「世界的に見て、東京都市圏は何番目に大きな街だと思いますか」地域エコノミスト・藻谷浩介が語る“一極集中の弊害”

「世界的に見て、東京都市圏は何番目に大きな街だと思いますか」地域エコノミスト・藻谷浩介が語る“一極集中の弊害”

ときがわ町の風景

 コロナの影響でリモートワークが当たり前になった現在、大都市東京から離れ2拠点生活や移住をする人が増えている。ノンフィクション作家の神山典士氏はこうした状況を「東京一極集中を解消する千載一遇のチャンス」と捉え、各地で新しい生き方を実践している人々と接してきた。自らも埼玉県ときがわ町に7LDKのシェアハウスを構え、2拠点生活を送っている。そうした取材や実体験をもとにまとめ上げたのが『 トカイナカに生きる 』(文春新書)である。

 一方、日本総合研究所主席研究員で、『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く』(角川新書)の著書がある地域エコノミストの藻谷浩介氏は、以前から「里山資本主義」を提唱してきた。

「大都市一極集中の弊害」や「分散型社会のあり方」について、神山氏が藻谷氏に話を聞いた。(全2回の1回目/ 後編 に続く)

◆◆◆

■都心から1.5時間の「トカイナカ」

『トカイナカに生きる』は、都心から1.5時間エリアを「トカイナカ」と呼び、そこで様々なスタイルで生活する人、働く人の姿を描いた作品だ。「トカイナカで生き方働き方を変える」「起業する」「古民家で暮らす」「ローカルプレイヤーになる」「パラレルワーク(複業)する」「地域を6次化する」「よそ者力を発揮する」といったテーマで取材してきた。訪ねた地域は長野県軽井沢町(追分)、神奈川県鎌倉市、千葉県いすみ市、富津市、匝瑳市、埼玉県小川町、ときがわ町等々。

 いうまでもなく、コロナを機に、それまで東京へ東京へと「一極集中」してきた日本人の流れが変わった。東京から地方へと流出する人口が増え、しかも「転職なき移住」が可能な首都圏近隣(トカイナカエリア)への移住・2拠点生活希望者が圧倒的に増えた。

■「下り列車に乗った幸せ探し」ができる国づくり

 このことは、一極集中解消のチャンスであり、この流れの先に「下り列車に乗った幸せ探し」ができる国づくりがある。そう考えて、私はこのテーマで取材を進めてきた。 すると上記のようなテーマですでに生き生きと生きている、働いている人たちとの出会いがあったのだ。藻谷は、その登場人物の中に既知の名前を幾つも見つけて、それを喜んでくれた。藻谷はこう語った。

「本書に書かれている中で、ぼくが前から特に尊敬している大先輩は小川町の有機農業の実践者金子夫妻です。その夫妻のことを、本書では70年代の有吉佐和子さんの『複合汚染』まで遡って書いている。同時に金子さんのことが、若者たちのネット社会の産物である『田舎でフリーランス講座』とか移住者である関根さんが始めた『起業塾』とかと違和感なく並べて書かれている。ぼくは『天の時、地の利、人の輪』の中では『地の利』を重視するんだけど、若者も関根さんも金子さんも、同じ『地』の上で一つの物語として繋がっている。トカイナカの大先輩が金子さんであると書かれているのは、『トカイナカ』の本質を突いた素晴らしい炯眼だと思いました。

 軽井沢の事例が出てきたときには、『あれっ』と思ったんです。軽井沢はトカイナカというよりは、東京の港区が直接引っ越してきたようなところです。都会の人が都会風なスタイルのまま勝手に降臨して、宇宙人の基地みたいに別荘をつくって群れているような面もある。最近は熱海にもそういう感じがありますね。

 けれど本書で『軽井沢』と紹介されているのは、実は西隣の『追分』が舞台の話なんですね。東京からアクセスする際の駅も『軽井沢』ではなくて『佐久平』(笑)。軽井沢は六本木だけど、追分はまさに埼玉県のような場所。軽井沢に仕事をもって通勤する地元民が、田舎の良さを求めた移住者と一緒に住んでいる。この場所の選択が絶妙にいいですね」

 このあたりの指摘が、地域の細かい事情にやたらに詳しい藻谷ならではだ。私にとっては藻谷浩介こそが、「地域創生」をテーマにするときのロールモデルだ。一般的には藻谷は、2010年に著した『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く』で経済変動を人口問題から喝破し、世間の認知を得た。

■?「雨」の違いを問われて…

 けれど遡ること約30年前、小学生のころから社会科の地図帳で全国の自治体を観察し、「人口は変わるんだ」と毎年変動する人口を暗記する早熟な少年だった。大学時代は自転車部に入り、全国約3000(当時)の自治体の半分近くを走破してもいる。いまから3、4年前、一緒に福島県の小村を取材した折り、藻谷は目の前の山脈を指さしながらこう言った。

「あの山の右側に降った雨と左側に降った雨の違いがわかりますか?」

 すぐに相手に質問調で尋ねるのが藻谷の癖だ。わからないからどきまぎしていると、こう解説してくれた。

「右側に降った雨は太平洋に、左側に降った雨は日本海に流れます。つまりここは日本列島の背骨なんです」

 人口問題も地域問題も、机上の知識として記憶するのではなく、現場の胎動と共に常に生きたデータとして扱う。藻谷はそういう姿勢を、すでに約半世紀も取り続けている。

 ところで、本書のテーマである、「コロナ禍を機に一極集中から分散社会へ」について、藻谷はどう考えているのだろう。あえてここで藻谷に「一極集中の弊害」を語ってもらうとすれば、どこに力点があるのだろうか?

