「娘さんが叩かれたこと、だれかに言った?」30人に囲まれて4時間の“犯人探し”…パワハラ監督を守る毒親たちの“ヤバすぎる倫理観”

「娘さんが叩かれたこと、だれかに言った?」30人に囲まれて4時間の“犯人探し”…パワハラ監督を守る毒親たちの“ヤバすぎる倫理観”

この写真はイメージです ©iStock.com

「ぶっ殺すぞ」「産み直してもらえ」と子どもが言われても…強豪バレーボールクラブ監督の暴言を黙認し続けた“毒親たちの勝手すぎる理由” から続く

 近年、スポーツの指導現場におけるハラスメントが社会問題になっている。そこには、指導者による暴力・パワハラ・セクハラだけでなく、わが子の活躍のためになりふり構わない“スポーツ毒親”たちの恐るべき実態も潜んでいるのだ。

 ここでは、スポーツライターの島沢優子氏が“スポーツ毒親”の姿を記した『 スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか 』(文藝春秋)から一部を抜粋。強豪バレーボールクラブで監督をする50代後半の男性監督Bの体罰と、それを隠ぺいしようとする保護者たちの生々しいやりとりを紹介する。(全4回の2回目/ 1回目から続く )

◆◆◆

■男性監督Bの暴力をリークした犯人探し

 7月上旬。美香(以下全員仮名)の娘・理子(小学6年生)への暴力は、日本小学生バレーボール連盟(日小連)の傘下である大分県小学生バレーボール連盟(県小連)へ通報された。後にわかったことだが、通報はBの指導に不信感を抱いていた同クラブのコーチによるものだった。8日前後にBや保護者会長らに県小連から暴力の有無の確認があり、親たちにも知らされた。そこから「誰がリークしたのか」と犯人探しが始まった。

 母と娘の地獄は、そこから始まった。

 7月16日18時半、町内の公民館でチームの保護者会が開かれた。日ごろからチームの祝勝会や慰労会などを行う部屋で20数畳近い広い和室。座布団も出されず、現役選手の親たち15人ほどがコの字型になって腰を下ろした。Bの姿はなかった。

「悪くすれば、B先生が指導できなくなります。裏切りは許せません。このなかに絶対に(リークした親が)いると思っています」

 保護者会長の男性がおもむろに立ち上がり、「一人ひとり、話を聞かせてください。じゃあ、そっちの端から」と口火を切る。自分がリークしていないことを証明したい親たちは、犯人探しに躍起になった。

「内部の問題を通報してどうするの?」

「犯人は誰?こんなことをしたら部がつぶれるじゃない」

 親たちの視線は、美香と聖子に向かっていた。美香はわかるが、聖子はなぜか。実は7月5日に娘の5月が練習中チームメイトとけんかになり、もみ合った際に指を骨折していた。子どもなのでそういうこともある。ただ、問題はBがその日は不在だったことだ。それなのにBは聖子ら保護者に監督不行き届きの謝罪もせず、逆に「オレがいないときに騒動を起こして」と怒っていた。それを問題視した聖子は夫とともに保護者会にそのことを訴えていた。だから疑われたのだ。

 娘が暴力を受けた美香の番になると、ほかの親がたまらずといった様子で言葉をぶつけてきた。

「娘さんがたたかれたこと、だれかに言った?」

「(県小連へ通報した)犯人はあなたでしょ?」

「正直に言いなさいよ」

 リークしたのは自分ではない。美香はそう言った。「犯人」を連呼する親たちが恐ろしく、足元が震えた。

「私は(被害の翌日に)監督に意見はしましたが、何も知りません」

 すると、ひとりの親が大きなため息をつき、こう言った。

「“犯人”が出ないので、ОGを呼びました」

■卒団生やその親たちは体罰やパワハラを容認

 スーッとふすまが開き、卒団生とその親、30人ほどが現れた。ぞろぞろと部屋に入ってきて、現役親と向き合うような形で座りこんだ。一気に人がなだれ込み室温が上がったからなのか、エアコンがゴーッと大きな音をたてた。

 Bがチームを指導して20年近くになるため、卒団生には30歳近い社会人もいた。引退した元全日本選手まで来ていた。親たちの多くは母親だが、父親の顔もあった。40〜60代までさまざまだ。

 当然のことながら、Bを支持する卒団生やその親たちは体罰やパワハラを容認している。

「体罰を受けているのは子どもたちも分かっている。B先生の言うことを一回で聞いていれば、そうはならんやろ。大体、体罰の何が悪いん?」

 子どもは暴力も含めてBの指導だと理解している、暴力を受けるのはBの指示を守らない子どものほうが悪いと言う。20代の卒団生からは「親がこんなんじゃ、子どもがかわいそう」という声まで上がった。

 沖縄で行われる九州大会を8月に控えていた。「九州大会の前にまたあるのではないか」と県小連による聞き取りを恐れる発言が出たところで、保護者会長が「ちょっと提案があります」と話を切った。

