「参加者に出すペットボトルのお茶は不要では?」PTA総会で声を上げた女性…その後の担当者の“アッと驚く対応”とは――2021年BEST5
2022年05月04日 07時00分 文春オンライン

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2021年(1月〜12月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。ライフ部門の第2位は、こちら!(初公開日 2021年12月14日)。
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その圧倒的な理不尽さに、私の頭は爆発しそうでした――。
ノンフィクションライターの大塚玲子氏は、初めての保護者会でPTAの「クラス役員決め」を経験した際にそのような感想を持ったという。運営が理不尽であったり杜撰であったりした場合、保護者の立場として何か対処できる方法はあるのだろうか。
ここでは、大塚氏の著書 『さよなら、理不尽PTA!』 (辰巳出版)の一部を抜粋。PTA一般会員として悪しき慣習の改善に挑戦した母親タロウさん(仮名)のインタビューを紹介する。(全2回の2回目/ 前編を読む )
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■オープンな場で質問することの意味
〈「総会資料を読み込んで、文科省の資料や地方自治法を調べ、総会で手を挙げて、不透明な会計について質問し、最低限これだけでもやめませんか? という改善案を出した。次の総会で、また1人でもチャレンジしたい。負の遺産を、これ以上残せません」〉
取材のために行ったアンケートで、特に「やりますな!」と印象に残ったもののひとつが、この回答です。一般会員としてPTA総会で質問や発言をするのは、筆者も何度も経験していますが、かなり度胸がいるものなのです。
書いてくれたのは、小学生2人の子をもつ母親、タロウさんです。彼女が総会に出席したのは、2年前の春。3年前も総会に出席したのですが、このときは「なぜ拍手で議案が成立? 誰かが拍手の音量をはかっているのか?」等々、あまりに謎が多すぎて、何も発言できなかったのだそう。1年かけて多少整理がついたので、一昨年はついに「誰も手を挙げないところに、1人で手を挙げて、質問しまくった」のでした。
たとえば、こんな内容です。
〈「会議や行事の参加者に出すペットボトルのお茶は不要では? 保護者の誰かが何十本も事前に運び入れていると思うと、申し訳ない。自分でもってきてもらえば済むのでは?」〉
担当者はこれに「検討します」と回答してくれたものの、その後収支報告を確認したところ、一部でお茶出しは続いていた様子。ただし、過去にお茶出しを担当した母親からは、「あのとき、言ってくれてありがとう」とお礼を言われたそう。
〈「『一人一役』は、子どもをたくさん育てて頑張っている人への罰ゲームのよう。お願いする立場の方もお辛いと思うので、自由参加にしてはどうか?」〉
これに対しては、「必ずやらなければいけないというわけではない」という、ちょっとあいまいな回答でしたが、その後、2つの委員の廃止が決まったそう。ただし、一人一役はまだ解消されそうにない、ということです。
■一般会員として「総会で突撃」して問題提起
〈「昨年の総会も、聞きたいことを用意していたので、知り合いにも『ちょっとしたショーになるので、総会に参加してね!』と声をかけていたんですけれど、コロナで総会が開催されませんでした。今年(2021年)も同様です。
個人で問い合わせて、見えないところで回答をもらう形では、会員みんなの利益にならないので、今後も『総会で突撃』のストロングスタイルで行きたいと思っています。ただし、基本はマイルドに。『ここにいる方は、皆さん〇〇でしょうから』『みなさん律儀なので』など、気を付けてコミュニケーションをとっています」〉
ストロングスタイル、見事です。筆者は正直、総会で期待されない発言をするときのアウェー感に弱いので、タロウさんのように軽やかにできる人を、心底尊敬してしまいます。
〈「たった1人でもこれを繰り返していくことで、同じように質問をする人が増えたり、質問を事前通告する形に変わったりするかもしれません。人前で話すことが苦手な人には、事前通告方式のほうがいいかもしれないですね」〉
その後タロウさんは、下の子の入学説明会でも、こんなやりとりをしたそうです。
〈「配布されたプリントに、はっきりと『入学したらPTAに入っていただくことになっている』と書かれていたため、手を挙げて『PTAは任意加入で、自動入会は成立するはずがないので、入会届と退会届を作成してください』と言いました。会長は『強制するわけではないので、入会できない方は私に連絡してください』と、いつも通りのお答えでしたが、説明会終了後の雑談では、他の保護者から『任意なのは知らなかった』『上の子のときには気付かなかった』などの声が上がっていました」〉
■あえて退会もせず、一般会員として働きかける
しかしまあ、なぜタロウさんはこのような働きかけを続けるのか。ここまでやるなら、本部役員になって改革しようとは思わないのか? 尋ねてみると、こんな答えが。
〈「保育園のときは7、8年、いわゆる本部役員をやっていました。無理・無駄な活動はなく、一人一役なんていうルールもなく、『協力してくれる方は誰でもウェルカム』な会です。活動のメインは園と保護者の意見交換で、要望を聞き入れてもらい実際に変わっていくところも多く、非常に機能的でした。その後に小学校のPTAを経験したので、ギャップが大きくて、昭和にタイムスリップしたかと思ったくらいです。
いまのPTAは、本部役員をやるにはクラス委員か副委員を経験していなければならないルールなんですが、『低学年で委員をやったほうがいい』という都市伝説のおかげで、私にまわってきたことがないんです」〉
なるほど、委員を一度もやれていないので、本部役員にはなりたくてもなれない、ということでした。立候補しても役員になれなかった筆者と、似たようなものです。
〈「いちおう『他にやる人がいなかったら本部役員やります』とアンケートに書いているんですが、『落選のお知らせ』みたいなプリントが返ってくるので、付き合ってもいない人にフラれたような気分になります(笑)。とりあえず一般会員としてどこまでやれるか確かめたいし、このまま6年まで役員も委員もやらなかったとき何が起きるのか体験してみたいので、PTAがお困りでない限りは、あと3年何も役はやらない予定です(笑)」〉
■一般会員として発言を続ける理由
いろんなスタイルがあるものだ、としみじみしてしまいます。
それにしても。退会するでもなく、一般会員として発言を続けるというのも、意外と険しいルートです。筆者もやってきたことではありますが、タロウさんは、なぜ続けられるのでしょうか?
〈「自分なりの関わり方をしている理由は、こんな感じです。
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1.法的な問題も人権も気にしない団体を、教員、管理職も放置していることへの危機感。そういう人たちに毎日子どもを預けなければならないなか、リスクを解消したい。
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2.もともと正義感はわりと強い。ノブレスオブリージュとは少し違うけれど、この土地にしがらみがなく、社会的に余力や忍耐力がある私のようなタイプの親が担うべきポジションがあると思うので。メンタルもまあまあ強いし……。
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3.PTAも結局はほとんど女性で、シングル、非正規雇用など、弱者に負担を強いる構造。不平等なのに『平等』と言っている状況が許せない。その異様な世界が子どもたちからも丸見えで、悪影響を与えるのは困ると感じた。
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4.自分の後から入ってくる保護者たち、あとに続く人のために、少しでも楽な世界を、半径数メートルだけでもつくりたい」〉
なんとかもう少し、今よりいい世界にしたい。そんなタロウさんの思いに、筆者もとても共感します。こんな人が増えたら、PTAもちょっとずつ変わっていけそうです。
【前編を読む】入会は強制的、前年踏襲が正義、やめるなんてズルい…“理不尽”がはびこるPTAのヤバすぎる実態
(大塚 玲子)
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