「パートナーの女性はどう思っているのだろう?」性別適合手術を受けた元女子プロレスラーが男になって気づいた“最大の困り事”とは

「パートナーの女性はどう思っているのだろう?」性別適合手術を受けた元女子プロレスラーが男になって気づいた“最大の困り事”とは

新人レスラー時代。のちにヒールユニット「大江戸隊」て?お世話になる木村響子さんとも対戦した(2009年)

男性になった元女子プロレスラーが振り返る両親への“カミングアウト”の瞬間…「即決で賛成はしてくれたけれど…」 から続く

 幼い頃から自身の性自認に悩んでいた元女子プロレスラーの石野結氏(リングネーム花月)は競技を引退後、性別適合手術を受け、男性として新たな人生を歩みだした。周囲の反応や手術、性別変更にあたっての各種手続き……。さまざまな課題を彼はどのように乗り越えてきたのか。

 ここでは石野氏が自身の半生を綴った著書 『元悪役女子プロレスラー、男になる!』 (彩図社)の一部を抜粋。手術後に感じた苦痛・困惑について紹介する。(全2回の2回目/ 前編を読む )

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■手術は無事に大成功

 麻酔から覚めたときには、すべてが終わっていました。

 乳房と子宮を切除する、5時間に及ぶ手術でした。

 ついに身体が変わった! と感動するかと思っていましたが、術後はすぐに自分の身体は見られなかったし、全身麻酔のせいで頭がボ〜っとしていたので、あまり実感が湧いてこなかったですね。

 それからは、手術のことを話していた友だちや関係者にLINEを送ったりして過ごしていました。痛みもなかったし、「ぜんぜん余裕!」って感じでした。

 しかし! 麻酔の効き目が切れてくると、猛烈な痛みがやってきました。

 自分の場合は、一度に胸と子宮をとったので、面積的に大きい胸が痛むのかと思いきやそうではありませんでした。痛かったのは、むしろ子宮があった腹部でした。

■子宮の切除は「生理痛の痛みの百倍くらいの痛み」

 子宮の切除は内視鏡を使って行ったそうですが、一言で表現すれば“重すぎる生理痛”といえば伝わるでしょうか。女性の方なら理解していただけると思いますが、あの生理痛の痛みの百倍くらいの痛みが腹部を襲ってくるのです。しかもその痛みは、時間が経つごとに、それこそ秒単位で痛みが増していく感じで、あまりの痛みで脂汗が出てきました。これは耐えられない……、手術当日のみ入院していたので、ナースコールをして即効性のある痛み止めを打ってもらってなんとか落ち着きました。

 腹部の痛みは、点滴の効果もあって夜には治まってきましたが、今度は胸部の違和感に悩まされます。手術後、胸にはドレーンが挿さっていました。切除した箇所に溜まる体液を外に流すためのチューブで、胸の脇の方に挿していたのですが、これがなんとも気持ち悪く、体液が出なくなるまでの5日間、挿しっぱなしが続いたのには参りました。しかも、その間、外に出た体液の量を自分で量って、毎日クリニックに報告しなくてはならないんです。

 ちなみに、今回の手術で一番痛かったのは、このドレーンを抜いた後でした。

■胸のドレーンを抜いた後は「歯を食いしばっていてもうめき声が」

 プロレスラーだったので、普通の方よりも痛みには強いと思っていました。でも、チューブを抜いた後の痛みは、異次元でしたね。数日間はドレーンが入っていた部分にズキズキとした痛みが走って、歯を食いしばっていてもうめき声が漏れてしまうほどでした。この痛みは2日間も続きました。その間は激痛で何もする気になれなかったくらいです。

 ドレーンを挿している間は胸部を包帯で覆っていたので、その時点では自分の胸がどうなったのかはわかりません。自分の場合は胸部の削除を2回に分けて行ったため、完璧な(という言い方が当てはまるのかは疑問ですが……)男性としての胸を見るのは最初の手術から約4か月後のことでした。

 手術の翌日には退院し、クリニックの近所にあるビジネスホテルに2週間ほど宿泊しながら通院して、切除箇所の経過観察や消毒などを行いました。

■戸籍の変更、精神科医との面談

 1週間もすると痛みはほとんどなくなり、元気一杯だったのですが、術後ということもあって診察以外は基本は外出禁止。暇だったので、戸籍の変更についてインターネットで調べていました。

