「ベッドが空いておりません」発熱患者の受け入れを断る病院多数…転院搬送を円滑に進める“救急救命士の必要性”

「ベッドが空いておりません」発熱患者の受け入れを断る病院多数…転院搬送を円滑に進める“救急救命士の必要性”

第3波で行われた転院搬送の様子(著者提供)

「救急とコロナ、どちらも断らない」を実現するために…湘南鎌倉総合病院がコロナ禍の初期段階で見せた“貫くための行動力” から続く

 湘南鎌倉総合病院は、日本で最大規模の病院・医療事業グループである「徳洲会」に属し、“断らない救急”を掲げて近年日本で最も救急車の搬送を受け入れている病院である。

 その方針はコロナ禍においても変わらなかった。院長の篠崎伸明さんは全職員に向けて「従来通り、救急を断りません。貫きます」と言い切り、それを実行するために体制を整えたのだ。

 ここでは、全国の徳洲会病院がいかに新型コロナウイルスと対峙し、闘ってきたかを描いた、ジャーナリスト・笹井恵里子さんの著書『 徳洲会 コロナと闘った800日 』より一部を抜粋。コロナの疑いが晴れた患者を転院搬送する「救急救命士」の仕事に迫る。(全2回の2回目/ 前編に続く )

◆◆◆

■現場密着

 2020年年末から2021年年明けにかけて、私は湘南鎌倉総合病院の救命救急センター(ER)で密着取材を行っていた。

 コロナ発生前に5日間の密着取材をしていた時と比べても、現場の雰囲気はほとんど変わらないように感じた。ERで働く医師や看護師は、マスクに加えてゴーグルをつけるのみの軽装備だ。独自のスコアリングにより、感染リスクが高まる場合にのみPPE(防護具)を身につける。数ある徳洲会病院の中でもコロナ禍において“独自の”何かを打ち出したところは、強い。

 現場のトップが「断らない」理念を貫くために、共通のルールや基準を取り決めて職員に説明する。それは、「何が起きても、ヒラの職員の責任にはしない」という姿勢であると感じられた。

 しかし、いくら一病院ががんばっても、急性期を脱した患者を受け入れる「後方支援の病院」がなければ、地域の医療はまわらない。感染者が増えるにつれて、軽症患者やアフターコロナの患者を受け入れる病院の必要性が増していった。積極的にアフターコロナ患者を受け入れますよ、と表明した東大阪徳洲会病院のような存在はまだまだ数が少なかった。

 1月3日に日付が変わったばかりの深夜、ERでは救急救命士3人と、救命救急センター長の山上浩が、ある患者の転院に頭を悩ませていた。

 知的障害をもつ50代女性が2020年12月、コロナ陽性と判定された。同院で2週間入院して治療を受け、その後に陰性を確認して12月下旬に退院。しかし、1月2日に再び呼吸苦を訴え、発熱もあったため救急車で同院ERへ。ERではレントゲン、CT、心電図、尿検査、そしてコロナに関する抗原検査を行った。結果、コロナは陰性、肺炎もコロナの跡はあるものの「再燃していない」と判定された。

「もうコロナの疑いがない状態ならば、患者を転院させよう」と、山上は指示を出した。

 より緊急性の高い患者の受け入れに備えるためだ。「神奈川モデル」では「検査結果でコロナが陰性化した患者の入院管理」を割り振られた病院がある。それらの病院にお願いをしようということになった。

 同院には医学的知識を有する救急救命士が勤務し、救急車からの電話を受けたり、他の病院への転院搬送の交渉など煩雑な作業を担っている。

 救急救命士が転院搬送調整のために受話器をとった。私も隣で電話に聞き入った。

「わたくし、湘南鎌倉総合病院の救急調整室の永澤由紀子と申します。転院をご相談したい患者がいまして……はい、はい……」次第に永澤(24歳)の表情が曇っていく。「わかりました。ありがとうございます」と受話器を置く。

