「避妊や中絶について教えることができない…」教師も頭を抱える“日本の性教育”がひどすぎる理由

「避妊や中絶について教えることができない…」教師も頭を抱える“日本の性教育”がひどすぎる理由

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 30歳の私が義務教育で性教育を受けていたのは、かれこれ15年前になるのだけれど、現在の中学生が受けている性教育は当時よりもさらに「保守的」になっていると知って非常に驚いた。

■教育現場では性行為について教えることができない

「身を守る以外にも、生きていく上で絶対に必要な知識ですから避妊や中絶についても生徒にしっかりと教えたいんですが、それが許されないので、現場の教員は頭を悩ませていますよ……」

 そう語るのは、中学校で教鞭を取る20代の男性。特に保健体育で性教育の授業を行う際は、学校側や保護者から、厳しい監視の目が光るという。

「性教育の他にも、政治の話だったり、あとは家庭に問題がある生徒が助けを求められるような制度を授業で取り扱うと、すぐさま学校から厳重な注意が入るんです。保護者から『うちの子に変なことを教えるな』と苦情が入ることも……。教育委員会から指導が入ったこともあるようで、学校からは『とにかく今まで通り、無難な授業をやってくれ』と言われています」

 こうした事例は、決して限られたケースではない。2018年には「性交」「避妊」「中絶」という言葉を授業内で用いた東京の区立中学校に対し、都議会が「学習指導要領に記載された内容を超えて不適切な指導である」として批判、その後、都教委が区教委を指導するといったことが起きた。

 性教育において「性交」「避妊」「中絶」を教えることが一体どう「不適切」なのかまったく理解できないが、文部科学省による「中学校学習指導要領」を参照すると、以下のような記述があった。

〈妊娠や出産が可能となるような成熟が始まるという観点から、受精・妊娠を取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わないものとする。また、身体の機能の成熟とともに、性衝動が生じたり、異性への関心が高まったりすることなどから、異性の尊重、情報への適切な対処や行動の選択が必要となることについて取り扱うものとする〉(平成29年中学校学習指導要領より)

 1998年の改訂で追加された「妊娠の経過は取り扱わないものとする」という一文により、教育現場では性行為について教えることができなくなり、精子と卵子がどのように受精に至るのかすら取り扱えなくなったのだという。

■トンデモ知識を信じたまま大人になるケースも

 このような「はどめ教育」は果たして、本当に「子供のため」になっているだろうか?

 学校で性行為や正しい避妊の知識を教えない現状、思春期を迎えた子供たちがどこで性の知識を得ているかといえば、アダルトビデオや漫画、インターネット、SNS、友人や知人からだろう。

「膣内で射精してしまった場合、コーラで洗浄すれば大丈夫」「避妊具を付けなくても、膣外で射精すれば妊娠しないと思っていた」という風に、間違った認識のまま大人になり、望まない妊娠をしてしまう若者も少なくない(このようなトンデモ知識を信じるのも子供のうちだけだろう、と思っていたのだが、認識が正されないまま大人になるケースも多いようだ)。

 私が中学生、高校生の頃でも上記のような認識でセックスをしている友人はいたし、逆に恋人とのスキンシップについて「口淫だけでも妊娠する可能性はあるか?」と深刻な顔で相談をしてくれた女性もいた。そう考えると、学校で正しい知識を教わらないために情報を判別する能力が育たないまま、アダルトビデオや人から聞いた話、インターネットで得た知見で性行為が行われている現状こそ、子供たちを危険に晒しているように思えてならない。

■議論される人工妊娠中絶

 学校で「安全な性行為」について教えないにもかかわらず、国内では望まない妊娠をした女性への救済や支援が薄いこともまた、深刻な問題となっている。

 人工妊娠中絶については国内外でもその是非が議論されているが(私個人としては女性が子供を産むかどうか自由に選択できる制度は絶対に必要であると考える)、外科手術なしで人工妊娠中絶が可能な経口中絶薬の承認に関して、厚生労働省が5月に示した「(現行の外科手術と同様に)原則、配偶者の同意書が必要である」という見解は、日本の人権意識の遅れを露呈するものであったと思う。

 国内の経口中絶薬については以前も、海外での平均価格が740円であるのに対して、日本産婦人科医会の木下勝之会長が「薬の処方にかかる費用について、10万円程度かかる手術と同等の料金設定が望ましい」と発言したことで物議を醸した。

 このように経口中絶薬の承認にまつわる一連の流れを見ていると、強制性交の被害者や、男性側が避妊具を装着してくれないなどの事情で「望まない妊娠」をした女性がすみやかに処置を受けられるはずの「経口中絶薬」の必要性や緊急性を、国側がよく理解していないのだと思い知らされる。

 配偶者の同意書については、妊娠を知らされた後、父親となる男性が「同意書にサインをする」と言ったにもかかわらず連絡が取れなくなり、その間に中絶可能期間を過ぎてしまったために中絶ができなくなるケースなどで、その後、女性が誰にも相談できないまま一人で出産、新生児死体遺棄事件につながることもある。そして重要なのは、こうした事件で逮捕されるのはいつも母親である女性で、父親にあたる男性の罪が追及されることはない点だ。

 事件化までは至らずとも、特に強制性交の被害にあった女性や、男性側の協力を得られず、数十万円かかる出産費用や10万円ほどの人工中絶手術の費用を工面できない女性にとって、経口中絶薬の承認・安価での提供は必要不可欠であるし急務である。にもかかわらず、蓋を開けてみれば外科手術と変わらない金額を用意せねばならず、用意できなければ出産し、さらに経済的・身体的負担を強いられることになるなんて、女性の人権を軽視しすぎているにもほどがあると怒りを覚えてしまう。

■性教育は「はしたない」のか?

 人間が生きるうえで、子供をもうけるうえで必要不可欠な知識である「性交」「避妊」「中絶」などの言葉を授業で使っただけで批判が起きるというのは常軌を逸する性嫌悪とも言うべきで、日本の人権教育の遅れを痛感せざるを得ない。安倍元首相銃撃事件で明らかになった、旧統一教会と政治の密接な関係もまた、無関係とは言えないだろう。

 例えば女性が「経口避妊薬(ピル)を飲んでいる」と聞くと「コンドームを付けずに性行為をしても良い」と解釈する男性は少なくないが、実際は経口避妊薬は月経困難症やPMSの治療にも使用されることが多いものである。さらに経口避妊薬は避妊率が100%ではないうえ、特定のパートナー同士でない限り、性感染症の予防のためにもコンドームを使用すべきである。こうした認識を男性側が持っていない故に起きる望まない妊娠もあることを踏まえれば、学校教育では性行為や避妊、中絶についての指導は最低限、必ず行われるべきであると思う。

 さらに時代が進んで、今では月経困難症などの軽減や避妊効果が期待できる、女性の体内に挿入する「ミレーナ」などもある(出産を経験していないと痛む場合もあるので、主治医と相談して個別に最善の治療法を見つけるのが良い)。ミレーナは5年間効果が持続するとされ、半年に1回の検査は必要だが、経血量も大幅に減るためナプキン代も安くつく。月経困難症や経血過多の場合は健康保険適用のため、初診費用は3割負担の1万円ほど。

 このような女性にとって「必要な情報」も、おそらく教育現場では共有されることがないだろうと考えると、日本の性教育はもっと話題にされて、議論されるべきものではないかと感じる。

(吉川 ばんび)

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