 親たちの前に差し出されたA4のコピー用紙1枚は「誓約書」と書かれ、6つの項目が並ぶ。

〈 1 指導者の批判批評は一切しない

 2 他の保護者や子供達への批判批評、傷つける言動や行動は一切しない

 3  クラブ活動におけるケガや事故が起こった場合、他人を追求(原文ママ)しない

 4 チーム内で起こったことを公言しない

 5 チームワークを乱す行為をしない

 6 指導者、保護者、チーム全体について、関係協会や団体等に訴える行為をしない

保護者会の半数以上で上記を守れていないと判断された場合、退部となることを速やかに受け入れ、その決定に一切異議を述べません。〉

 その下に、了承した年月日と署名欄があり、捺印まで示されていた。Bを批判するな、事故が起きても追及するな、公言するな、訴えるな――何が何でも隠ぺいし、Bの独裁体制を支える約束をさせようとしていた。要するに「口止め誓約書」だった。

「本当はこんなことしたくはなかったんですけど、チームを守るためで、子どもたちの思いを守るためにこれは絶対に守ってもらおうと思って」と、作成した会長は誓約書を現役の親たちに配り始めた。すると、こんな声が上がる。

「この誓約書に印鑑を押したことで守れるか言うたら、ただの紙であって効力がないのでは。ここで打ち明けたほうがいいと思う」

■全国大会に出るためなら倫理も人権も吹き飛んでしまう“毒親”たち

 話が再び犯人探しに戻ると、現役選手の母親がしくしくと泣きだした。

「(連盟に訴えた親は)言いたいことばっか言って、我慢することを知らんのか?って感じですよ。今までこうやって伝統を守って皆さんが作ってくれたチームがこんな些細なことで、先生まで訴えられて……」

「もう団結できんのやったら、自分でなんかやりたいスポーツ見つけてやったらいいじゃないですか。本当にわが子しか見れんのやったら、自分のタイムが出る競技でもさせてくださいよ。絶対6人じゃないとできない競技ですよ。バレーは」

 母親のなかには卒団生やバレー経験者もいた。自身の経験からすれば、暴力指導を我慢させられないのであればチームを去れということだろう。

 それ以外は、チームの存続を危ぶむ声が大半を占めた。

「県小連とかに密告したら、自分の子どもに返ってくるのが、わかっちょんのか。バレたら子どもが高校に行けない可能性があるんやぞ」

「チームの存続が危うくなるし、監督が職を追われるかもしれんぞ」

 加えて、謎の社会体育理論も。

「学校やったら横社会やけど、(クラブチームの)社会体育は縦社会。下が上に教わるとか、社会に出るための第一歩を教わるものだ」

 縦社会だから暴力やパワハラOK。そのような危うい思想を持っていたからこそBを支えてしまったのだろうか。

 そして、発言の中に頻出するのが「全国大会」の4文字だった。

「全国大会に出るために練習しているのに」

「全国大会に出るために一致団結しなければ」

 全国大会に出るためならば倫理も人権も吹き飛んでしまうところは、本書の第1章で伝えたバレークラブとまったく同じだった。

 リークした者を「犯人」に仕立てる異様な空気のなか、卒団生やその親たちは現役選手の親たちを「どうして今更こんな話が出たのか」と終始責め立てた。名指しこそなかったが「自分に対するものだと思った」(美香)。なぜなら、発言する者が全員ちらちらと、もしくはにらみつけるように美香のほうを見るからだ。

■4時間に及んだ保護者会という名の「公開処刑」

 戻らない美香を案じているであろう夫に電話しようとすると、「何しよんの!? 携帯、置いて!」と語気鋭く言われた。

 だが、ひるまなかった。小学校から中学校まで美香はバスケットボールをしていた。小学校のミニバス時代は、ひとりのコーチからたたかれるなどの体罰を受けたが、決してたたいたり、暴言を吐いたりしないコーチがいた。小学校教諭だった。

「美香、ナイスシュート。うまくなったな」

 褒められたときの情景は今でも鮮やかに思い出せる。その教師が大好きだった。そんな自分の経験もあって理子をミニバスケットクラブに入れたが、Bとともに指導していたコーチに誘われバレーに転向させていた。

 180センチ台と長身の夫はハンドボールやラグビーを経験しているが、美香同様スポーツに対し悪いイメージはない。スポーツに「体罰はつきもの」といった古い感覚は一切なく、その倫理観を家族間で共有していた。だからこそ、保護者会という名のこのような「公開処刑」にも耐えられた。

 そして、ようやく終了したのが22時30分。実に4時間に及んでいた。

 美香は、このときのことをこう振り返る。

「本当に怖かったです。終わったときは足がガクガクふるえて、すぐには歩けなかった。まさかОGやその親たちがあんなにたくさん呼ばれているとは思わなくて。しかも、全日本で日の丸をつけた方まで。手本にならなくてはいけない存在なのにと呆れました。誓約書を渡されたときは、さらに目を疑いました。臭いものには蓋をしろってことじゃないですか。大人なのに、正しいか、間違ってるかの判断もつかんの? って」

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(島沢 優子/週刊文春出版部)

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