「子どもの試合観戦中はスマホ禁止、3回言われてから座らないと…」スポーツチームの毒親内で横行する“どうでもいい謎ルール”の正体

「子どもの試合観戦中はスマホ禁止、3回言われてから座らないと…」スポーツチームの毒親内で横行する“どうでもいい謎ルール”の正体

この写真はイメージです ©iStock.com

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 近年、スポーツの指導現場におけるハラスメントが社会問題になっている。そこには、指導者による暴力・パワハラ・セクハラだけでなく、わが子の活躍のためになりふり構わない“スポーツ毒親”たちの恐るべき実態も潜んでいるのだ。

 ここでは、スポーツライターの島沢優子氏が“スポーツ毒親”の姿を記した『 スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか 』(文藝春秋)から一部を抜粋。子どもが所属するスポーツチームで起こった保護者同士のトラブルについて紹介する。(全4回目の4回目/ 3回目から続く )

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■バレーボール部に存在した謎の「3回ルール」

 親同士のいさかいは他の競技にもある。全国制覇を果たしたこともある東日本の公立中学校男子バレーボール部に息子が所属していた幸則(以下全員仮名)は、入部後最初の地区大会に応援に行って面食らった。2010年代のことだ。

 試合が始まるのでスタンドの席に座ろうとしたら、2年生の母親から腕をガシッとつかまれた。

「座っちゃダメでしょ。3年生(の親)が先でしょ」

 聞けば、先輩の親が全員座った後でなければ、座れないという。理由は「親は子どもの見本にならなくてはならない。上下関係を学ばせるため従ってください」と言われた。ネットに近いところから、校長、保護者会代表、3年、2年、1年の保護者という並び順だった。

 何より驚いたのは、観戦中にトイレに行きたくなったら、保護者会長の許可を取らなくてはいけないことだ。40代や50代の父親、母親が「すみません、トイレ行っていいですか?」?

 と尋ねていた。

 別の日は、スマホのカメラを構えたら「何やってるの!」とスマホを下ろさせられた。?

 試合観戦中はカメラはおろかスマホの操作も禁止だという。親のなかにはやさしい人もいて「僕はすぐ帰るから座ってください」と言われたので座ったら、他の親からたしなめられた。

「3回言われた? 言われてないよね?」

 3回言われるまで施しは断らなくてはいけないという謎の「3回ルール」が存在したという。

 どうでもいい謎のルールはあるのに、バレー部は放課後の練習が終わると、地域の体育館へ移動し「夜練習」を毎日行った。部活動のガイドラインでは練習時間の制限があったが、お構いなしだった。ルール破りを知っていて、親たちは体育館を予約するなどしてそれに加担した。

「それってダメじゃん、って今はわかります。でも、そのときはなんていうか麻痺しちゃっ てましたね。僕も含めてですが、子どものバレーに一生懸命になりすぎて、善悪の判断がつかなくなっちゃうんです。本当にヤバかったと思います」

 その後、このバレー部はコロナ禍で学校の休校期間でも連日練習を続けた。親たちも、規則違反だとわかっていて練習に通わせたという。

 スポーツに「ルール」があるように、組織に一定のディシプリン(規律)は必要だろう。それなのに、幸則の息子が所属したバレー部は、守らなければいけない規定はあっさり破る。

 そして、子どもたちがスポーツをする権利も守らなかった。顧問も、そして顧問を支持する親たちも、生徒たちを単に大会で勝つための「駒」のように扱っているように見えた。?

 封建的な空気のバレー部の顧問は暴力、暴言は当然のようにあった。すでに体罰根絶宣言が発動され、彼らが傘下となる中体連も日本バレーボール協会もそれを採択したあとだったが、どこ吹く風といった態度で不適切な指導を継続した。

 1学年十数人いた部員は毎年数人が3年生になる前に退部した。活動費用がかかりすぎることが原因の生徒もいた。

「年間50万くらいはかかったのではないか。全国大会やブロック大会に行けばもっとですね」

 合宿や遠征が多かった。強豪高校に胸を借りるからと地方へ年に10回近くは遠征に行った。2泊3日ほどでおおむね1回4万円徴収される。合宿、遠征が重なると、月に10万円以上の出費になることもあった。

「経済的に(合宿の参加は)難しいです」

 窮地に追い込まれた親がそう打ち明けると、保護者会長は「合宿に参加しないなら部をやめて」と冷たく言い放った。

「つまりは、払えないなら退部しろということです。ひどい話ですが、当時は、お金がかかるのは仕方ないことだ。この子たちは全国大会に行くんだから、と自分に言い聞かせてました。ただ、今にして思えば、うちの子はまだ試合に出させてもらったけど、4万円はらって3日間合宿に行かせて、3日間立ちっぱなしの子もいました。ずっと立ってるだけで4万です。親御さんは苦しかっただろうなと思いますね」

■親の自己肯定感の低さが“毒親”につながる

 親たちの「毒」は、指導者の暴力など不適切な指導の影響もあって生み出されたものだったと思う。活動費が年間50万円かかる公立中学校のバレー部も同様だ。だが、この章で紹介した野球やサッカーの当番問題は指導者に大きな瑕疵は見られない。

