3LDK「+S」が広すぎる部屋、20畳に巨大な窓、ジャグジー有りなのに台所無し物件…“魔改造リノベ”で生まれた「ナゾの間取り」

3LDK「+S」が広すぎる部屋、20畳に巨大な窓、ジャグジー有りなのに台所無し物件…“魔改造リノベ”で生まれた「ナゾの間取り」

リフォーム前の「出自」ゆえにトイレの数は潤沢な間取り ©iStock.com

 吉幾三の歌うコマーシャル・ソングのおかげか、「リフォーム」という言葉は日本人の耳にすっかり馴染んだ。英語としては正しくないため、最近では「リノベーション」という言葉で代えることもあるが、建屋を維持しながらの住宅改装工事を指す言葉として、ともに広く使われている。

 しかし、住み慣れた我が家に何らかの香りを添えるばかりがリフォームではない。映画館やショッピングモールなど、元は居住用でなかった物件を“魔改造”して、無理矢理住んでしまうような工事も行われているのである。

 リフォームの前後でまったく別物になることもあれば、妙な名残が面白い物件もある。今回はそんな“ナゾの間取り”を眺めつつ、日本の住宅における“新築信仰”を考え直す材料としてみたい。

■459.16平方メートル!3LDK「+S」が広すぎる部屋

「駅徒歩5分、中古で4480万円の3LDK」と聞くと、それなりに豪華な物件をイメージする。納戸やサンルームを含む場合、間取りは「3LDK+S(3SLDK)」とも案内されるが、寝室にできるのは3部屋である。3人から5人くらいの家族構成ならば、標準的な間取りだろう。

 ところが、住宅情報サイトに「3LDK+3S」として掲載されているこの物件の間取り図は、その想像を覆すものだった。

 大きな“倉庫”を複数持つ物件の正体は、かつて映画館として使われていたマンションの1階部分である。「一般住居としてお使いいただけます!」と銘打って販売されており、これも立派な中古住宅ということになる。

 459.16平米の広さだが、窓のある、居住に適した部屋は3室だけ。すなわち住宅としては「3LDK+」としか掲げることができず、かなりもったいない。その3室は元の映写室で、快適に暮らすには工夫が要るだろう。

 2つの「倉庫」はかつての劇場で、「機械室」では空調機器が稼働していたという。存置された座席の具合や傾斜にもよるが、使いみちを考えるのにこれほど面白い物件はそうそうない。私鉄の駅まで徒歩5分と好立地なので、「居抜きの映画館」を始めたいのであれば、4000万円台という販売価格は格安に思える(簡単に始められるものではないが)。

 他に目を引くのが、3箇所に分散した合計13据の便器である(便器は「据」で数えるものらしい)。3LDKならば通常、トイレは2箇所あれば贅沢といったところだが、こちらは13据。明らかに過大な設備である。

 そのかわり、この間取り図には浴室がない。元が映画館だったことを考えれば当たり前だが、購入者が真っ先に手を付けるのは水回りになるだろう。多すぎるトイレを潰すだけで、かなり広々とした浴室が作れそうだが、追加のリフォーム工事が必要だ。

 ちなみに、同じ建物にある1LDKの部屋は、面積にして約1/10、参考価格で900万円ほどの価格がついている。したがってこの「広すぎる3LDK」は、坪単価で言えばお買い得な物件ということになる。はてさて、「一生に一度の買い物」と言われるマイホームで、この物件を選ぶ勇気はあるか。

■20畳に巨大な窓付きの「商店街ビュー」3LDKの部屋

 昭和中期に栄華を極めた商店街。「濡れずに買い物ができる商店街」を目指してアーケード化を行った地域も多いが、それがかえって暗い印象を生み、斜陽化に拍車がかかったという見方もある。

 近年は買い物客の減少もさることながら、権利者の高齢化などから更新が進んでおらず、地方都市を中心として「シャッター街」が社会問題にもなっている。そんな状況に一石を投じるリフォーム物件の間取り図がこちら。

 商店街に「店舗兼住宅」は多いが、この物件の場合は異なり、元となる2階部分は商店で、居住用ではなかった。それを大きくリフォームし、広々とした3LDKを実現。天井に開口部を設け、ガーデニングも可能な中庭(インナーバルコニー)が生まれた。

 最大の特徴は、アーケード街に面する巨大な窓である。見晴らすのは昔ながらの町並みで、別荘地のような「オーシャンビュー」や「マウンテンビュー」ではないが、独特の趣がある。

 これは施主の希望で、自らも生まれ育った商店街に愛着があったのだという。夜になると家の灯りがこの窓から通りに照らして、生活のぬくもりを伝える。

 なおこの物件は、1800万円という(住宅リフォームとしては)潤沢な予算の“気合いの入った”ケースだったことが報われたようで、「リノベーション住宅推進協議会」の選出する「リノベーション・オブ・ザ・イヤー」(2016年)に輝いている。

