「家族を泊まらせたくない」加賀の名門旅館「雇用調整助成金」1億7千万円不正受給を告発した従業員たちの悲痛な叫び【文書、LINE入手】

「家族を泊まらせたくない」加賀の名門旅館「雇用調整助成金」1億7千万円不正受給を告発した従業員たちの悲痛な叫び【文書、LINE入手】

瑠璃光

 6月29日、石川労働局は、石川県加賀市・山代温泉で旅館「瑠璃光」「葉渡莉」を経営する「よろづや観光」の雇用調整助成金の不正受給問題で、不正受給額が約1億7000万円にのぼると発表した。「週刊文春」が6月15日に、「 電子版 」で本件を報じてから2週間。「故意ではない」としてきた萬谷浩幸社長の説明は覆ることになった――。

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■「タイムカードを押さぬよう徹底されていた」

「よろづや観光」は、約250人の従業員を抱え、来秋公開の小芝風花主演の映画『レディ・カガ』のロケ地にもなるほど、加賀を代表する名門旅館の一つだ。そんな名宿による”不正受給”は、内部告発によって露見することになった。今春、現役社員たちが石川労働局に告発したのだ。幹部のA氏が語る。

「コロナ禍で約15カ月の休館期間中も、約20名いる幹部は補助金申請や通販業務、館内整備等に追われていた。月の出勤日数はコロナ以前並の22日前後でした。しかし、そのほとんどが“休業日”としてタイムカードを押さぬよう徹底されていたのです。中には会社の指示を無視してタイムカードを押し続けた社員もいたため、会社が作成した時間外申請書と齟齬が生じ、労働局にとって動かぬ証拠となった」

 発端は2020年5月、幹部会議で示された萬谷社長の方針にあった。社長は、「お金は雇調金が支給されるわけだから、休んでいても仕事しても同じ。ならぼんやり休んでいることないよね」

 と、明言。さらに「休業中も精力的に取り組め」と付け加えたという。何が問題なのか。雇調金を所管する厚労省の担当者に聞いた。

「雇調金は、コロナ等で休業を余儀なくされた場合、安易な解雇に走らず雇用維持してもらうため、休業手当の負担を国が助成する制度です。旅館が休館していても従業員が他の業務に従事していれば当然『休業』ではないので『不正受給』となります。仮に助成金をアテにして出勤を指示し、架空の休業を申告していたのであれば、言語道断です」

 従業員に“休業出勤”を指示する一方、コロナが徐々に落ち着き旅館が再開すると、今度は現場の過剰な負担が浮き彫りとなった。同社社員のB氏が語る。

■コストカットは“温泉”にも…

「会社は雇調金を少しでも多く受け取るため、今度はなるべく多くの社員に休業を割り当てて出社人数を制限したのです。例えば清掃は1部屋を複数人で30分かけていたが、1人で15分以内となった。チェックインまで休憩は無く、消毒作業をしたら間に合わないので、消毒液を清掃作業には持ち込まず、消毒は省いています」

 名宿のコストカットは、旅館の生命線である温泉にも及んだ。

「人件費を抑えようと出勤人数を減らしているので、現場はいつも人手不足。温泉では感染症を防ぐために温泉法に基づいて塩素濃度を0.4〜1.0mg/L未満に保つ必要がありますが、よろづやでは適切な塩素管理をする人員を配置していないため、0mg/Lとなっていることが多い。今年1月、保健所の指導を受けても改善されませんでした」(B氏)

 そうして積み上げた不正受給額は、相当な額にのぼるという。

「幹部の“休業出勤”による不正受給だけでも3000万円は下らない。それ以外にも一般社員による“休業出勤”やパート・アルバイトへの休業手当未払い分もある。不正が認定された場合の返還額には不正以降の支給額全額に、不正受給額の2割に相当する違約金も加わります。また、他の助成金も5年間は取得できない」(同社社員のC氏)

