する通貨はたくさんありそうだけど。安室奈美恵とか、浜崎あゆみとか、宇多田ヒカルとかね。国内に限った話であれば、そういうカリスマ的なアイコンは生まれたけど、これから先にその規模のアーティストは生まれないだろうし、規模は小さくなってくるのかもしれない。

落合 そうなってくると、なかなか厳しいですよね。つまり、労働というのは体を動かして何かを生産することを基準にされているけども、それだけが労働じゃないわけですよ。そういった労働に従事できるのは若い世代に限られるかもしれないけど、第3次産業に移行できれば、労働者は老人でも誰でもよくなる。放っておいても価値が上がり続けるものが日本にあれば、働く人がほとんどいなくても問題ないんです。皆が文化財を持っていて、文化財の値段が上がり続けてくれれば、働かなくてもいいんですよね。ヨーロッパではそれが起こり得るのに、どうして日本で実現できないかというと、日本は文化財的蓄積を30年に一回壊してしまうからですよね。

古市 でも、日本人はお守りとか好きだし、朝のテレビ番組では占いをやっているし、そういうプチ宗教で満足してるんじゃない?

落合 国内的にはそういった信用が流通してるんだけど、国外にも売れるものが醸成されて、汗をかかなくてもお金が儲かるようにならないと駄目なんですよ。日本では汗をかかずにお金を儲けることに対する忌避感が強いけど、その忌避感こそが社会的な資産を減少させる原因だと思う。だって、何もしなくても価値が醸成されるならそれでいいわけですよね。

 でも、ライブドア事件に象徴されるように、日本人はそれを批判したがる。「何だかよくわからんが、汗をかかずに儲けるのはけしからん」と。何も生み出さずに稼ぐのは駄目だというのは大きな誤解なんですよ。この忌避感が有る限り、情報産業の時代にはお金を稼げなくなる。だって、情報産業における原価というのは電気代ぐらいで、限界費用はゼロに近づく。実質原価ゼロのものにお金を払う理由なんて何もないけど、それでもお金を払う人がいるというのは、ブランドだということです。どうしてわれわれはそれを自己肯定できないかというのが問題なんですよね。

古市 でも、国内で成功しているものはたくさんあるんじゃない?「モンスターストライク」(*5)や「Fate/GrandOrder」(*6)のように、国内のスマホゲームで1000億円規模のものはたくさんあるよね。

落合 課金ゲーがなぜ成立しているのかと考えると、携帯電話の月額料金というよくわからないものにお金を払っているからじゃないですかね。だって、あれは別にお金を払う理由がないですよね? もちろんインフラコストはかかるけど。

古市 そこはやっぱり、テクノロジーと、実現できるサービスのギャップがあるんじゃないかな。日本は世界的に見てもかなり早い段階でブロードバンドが整備されたけど、残念ながら日本ではなく、ネット後進国だったアメリカでNetflixは生まれた。やっぱり、ある程度の国内需要がある分だけ、あらゆる業界で、落合君のいう「背に腹はかえられない」という状況に至ってないんだと思う。

落合 なるほど。また危機感。Netflixを生み出さなければというモチベーションが日本人にあるかというと、まるでないですね。

古市 「2020年には5G(*7)が始まります」と言われても、日本でNetflix規模の新しいサービスが生まれるかといわれたら、まったく生まれる気がしないんだよね。

落合 5Gが始まると、情報に対して物質価値がより減少した状態になってくる。そこで堂々とお金儲けできるやつが勝つんですよ。でも、旧来とは違う方法でそんなやつが出てくる気はしないですね。だから次を考えないと。

(*5)モンスターストライク 株式会社ミクシィが配信するスマートフォン向けゲームアプリ。2013年10月配信開始。スマホゲームの日本国内の課金売上では2015年より3年連続で一位を記録し、利用者数は4500万人を超す。
(*6)Fate/Grand Order ゲームブランド「TYPE-MOON」が配信するスマートフォン向けゲームアプリ。2015年7月運営開始。2018年上半期の売上は578億円となり、モンスターストライクを抜いて売上一位を記録した。
(*7)5G 第5世代移動通信システムの通称。2020年代には、移動通信のトラフィック量が急激に増加すると見込まれている。大容量のネットワークシステムを低コストかつ低消費電力で実現するべく、通信会社は5Gの導入を目指している。

#4 に続く)
写真=佐藤亘

平成くん、さようなら

古市 憲寿

文藝春秋

2018年11月9日 発売

(橋本 倫史/文學界 2019年1月号)

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