「生活費の半分以上を部屋代にとられてしまう…」韓国のソウルで20代の若者が“住居貧困”に陥る根深い事情

「生活費の半分以上を部屋代にとられてしまう…」韓国のソウルで20代の若者が“住居貧困”に陥る根深い事情

この写真はイメージです ©iStock.com

 韓国の首都・ソウルには、貧困層が住む最底辺の住宅「チョッパン」というものが存在する。そこには、韓国映画『パラサイト 半地下の家族』でも描かれた韓国社会の格差や貧困の実態が如実に現れているのだ。

 ここでは、韓国最底辺住宅街の人々に迫った韓国日報の記者、イ・ヘミ氏の著書『 搾取都市、ソウル ――韓国最底辺住宅街の人びと 』(伊東順子 訳、筑摩書房)から一部を抜粋。“住居貧困”に陥るソウルの若者の現実を紹介する。(全3回の1回目/ 2回目に続く )

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■逆行する、若者の住居貧困

 ロシアの文豪トルストイの作品「人にはどれだけの土地がいるか」は、どれだけ欲張ってもその人に必要な土地は、埋葬される時の「6フィート(約182センチ)」だと結論づけている。

「若者には何坪の空間が必要か」

 ソウル市内の駅周辺にある青年住宅(編集部注:若者向けの公共住宅。主に20代・30代の単身者、新婚夫婦などが対象で、「2030賃貸住宅」ともいわれる。以下、(※)内はすべて編集部注)が社会に投げかけた質問だ。2019年9月「ソウル市駅周辺青年住宅」の入居者募集案内が発表されると、SNSにはすぐさま「5坪論争」で甲論乙駁となった。大学生と単身の若者の申し込みを5坪(16平方メートル)型のみに限定しようとしたところ、「若者は鶏のケージで暮らせというのか」という理想論と、「地方から出てくる若者には5坪だろうと安さこそが重要」という現実論が真っ向から対立した。

 この世での暮らしが文学的なロマンや教訓に満ちるのもいいが、このストレートな問いかけは隠喩や比喩などではなく、現実の若者に向かって投げかけられた社会的テーマだった。少しでも良い社会であろうとするなら、若者たちに1人が横になれるだけのスペースがあればいいなどと言ってはいけない。彼らは私たちの周辺で暮らす生きた存在であり、より良い暮らしを望む主体であるからだ。20代を「住居難民」として過ごしたと自認する者として、「5坪」をテーマに大論争が繰り広げられるのを見るのは、悲しく切ないものだった。

 住む家が探せなかった時にはLHの分譲賃貸住宅に、同じような境遇の友だち2人とシェアハウス形式で暮らすなど、とにかく福祉の恩恵を求めてさまよった記憶ばかりだ。それを思うと、たとえ「5坪」といえども、公共住宅がもたらす住居の安定性は非常に価値あるものだといえる。ただそれと同時に、公的機関が提供する単身者の最低住居基準が14平方メートル(4.2坪)をわずかに超えた5坪というのには、批判の余地があるのも事実だ。

 若者の住居権のための運動団体〈なめくじユニオン〉のチェ・ジヒ委員長は、「公的機関が5坪の賃貸住宅を作ったことで、賃貸業者などに対しても、より小さなワンルームでいいのだという口実を与えることになった」と批判した。しかし、それと同時に若者を駅周辺に住まわすという点では意味のあることだと見ていた。多くの社会的インフラと有形無形の資源、機会などに恵まれた都心部はこれまで、「お金がなければ郊外に住め」と言わんばかりに、貧者の進入を許さなかったのである。

 若者たちは本当に貧乏なのか。街を歩けば、今日の若者たちほど豊かな文明の恩恵を受けて、恵まれた消費生活をしている者はいないように見える。彼らのインスタグラムには各地のレストランの写真があふれ、頻繁に海外を行き来する経験、物質よりもさらに重要な趣味の饗宴が広がっている。

 もちろん「若者」という言葉で、すべての20代をひとくくりにすることはできない。SKY大学(※ソウル大、高麗大、延世大の頭文字をとった韓国の超一流大を指す)に通う、ソウル出身の中産階級以上の若者もいれば、重工業都市の高卒ブルーカラー労働者もいるし、専門大(※日本の専門学校や短大などにあたる)出身で非正規雇用のコールセンター職員という20代もいるだろう。しかし「若者の住居貧困」は往々にして、生まれてはじめて親から独立した時に経験することから、ここから先は「若者」といった場合、学業や就職などの理由で地方からソウルに出てきて1人暮らしをしている人を対象にしたいと思う。

 若者は本当に「貧しい」。少なくとも統計的にはその兆候が明らかだ。さらに全体が豊かになる趨勢の中で、唯一住居貧困率が逆行しているのがこの世代である。国全体の住居貧困率は2005年の20.3パーセントから2015年は12.0パーセントと減少傾向にある。ところが若者層、特にソウルの若者層は例外である。ソウルで1人暮らしの若者の住居貧困率は2005年の34.0パーセントから2015年には37.2パーセントに上昇した。大学進学やスペック(※韓国では進学や就職に有利な資格・実績・経験などを「スペック」という)集め、公務員試験の準備などで地方の若者はソウルに集まってくる。しかし親からの援助は限られており、考試院などの非住宅で暮らす確率は高く、またキッチン付きのワンルームで暮らすにしても生活費を節約するために「最低の住居基準」以下の廉価な暮らしを選択するからだ。

