デマの出所は「ロシア」と「中国」だった…!? “新型コロナウイルス”ワクチンのフェイク情報が広がる“知られざるカラクリ”とは
2022年06月11日 07時00分 文春オンライン

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全国の新型コロナウイルス新規感染者数が減少に転じ、街にもかつての賑わいが戻りつつある。感染の拡大を食い止めた最も大きな要因は、なんといってもワクチン接種といえるだろう。一方、今もまだウイルスやワクチンに関するデマが飛び交う状況は続いている。なぜフェイク情報を真に受ける人は生まれてしまうのだろうか。
ここでは、ジャーナリストの池上彰氏の著書 『知らないと恥をかく世界の大問題13』 (角川新書)より一部を抜粋。新型コロナウイルスを巡るデマ情報が流布した背景について紹介する。(全2回の2回目/ 前編 を読む)
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■大切なのは「教養の基礎体力」
毎日のようにテレビで新型コロナウイルスの話題を取り上げていたのに、ロシアによるウクライナ侵攻で、話題がすっかりそちらへシフトしてしまいました。
いまでこそコロナウイルスがどんなものかわかってきましたが、最初の段階では何もわからないので不安でした。不安だからこそコロナに関するデマが飛び交いました。ワクチンができると、ワクチンをめぐる陰謀論も拡散しました。
たとえば「ワクチンの中にマイクロチップが入っていて、世界の人々をコントロールしようとしている」という陰謀論。こういう話がまことしやかに出てくるのですね。でもどうやってマイクロチップをワクチンに入れることができるのか。そんな目に見えないようなマイクロチップが開発されれば、その時点で大きなニュースになるはずです。そう考えるとおかしな話です。そこで「そんなチップ自体、開発されていないぞ」と、常識的な判断ができるかどうか。
■巧妙なデマ
非常に巧妙なデマもあります。こういうデマにひっかからないようにするにはどうしたらよいのかというと、それは「教養の基礎体力」だと思うのです。
今回、mRNA(メッセンジャーRNA)を使って極めて早くワクチンをつくることができました。新しい技術のワクチンとなると、不安になる人も多いのはわかります。このmRNAワクチンについても、「ワクチンを打つと遺伝子が組み換わる」といったようなデマが広まりました。
でも高校の生物の教科書を見ると、そもそも最初のところに「DNA」と「RNA」についての解説もありますし、mRNAは「伝令RNA」として、あくまで遺伝情報を伝えるメッセンジャーであるということが書いてあります。
高校生のときにきちんと学んでいれば、理解できたはずなのです。
■ワクチンについて捏造論文を流したイギリスの医師
ワクチンに関する警戒心を招いたのは、1998年にイギリスの医師が発表した捏造論文がきっかけだったといわれています。
「三種混合ワクチン」という名前を聞いたことがあると思います。麻疹(M)、おたふく風邪(M)、風疹(R)の3種の病気を予防するワクチンです。頭文字からMMRワクチンと呼ばれます。
これが「自閉症の原因である可能性がある」と指摘した論文を、イギリスの医師が定評のある学術雑誌『ランセット』に掲載したのです。
医師は、三種混合ワクチンをやめて麻疹単独のワクチンに変更すれば安心と主張しました。実は、この医師が前年、新しく麻疹単独ワクチンの特許を申請していたのです。MMRワクチンを麻疹単独のワクチンに切り替えれば、自分が莫大な利益を得られるというわけです。自分のためにこんな論文を発表したということですね。
■デマの出所はロシアと中国?
今回、新型コロナウイルスワクチンに関しては「不妊症になる」というデマも拡散されました。
こうしたデマの出所として、ロシアと中国が名指しされています。
2021年4月、欧州連合(EU)は、ロシアと中国の国営メディアが、西側諸国のワクチンに対する不信感を強めるために偽情報を流したという報告書を発表しています。
自国製のコロナワクチンがあまりに不人気なものだから、アメリカやドイツが製造したワクチンの信頼性を損ない、自国製のワクチンの安全性をアピールする意図があったというのです。
ワクチンを受ける、受けないはもちろん個人の自由ですが、中にはフェイク情報を真に受けている人も多いようです。
「ワクチンは怖いもの」と信じている人は、ロシアや中国の情報操作にまんまとひっかかっているのかもしれません。
(池上 彰)
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