イギリス王室の人気を支える“オープンすぎる”SNS戦略 日本の皇室が学ぶべき危機感とは「小室眞子さんの騒動があっても、何も変えようとしない」

イギリス王室の人気を支える“オープンすぎる”SNS戦略 日本の皇室が学ぶべき危機感とは「小室眞子さんの騒動があっても、何も変えようとしない」

皇室の貧弱な広報に識者苦言

イギリス王室の人気を支える“オープンすぎる”SNS戦略 日本の皇室が学ぶべき危機感とは「小室眞子さんの騒動があっても、何も変えようとしない」

パディントンに合わせてハンドバッグからパンを取り出すエリザベス女王 「The Royal Family」YouTubeチャンネルより

 エリザベス女王の在位70周年を祝う祝賀イベントは日本を含めて世界中で大きな注目を集めた。

 イギリスの王室は戦後の日本皇室にとって、ある種の「お手本」であったと言われている。国民との距離感や、家族の関係性、情報公開から不祥事の対応まで……。

 関東学院大学教授で、「エリザベス女王」などの著書を持つイギリス政治外交史家で王室に詳しい君塚直隆氏は、今回のイベントもいかにもイギリス王室“らしい”ものであり、やはり“お手本”として学ぶところがあったという。

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 6月2日から4日間にわたって開催されたエリザベス女王の在位70周年を祝うプラチナジュビリーイベントの中でも、3日目の祝賀コンサートのオープニングは特に大きな話題になりました。

 エリザベス女王と「くまのパディントン」がお茶会を楽しむショートフィルムが上映され、女王が「We Will Rock You」の曲に合わせてお茶目にティーカップを叩いたり、パディントンに合わせてハンドバッグから食パンを取り出したシーンでは会場から大きな笑い声が上がりました。

 皇室に厳粛さを求める日本人からすると不思議にも映る光景ですが、この映像は70周年をお祝いしてくれた国民に対する女王からの「お礼」であり、サービス精神だと思います。女王は過去にも、2012年のロンドン五輪開会式で「007」のジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)と共演したり、2016年に90歳の誕生日を迎えた際に公式Twitterで自ら「ありがとう」とつぶやくなど、節目節目で遊び心を交えて国民に感謝の気持ちを示してきています。

■イギリス王室の公式InstagramやYouTubeは大人気

 イギリス王室の“オープン”な広報戦略を象徴するものが、SNSやYouTubeの使い方でしょう。

「The Royal Family」というアカウント名で運営されているInstagramはフォロワーが1000万人以上、YouTubeにはパディントンとのお茶会ショートフィルムも投稿されています。

 チャールズ皇太子の長男で、女王の孫にあたるウィリアム王子と妻のキャサリン妃は世界の王族に先駆けて2人でInstagramを始め、現在は1300万人以上のフォロワーを抱えています。

 厳かな儀式でのフォーマルな姿だけではなく、公務でアフリカを訪れたり、キャサリン妃が華麗なフォームでサッカーボールを蹴ったり、コロナウイルスのワクチン接種を受けたり、8歳、7歳、4歳の3人の子供と過ごす姿が発信されています。

 まさにインフルエンサーとして、王族の人々が「何を目指して、どこで何をしているのか」を日々アピールしているのです。

■下品な姿のコラージュさえも“遊び心”

 イギリス王室と国民の心の距離の近さは、ロンドンの街を歩いているだけでもすぐに感じることができます。土産物屋にはエリザベス女王を筆頭に王族をモチーフにした商品が並び、中には下品な姿にコラージュされた絵葉書までありますが、それさえ遊び心として国民、王室の双方から受け入れられているのです。

 イギリス王室の寛容さは、マスメディアに対しても同様です。チャールズ皇太子はかつて開いたメディア向けのレセプションで、「君たちには散々なことを書かれているね」と笑いを取った後に「だけど、君たちから何も言われなくなったときのほうが深刻だ」と発言して国内外からその見識を称賛されました。

 バカンス中のキャサリン妃がプールで盗撮されるなど、明らかにラインを超えたごく一部の例外を除いて、英王室の広報戦略は「マスメディアと二人三脚でやっていく」というスタイルを貫いているのです。

■ダイアナ事件でエリザベス女王が受けた壮絶なバッシング

 しかしイギリス王室がこのようなオープンな広報戦略を取るようになったのはここ20年ほどのこと。つまりイギリス王室のオープンさは伝統ではなく、時代に合わせて変化しようとする関係者の努力によって作られたスタイルです。そしてイギリス王室が広報戦略をイチから練り直す必要に迫られる転機となったのが、1997年のダイアナ事件でした。

 1981年にエリザベス女王の長男であるチャールズ皇太子と結婚し、その美貌とファッションセンスでイギリス国内どころか世界中でフィーバーを巻き起こしたダイアナ。

 しかしチャールズ皇太子との結婚生活は数年で破綻し、1996年に離婚。そして1997年にパリで交通事故でダイアナが亡くなった際のイギリス王室の対応が、国民の怒りを買いました。ダイアナはすでに王室を離れているとして事件の無視を決め込んだことで、女王が国民から猛烈なバッシングを受けたのです。自分よりもダイアナの方が国民から支持されていたことに、女王はおそらくこのとき初めて気づいたのでしょう。