 貧しく、定着できない今日の若者は定住しない。いつもどこかをさすらっている。5年6ヶ月の間に6回の引っ越しをした私の経験からしてそうだ。長くても1年の契約、それにしたって兵役や語学留学などのさまざまな事情で契約期間満了の前に荷物をまとめることも少なくない。またインターンに採用でもされたら、職場近くに引っ越さなければいけない。面倒だからか、大家が嫌がるからか、理由はともあれ「転入届け(※これがないと住宅賃貸借保護法の保護が受けられない)」を出すことは稀だ。したがって、その家で「嫌な思いをしたこと」は改善されずに次の入居者に引き継がれ、バラバラの若い住民たちは政治的なパワーを持つこともできず、暮らしの質は一向に良くならない。

 その反面、既得権者が結託する既成政治の壁は厚い。選挙のたびに票を集めなければならない選出職の公務員は、既成世代(※若者との対語で、すでに安定的な地位を確保した世代のこと。主に40〜60代後半を指す)、資産家と強く結びついている。彼らの利益を守るために、若者たちとの約束をないがしろにして、恥知らずにも利己主義の先頭に立っている。若い世代の声は政治の世界には届かず、むしろその地域に住所だけ登録した賃貸人たちの声が、実際の居住者たちの苦しみを覆い隠しているのが現実だ。大学の学生寮、青年幸福住宅(※19〜39歳の学生や新婚夫婦等のための廉価な公共賃貸住宅)などの建設計画が発表されるたびに、地域で住民たちが連合して蜂の群れのように反対に立ち上がるのを見よ。

 2018年、ソウル永登浦(ヨンドゥンポ)区のある大規模マンションに青年賃貸住宅(駅周辺2030青年住宅)を「貧民マンション」と侮蔑したチラシが貼られた。マンション住民が中心となり結成された非常対策委員会が青年賃貸住宅に反対するのは次のような理由だった。1、マンション価格の暴落 2、軟弱な地盤 3、交通の混雑 4、日照権、眺望権、周辺環境の破壊 5、貧民地域化・スラム化による犯罪や治安問題等イメージの悪化 6、児童青少年問題、地域の荒廃 7、保育権、教育の脆弱地域化、等。まだ工事が始まってもおらず、入居する若者が誰かもわからないのに、若者らはいとも簡単に「潜在的犯罪者」「荒れる青春」などと問題にされた。

 ワンルームに、考試院に、半地下に、屋上部屋に、まるで卵のパックに1つずつ入った卵のようにバラバラに、分断されてしまった若者たちの声は、「非常対策委」の高出力アンプを通したような大声にかき消されて聞こえてこない。こんなことがあちこちの学生街や地域で繰り返される。2013年の高麗大学学生寮反対、2015〜17年の漢陽(ハニャン)大学学生寮反対、2016年の城北(ソンブク)区東小門洞(トムソムンドン)の幸福寮反対……。

「いちばん怖いのは小学生を狙った性犯罪です。女の子の母親として幸福寮の話を聞いて最初に思い浮かんだのは性犯罪です」「住宅街に商業的な要素がある学生寮はふさわしいでしょうか? 若者が大挙して入ってくることで居住環境が劣悪になり、性暴力事件が多発する確率は高いです」

 上に引用したものが、東小門洞の幸福寮に反対する人びとの論理だった。はたしてこんな主張を本当に我々の社会が真面目に受け取って、目の前の若者たちの暮らしを「後回し」にしてもいいものなのか?

「区長、市・区会議員、国会議員等、選挙が重要な政治家たちは不法を働く大家たちと同盟を結び、何も持たない若者たちの力になる人は誰もいません。大学の寮ができない根本的な原因は、建築許可の権限が区庁など自治体にあるからです。区長や郡守(※郡の長。郡は市より人口規模等の小さい自治体)など自治体の選挙で選ばれる公務員たちが違法建築物規制などの権限を持っており、この人たちは既得権を持つ既成世代の政治的圧力から自由になれないのです」(チェ・ウニョン韓国都市研究所長)

 そうしている間にも若者たちの住居はさらに劣悪になり、なによりも圧倒的な住居費負担で生活そのものが成り立たなくなってしまう。考試院の坪当たりの家賃が15万2685ウォン。ソウル市にある8区のマンションの平均家賃は坪当たり4万6437ウォンであり、考試院はマンションよりも坪当たりの家賃では3.28倍も高い。また若者の3人に1人(37.1パーセント)は、仕事をしているか求職中にもかかわらず貧困状態に陥っている。

「若い時の苦労は買ってでもしろと、だから狭くて高い家で暮らさなければいけないんでしょうか。住居権保障は国家の責務です。保証金500万ウォンに管理費などを入れて月に70万ウォンの部屋代を払えば、ご飯を食べるお金にも苦労することが多いのです。生活費の半分以上を部屋代にとられてしまう、私はいつの間にか「ハウスプアー」になってしまったんです」(20歳、大学生 チョン・ギジュさん)

 大家の横暴、若者の声を代弁できない政治、学生に住居の世話をする義務を怠っている大学、既成世代であるオーナーの肩を持つだけの法と政策など、どこをとっても若者に好意的な条件はなく、「10人中3人(37.2パーセント)」という、もうこれ以上見過ごすことはできない若者の住居貧困の実態を調べるために、再び現場を訪ねることにした。

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「わずか9つの部屋なのに、それを30個に分割することで…」韓国・ソウルの“貧困学生”が住む「超ミニワンルーム」の悲惨な実態 へ続く

(イ・ヘミ,伊東 順子)

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