「数カ月でアナウンサーの半数が入れ替わる異常事態」でも経営陣は変わらず 「パワハラで異動の社員が役職に再任」も……フジ系列・山形さくらんぼテレビの“過酷労働環境”

「数カ月でアナウンサーの半数が入れ替わる異常事態」でも経営陣は変わらず 「パワハラで異動の社員が役職に再任」も……フジ系列・山形さくらんぼテレビの“過酷労働環境”

今年、開局25周年を迎えたさくらんぼテレビ ©文藝春秋

《全社員の4分の1が退社も…》「パワハラではないが『非常にあたりが強い』という話はあった」 “パワハラの温床”さくらんぼテレビの専務の言い分 から続く

「さくらんぼテレビには昨年12月10日に労働基準監督署から是正勧告がなされています。アナウンサーへのパワハラや労働基準法を超えた残業時間などが問題視され、調査の手がはいったところ、多くの社員が違法な労働環境にあることが分かったのです」

 こう語るのは、山形県を拠点とするフジテレビ系列の地方局である「さくらんぼテレビ」の関係者だ。

「文春オンライン」特集班は、昨年10月、同局のアナウンサーだったAさんが当時の上司から「死ね」と書かれたLINEを送り付けられるなどのパワハラを受け、休職に追い込まれていたことを報じた。

 取材班の元にはAさんの事例以外にも同局の関係者から多くの情報が寄せられた。その結果、Aさんへのパワハラだけでなく、社内では日常的に「死ね」などの暴言が飛び交い、社員が不当に残業時間を少なく申告させられていた実態も明らかになった。

■報道後、さくらんぼテレビには労基署のメスが…

 だが、同局関係者によれば、報道後も社内の「ハラスメント体質」を改善しようという目立った動きはなかった。そして、その労働環境の過酷さゆえに「山形の北朝鮮」とも呼ばれる同局についに労基署のメスが入ったのだが、それでも大きな“変化”はなかったという。

「文春オンライン特集班」では改めて同局について取材を進めた。すると、長年ハラスメントが横行しながらも放置されてきた“問題の根”が見えてきた。

◆◆◆

「さくらんぼテレビは1997年に開局されたフジテレビ系列の地方局。93年までフジテレビ系列だった山形テレビがテレビ朝日系列に変わり、フジテレビの番組が見られなくなった県民の声を受けて立ち上げられました。地方局では珍しく、アナウンサーの中途採用を行っていて、局アナにあこがれた人が受験することが多い局です」(民放関係者)

 2019年、あこがれだったアナウンサーという夢を叶え、Aさんはさくらんぼテレビに入社した。しかし、希望を持って入社したAさんを待っていたのは残業時間が月に100時間を超えることもある過酷な労働環境と、上司からの度重なるハラスメントの数々だった。

■パワハラを受けたAさんは昨年11月に退職。社内の反応は…?

 心身ともに限界を超えたAさんは2021年4月から休職。会社からは復職を望む声があったものの、同年11月末日をもって退職している。

 さくらんぼテレビの現役社員が声を潜めて語る。

「昨年10月にAさんのことが報じられた時、社内には大きな動揺が走りました。正直、今の会社で働いていていいのだろうかと悩んだ社員も多いです。特に社外の人と関わることが多い報道部の人間や営業の社員は報道の影響を大きく受けて、県民から無視されたり『あんたの会社ダメなんだろ』と責められたりもしたようです。報道後にはAさん以外にさらに2人のアナウンサーが退職しました。今年の3月に辞めたBアナもかなり悩んでいた様子で、『報道後の会社の対応に失望して辞めたのではないか』と噂されています」

 この社員によれば、さらに4月末にももう1人のアナウンサーが退職する予定で、「4月から新しいアナウンサーを2人採用しているが、わずか7名しかいないアナウンサーが数カ月で半数以上入れ替わる異常事態」になっているという。

