「動けない」のに「見た目は…」〈10人に1人が発症〉10代に降りかかる病の“わかられない辛さ”

「動けない」のに「見た目は…」〈10人に1人が発症〉10代に降りかかる病の“わかられない辛さ”

©月本千景/中央公論新社

 10代の10人に1人が発症する「起立性調節障害」。記憶喪失や失神、朝のだるさや倦怠感、動悸、頭痛などの症状が見られる病気だが、「夜ふかししてしまうから朝が起きられない」「サボり」といった誤ったレッテルが貼られてしまうこともある。

『 学校に行けなかった中学生が漫画家になるまで 』で、思春期に起立性調節障害に襲われた体験を綴った漫画家・月本千景さんに話を聞いた。

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「起立性調節障害」。10代の10人に1人が発症する自立神経系の病気だが、はじめて耳にする人も多いかもしれない。

 漫画家の月本千景さんは、小学校6年生頃に起立性調節障害を発症。症状が重く、中学時代はほとんど学校生活を送ることができなかった。

「中学2年頃から卒業まで、ほとんど記憶がありません。それまでは勉強もスポーツもそこそこできる器用貧乏で、向かうところ敵なしといった感じでした(笑)。

 それがある日突然、記憶が飛んだり言葉が出なくなったりして……。小6のときに左目が一瞬見えなくなったときはわけが分からなくて、本当に怖くなりました」(月本さん、以下同)

 朝起きようとすると激しい動悸に見舞われ、動けない。学校でも吐き気が止まらず、保健室やトイレに閉じこもった。頻発する立ちくらみや気持ち悪さで遅刻・早退を余儀なくされる中、周囲からは「怠けている」「サボっているだけ」といった心無い声が浴びせられるようになっていく。

■頭によぎった「誰でも知っている有名な病気なら…」

 本人も原因がまったく分からない上に、見た目に病気とわかりにくい起立性調節障害への「偏見」が、月本さんを追い詰めた。

「病名がわかるまで、自分が甘えているだけなのかな、と思っていました。みんな普通に学校へ行けるのに、それさえ満足にできない。なにか人格的に問題があるのかもしれないと、自分を信じてあげることも難しくなっていました。

 その頃、がん患者の方のドキュメンタリーを見て、本当にいけないことですが、『誰でも知っている有名な病気なら病人として扱ってもらえて誰からも心配してもらえる。羨ましい』とすら思ってしまいました」

 起立性調節障害の多くは月本さんと同じく、10歳前後に症状が現れる。

 症状の出方は様々だが、大きくいえば自律神経の機能不全によって血流のコントロールがうまくいかず、起き上がろうとすると脳への血流が低下。そのため朝起きることが難しく、午前中がもっとも調子が悪い。午後に向かうにつれて症状は軽快し、夜にはすっかり元気になることもある分、今度は寝付けなくなり、夜ふかししてしまう。

 こういった生活スタイルが、周囲の誤解を招くのだ。

「症状の出方も人によってさまざまです。土・日など、学校がない日は朝早くから起きて遊びに行ける子もいるそうで、それを見た周囲は『どういうこと?』と思ってしまうこともあるのだと思います。心因性からくる症状が強い可能性もあり、病気を知っていても、理解するのは容易ではないかもしれません」

 不登校児の3〜4割が起立性調節障害の可能性があるそうなので、思春期の子を持つ親は特に心に留めておくといいかもしれない。

■名前がついたときの“安心”

 筆者も知人のお母さんから、「中学に入ってから子どもが朝起きられなくなり、不登校になってしまった」話を聞いたことがある。当時そのような病気の存在を知らなかった彼女は、「子どもの甘えなのかSOSのサインなのかわからない」と、とても悩んでいたことが印象に残っている。

 その後、月本さんは元看護師のお母さんの支えもあり、発症から約1年後、起立性調節障害という病名がつく。原因不明の不調に名前がついたことで大きな安心を得られ、周囲の態度も変わったという。

「得体の知れないものに“名前”という具体性と、対処法という“道”がわかったことで、自分の状況と将来に対する視野が晴れ、希望が持てた感じです。『これでやっと少し前に進める』と思えました。

 病気のことを先生からクラスの皆に説明してもらってからは、『具合が悪くなったら言ってね』と気にかけてくれたり、優しく気遣ってもらえるようになって。それまで疑いの目を向けられていたこともあり、温かい言葉が本当に嬉しかったです。

 ただ、『朝起きれない』だけだと夜更かしによる寝不足だったり、もともと低血圧気味といった体質によるものだったりするので、病気の判断が難しいかもしれません。

 病院にかかる目安としては、起き上がったあとに吐き気やめまい、動悸があったり、午前中ずっと気持ちが悪い、体や頭が鉛のように重くて動くのがつらいといったように、日常生活を送るのが困難なほど症状が強い場合は、病気を疑ったほうがいいと思います」

■比べることの出来ない“辛さ”

 月本さんが話してくれたように、個人差が大きいこの病。「学校に行かなくちゃ」というプレッシャーが本人を追い詰め、症状を悪化させる場合もあることから、子どもの気持ちを第一に、寄り添うスタンスを大切にしたいと感じた。

 起立性調節障害に似た症状を持つ別の病気として、「鉄欠乏症」や「脳脊髄液減少症」などが挙げられるという。月本さんは、「『起立性〜』と診断されても、血液や脳の検査もしてもらったほうがいい」とアドバイスする。

「起立性調節障害になる原因はいろんなパターンがあることも段々わかってきていて、体の急激な成長による身体的要因もあれば、精神的ストレスによる心因的要因もあるようです。

 私は天気や社会情勢などが病気に影響したことはあまりなかったですが、その人のストレスのかかり方によっては症状が悪化することもあるんだと思います。これは最近知ったのですが、コロナの影響でこの病気になった方もいらっしゃるようです」

 長引く疫病、戦争、経済不安……。健康な人でもメンタルが揺らぐ事態が相次いでいる。

 それぞれの「辛さ」を比べることはできないからこそ、私たちにできることはなにか。月本さんは著書の中でこのように綴っている。

「“普通”ならみんなが知っているはずの学校生活をほとんど知らないことに対して強い不安を感じていた頃もありました。でも今は、病気によって知ったことを活かして、こんな自分だからこそできることや描けるものがあると信じてやっていこうと思っています。途中でちょっと躓いて時間がかかったとしても、描きたいことをエンタメとして出せるように踏ん張っていきます」

「お前、頭大丈夫か?バカか?」病気に襲われる中学1年生に向けられた教師からの“屈辱のひと言” へ続く

(小泉 なつみ)

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