《高校野球と体罰》「これは指導ですか? 体罰ですか?」 12年前の凄惨な“自殺”事件が変えた「指導者の“しごき”感覚」【いじめ、パワハラ…消えぬ“不祥事”】

《高校野球と体罰》「これは指導ですか? 体罰ですか?」 12年前の凄惨な“自殺”事件が変えた「指導者の“しごき”感覚」【いじめ、パワハラ…消えぬ“不祥事”】

滝川第二高野球部ホームページより

 昭和の時代からはびこる、高校野球のネガティブな問題は、令和になってもなくならないのか――。こんな感慨を抱かざるを得ない「事件」がまた起きてしまった。甲子園7回出場を誇る名門・滝川第二高校(神戸市西区)の西詰嘉明監督(52)が部員たちに暴言を吐いた問題である。

 同校は9月5日、西詰氏を一時的に交代させる方針を明らかにし、10日に開幕する秋季兵庫大会は、別の教諭が暫定的に監督を務めることに。9月9日には西詰監督を同日付で解任したと発表した。

■「教育的指導」という名の行き過ぎた指導

 滝川第二高の調査では、西詰氏は今年の4月から5月にかけて、新型コロナウイルスに感染した生徒を指して「〇〇菌」と呼んだり、2人の顧問教員に対して部員の前で「教師を辞めてしまえ」と叱責するなどのハラスメント行為があったという。

 西詰氏は一部を否定したが、部員や顧問に謝罪。問題が報道された後、本人から活動を自粛する申し出があった。暴言問題については、兵庫県高校野球連盟を通じて日本高野連に報告され、処分が検討されている。

 高校野球を巡る「不祥事」はこれだけで終わらない。日本学生野球協会は9月6日に都内で審査室会議を開いて、2018年、夏の甲子園で準優勝し、“金農旋風”を巻き起こした金足農業を含む9件の処分を決定。指導者による部員への「教育的指導」という名の行き過ぎた指導や、上級生から下級生に対する暴行行為、部員による喫煙や飲酒といった問題が、一部の高校でなお続いている現状が浮き彫りになった。

■「高校野球と体罰」の問題

 なぜ高校野球では、こうも同じような問題が頻発するのか。一方で、近年甲子園にたびたび出場し、好成績を収めている名門校ほど指導者が率先して、こうした問題が起きないよう徹底した「意識改革」を行っている事実もある。

 拙著 『コロナに翻弄された甲子園』 (双葉社)の取材で、私は日大三、龍谷大平安、中京大中京、花咲徳栄、熊本工業、明徳義塾、前橋育英、八戸学院光星の8校の監督に話をうかがったが、いずれの監督も「今の時代に合った指導法を意識的に行っている」と言い切った。

 つまり「体罰」や「パワハラ」といった指導者の“上からの押し付け”を徹底して排除することに加え、いかに生徒一人ひとりの個性とやる気を引き出し、チームとして機能させるかに全力を注いでいたのである。

 私の実感ベースではあるが、高校野球の世界で、滝川第二高の監督のような「パワハラ」は常態化しているわけではない。そういった「昭和の体育会系」の雰囲気を持った野球部はむしろ減少傾向にあると思う。その例として、今回は熊本工業と日大三という、ともに甲子園の常連校の取り組みを「高校野球と体罰」の問題を考えるうえでお伝えしたいと思う。

■まず「社会で受け入れられる指導を実践する」こと

 甲子園出場43回、夏の大会では準優勝3回を誇る熊本工業の田島圭介監督(41)が、2019年4月に監督に就任して真っ先に取り組んだことがある。それは「選手の意識改革」だった。

 田島監督の高校時代、熊本工業の先輩と後輩の関係は「かなり一線を引いたもの」だったが、監督自身はそれが当たり前だと思っていた。

 けれども、早稲田大学に進み、卒業後再び熊本に戻ってから他の高校で野球部の指導をしているうちに、自分が当たり前だと思っていたルールが、「何か違う」ことに気づき始めたという。

 そうして19年に母校の監督に就任した田島が思案し、まず決めたことは「社会で受け入れられる指導を実践する」ことだった。 

 例えば、熊本工業では学校生活のなかで1年生が先輩と顔を合わせたら「こんにちは! こんにちは! こんにちは!」と3回あいさつするのが当たり前とされていた。

 だが、こんなあいさつが通用するのは学校のなかだけで、社会に出たらまったく通用しない。田島はその点を上級生に指摘した。

「会社で上司に熊工流の挨拶をやってしまったら、『なんだあれは』と驚かれてしまうか、嫌がられてしまうかのどちらかだよね、と。『こんなルールは、社会では通用しないぞ』と改めさせるようにしました」