 そのことを問うと、藻谷はどこか焦れったそうにこう口を切った。

■子どもが生まれない場所に若者を集め続ける日本

「一極集中の問題点なんて20や30すぐに挙げられるのですが、ニューヨークしかみたことなくてニューヨークが世界一だといっている人に、それは勘違いだと理解してもらうのが大変なのと同様、『東京教』に入信してしまっているような人に一極集中の問題を説明するのも面倒なことなんです。

 ですが、この話を逆方向からいうならば、東京一極集中にメリットなんて一つもない。例えば東京という町は婚姻率は日本一ですが、出生率は全国最低です。若者がたくさん集まる町なのに次世代がつながらない。人間も生き物でして、都市はその主要な生息地なのですが、東京という生息地では生態系が完全に崩壊してしまっている。子どもが生まれない場所に若者を集め続ける日本で、人口が減るのは当たり前です。

『そんなことを言っても、東京は若者を集めて栄えている』なんて、皆さん思ったりするわけです。少子化の恐ろしさがぜんぜんわかっていない。

 仮に『若者』を、『15歳から44歳』としましょう。まだコロナの始まる前の話ですが、2015年元日から2020年元日までの5年間に、東京には59万人の『若者』が転入超過しました。上京した『若者』の方が帰京した若者より59万人多かったのです。では同じ5年間に、都内に住む『若者』は何人増えたでしょう? 『えっ? 59万人増えたんじゃないんですか』、と思う人は、繰り返しますが少子化問題が理解できていないのです。

 答えは、8万人の減少なんです。これはまだコロナ前の、一極集中の極みのころの話ですよ。59万人流れ込んだはずが、トータルすると8万人減っている。同じ5年間に45歳を超えた東京在住者は118万人なのに対して、15歳を超えた在住者は51万人しかいなかった。都内で生まれた子どもが、30年間で、半分以下に減ってしまった結果です。これだけ少子化してしまうと、都内の『若者』は118-51で67万人減るところだったのですが、東京はパラダイスだと勘違いした田舎の若者59万人の上京のおかげで、67-59=8万人の減少で済んだのです。

 しかも東京に59万人流入しているということは、地方ではその分減っている。出生率の高い地方にいれば、もう少し子孫も増えたかもしれないのに。『一極集中が効率的だ』と言う人は、『東京は生産性が高い』とか言うんですが、それはお金の話。人の生産性は最低です。人間の本質は、金の計算にあるのではなくて、生き物であることなんですけれどね」

■「東京都市圏は、世界で何番目に大きな街でしょうか?」

 さらに藻谷はこうも言う。

「ちなみに都市圏としての『東京』という街は、世界で見て何番目に大きな街でしょうか?」

 これまた一筋縄では答えられない問題だ。「東京」をどこまで「東京」と呼ぶのか? 国が決めた自治体の境界線ではなく、「生活実感として所沢も東京の一部とします」と藻谷は言う。となると――。

「これもあまり正解する人はいないのですが、世界的に見て東京都市圏の規模は圧倒的に1位です。ニューヨークより重慶より上海よりソウルより遥かに大きい。そういうことを知らない人が、東京にもっと人を集積させろと言っていたりする。ティラノザウルスはもっと大きいほうが生き残れるんだと言っているようなものです。

 世界的に見ると東京だけが圧倒的に世界最大で、次のクラスがソウル、大阪、ニューヨーク、上海。ということは、世界最大の東京と二番手の大阪をもっている日本がこの30年間経済が全く成長していないんです。つまり大都市をつくることは、人を減らすどころか金も増やさないことの証明です」

 なるほど。そう言われればわかりやすい。藻谷がデータを出してくるたびに、私たちは現実の薄皮を剥がしリアルと対面させられることになる。

■世界標準の国づくりをするために

「例えばアジアで経済力が強いといえばシンガポールです。あそこは福岡程度。名古屋よりも小さい。ヨーロッパでうまくいっているのはスイス。スイスの最大都市はチューリッヒだけど、所沢程度の大きさです。ジュネーブは越谷程度。スイスは埼玉県より少々大きい程度です。

 でも一人あたりのGDPは日本の倍以上ある。ドイツの経済の中心はフランクフルト。あそこは福岡くらいです。スペインの中心バルセロナも福岡程度。つまり世界のいけてる町はみな福岡程度なのです。

 そう言う町が世界的に競っているときに、東京をもっと大きくすれば勝てるという人はどんな認識で言っているのか? 現場を見ていないし、数字も見ていない、世界的認識のアップデートができていない人が言っているだけです。これをガラパゴスといわずになんというのか。

 私は空気認識と呼んでいます。事実を全く認識せずに、空気だけ読んでいる人です。ですが空気は、昭和の成功体験の産物。これからは人を分散させて、トカイナカに人を送り込んで、世界標準の国づくりをしないといけないのです」

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「応仁の乱は、経済的な一極集中の崩壊」「私も東京を脱出します」地域エコノミスト・藻谷浩介が描く“日本の未来” へ続く

(神山 典士/文春新書)

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