 若手が次々と会社を去る一方で、社長をはじめとした経営陣の顔ぶれは現在も変わっていない。パワハラの元凶と社内で指摘され続けている、T氏も専務の役職についたままだ。

「T専務は報道の直後は一見、気にしていない様子でした。ただ、今はすっかりなりを潜め、現場へ口出しすることも少なくなったようです。一時は『一連のパワハラ問題の責任をとって辞職するのではないか』という噂もありましたが、報道部の担当役員を外れただけで、現在も専務として在籍しています」(前出・さくらんぼテレビ関係者)

■ハラスメントで異動したはずの社員が4月の人事で“復権”

 また、今年4月には驚きの人事もあったという。前回の報道時、取材班には、過去に同局で働いており、ハラスメントによって退職に追い込まれたという元社員たちから「報道部で副部長を務めていたZ氏からハラスメントを受けた」という声が多く寄せられていたが、このZ氏が“復権”したというのだ。

「Z氏は度重なる部下へのハラスメントにより、2020年に他部署へ異動になっていましたが、今年4月の人事異動で、報道部副部長に“再任”され、再び報道の現場に戻ることになりました。多くの社員がこの人事に困惑しています。

 Z氏は報道部時代、部下を“つぶす”ことで有名で、さすがに会社も他部署へ異動させざるを得なかった要注意人物です。それがたった2年で報道部に戻ってきた。新しい報道局長もT専務に近い、いわば子飼いの一人で『結局何も改善されないのか』という不安が社内に広がっています」(前出・現役社員)

■残業代について労基署から指導が…

 少し時間をさかのぼるが、昨年12月15日には、さくらんぼテレビに労働基準監督署から指導が入った。労基署がAさんの勤務状況を調べていたところ、芋づる式に複数の社員について、申告されていない残業が多く存在することが発覚したのだ。前出のさくらんぼテレビの関係者が語る。

「労基署はさくらんぼテレビが取っている社員の勤務記録と警備記録に大きな差がある事に気づきました。そこで、局に過去2年分の社員の残業(※当時の残業代をさかのぼって請求できる期間は2年で時効)について調査し、しっかり残業代を支払うように命じました。期限は2022年の2月10日。しかし、さくらんぼテレビはすぐに調査に乗り出さず、結果として労基署の指導を無視した形になっています」

■労基署の指導については会社側から「説明ナシ」

 前出の社員によれば、会社からは「過去の残業について、申告漏れがあれば報告するように」との指示があったという。しかし、労基署の指導については一切会社側から説明がなかったようだ。

「1月下旬から2月上旬にかけて各部署に『過去2年間で申告していない残業時間があれば、その時間と理由を報告してください』との通達がありました。ただ、2年前の勤務記録なんて覚えているわけがありません。日々の残業時間なんてはっきり覚えていませんから、どう申告したらいいのか分からず多くの社員が戸惑っていました」

 労働基準監督署の是正勧告には法的拘束力がなく、企業側が対応しない場合でも罰則を受けることはない。しかし、監督官が悪質だと判断した場合は書類送検される可能性がある。

「結局、会社は“事なかれ主義”なんだと思います。パワハラがあって多くの若手が辞めても大きな問題にならなければそれでいい。Aさんが声を上げたおかげで少しは変わりましたが、それも表面的なところだけ。根本的な所では全く変わっていないんだと今回の人事や残業代のことで思い知らされました」(同前)

■多くの疑問について、さくらんぼテレビの回答は…?

 アナウンサーが数カ月で半数以上退職するという異常事態や、パワハラで異動になったZ氏の復権に関して、さくらんぼテレビに質問状を送ると次のような返答があった。

「社員の退職等、個人情報についてはお答えしておりません。人事異動は必要に応じて適時、適切に行っております」

 また、労働基準監督署からの指導について社員に説明がなかったことや、残業代の申請方法の説明が不足しているとの声が挙がったことについては、こう回答した。

「労働基準監督署の申告監督には既に対応済みです」

 多くの関係者たちが疑問を抱き続ける現在の状況。今後、さくらんぼテレビはどう向き合っていくのだろうか。

(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))

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