女子小学生が40代教師の性暴力を告白「頭を持ってガン!って。痛くて血が出たけど…」 調査を行った学校側が出した“3行だけの結論”

女子小学生が40代教師の性暴力を告白「頭を持ってガン!って。痛くて血が出たけど…」 調査を行った学校側が出した“3行だけの結論”

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「小学生とは思えない体つきですね」障がいを持つ小学6年生の少女が受けた40代ベテラン教師の“下劣な性暴力” から続く

 2020年度に「性犯罪・性暴力等」を理由に処分された公立学校の教員は200人。しかし、被害者が泣き寝入りしたり、学校側が事実を認めなかったりしたケースは反映されていないため、この数字は氷山の一角だ。

 ここでは、こうした統計にも出てこない学校での性犯罪の実態を、被害者の母親の視点で綴ったノンフィクション『 黙殺される教師の「性暴力」 』(南彰著、朝日新聞出版)から一部を抜粋。障がいを持つ小学6年生の娘が、40代の担任教師に性的暴行を加えられた。しかし学校側は、その事実に対して驚くべき結論を出したのだ??。(全2回の2回目/ 1回目から続く )

◆◆◆

■娘が堰を切ったように告白した、「高木先生」の下劣な行為

 まるで波が押し寄せた後の引き潮にのまれるように、聖子(編集部注:以下全員仮名)は高木先生の見えない影へ引きずり込まれていった。

 次の水曜日。台所で聖子の好きなグラタンの準備をしていると、リビングで音楽を聴いていた聖子が突然、話し出した。百合子や千春は友達の家に遊びに行っており、まだ帰宅していなかった。

「高木、チンチン出すんだよ」

「えっ?」

 ジャガイモを切っていた包丁を滑らした。振り返ると、聖子は一点をうつろに見つめていた。

「気持ち悪いって言うと、『くそばばあ』って言うんだよ」「『そこで出すと気持ち悪い』って言っても、『いいじゃない』って言うの。ほかの子の前でも出すんだよ」「手を洗っているとき、おっぱいぎゅうするんだよ」「服をめくるんだよ」「トイレにも入ってくるんだよ。中に入ってくる時もある。『ごめんなさい』って言ってもやめてくれないんだよ」「くすぐった後、顔パンチするんだよ」「『髪の毛がお化けみたい』って言われた。髪の毛を引っ張って、廊下に出されたこともあるんだよ」「『この口が悪いんでしょ。口をはさみで切って殺すからね』って言われた」「『お金を出せ』って言われたから『無い』って言うと『むかつく』って言われるの」

 質問を差し挟む余裕もない。堰を切ったように、被害の告白があふれ出していく。聖子の話は、あさがお学級のほかの子どもたちが受けた被害にまで広がっていった。私はリビングの隅に置かれたパソコンを立ち上げた。初めて聞く内容ばかりで、とても覚えきれない。

 落ち着こう、落ち着こう。

「パンツの中に手を入れられた」と寝室で聞いた時には思わず泣き出してしまった私は、聖子に動揺を悟られないように自分に言い聞かせた。「そうなの?」と尋ねると黙り込んでしまうことがあるので、相づちもせず、黙々と打ち込んだ。

 話し終わった聖子は床にしゃがみ込み、ぼーっとテレビの方向を向いていた。私はあえて言葉をかけず、台所へ戻った。

 学校から高木先生の姿が消え、ほかの女の子たちも被害について話し始めるなかで、「誰かに話しても殺されないのかな」と少しずつ思い始めたようだ。1日置いて、聖子に尋ねてみた。

「なぜ、今まで言わなかったの?」

「ダメ、って」

 聖子は目を伏せた。

 私自身も、聖子のことや、学校側に被害を否定された「1対6」の話し合いがフラッシュバックし、夜眠れなくなったり、心臓がどきどきしたりして、汗が噴き出すこともあった。心療内科に通うようになり、抗うつ剤と睡眠薬を処方された。