 その毒はどこから染み出てしまうのか。毒の素は、親自身の自己肯定感の低さにあるような気がしてならない。以前から国際機関の調査で日本人の「自分は大丈夫だ」といった自己肯定感が他国に対し著しく低いことは度々報告されてきた。

 2014年度版の内閣府調査でも、「自分に満足」という若者の比率は、欧米諸国で80%台なのに対して日本では40%台、「自分には長所がある」という人の比率は、欧米諸国では90%前後なのに対して日本では60%程度となっている。

 そんな私達が親になって子どもがスポーツで少しでも秀でると、過度に期待する傾向がある。取材でそんな親たちを何人も見てきたが「自分が行けなかった全国大会へ」など自分の身代わりヒーローを期待する向きがあった。子どもの活躍によって、自分の自己実現を果たそうと依存する。活躍すればよいけれど、そうでなくなると期待したぶん怒りがこみ上げる。この構造は受験が絡む教育虐待とも似ていた。

 逆に自己肯定感の高い親は、子どもを「あくまで自分とは違う人格」ととらえる余裕があった。負ければ「残念だったね」と慰めるが、自分まで貶められた敗北感を抱かない。

 つまり、共感すれど同化はしない。そのように精神的に自立した大人の実数が少ないのではないか。

 また、子どもにスポーツをさせている親たちは、なぜこんなに揉めるのか。彼らが当番を無理強いする様子は、例えばマタニティーハラスメントや小さな子どもを育てる家庭の社員に残業を強いる企業の姿と重なる。平等の名のもとに「非効率」に映る人が排除され、柔軟性に欠ける。そんな不寛容な社会が、スポーツ親の当番問題の背景にあるのかもしれない。

■日本人は諸外国と比較して「意地悪」な人が多い

 もうひとつ、紹介したい研究データがある。

『ニューズウイーク日本版』経済ニュース超解説(加谷珪一/2021年5月「日本経済、?低迷の元凶は日本人の意地悪さか 大阪大学などの研究で判明」※https://president.jp/articles/-/46265)によると、日本人は諸外国と比較して「意地悪」な人が多く、他人の足を引っ張る傾向が強いそうだ。

 大阪大学社会経済研究所を中心とした研究グループが、被験者に集団で公共財を作るゲームをしてもらったところ、日本人はアメリカ人や中国人と比較して「他人の足を引っ張る行動が多い」という結果が得られた。ともに協働してやらなくてはいけないところを、互いに相手の行動を邪魔しているというのだ。

 意地悪で、他人の足を引っ張る。本章で伝えてきた親たちに通じる特徴だ。他者の立場を慮ることができず、当番を押し付ける。嫌がらせをする。(ああ、嫌だ、こうはなりたくない)と思いつつ綴ってきたが、この傾向は私たち日本人に言えるものらしい。

 また、同大学の別の研究グループによると「新型コロナウイスルに感染するのは自業自得だ」と考える日本人の比率は 11・5%と、中国の4・83 %やアメリカの1%などと比べて突出して高かった。

■日本人はいつの間にこんなに意地悪に……

 これについては、コロナ禍の2020年6月に取材したカナダ在住の日本人女性の言葉を思い出す。彼女が当時話題になっていた日本の「自粛警察」に触れ、「同じ日本人としてすごく情けない」と声を震わせたのだ。

「こちらでは、コロナに感染すると、お気の毒、お大事にねといたわりの言葉をかける。日本人は海外では礼儀正しく親切だと思われているのに、いつの間にこんなに意地悪になったのでしょうか」

 一方で、親同士をつなぐ努力をしている人たちもいる。

 例えば、500名の会員が所属する一般社団法人あきる野総合スポーツクラブ(東京都あきる野市)の理事長で、サッカー部門の監督を務める高岸祐幸はこう話す。

「子どもの主体性や自主性を大事にした指導をしています。でも、以前は、親御さんから子どもにもっと強く言ってやらせてほしいと言われることがありました。つまり、指導者と保護者の間に価値観のズレがありました」

 そこを埋めるため、保護者向けのセミナーを開くなど互いに学び合うようにしたら、クラブの雰囲気も変わってきた。

「スポーツをしているのは子どもで、教えているのはコーチですが、保護者の姿勢は非常に重要です。当番とか雑用をする存在ではなく、一緒に子どもの成長を支える仲間としてタッグを組む。そんな関係をつくることが重要だと思います」

 試合中に熱くなってわが子を責めたり、指導方針に反対する保護者は今ではいなくなった。親同士の関係も非常に順調だ。

「なぜかといえば、僕らは子どもたちをある程度まんべんなく試合に出場させているからだと思います。時間はかかりますが、そのほうが結果的に全体の底上げができ、チーム力も個々の力もアップします」

 親たちがみんな仲良く笑顔で応援してくれるという雰囲気も、大きな要素だろう。親が揉めていれば、不協和音は子どもに伝わる。安心安全な環境づくりに、親は重要なピースなのだ。

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(島沢 優子/週刊文春出版部)

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