 ダイアナと王室の「差」はチャリティー活動にも現れていました。イギリス王室は250年前からチャリティー活動について「慎ましくやるべき」というスタンスを維持してきました。しかしダイアナは離婚前から大々的なチャリティー活動を展開し、それまで王室に興味がなかった人たちからも支持され、ダイアナが出席するかどうかでチャリティーの支援額が大きく左右されるようになったのです。

 中には「王室の中でチャリティーに力を入れているのはダイアナだけじゃないか」と感じる人さえいたようです。

 ここで女王は王室が“人寄せパンダ”になることの大切さと、王室の活動をどんどん発信しないと国民にはわかってもらえず支持も得られないことに気づき、現在のような積極的な広報体制に舵を切ったのです。

 ダイアナ事件と同時期にイギリス王室は公式ホームページを開設。その後も、SNSやYouTubeでも積極的に王室の暮らしや仕事を公開し、王族の人々の専門分野や役割をアピールし、年間の収支決算や報告書も公開してきました。そうして20年近い時間をかけて、イギリス国民からの王室支持率を劇的に向上させたのです。

 国民からの高い支持率が現れたのが、2020年1月に始まったハリー王子とメーガン夫人の「王室離脱事件」でした。2人は、メーガン夫人がアフリカ系アメリカ人であることについて差別的扱いを受けたなどと主張して王室とトラブルになり、Instagramで一方的に主要王族からの引退を発表しました。それに対してエリザベス女王は彼らの称号や公務を剥奪したのですが、実に国民の9割が女王を支持すると答えています。

 ハリー王子との結婚が2度めだったことなどを理由に、メーガン夫人に対しては中高年を中心に反発がありました。しかし若者からは元女優でありパワフルな性格として支持されており、もしダイアナ事件で反省せず閉じた広報を続けていたら、世間がハリー王子とメーガン夫人側についていた可能性も十分にありました。

 しかし積極的な情報公開の結果として、90歳を超えたエリザベス女王が国のために尽くしてきたことをイギリス国民は知っていました。それを引き継ぐべきハリー王子が「逃げ出した」と、皆が女王を支持したのです。

■日本の皇室のあまりに貧弱な広報体制

 一方、日本の皇室はどうでしょうか。皇位継承問題など課題は山積みで、小室圭さんと眞子さんの結婚では皇室へのバッシングが起こりました。特に若年層の皇室への関心低下は統計でも明らかです。

 この苦しい状況には、やはり広報活動の不足が大きく関わっていると思います。皇族がどんなことをしているのか知らなければ、なぜ皇族が必要なのかわからず、関心もなくなる。若年層ほどその状況は深刻です。

 そんな皇室の広報体制を象徴する出来事があります。2017年4月にスペインのフェリペ6世国王とレティシア王妃が国賓として来日した際のこと。歓迎式典や宮中晩餐会の様子を、スペイン王室はその日の晩のうちにYouTubeにアップしました。

 しかし、日本の皇室にはもちろんYouTubeアカウントはなく、晩餐会から1カ月後に宮内庁のホームページに写真が載っただけでした。

■小室眞子さんの騒動でも危機感を感じていない?

 2021年の元日、新年参賀が開けなかった際の天皇皇后からのビデオメッセージにも愕然としました。動画は宮内庁のサイトにアップされたのですが、公開時間はなんと午前5時半。ゴールデンタイムのニュース番組で放送すべきでしたし、サイトにアップするにしても、TwitterやInstagramに広告を出してYouTubeで公開すればもっと幅広い世代に届いたことでしょう。しかし、この謎の早朝アップは今年も踏襲され、なんの反省も見られませんでした。

 つまり宮内庁は、現在の広報体制や皇室に対する国民の視線について何の危機感も持っていないということです。スペイン国王の来日や小室眞子さんの騒動があっても、何も変えようとしない。昨年開かれた皇室に関する有識者会議では「広報の強化」という話が出ましたが、具体的な動きが一向に聞こえてこないのがその証拠でしょう。

 日本で国民が皇室に親しみを持つ割合は現在7割を超えると言われています。しかしそれは「支持率」ではなく、さらに若年層の無関心がこのまま広がれば、その足元はおぼつかなくなります。天皇陛下や上皇陛下も、国民からの支持こそが皇室の礎であることを折りにふれてお話しされてきました。

 今こそSNSを整備し、政府とは違う皇室ならではの役割をアピールすれば、皇室への好感度や支持率は自ずと上がってくるでしょう。

 自分たちの功績をアピールする広報活動については、「日本らしさを損なう」「奥ゆかしさが美徳」という反対意見も根強くあります。皇室を熱心に支持するいわゆる高齢者の保守層ほど、その声は大きいです。しかし時代の変化に適応する部分も必要で、SNSへの進出はその第一歩です。

 もちろん皮肉やユーモアの伝統が強いイギリス王室とまったく同じことをする必要はなく、日本の文化にのっとって皇室独自の広報戦略を作るのが最適解になるでしょう。幸い日本には豊かなサブカルチャーがありますし、ドラえもんやポケモンと天皇陛下が共演されたとしても、現在の国民から反対の声が上がるとは思えません。

 令和への改元では皇居の前に大勢の人が集まるなど、まだ皇室への支持が分厚く存在するうちに手を打つ必要があると思っています。

(君塚 直隆/Webオリジナル(特集班))

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