「学校の先生に何が起きているか、しっかり伝えてください。子どもたちに配慮して接してもらわないと大変なことになりますよ」

 臨床心理士の坂井先生の表情が険しさを増してきた。

 伊地知校長や市教委に再び面談を申し入れた。

「都合がつかない」

 なしのつぶてだった。

■聖子はさらに「オマタにチンチンつけてきた」と……

 10月半ば、愛ちゃんのお母さんから電話があった。

「うちの娘も高木先生に……」

 呼吸が止まった。「まさか」と「やっぱり」が交錯する。高木先生は、愛ちゃんに自分の下半身を触れと言ったという。

 電話を切ると、リビングに聖子がいた。同じことをされていないだろうか。「あって欲しくない」と祈りながら、声を掛けた。

「聖子、ほかに高木先生から嫌なことをされていない?」

 聖子は目を合わさない。

「実は、愛ちゃんがお母さんに高木先生のことを色々話したみたいだよ」

「……」

「今まで話していないことはない?」

「オマタにチンチンつけてきた」

 悪い方へ、予感が的中した。

「立って?」

「寝っ転がって。痛かった」

 聖子は両手で自分の頭を両側から押さえた。

「頭を持ってガン!ってするんだよ。痛くて血が出たけど、タカギは『誰にも言っちゃダメ』って」

 聖子は床に横になって、お腹の前で拳を動かした。

「カッターでお腹を切って殺すって言うの」

 私はまぶたを押さえながら、にじんだ文字をカレンダーの裏紙に必死に書き留めた。

■3人の女性弁護士と面会

 裁判。縁のなかった2文字を初めて意識するようになっていた。

 きっかけは、愛ちゃんのお母さんが自閉症の子を持つ親たちでつくる協会に相談したことだった。協会のメンバーが知的障がい児の虐待事件で実績のある弁護士や新聞記者にはかったところ、「民事裁判で解決するのがいいのではないか」という意見が寄せられていたという。

 愛ちゃんのお母さんの話を聞くまで、警察に届け出ることも、民事裁判を起こすことも考えたことはなかった。一方で、学校側との話し合いに行き詰まりを感じていた。

「一度、相談に乗ってもらいましょう」

 愛ちゃんのお母さんに連れられて、法律事務所を訪れた。

 ホワイトボードがある6畳ほどの会議室に通されると、3人の女性弁護士が入ってきた。

 愛ちゃんのお母さんから簡単にこれまでの経緯を説明すると、髪を三つ編みにした阿部弁護士が、ふっと息を漏らした。

「学校側は娘さんたちの被害の訴えを全く認めていないわけですね」

「はい。こちらもその場を目撃したり、証拠を持っていたりするわけではないので……」

「虐待の場合はなかなか加害者側が認めようとしないことが多いんです。特に性的虐待の場合は、密室で行われることが多いですからね。なにより、いまの日本の裁判では、子どもや知的障がい者の証言は簡単には受け入れられにくいんです」

 阿部弁護士は、1990年代に放送されたテレビドラマ『聖者の行進』のモデルになった水戸事件で被害者側を支援する弁護団の1人だった。

 水戸事件は、地元の名士だった段ボール加工会社の社長が、知的障がいの女性従業員たちに性的虐待を繰り返していた事件だ。しかし、警察や検察は刑事裁判で罪に問うことを見送った。

 社長が否定しているうえ、被害を受けた日時や状況を正確に証言できる被害者が少ないため、「公判を維持できない」と判断したからという。

「時間と場所の説明は、小さな子どもや知的障がい者が最も苦手にする分野なんです。確かに刑事裁判で?罪はいけません。だから、加害者が否定するととても厳密な立証が必要になってくるので、どうしてもいろいろな壁が立ちはだかってしまうんですよね」

 このため、水戸事件のように、民事裁判での解決を探るよう勧められた。

「まず、経緯を紙にまとめていただけると助かります」

 帰宅後、これまで聖子が告白した時に書き取ってきた手書きのメモも整理して、弁護士の先生にも見やすいようにパソコンで打ち込み始めた。

「あさがお学級の記録」と題して、時系列でまとめたファイルはすぐにA4判で7、8枚になった。転記したあと、広告の裏紙などに書いたメモはゴミ箱に捨ててしまった。この時は、もともとの紙を残しておくことが大事という意識がなかったからだ。

 2回目は聖子たちを連れて、法律事務所を訪れた。「たこ糸やビニールテープで首を絞められた」という新たな被害についても話し始めた。

 しかし、民事裁判は自分たちで弁護士を雇い、証拠をそろえるところから始まる。100万円近い手付金も必要だった。

「勝てるかどうかはわかりません」

 障がい者や子どもが被害に遭った事件。その立証の難しさを幾度となく味わってきた弁護士の先生たちは正直だった。

 ほどなく、愛ちゃんのお母さんから「民事裁判の件は駄目になった」と連絡が来た。詳しい理由は語らなかったが、どこかでボタンの掛け違いがあった様子だった。

■歯切れの悪い回答しかしない校長と教頭

 街のシンボルのヤシの木も木枯らしで震えているように見えた。

 11月に入ると、聖子の精神状態は1学期よりもひどくなってきた。テレビを見ているときにも視点が定まらず、ぼーっとしている。髪の毛を抜いたり、夜中にうなされたりすることが頻繁になった。感情が高ぶり、ちょっとしたことで憤慨したり、泣き出したりする。これまで無口であまり自分の感情を表さない子だっただけに、その変化はまるで別人のようだった。

