ガッとふすまが開いて、ボスグループのひとりが吐き捨てるように…中川翔子を苦しめた“理不尽すぎる”いじめ体験

ガッとふすまが開いて、ボスグループのひとりが吐き捨てるように…中川翔子を苦しめた“理不尽すぎる”いじめ体験

中川翔子さん ©文藝春秋

 歌手、タレント、俳優、声優など多彩な分野で活躍する中川翔子さんは、中学生の頃にいじめが原因で不登校になり、“死にたい夜”を過ごしたという。

 そんな中川さんが、今悩んでいる10代の若者に伝えたいことを文章と漫画で記した著作『 「死ぬんじゃねーぞ!!」 いじめられている君はゼッタイ悪くない 』より一部を抜粋。「誰にも迷惑かけてないのに…」理不尽に振りかかった、いじめ体験を紹介する。(全2回の1回目/ 2回目に続く )

◆◆◆

■スクールカーストの中で

 わたしが通っていた地元の公立小学校では、休み時間もみんなで仲よくわいわい過ごしていました。

 わたしが漫画やゲームが好きなことも、絵を描くことも「ナカショウの好きなこと」とみんな普通に受け止めてくれていました。

 成績や運動がいまいちでも、生徒が好きなことを個性として育ててくれた担任の先生のおかげで、クラスのひとりひとりがそれぞれの得意なことをお互いに個性として認め合い楽しむことができた素晴らしい時間でした。

 ところが、私立の女子中学校に進学すると、状況が一変したんです。

 入学してすぐに、クラスの中はいくつかのグループに分かれました。

 クラスの空気を支配したのは発言力の強い目立つ子たちのグループ。その他の子たちもそれぞれに小さなグループを作って過ごしている。

 小学校のときのように、誰とでも気軽に話したり、休み時間にみんなで自由に遊べるような雰囲気ではありませんでした。

 はっきりと、グループの階層ができていて、階層が違うと会話も交流もないのです。

 これが、いわゆる「スクールカースト」、クラス内での「ランク付け」です。

「カースト」とはインドで昔使われていた身分によって階層に分ける制度のことだそうです。身分で人間をランク分けするおそろしい仕組みです。

 そのカースト制度の仕組みを、学校の人間関係に当てはめたのが、「スクールカースト」。

 誰が最初に言い始めたのかわかりませんが、でも表現としてはまさにその通りなのです。クラスの中にはボスのグループを頂点にした序列がはっきりとできあがっていきました。

「高カースト」の1軍は、メジャー系・不良系・運動部の子たちや、にぎやかで自己主張が強く、おしゃれな雰囲気だったり、かわいい子たちが属します。スポーツが得意、親が影響力を持っている子なども1軍に入るといいます。

 2軍、いわゆる「中カースト」はおとなしい優等生タイプの子たちです。無難に立ち回れているからこその、安定できる一番羨ましい場所だったなぁと思っていました。

 下の3軍「低カースト」はオタク気質や、運動音痴、ぼっち、ちょっと変わった不思議ちゃんなどです。とはいえ、実際にはもっと複雑に入り組んでいます。1軍でも仲間割れが起こったり、いつハブにされたりするかわからないし、3軍の下にはさらにカースト外があったりするのです。わたしは3軍にまで落ちました。

 いじめのターゲットになるのは、3軍以下「低カースト」の子たちです。

 一度「身分」が決まってしまうと、もうそこから上がることは難しいです。

 おそろしい無言の圧力と目に見えない序列がクラスを支配してしまうのです。

 兄や姉がいて、入学してすぐの最初の時期が大事なんだという情報を得られていたら、うまく対処できたのかもしれません。でも、わたしは1人っ子だったので、その空気をすぐに読みとることができませんでした。

 中学になりガラリと空気感の変わったクラスでは、ちょっとしたことを理由にハブにされて、そしてそれが積み重なって、あっという間に低カーストへ転がり落ちていきました。

■「キモい子」というレッテル

 わたしが中学に入学したころはプリクラ全盛の時代。誰もが友だちとプリクラを撮っては、プリクラ帳にあふれんばかりに貼りつけて、お互いに見せ合っていました。

 けれど、わたしはプリクラ帳を持っていなかったのです。

 それは中学に入ってすぐの致命的なミスになってしまいました。

 入学して席が割り振られ、これからの中学生活にドキドキ期待に満ちた最初の時期。

 となりの席になった大人っぽい子から、「プリクラ帳見せて〜」と話しかけられます。わたしが、「持ってないの」と答えると、「えっ、じゃああした絶対持ってきてね!」と言われました。

 すでにみんながプリクラ帳を見せ合い、楽しそうな雰囲気になっているのを見て、「やばい!」と思いあわててプリクラを撮りに行きました。急だったし、小学校の時の仲よしの友人とは学校が離れてしまったので、ひとりで。