 一般常識と照らし合わせて、部活動での人間関係も作り上げていく。よくよく聞いてみれば至極当然のことだが、これが当時の熊本工業には難しかった。

■校内でしか通じない独自のルールに“がんじがらめ”だった子どもたち

「熊工の世界だけで生きていくなよ」

 田島は、選手たちに必ずこの言葉を伝えるようにした。

 当時の野球部は、あたかも「こうしなければいけない」「こうするのが当たり前」と、部全体が熊工でしか通じない独自のルールによって“がんじがらめ”になっているように見えた。しかし、それらに縛られてしまうと、選手個々人の臨機応変さがなくなってしまう。ひいてはそれが日常生活を飛び越えて、野球にも影響してしまう場合がある。

「今年(2022年)も新1年生を迎えるにあたって、3年生と2年生が『強い組織を作っていく方法』について話し合いました。『みんなが1年生のときはどうだったの?』と聞いたら、『実はこんなことが嫌でした、あんなことも嫌でした』といくつもの“改善点”が出てきたのです。

 そんな話をひとしきり聞いてから、『それなら自分たちが嫌だと思うことは止めよう。そうじゃないと野球に打ち込める環境にはならないぞ』と伝えて、彼らは改善点を自ら定め、実践してくれています」

 見た目はプロ顔負けの恵まれた体躯を持つ選手だったとしても、彼らはまだ15~18歳の子どもなのだ。彼らに寄り添い、導いてあげることも監督としての自分の役目だと田島は考えている。

■「しごきに耐える=プロに行って成功する」という間違った価値観

 甲子園で何度も優勝し、多数のプロ野球選手を輩出している、ある野球名門校で育ったOBたちが、異口同音に「あのしごきに耐えてレギュラーになれたからこそ今があるんだ」「厳しさを乗り越えたからこそ、プロ野球の世界で大成することができた」と誇らしげに答えている姿をテレビで見た日大三の小倉全由監督(65)は、違和感を覚えずにはいられなかった。

「『しごきに耐える=プロに行って成功する』という間違った価値観が、美談としてOBたちに脈々と受け継がれていく。これではいつまで経っても“しごき”はなくなりません。

 指導者の立場で言わせてもらえば、たった1年、早く生まれただけなのに、理不尽な序列を作ってしまうことが、どれだけの才能あふれる選手を潰してきたことか。しごきに耐えてプロの世界で成功した選手は、こうした考えに思いいたらない。残念でなりません」

■「ワンチーム」になれない上級生と下級生の「負の連鎖」

 今から15年以上前、日大三がある野球名門校と自校のグラウンドで練習試合を行ったときのこと。試合後に食堂に集合したその学校の上級生と下級生の姿を見て、小倉は「あれ?」と違和感を覚えた。

 上級生が下を向いて一生懸命、携帯電話をいじったり談笑しているのに対して、下級生である1年生は背筋をピンと伸ばし、目の前を直視したままでいる。1年生には現在もプロ野球で活躍している選手が含まれていた。

 1年後――。再びその学校と練習試合を行った後、同じように食堂に集合したのだが、1年前に見た上級生の振る舞いを、その選手が上級生になった途端にしていた。しかも下級生は1年前に見た下級生とまったく同じ振る舞いをしている。この光景を見た小倉は、自分のチームの選手たちにこう伝えた。

「上級生や下級生の振る舞う姿をよく見ておくんだ。あの学校の野球部には、まだいじめやしごきが残っているぞ」

 数年後、その学校では「上級生による暴力行為」が発覚。日本高野連から数ヵ月間の対外試合禁止処分を言い渡された。

「こういう学校は、夏の予選を勝ち上がることができないものです。上級生と下級生が一体となっていない、最近の言葉で言うと『ワンチーム』ではないからです。本来であれば、3年生最後の舞台を、1年生、2年生が盛り上げていかなければならないはずですが、2年生の心の内は、『この大会が終われば、やっとオレたちの天下になる。そうしたら下級生をとことんしごこうぜ』とよからぬことを考えがちになります。こうした負の連鎖は、現場の指導者が止めていくしか解決する方法はない」

■「下級生に洗濯を押しつけるのなら、オレが全部洗ってやる」

 小倉と同様の考えを持っていたのが、今や高校野球界の「常勝」集団とも言えるほどの成績を収めている大阪桐蔭の、西谷浩一監督である。西谷が大阪桐蔭にコーチとして赴任した93年、下級生が上級生の洗濯をするということが当たり前に行われていた。