 告発者は労働局の担当者にこう念を押されたという。

「返還額は億単位にのぼるとみられ、会社が潰れかねないが、覚悟はありますか」

 今回、従業員たちが告発を決意した背景には、社長への根深い不信感があった。

「有給休暇は長年取得できない状況が続き、残業代の未払いも横行していた。昨年、数回にわたり労働基準監督署が是正を求め、やっと5日の法定有給が確保されました。ただその後も社長は、5日を超える有給は『安易に与えるな』と発言し、有給の承認は社長の決裁を経るよう幹部に指示していました。労働契約書に記載されているはずの賞与も、私が知る限り支給されたことは一度もない。毎年15人程採用する新入社員も、3年後には5名程しか残りません。他にも、調理場でセクハラ被害に遭った社員が民事訴訟を検討しているなど、従業員を塵芥のようにしか考えていない社長に対する不満は頂点に達しているのです」(前出のA氏)

 こうした証言や証拠に基づいて「週刊文春」が萬谷社長を直撃したのは6月12日のことだった。

■「反省もあって…」

――休業中の社員を出社させていたと聞いている。

「それはない。あの……調査中です」

――休館中も幹部社員は通常通り働いていましたよね。

「そういう認識はないです」

――ではなぜ労働局が調査しているのか。

「会社側の認識とちょっとズレがあるので」

――十分なサービスもできないと社員が嘆いている。

「GoToの時に人手が足りなくなって、反省もあって、人数を増やしている」

 会社に改めて質問状を送ると、一部回答を翻し、概ね次のように答えた。

「不正受給を行った認識はないが、タイムカードと時間外申請書との不一致により受給した金額(2000万円程度)があることは事実。返還したい。(課長以上が出勤していた件は)休業日には出勤しないというルールの徹底不足であり深く反省しています。(清掃業務は)除菌作業を行えないような状況とは考えていません。(有休は)全社員取得出来ている。賞与は赤字のため支給出来ていません」

 そして、「週刊文春 電子版」で第一報が報じられた6月15日、萬谷社長は突如、記者会見を開き、深々と頭を下げた。

「皆様に大変なご心配とご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます」

 ただ、不正受給は約2000万円で故意ではないと釈明した。

「コロナ禍の約15カ月にわたる休業期間中、受給した雇用調整助成金のうち約2000万円が不正受給に当たると労働局から指摘を受けた。故意ではない。すみやかに返還し、再発防止に努めたい」

 この説明には、従業員たちから「不正の総額は2000万円どころではない」と疑問の声があがった。

 また、あくまで「不正」ではないと言い張る社長に、C氏は嘆息してこう語った。

「そもそも、タイムカードの記録に基づいて作られるのが時間外申請書。不一致が生じているのは、会社の担当者が故意に操作し、実際にはあった“休業出勤”をなかったことにしていたからに他なりません。会社の指示に従わずにタイムカードを押し続けた社員がいたことから発覚したもので、実際にはタイムカードにも記録されていない膨大な“休業出勤”が存在するということです」

「お客さんの笑顔が見たい」とよろづやに就職したというB氏は続ける。

■「悪いという認識はありました。ですが…」

「入社した頃は親孝行で家族を招待しようと思っていたのですが、今は、絶対に泊まらせたくない……。笑顔どころかお客さんの怒った顔や悲しい顔を見るのが本当に辛いんです。社長はCMや映画に注力していますが、見栄えにしか興味がない。『質より効率を重視しろ』が口癖です。きちんとしたサービスもさせてもらえず、不正を繰り返す。このままでは誇りを失ってしまう。社長にはきちんと責任を取って頂きたい」

 別の幹部社員のD氏も付言する。

「悪いことは悪いという認識はありました。ですが本当にワンマンの会社なので、社長がこれでいいんだといえば、これでいいんですねと……。社長をずっと見てきましたけど、たぶん今回も反省しないのではないか」

 1億7000万円の不正受給額に対し、返還額は2倍、3倍では到底収まらないという。

 この多大なる損失の責任を、社長はいかに取るのであろうか。

(「週刊文春」編集部/週刊文春)

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