「21世紀最大の発明は間違いなく株式会社」炎上→販売終了→回収…インプレス『Web3の教本』が「トンデモ本」扱いされた2つの理由

「21世紀最大の発明は間違いなく株式会社」炎上→販売終了→回収…インプレス『Web3の教本』が「トンデモ本」扱いされた2つの理由

炎上の末、回収となった問題本『いちばんやさしいWeb3の教本』(筆者撮影)

「情報商材レベルのデタラメしか書いてないですね……。本として世に出たことが驚きです」

 先日話題になった書籍を知人に教えたら、こんなコメントが返ってきた。一瞬だけとはいえ、界隈の注目を一気に集めた『いちばんやさしいWeb3の教本』のことだ。

 いや、知人は情報商材レベルと評していたが、むしろ情報商材を販売するほうが、まだちゃんとしているかもしれない。あれはあれで大変なのだ。盛りまくったキャリアをTwitterアカウントのプロフィールに書いて、知識も経験も少ない方々が脊髄反射的に反応するようなツイートを考えて、頑張ってフォロワー集めて、少しでも多くの客に、自分のnoteを買わせるのだ。並大抵の努力ではできない。

 もちろん、そうしたnoteに書かれているのは、往々にしてデタラメだ。特にマーケティングに関して書かれているものなんて、その最たる例だろう。もはやフィクションでありポエムだ。しかし、残念なことに、そういうnoteを買ってしまう読者が、一定層いるのだが。

■ここが変だよ『Web3の教本』

 話を戻そう。なぜ『いちばんやさしいWeb3の教本』が情報商材レベル、いや、それ以下なのか、理由は内容にある。

 新しい概念やモノを説明するにあたって、旧来のそれを否定的に論じるのはよくあることだが、本書に関しては、著者がまるでWeb2に、特にGAFAにいじめられでもしたのかというくらいにGAFAを叩きまくっている。

 それが、とことんズレまくっているというか、そもそも間違った知識を振りかざしながら叩いているので、始末に負えない。

 実際、Web3という概念を説明する際に、いわゆるGAFAが“悪者”として紹介されるケースは、少なからず見受けられるのだが、いくら何でもTCP/IPやSMTP、HTTPなどのプロトコル(コンピューターなどの機器同士で通信を行うための規格)を“Web2の時代にGAFAが独占している”と書くのはデタラメ以外の何物でもない。

 仮にGAFAが、これらのプロトコルを独占していたとすれば、この世のメール全てがGAFAの管理下のもと送受信されているということになる(SMTPはメールの送信にあたりコンピューター同士が通信を行うための規格)。

 当たり前だが、そんなことはない。インターネットの業界で仕事をしていれば、誰もが当たり前に知っているはずのことからしてデタラメに書かれているのだ。

 他にもWeb2ではGoogleのAndroidや、AppleのiOS、MicrosoftのWindowsがOS(オペレーションシステム)としてアプリケーション開発を行う根幹になっているのに対し、Web3ではビットコインやイーサリアムなどのブロックチェーンが使われる、という記述があったりもする。

 ちょっと待て。一体どうやったら仮想通貨でアプリケーションを開発することができるのだ? 仮想通貨はあくまでも仮想通貨に過ぎず、開発のためのツールではない。

■株式会社が「21世紀最大の発明」?

 これだけだったら「技術に弱い人が、適当な解釈で書いた」という話で終わってしまう(それはそれで大いに問題なのだが)のだが、ぶっ飛んでいるのは著者の技術的知識だけではない。著者は、義務教育レベルの知識が欠落しているのか「資本主義における21世紀最大の発明は間違いなく株式会社」だと述べている。1602年に、世界初の株式会社としてオランダ東インド会社が設立されたというのは中学生で習うはずだが。

 こういったデタラメが、単に個人のnoteとして売られているのであれば「また炎上系ビジネス芸人あらわる」という、よくある話で終わるのだが、衝撃的なのは、これが出版社から書籍として流通してしまったということだ。さすがに、あまりにもデタラメが過ぎる内容なせいか、本書を発行した出版社も、修正・反映した上での販売継続は難しいと判断し、販売を終了、そして回収を発表している。著者も「改めて一から勉強し直す」と謝罪し、この問題は、一応収束したかに見える。

 だが、この一件は、単に知識の浅い著者が、間違った知識、情報を書籍として書き連ねたというだけではなく、様々な問題をあらためて浮き彫りにしたともいえるだろう。

 そもそも、この著者は、経歴を見るとわかるように内閣官房の複数のブロックチェーンに関する会議に有識者として招かれている立場だ。有識者と見られていたからこそ、今回、この書籍を執筆したのだろうが、結局は有識者どころか、実は素人以下の知識しか持ち合わせていなかったことを披露している。内閣官房は、彼の何を見て「有識者である」と判断したのだろう。

■良書ばかり発行していた出版社がなぜ?

 また、本書を発行した出版社にも問題はある。ほかの出版社ならいざ知らず、本書を発行したのは、日本でインターネットの商用化が始まったばかりの頃からインターネットの普及を目的とした雑誌を発行していたインプレスだ。

 最近でこそ「いちばんやさしい」という言葉のもと、内容が軽めの技術書やマーケティング関連の書籍を多く出している印象だが、もともとはきちんとした技術書を多く発行していた出版社だと記憶している。

 本来であれば、ここまで程度の低い書籍を発行することなどあり得ないのだが「Web3」というバズワードに惑わされてしまったのだろうか。この一冊で、同社の他の書籍の評判まで落としてしまうことを考えると非常に残念である。

 バズワードに惑わされた書籍は、なにもWeb3に限った話ではない。考えてみれば、自分が関わっているデジタルマーケティングの世界は、出版されている書籍の大半がバズワードを煽るものでしかない。大抵が、そのバズワードで商売をしている似非マーケターが、中途半端な知識で読者を煽るものであり、自分自身を紹介する、ちょっとかさばる名刺のような存在でしかない。

 自分の意見を述べるのは大いに結構なのだが、少なくとも最低限の知識を持った上で、事実をねじ曲げることなく書いていただきたい。バズワードに乗って我欲を満たすために、間違った知識、情報を書籍としてまき散らすことはあってはならないのだ。

(リチャード・サトウ)

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