 戸籍の変更に必要な書類は、今はほとんどインターネットで手に入るんですよね。関係各所の公式サイトに行けば、必要書類の記入例とともに、PDF化された書類がアップされていました。この期間に書類を整理できたので、それからスムーズに進めることができました。書類関係は、療養機関にやっておくのがオススメですね。

 2週間の療養期間中、メンタルクリニックで精神科医による面談も受けます。

「手術を終えての感想はいかがですか?」

「新しい自分になってみて、どう思いますか?」

「これからの生活に対する不安はありませんか?」

 といったことを聞かれました。迷いに迷ったうえでの決断とはいえ、やはり性別適合手術を受けた方の中には、術後に後悔する人も少なからずいるということで、そういったケアが必要になってくるのです。

 その後、定期的にメンタルクリニックでの受診をして、心境の変化などを聞かれます。やはり、身体の一部を切除するということは、たとえ自分で決めたことでも精神的な影響が出ることが多いようです。だから、性別適合手術を受けるにあたって自分と相性の合う精神科医の先生との出会いも大切なポイントといえるでしょう。

■男性器はどうするのか問題

 さて、ここから読者のみなさんが性別適合手術について一番興味があって、だけど正面切ってなかなか質問できないだろうと思うことについて書きます。

 かなり生々しい表現もありますし、刺激的なことも書くと思いますのでご了承ください。だけど、ある意味で性別を変更するうえで一番の変化がある箇所の話です。

 自分は女性から男性への性別適合手術で子宮を切除しました。

 では、その切除した後の子宮の跡地(?)はどうなっているのか?

「もう使わないから、縫って閉じてしまうのではないか?」と思う方もいるようです。

 自分も最初はそう思っていました。

 でも、結論としては“そのまま”です。穴が開いたままの状態になっています。

 性別適合手術で避けて通れないのが、男性器、つまりペニスの問題です。

 FTM手術の中には、男性器を形成して新たに作るというものもあります。

 その点については、正直悩みましたね。

■パートナーの女性、男湯の男性はどう思うのだろうか

 自分は女性だったときでも心は男性でしたので、恋愛対象になるのは女性でした。まあ、お付き合いした女性は片手で数えられるくらいでしたが、やはり大切で好きな人ですから「抱きしめたい」と思うわけです。

 しかし、抱きしめることはできても、その先の行為には及べないんですね。キスやボディタッチなどのスキンシップが限界というか、それ以上のことはできないんです。

 自分自身は、ある程度諦めがあったし、たとえ最後までできなくても相手を思う気持ちがあればいいと思っていました。

 だけど、パートナーの女性はどう思っているのだろうか。

 そのことを考えると、不安も感じました。単刀直入に言えば、満足しているのだろうかということです。

 また、個人的な話になりますが、自分は温泉やサウナが大好きです。当然、手術後は男湯を利用するようになるわけですが、やはり、あるべき物があるべき場所に付いていないことで周囲に不快な思いをさせてしまうかもしれません。だからこそ、疑似でもペニスを作るべきなのか? 悩みに悩んでしまいました。

 結論としては作りませんでした。おそらくこれからも作ることはないと思います。

 担当の先生に相談をしたことはしました。でも、先生から「付いているだけで使えるわけではない」と言われたんですね。それだったら、あまり意味がないかなと感じたんです。

 あとは温泉やサウナに関してですが、先生から「毛を生やしておけば隠せるでしょ? それに……男同士であまりアソコは気にしないから、知らない人に股間を凝視されることもないと思うよ」と言われたことも大きかったです。これは必要がないなと判断しての結論です。

 ちなみに、男性から女性への性別適合手術の場合はペニスを切除することによって、尿道を本来の女性と同じ位置に移動させるために、手術に要する時間や工程、そして費用もかなり違ってきます。また、乳房を新たに作るための費用もかなりのものだと聞きます。その点に関しては担当医とご相談の上、ご確認いただけますと幸いです。

■男性になって戸惑ったこと

 身体に変化が起きたことで戸惑ったことも、もちろんあります。

 ドキュメント番組のオンエア前に性別変更を知らせていない方に会う機会があったんですが、そのとき、すでにホルモン投与で声が変わり始めていたんですね。

「あれ、声が変じゃない? 風邪でもひいたの?」

 その方に心配されてしまいました。

 ホルモンを投与すると、声は低く、太くなります。そのときはドキュメンタリー番組の兼ね合いで性別適合手術のことはお話できなかったので、「いや〜、最近、お酒を飲み過ぎちゃって。そのせいですかね〜」なんて笑ってごまかしていました。