 そして、プリクラ帳を持ってないけど、なにか代わりになるものはないか? と、あわてて家中を探しました。おばあちゃんが和紙を貼って作ってくれた小さいノートを見つけ、急いで撮ったプリクラを貼り、翌日学校に持っていきました。

「プリクラ帳、持ってきたよ!」と、見せたときにまわりの空気が一変しました。わたしは凍りつきました。

「えっ、なに? ひとりプリクラだし変なノート。おばあちゃんの? なにそれおかしくない? キモい……」

 あっ、間違えてしまった、やらかしてしまった、と背筋が冷たくなった瞬間を覚えています。

 ちょっと空気が読めなかったり、ちょっと変わっていたり、ちょっと変だったり。

 それは、個性としてではなく、キモい、とカウントされてしまうのです。

 たとえば、自分があまり知らない話題で盛り上がっているとします。それでもうまく話に乗っかって立ち回れないと、たちまち輪からはずされてしまいます。

 わたしはそれが下手でした。恋愛の話やアイドルの話にうまくついていくことができませんでした。相手の好みに合わせてうまく振る舞うことができなかったのです。わからない話題を振られてアワアワとしてしまうことが何度もありました。

 気づけば、となりの席の目立つ子はたちまちクラスのボスグループに。

 そして、最初からしくじったわたしは挽回するチャンスも見つけられずに、あきらかに立ち位置が最下層になっていきました。

 わたしは幼い頃から、漫画やアニメ、ゲームが大好きでした。母が働いていたので、ひとりの時間をその好きなことに使っていました。夢中で絵を描く時間が好きでした。時間を忘れて明け方になってしまうこともたびたびありました。でもそれは自分にとっては普通のことで、それが変わったことだと思っていなかったのです。

 小学校の時はそんなわたしをみんなが受け入れてくれていたので、中学になるまでそれが変わったことだという認識はまったくありませんでした。

 でも、中学のそのクラスでは、自分の机でひとり絵を描いているわたしは、キモい存在として冷ややかな視線を浴びることになりました。

「あいつ絵ばっかり描いててオタクじゃね? キモいんだけど」とボスグループの子たちから陰口を言われるようになるのに、そう時間はかかりませんでした。

「オタク」。いまでこそ、この言葉は一般的になりましたが、当時、「オタク」であることはすなわち「キモい」ことだったのです。

 クラスではボスグループが「絶対」で、ボスが「キモい」と言ったことで、わたしは完全に「キモい子」というレッテルを貼られました。それまで普通に話していた子たちも、だんだんわたしから距離を置くようになっていきました。

 もしかして、わたし、いじめられてる……?

 いやいや、思い描いてた憧れの中学生活とはかけ離れてる、こんなの違う、わたしがこんなふうになるなんて嫌だ!

 わたしはまわりからどう見えてるんだろう?

 恥ずかしい!

 不安と恐怖がぐるぐる頭と心を支配するようになりだしたのです。

■自分の好きなことを否定された修学旅行

 中学2年の秋の修学旅行での出来事はいまでも鮮明に覚えています。

 宿泊先の部屋で、わたしは同じように絵を描くのが好きな子と、大好きな漫画の絵を描いていました。ルーズリーフに好きなキャラを描いた絵を交換するのがその頃のオタクグループのトレンドで、ワクワクする大事なことでした。

 すると突然、ガッとふすまが開いて、ボスグループのひとりがいきなり吐き捨てるようにこう言ったのです。

「絵なんて描いてんじゃねえよ! キモいんだよ!」

 彼女はそれだけ言うとピシャッと乱暴にふすまを閉めて出ていきました。

 世界が真っ暗になりました。

「なんで? ただ絵を描くのが好きで、静かに楽しんでいるだけなのに……」

 自分の好きなことをいきなり否定されて、わたしはわけもわからず混乱していました。

「誰にも迷惑かけてないのに。なんでそんなことを言われなきゃいけないの!?」

 でもその気持ちは誰にもぶつけることができませんでした。そしてだんだん悲しくなってきました。

 静まり返った部屋で、その子と静かに絵をカバンにしまい、黙って過ごす悲しい時間になりました。

 そんなふうに言われるくらいなら、いっそのこと絵を描くのをやめてしまおうかとも思いました。だけど、やっぱり納得がいかない。

 大好きなことをやめてしまったら、「わたし」は「わたし」でなくなってしまいます。

 わたしは、人に見られないように家でこっそり絵を描きました。

 学校ではわたしが好きなことをしているのを見られると、キモいと思われる。学校に行くのがとても苦痛になった時期でした。

「本当にあのときに死なないでよかった」母が見つけてあわてて駆け寄ってきて…中川翔子が語る“スイッチが入ってしまった日” へ続く

(中川 翔子/文春文庫)

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