「入閣は次でいい」森喜朗、青木幹雄らとの会食で岸田首相が頭を下げたドンの言葉《茂木交代も主張》

「入閣は次でいい」森喜朗、青木幹雄らとの会食で岸田首相が頭を下げたドンの言葉《茂木交代も主張》

岸田首相 ©共同通信社

 月刊「文藝春秋」の名物政治コラム「赤坂太郎」。2022年10月号「死せる晋三、生ける岸田を惑わす」より一部を転載します。

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■麻生が口にした「何かと色々あるでしょうから」

 元首相の安倍晋三が暗殺されてから2カ月。目の上のたんこぶが消えたことで、首相の岸田文雄のことを誰もが「強運の男」と考えた。だが、禍福はあざなえる縄の如し。安倍急逝にともなう統一教会スキャンダルの噴出や国葬問題により、内閣支持率の低下に歯止めがかからない。

 岸田の誤算は、内閣改造人事から始まった。

「私が伺うべきところ、ご足労をおかけします」。内閣改造の前倒しを表明した直後、岸田が真っ先に公邸に招いたのは自民党副総裁の麻生太郎だった。改造4日前の8月6日、岸田は麻生と約1時間会談した。周辺によると、麻生は自派に所属する財務相の鈴木俊一と経済再生担当相の山際大志郎の続投を進言。それを受けた岸田は、河野太郎の再入閣を提案した。麻生はこれを受け入れたうえで「もう一つ。うちの永岡桂子もお願いしたい。何かと色々あるでしょうから」と付け加えた。

 麻生が言及した「色々ある」事情の一つが前地方創生担当相の野田聖子の問題だった。最高裁は8月8日、野田の夫が過去に暴力団員だったと報じた週刊誌に損害賠償請求を求めた野田側の上告を棄却。記事の真実相当性を認めた東京高裁の判決が確定した。野田は最後まで岸田に「週刊誌報道は間違い」と直談判した。だが岸田は事前に最高裁で上告棄却されると報告を受けており、この火種はうまく消せた。

 もうひとつの火種は統一教会問題である。宗教法人を預かる文部科学相は自民党が政権奪還した2012年以降、下村博文、馳浩、松野博一、柴山昌彦、萩生田光一、末松信介と、歴代のほぼ全員が清和会(安倍派)出身者で占められている。とりわけ下村には教団の名称変更を容認した疑惑がある。清和会と統一教会の黒い線をいかに消すか。岸田は永岡を起用するという麻生の提案を受け入れた。結果的に麻生派の閣僚は改造前の3人から4人に増えた。

■「萩生田を頼って欲しい」と語っていた安倍

 岸田は麻生への気配りを欠かさない。その約1か月前の7月6日。日本青年会議所(JC)は麻生太郎の長男、将豊を来年1月から次期会頭にすると内定した。親子2代でJC会頭に就く稀有な人事。今期限りでの太郎の引退も囁かれる中、将豊は父の地盤を継ぎ、その血筋から小泉進次郎、福田達夫のライバルになるとも目される。7月16日には岸田は横浜市内で開かれたJCのセミナー会合に出席し、JC会頭の中島土と「新しい資本主義実現に向かってJCが果たすべき役割」について対談。岸田は将豊の顔を立てた。

 岸田は統一教会の火消しはうまく行ったと踏んだが、そうは問屋が卸さなかった。新閣僚のうち、厚労相の加藤勝信、総務相の寺田稔、そして留任した山際などに統一教会との関係が発覚。統一教会問題よりも、「大宏池会」を睨んで麻生への配慮にばかり目が行っていた岸田の甘さが出た格好だ。

 岸田には、安倍亡き後の清和会という懸念材料もある。最大派閥ながらこれといった人材なき烏合の衆――そこで内紛が始まったら、政権を揺るがしかねない。まず岸田が接触したのは前経済産業相の萩生田光一だった。

「留任か党役員か。どちらにしても受けてほしい」。内閣改造3日前の8月7日、公邸に裏側から入った萩生田に、岸田はこう告げた。萩生田を党に、西村康稔を閣内に置き、官房長官の松野博一、国会対策委員長の高木毅、参院幹事長の世耕弘成は続投させるというのが岸田の戦略だった。安倍は生前「萩生田を頼って欲しい」との言葉を岸田に残していた。対外的には派内で期待するリーダーとしてこの「五人衆」を挙げた安倍だが、意中の後継者は萩生田だった。

 だが、萩生田を頼ろうとした岸田の戦略は裏目に出る。参院選期間中、新人候補の生稲晃子を伴い統一教会の関連施設を訪れ応援を依頼していたことが判明。萩生田は猛批判に晒され、逆に政権の足を引っ張る存在となった。岸田は清和会のドンにも手をのばす。

■岸田が森に「誰を考慮すべきでしょうか」

 8月3日。岸田はオークラ東京の日本料理屋「山里」で森、青木幹雄と会食。前選対委員長の遠藤利明と組織運動本部長の小渕優子も同席した。この会食は森の誘いによるものだった。昨年、幹事長に茂木敏充を起用したことで悪化した岸田と青木との関係修復が狙いだった。改造を控え、岸田が森に「誰を考慮すべきでしょうか」と問うたところ、森もまた萩生田、西村、松野、世耕、高木の五人衆の名前を挙げた。森はその席で茂木の交代も主張した。だが、岸田は青木の手前、茂木の話題は避けた。

 一方、青木も岸田には礼を言わねばならない事情があった。この日召集された臨時国会で、新しい参院議長に元厚労相の尾辻秀久が選出された。青木の薫陶を受けた尾辻は議長候補に何度も挙がったが、安倍との不仲から見送られてきた。安倍と石破茂が立候補した2018年の自民党総裁選で石破の選対本部長を務めたのが尾辻だ。だが石破支持の青木に対し、茂木は派内の衆院議員を安倍支持でまとめ、茂木と青木は決定的に対立した。その尾辻が三権の長となったことで、青木は岸田に感謝をしていた。

 青木は「一番の民主主義は選挙ではなく、話し合いだ」と、盟友の竹下登の口癖だった「和」の必要性を岸田に説いた。「焦らずじっくりでいいからしっかりやりなさい」と政権運営について助言すると、岸田も黙って頭を下げた。小渕の後見役である青木は「(小渕の)入閣は次でいい」とも伝えた。傍らの森も頷いた。だがこの後、森をめぐるきな臭い動きが顕在化する。(文中敬称略)

 赤坂太郎 「死せる晋三、生ける岸田を惑わす」 全文は、「文藝春秋」2022年10月号と「文藝春秋digital」に掲載しています。

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2022年10月号)

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