 やはり、このままで済ませてはいけない――。

 積み上がる被害の告白と、学校側のゼロ回答の落差に途方に暮れていたが、再度、愛ちゃんの両親と一緒に、学校側と話し合うことにした。

 午後6時。児童たちが下校していなくなった学校を4人で訪れ、伊地知校長と角田教頭に2学期に入ってから娘たちが話した被害内容を説明した。

 ・胸を触られた

 ・パンツの中に手を入れられた

 ・局部を見せられた、触らせられた

 ・手洗い場で胸を触られた

 ・トイレに向かって「いるんだろう!」と叫ばれた

 ・カーテンの中で触られた

 ・くすぐるときに顔をパンチされた

 ・「お金を出せ」と言われた

 ・「お腹をカッターで切るからね」と言われた

 ・頭を床に打ち付けられた

 ・階段の上から押されてケガをした

 ・「幽霊のような髪の毛だね」と言われた

 ・カッターで手を切られた

 ・たびたび殴られて、「やり過ぎです」と注意した補助教員にも「黙っていろ」と言っていた

 ・ふくらはぎを触らせ、「豆腐のようにふわふわしているだろう」と言われた

 ・「俺の子を産まないとカッターで切るからね」と言われた

 ・たこ糸で首を絞められた

 ・「トイレに流してやろうか」と言われた

 ・プールでボールを当てられ、ガムテープで手足を縛られた

 ・観葉植物の受け皿で頭をたたかれた

 ・顔にガムテープを貼られた

 ・「お前ら人生卒業だ」と言われた

 ・パンツを下ろされそうになった

 ・4年生の合同体育の時間に空き教室で下半身を出して踊っていた

 全部で24項目。下を向いてひたすらメモを取っていた伊地知校長と角田教頭に懇願した。

「もう一度、しっかり調べてください」

「事実なら大変なことですが……」

 伊地知校長は再び机に目を落とした。

「聖子も私もPTSDと診断され、薬を出してもらっています」

「……」

「ぜひ調べていただけるようお願いします」

「再度、担任と補助教員に事実を確認します」

 翌日には市教委にも経緯を説明した。対応した福士次長は力強く約束した。

「全職員に1人ずつ調査を行います。高木先生本人にも事実を確認したうえで、結果をご連絡しますから」

 だが、高木先生の処遇に話が及ぶと、急につれない態度になった。

 伊地知校長は先月、「『高木先生は遠くに行ったから、もう会うことはない』と子どもたちに伝えてください」と保護者に説明していた。ところが実際には、学校近くの庁舎で研修を受けているというのだ。

「高木先生が研修施設に通う時に、子どもたちが出くわしたらどうするのでしょうか」

 福士次長は笑い出した。

「でも『地下に潜れ』と言うわけにもいかないですからね」

「では、研修を受けた後、教員として復帰することもありうるのですか」

「ええ。それはそうですよね」

 前々から思っていた疑問もぶつけてみた。聖子の転校を勧められた時に繰り返されたうたい文句についてだ。

「『新設校は素晴らしいプログラムのモデル校』という話はどこから出てきたものなのですか」

「誰だったかな。そんな話を言ってましたか」

 まるで他人事だった。

■性被害の訴えに学校側が出した最悪な結論

 同じ頃、伊地知校長が約束した調査は、ある結論に向けて動き出していた。

 午前8時半、伊地知校長は校長室での聞き取りを始めた。担任と補助教員が1人ずつ入っていく。のちに情報公開請求で出てきた内部報告書によると、30分後の午前9時には市教委へこんな報告をしていたという。

「訴えのあった被害の確認は取れませんでした」

 連絡を受けた市教委はその日の夕方、研修中の高木先生から事情聴取した。翌週には課長が学校に出向き、当時のあさがお学級にいた教員から1人ずつ最終確認をする。聞き取りには伊地知校長と角田教頭も立ち会った。

 愛ちゃんの家にも我が家にも、何も連絡はなかった。

「申し入れをしてから2週間経ちましたが、調査結果はどうだったのでしょうか」

 勤労感謝の日を挟んだ3連休明け。しびれを切らした夫が市教委に電話をかけた。

「ああ、その件については、学校の方から連絡をしますから」

 待ちきれず、夫から学校の方へかけ直すと、角田教頭の回答は冷淡だった。

「調査は終わりました。24項目のすべてにおいて、そのような事実は認められませんでした」

「えっ……」

 夫はにわかには教頭の言葉を理解できなかった。

 教育者として当然しかるべき処置をしてくれるものだろう。

 そんな期待はガラスのように粉々に砕かれた。

 急いで愛ちゃんの家に連絡をした。愛ちゃんのお父さんが市教委に電話をすると、調査を力強く約束した福士次長に突き放されたという。「今回の件は、県教委に上げる義務はありません。もし、何かあったら、全責任は私が取りますから」

 私がPTA役員の仕事で学校に行くと、角田教頭から調査内容と結果の文書が入った封筒を手渡された。

《元学級担任、担任及び補助教員に対し、1人ひとり個別で24件の話を1問1答式ですべて調査した結果、そのすべてにおいて事実は認められなかった》

 1枚紙に聴取結果はわずか3行。子どもたちの訴えを完全否定するものだった。

(南 彰)

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