 日本各地に多数存在するアーケード街の未活用物件だが、このような積極的な再利用が進むことはあるのだろうか。

■モールのはずが買い物難民?“単身者にちょうど良い”1LDK

 商店街が衰退するいっぽう、平成時代に大きく拡大したのが、現代を象徴する建造物のひとつであるショッピングモールだ。

 高度経済成長時代の日本では、“都会”のシンボルがデパートと高層ビルで、対する“町”のシンボルが商店街やスーパーマーケットだった。ところが今日では、どちらの機能もショッピングモールに移りつつあり、つまり我々は『サザエさん』とは違う時代を生きている。

 都会のビルが縦に大きくなっていくのに対し、郊外のモールは面積的に巨大化を続け、「まるでひとつの町のよう」とも形容される。しかしモールも競争が激しく、テナントが激減して“廃墟”の扱いを受ける物件も散見される。

 さて、ショッピングモールの本家本元といえばアメリカだが、当地でも2020年以来の新型コロナ禍を受けて倒産するショッピングモールが増えたという。しかし交通の便に優れたモールを、廃墟として野ざらしにするのはもったいない。そういうわけで考案されたリフォーム物件がこちら。

 古いモール(なんと19世紀築)の区画をリフォームし、単身者にちょうどいい間取りの1LDKに大改造。アメリカ人の感覚では“手狭”かもしれないが、日本人の感覚では“広々”である。

 エントランスの形状がなんとも店舗らしい。玄関横にある出窓状の突起はショーウィンドウだ。もっとも一人暮らしであれば、ショーウィンドウを設けてまでご近所に見せたいものはないだろうし、カーテンを閉め切って生活することになるだろう。それでも、かつての名残として目に楽しい設備にはかわりない。

 ショッピングモールの中にあるわけだから利便性は最高……と思いきや、「店舗はなくなっているから買い物には不便なのでは」という意見も。となれば、リフォームと移住が進むにつれて、生活必需品を扱う店が戻ってくるという“先祖返り”が起こる可能性もありそうだ。

 宝飾品から電気工具まで、バラエティ豊かな店舗があるのがショッピングモールの楽しさである。同じようにこの物件には、アメリカならではのバラエティ豊かな入居者が集まるのだろうか。今後はわからないが、このリフォームは建物にとっても恵まれた余生のように思える。

■ジャグジー有り&台所無しの「駅徒歩20分、家賃3万5000円」

 コロナが上陸する前は、円安によるインバウンド需要を背景に「民泊」が流行りだった。住家を宿屋に変えるというのはごく簡単なことで、必要なものは同じわけだから、特にリフォームを行わず貸し出している例も多かった。

 住む人が減って旅行客が増えるのなら、マンションを民泊に変えてしまえばいい(本当はそう単純ではないが)。逆に、ホテルのお客さんが減った場合、元ホテルの物件が居住用にリフォームされることもある。

 そういうわけで、日本には「元ホテル」のアパートやマンションがいくつか存在するが、ビジネスホテルが存在しないような田舎町や郊外にも、ホテルはある。「ご休憩」目的での利用も可能な、いわゆるラブホテルだ。

 最近は都会を中心に、ゴージャスでラグジュアリーなラブホテルや、特殊な内装を持ったラブホテルが好評を博しているが、ラブホテルというのは本来、“単一の目的”を達成するためのシンプルな施設である。そんなシンプルな田舎のラブホテルが居住用に改装されると、間取り図はこうなる。

 長屋のように並んだ元ラブホテルの一室で、駅徒歩20分、家賃は3万5000円。1階がまるごと駐車場というのが面白く、アメリカに多い「モーテル」を思わせる間取りである。都会の標準的なラブホテルと比べれば余裕のある空間で、ワンルームとしても広い部類に入るが、台所がないのには困りそうだ。

 浴用設備に関しては、ラブホテル時代のものがそのまま使われており、ジャグジーもある模様。ただし掲載されていた写真からは、浴槽が怪しく光るかはわからない。外装は派手なままで、「元ラブホ」の趣を強く残している。

 さて、ラブホテルはふつう二人で泊まるものだが、間取り図に直してみると、どう見ても「単身者向け」の部屋だとわかる。幾多のカップルが愛を紡いできた空間にひとりで暮らすことになるわけだが、寂しさを感じはしないのだろうか。他人事だが、36歳独身男性の筆者としては、いささか心配になってしまう。

 こういう変わった建物には、変わった役割を与えてみたくなる。この物件を、住む以外で利用するとしたらどんな使い方があるだろう。

 広いガレージを生かして“趣味の隠れ家”にするというのは夢のあるプランだ。アトリエもいいし、プライベートシアターにもできる。巨大なジオラマを保管したり、模型飛行機のメンテナンスに使ったりと、用途は幅広いだろう。

 逆に、元がラブホテルで家賃が安いからといって「愛人を住まわせる」というような発想は最悪の部類だ。この間取りでは早々と愛想をつかされるのが関の山である。

 リフォームによって形を変えることで、建物の“由緒”があらわになる特殊物件の数々。そういった場所での生活を妄想するのは、やはり面白い。

(ジャンヤー宇都)

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