 自分はホルモンがよく効いた方だったみたいで、1回目の投与からすぐにヒゲが生えてきました。

「男になったら絶対にヒゲを生やす!」って思っていたので、初めて鏡でヒゲを見たときは「おぉ〜、きたきた!」って嬉しかったですね。大事なヒゲなので、それから大切に大切に伸ばしてたわけですが、カミングアウトをしていない人に会うとなると、さすがに生やしっぱなしでいくわけにはいきません。

■プロレス観戦の会場で

 自分はプロレスを嫌いになったわけではないので、引退後も機会があるとプロレスの観戦によく出かけていました。自分でチケットを買って、お客さんとして観ると、現役時代にはわからなかった色々なことに気づけておもしろいんです。

 あくまでお客さんとしてきていますので、基本的にはひっそりと観るのですが、時々、関係者の方に見つかってしまうんですね。

 それで水分を補給しようと、マスクを外したときに顔を偶然見られたりして、「あれ?」という感じに。すぐに気づいて慌ててマスクを上げて事なきを得ましたが、明るい場所だったら、きっとヒゲがバレていたと思います。

 このときはマスクをしている状況だったからよかったですが、ときには会食など人前でマスクを外さなければならないときもあるわけで、そういうことが予想される場に出る際には泣く泣く髭を剃りました。「せっかく、ここまで伸びたのに……」と思いながら剃るのは切なかったですね。

 髪型についても、本当は昔からガッツリ短くしたかったんです。だけど女性だったときは世間体もあったので、あくまでショートの範囲でした。でも、男になったら誰にも遠慮はいりません。好みの髪型にできるので、いまは“男髪”をエンジョイしていますね。

■男になって困った“トイレ問題”

 男になって困ったこと、そして今も困っていることがトイレ問題です。

 いまはもちろん、男子トイレを使っています。

 女性時代は服装などがボーイッシュだったので、女子トイレに入ると他の利用者に「え?」という表情をされることが多々ありました。

 その点、堂々と男子トイレを使える今はありがたい! と、言いたいところですが、自分は前述したように尿道は女性時代のまま。用を足すには個室に入らないといけないわけですが、日本の公衆トイレは個室の数が絶対的に少ないんですよね。だから人が多いところにいくと、待たされることが頻繁にあるんです。もっと個室を増やしていただきたいと切に願います。

■石野結のこれから

 このように、男性になったからこそ感じたことや思ったことは多々あります。

 そして、これから先の人生で、まだまだ壁にブチ当たることもあるでしょう。

 だけど、何よりも今は男性になったというか、本来の自分になれたことが嬉しくて、それをエンジョイしていこう。

 そういう気持ちが大きいです。

 男性としてやりたいこともたくさんありますが、やはり、一番は家庭を持ちたいですね。尊敬している自分の両親が目標です。2人のような関係になりたいですし、その両親を喜ばせるためにも素敵な家庭を持ちたいです。

 そして、今回、この本を出版したことで、たとえば小学生や中学生で自分と同じ悩みを持っている子がいたら、寄り添って相談にも乗りたいし、もし需要があるならば学校などでの講演会も積極的にやってみたいと思っています。

 あとは、YouTubeでの情報発信もがんばりたいですね。

 自分には女性だったからできなかった、ということがたくさんあります。

 たとえば、中学生のときに着ることができなかった学生服を着てみるとか、学生服姿で卒業式をするとか、男になったからこそ、これまでできなかったことをやってみたいんです。

 そしてLGBTQに関することを、当事者として自分なりのやり方で世間に伝えていければと思っています。そのためには、もっと勉強が必要です。

 いろんな人に会ったり、いろんな場所に行ったり、いろんなものを読んだりして、知識をたくさん身に着けていきたいです。

 そして、一番は一般企業に勤めて、男性として働きたい!

 この本を書いている時点では、ある企業から内定をいただいている状態ですが、それから先はどうなるか……。一人の男性として、ただただ仕事をがんばりたい。楽しみたい。今はそれだけですね。

 女子プロレスラーを経て、今、こうして男として生きている自分だからこそできる何か……それを探すことも、これからの人生の楽しみです!

(石野 結)

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