 1件目に連絡した病院は、「夜間の受け入れは厳しい」ということで受け入れを拒否した。

 2件目――「ベッドが空いておりません」

 3件目――「当直医の私では判断できかねます」

 4件目――「当院ではADLが自立した方(1人で身のまわりのことができる人)のみを受け入れています」

 そして5件目の病院からは、「その患者さんは(痰の)吸引が必要でしょうか?」と尋ねられた。

 永澤が「必要」と答えると、「でしたら受け入れができません」との返事。

 次々に断られて9件目。これまでのように永澤が一通りの説明を終えると、受け入れてもらえそうな雰囲気が漂っていた。しかし、「抗原検査で陰性を確認したとのことですが、PCR検査で陰性を確認しなければ当院では受け入れられません」

 との答え。PCR検査は数時間を要する。しかも夜中に行うことは難しい。

 永澤は「わかりました。お忙しい中ありがとうございました」と受話器を置いた。山上はため息をつき、肩を落とす。

 以上、9件はすべて「検査結果でコロナが陰性化した患者の入院管理を行う」と、神奈川県に報告している医療機関である。この中には残念なことに徳洲会系列の医療機関も含まれていた。

――そして10件目。

「本当ですか? 受け入れてくださるんですか?」

 相手からOKをもらえたようだ。永澤が驚きの声で問い返している。その隣で山上も「涙が出るほどうれしい」と喜ぶ。転院搬送の交渉を始めてから、2時間が経過していた。それほどに、一度でもコロナに感染した患者の「治癒後の別の病」を診ようと手を挙げてくれる医療機関は少ない。

 内科的疾患だけでなく、私が取材中は「コロナ治癒後の骨折」さえも敬遠されていた。「転院搬送」に手間がかかるから、そもそもコロナの患者を受け入れられないと判断する急性期病院は多い。

 ベテラン救急救命士の渡部圭介(41歳)も、「最近、医療機関との調整に膨大な時間がかかるようになった」と言う。

「コロナ疑い、コロナ陽性でしたら、ここで診られます。けれども、当院で検査の結果、コロナでない発熱だった、怪我とともに発熱があるなどのケースでは他の病院に転院搬送をしたいのです。が、それがなかなかできません」

 転院搬送の場合は2つのパターンがあり、今すぐ高度な治療を必要とする、二次病院から三次病院への搬送を「のぼり搬送」という。その反対に、緊急治療の必要性が低い患者が別の病院へ搬送されることを「くだり搬送」という。コロナ禍では特に「くだり搬送」に難航した。

「発熱がキーワードで、それがあると受け入れを悩む病院が増えました」と、渡部。

 しかも一般的なERでは、転院搬送の交渉を医師や看護師が担っていることが大半だ。その状況下で患者を次々に受け入れれば、転院搬送調整に時間をとられ、今いる患者の治療が進まないという悪循環に陥る。

 湘南鎌倉総合病院では永澤や渡部のような救急救命士が、その面倒な転院搬送の交渉を24時間体制で請け負っている。彼らの存在が、同院の「救急搬送日本一の受け入れ」に大きく貢献していることは間違いない。ぜひ他の病院も救急救命士を雇用し、活用してほしいと思うが、存在価値が数値では見えづらいのが難点だ。

 その役割を一言で説明するなら、救急救命士は医学的知識をもとに、救急隊、または転院搬送先の医療機関という主に“院外”に対する調整を行っている。救急救命士がいることで、医師や看護師は目の前の患者に集中できるのだ。

 また、同院ERの場合は、救急救命士が救急隊とやりとりをし、何分後にどのような状態の患者が搬送されてくるかという情報を入力して、ER内にアナウンスする。これも「すべての救急患者を受け入れる」同院だからこそ、救急救命士が“受け入れ前提”で話が進められる。だが大半の病院は100%の患者受け入れは行わず、「医師の判断」だ。だからなかなか「救急救命士の活用」に結びつかない。

 まずは病院として患者を受け入れると決める。もし病床がない場合などは診断と初期治療のみ行い、転院搬送を行う。そのために救急救命士を雇用する。そのような「正の循環」が生まれるといい。

(笹井 恵里子)

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