 当時の大阪は中村順司率いるPL学園が絶大な力があった。そのPL学園でも寮生活で下級生が上級生の洗濯を含めた雑用をこなすのが当たり前とされていた。

 だが、下級生が上級生の洗濯をしている姿を見た当時の西谷は、そのことが野球部の成長に大きな弊害となっていると感じた。「下級生が洗濯に充てる時間を練習する時間に変えてしまえば、下級生のレベルが格段に上がる」と考え、上級生たちにこう言った。

「上級生は下級生に洗濯を押しつけるのなら、オレのところに持ってこい。オレが全部洗ってやるからな」

 その後、上級生は誰も西谷のところには洗濯物を持ってこず、下級生たちに押しつけることなく、自分たちで洗うようになった。

 西谷は高校時代、野球部内で起きた暴力事件がきっかけで甲子園の出場を諦めたという辛い経験をしている。自分と同じ苦労は後輩たちにさせたくないと思ったのと同時に、「上級生と下級生を同じ条件下で鍛えることができれば、間違いなく強くなる」という確信があったのだ。

 事実、大阪桐蔭は2002年秋に西谷が監督になってからは春4回、夏4回甲子園で優勝し、12年、18年と2度の春夏連覇を達成するという偉業も成し遂げた。悪しき伝統を排除し、上級生と下級生が対等の条件下で実力を競い合うことで、チーム力を高めることができたのである。

■男子生徒の遺体に残された殴打の傷跡

 話を日大三の小倉に戻す。小倉には忘れられない「事件」があるという。それは、今から10年前の2012年に起きた、大阪市立桜宮高校(現・大阪府立桜宮高校)のバスケットボール部で起きた体罰事件であった。

 当時の顧問から受けた体罰にキャプテンだった高校2年生の男子生徒が耐えられなくなり、12月下旬の朝、自宅でネクタイを首にかけて自殺したのである。

 この顧問は同校のバスケ部を2度のウインターカップに導いた他、同年8月に開催された「第20回日韓中ジュニア交流競技会」で、U-18日本代表のアシスタントコーチに就任するなど、指導力に定評があるとされていた人物だった。

 男子生徒が自殺した後、両親は通夜に出席した顧問に対して、殴打された傷跡が残る息子の遺体を見せ、「これは指導ですか? 体罰ですか?」と詰め寄る一幕があったという。

■裁判で顧問が体罰をしていたシーンの映像が公開され…

 当時の桜宮は大阪を代表するスポーツ強豪校の1つで、バスケ部以外でも体罰が常態化していて、被害者や第三者が、学校に通報しても黙殺されていた。

「臭いものには蓋をする」という学校側の隠蔽体質が明らかになったのち、当時、大阪市長だった橋下徹氏が、12年度の桜宮の入試で体育科とスポーツ健康科学科の2科の募集を中止させるという強硬手段に出て、賛否両論の意見が噴出するも、13年にこの顧問の懲戒免職処分が決定。

 その後、裁判でこの顧問が体罰をしていたシーンの映像が公開されたのだが、顧問が自殺したキャプテンを平手で殴り、さらに体育館の壁に追い詰め、逃げられないようにして20発ほど殴り続けている場面もあった。その間、およそ30秒ほど。もはや指導と呼べるものではなく、傷害や暴行の罪に問われるに十分すぎるほどの内容だった。

 裁判が進むとこの顧問は教師になってから24年間、ずっと体罰指導を続けていたことが明らかになった。バスケ部員以外にも体罰を行い、学校から指導されると、今度はバスケ部員に限定して体罰を続けるなど、とんでもない事実も明るみに出た。

 結果、この顧問は傷害と暴行の罪で懲役1年、執行猶予3年の有罪判決に加え、大阪地裁より4361万円の支払いを命じる判決が下った。この事件は当時、ワイドショーで社会問題として連日のように取り上げられた。

■求められる指導者たちの「意識改革」

 小倉は当時この事件の報道をつぶさに追い、「他人事ではない」との思いを強くしたのだという。

「今は『昔はこうだった。だから君たちも同じように指導するからな』ということが許される時代ではないんですね。一口に『厳しく指導する』と言っても体罰は絶対ダメですし、あからさまな暴言を吐くなんてもっての外です。今の時代の指導者は、悪しき前例となる指導方針を捨てて、子どもたちに理解してもらえる指導方法にシフトチェンジしていかなければ、部活動そのものの存続だって危ぶまれる」

 競技こそ違えど、桜宮高バスケットボール部で起きた事件は小倉にそのことを改めて強く認識させた。

 高校野球界に限らず、学生スポーツの現場における長年にわたってはびこる暴力や暴言などの問題を今の指導者たちは断ち切ることはできるだろうか。それには何より指導者たちの「意識改革」が必要なのだと、小倉たちの話を聞いて、私は強く思う。

(小山 宣宏/Webオリジナル(特集班))

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