「『女に政治がわかるものか』と言われるのが悔しくて…」全国紙初の女性政治部長が描く“男社会”のリアル

「『女に政治がわかるものか』と言われるのが悔しくて…」全国紙初の女性政治部長が描く“男社会”のリアル

『オッサンの壁』(佐藤千矢子 著)講談社現代新書

「『女に政治がわかるものか』と言われるのが悔しくて、政治記者として必死で働いてきました。でも、気づけば、私自身もオッサンになっていたという反省も込められているんです」

 そう話すのは、全国紙初の女性政治部長を務めた、毎日新聞論説委員の佐藤千矢子さん。初の著書『オッサンの壁』では、自身の記者時代の体験を中心に、幾度となく直面してきた「壁」について取り上げている。

「女を捨てて、ガムシャラに働くしかなかったんです。こんなことをされたと口にしたところで取材がやりにくくなるだけでした。同業種の女性たちからは『よくぞ書いてくれた! 私も似たようなことがあった』と感謝されました」

 新聞記者になったのは1987年。男女雇用機会均等法が制定された2年後で、セクシャルハラスメントという言葉はまだ一般的ではなかったが、日常茶飯事だった。初任地の長野支局時代は消防署員から、政治記者時代には議員や官僚などから、胸を触られそうになったり、チークダンスを強要されたりしたことも。大物議員と議員宿舎で一対一の懇談中に抱きつかれたのは、涙が出るほど嫌だった。いわれのない嫌がらせを受けたことは一度や二度ではない。

 政治部3年目の1992年春に、女性記者として初めて当時自民党の最大派閥だった経世会(竹下派、現在の茂木派)担当に抜擢。竹下派七奉行の一人で、“瞬間湯沸かし器”の梶山静六から怒鳴られたこともあった。記者同士の熾烈な競争、朝も夜も駆け回るという激務を克明に綴っている。

「そんなふうに働いてきたことに後悔はありません。ただ、若干の反省はしています。それは、このやり方でしか、この世界で生きていく方法を後輩たちに示せなかったこと。社内で、『佐藤さんこそ、オッサンじゃないか』という声があるそうなんですが、いや、まさにおっしゃる通りで……」

 佐藤さんがいう“オッサン”とは男性優位に設計された社会で、その居心地のよさに安住して、そのかげで生きづらさや不自由さなどを感じている人たちの気持ちや環境に思い至らない人。あるいは、気づいていても見て見ぬふりをして既存のシステムを変えようとしない人のことだ。

 そんなオッサンが日本一はびこっている場所、それは永田町、そして新聞などの政治メディアだと断ずる。佐藤さん自身も、政治部長として女性記者を採用する際、産休や育休など男性記者の場合にはほとんど考えないようなことで悩み、自己嫌悪に陥った。

「男性でも女性でもオッサンじゃない人はいるし、女性にもオッサンはいます。ある自民党議員にこの本を渡したら、タイトルを見た瞬間、『俺にわかるかな』と。リベラルでジェンダー問題に理解のある方だけに、考えさせられる反応でした」

 本書を執筆したのは、この社会で何十年も生きてきてしまったことに申し訳なさとやるせなさが募ったからだという。コロナ禍で女性の貧困、生きづらさがより浮き彫りになるさまを見て、ショックを受けた。

「官僚OBの方からは『内容にはほとんど同意するが、女性の生きづらさの問題を人権問題だと主張しても理解できる男性はいないでしょう』とお便りをいただいて、ちょっと衝撃でしたね。でも、どんな小さなことでも声をあげることの大切さを日々実感しているんです。これまで女性問題に真剣に取り組んできた専門家ではないからこそ、現役の一会社員として見聞きしてきたことをリアルに届けられれば、と思っています」

さとうちやこ/1965年、愛知県生まれ。87年に毎日新聞社に入社、長野支局を経て政治部へ。2001〜05年は米ワシントン特派員。第一次安倍政権時には首相官邸キャップを務めた。17年、全国紙初の女性政治部長に。その後、大阪本社編集局次長、論説副委員長、東京本社編集編成局総務を経て、現在、論説委員。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2022年6月30日号)

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