統一教会が北朝鮮に献上した5000億円 文鮮明が金日成に「お兄さんになって」

統一教会が北朝鮮に献上した5000億円 文鮮明が金日成に「お兄さんになって」

「清心平和ワールドセンター」の垂れ幕

「反共」「勝共」を掲げ、日本の保守勢力と結びついた統一教会。しかし日本が北朝鮮による拉致被害などで制裁へと突き進む1990年代に同国への莫大な資金提供を繰り返す。取材から浮び上がる「偽りの保守」の姿とは。

◆ ◆ ◆

■北朝鮮と統一教会の関係

 韓国・ソウルから車で約2時間。京畿道加平郡の山間部に聳える「清心平和ワールドセンター」は、合同結婚式の会場にも使用される統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の大型イベント施設だ。後に山上徹也容疑者の暴発を招いたとされる、安倍晋三元首相がビデオメッセージを送った教団関連団体の行事が開催された場所でもある。

 今年の夏、同施設正面の外壁に、巨大な3枚の垂れ幕が掲げられた。ハングルで〈平和と統一の先駆者〉と綴られた中央の垂れ幕。その写真の中で、教団創始者の文鮮明氏と満面の笑みで抱擁を交わしているのが、北朝鮮の初代最高指導者・金日成氏である。

「2012年の文氏の死去から9月で10年。それに合わせて北朝鮮は、8月13日、国の対外関係窓口である朝鮮アジア太平洋平和委員会を通じ、文氏の妻で総裁の韓鶴子氏(79)ら遺族宛てに弔電を送っている。文氏の功績を称える内容で、今も北朝鮮と統一教会が良好な関係にあることを示唆しています」(外信部記者)

 反共産主義を掲げてきた文氏の統一教会は、ある時を境に北朝鮮と手を結んだ。そこには、どんな思惑があったのか。

■政治団体「国際勝共連合」を結成

 文氏は1920年、現・北朝鮮領定州の農村で生を享けた。キリスト教長老派の信者だった文氏が北朝鮮で宣教を始めたのは、日本による朝鮮統治が終わった翌年46年5月。だが、その2カ月後、朝鮮共産党に南側(韓国)のスパイ容疑をかけられ、逮捕される。

 文氏の生涯に触れた教団の動画では、当時の状況がこう紹介されている。

〈監獄では自白を強要され数限りなく殴りつけられました〉

 興南監獄に収監され、重労働に服していた文氏は、50年の朝鮮戦争に乗じて出獄。54年、ソウルで統一教会を創始すると、5年後には日本でも同教団を設立する(宗教法人の認可は64年)。そして68年、韓国と日本で反共産主義を掲げた政治団体「国際勝共連合」を結成するのである。

 迫害された恨みを根に反共を掲げてきた文氏にとって、同じ民族の北朝鮮、国を率いる金日成主席は、長らく打倒の対象だった。

「自由世界と韓国の名をもって、金日成と共産主義国家らを打ち倒すために命懸けで闘いましょう」(75年6月・ソウルでの演説)

 勝共連合は、同じく「反共」の岸信介元首相ら日本の保守政治家と共鳴し、彼らとの関係を濃密なものにしていく。

■北朝鮮の狙いとは

 そこから劇的な転換を迎えたのは、91年のことだった。文氏が北朝鮮を電撃訪問したのだ。

 朝鮮半島事情に詳しい研究者が解説する。

「91年は、ソ連と東欧社会主義体制が崩壊し、北朝鮮が国際的な孤立を深めていた時期です。北朝鮮出身の文氏としては、故郷に錦を飾りたい思いもあったでしょう」

 文夫妻ら統一教会一行の訪朝は、同年11月30日から12月7日の8日間。約40年ぶりに故郷の地を踏んだ文氏は、生き別れていた姉妹ら親族と再会し、定州に残る生家も訪ねた。

 だが、北朝鮮の狙いは統一教会の潤沢な資金にあった。一方の文氏も、冷戦終結を機に、打倒ではなく経済援助によって北朝鮮に食い込もうと目論んだ。

■金正日の教育係になった文氏

 当時を知る教団関係者が打ち明ける。

「極秘の予備交渉で、北朝鮮側は、文氏を受け入れる条件として1億5000万ドルの献金を求めました。統一教会側はその23倍にあたる総額35億ドルの資金援助を提示。当時の韓国政府も知らなかった文氏の平壌入りが実現したのです」

 日本円にして、約5000億円。その原資が日本を中心とした信者の献金や霊感商法による利益であるのは言うまでもない。

 そして12月6日に行われた金氏との会談で、文氏は北朝鮮の観光開発や経済協力等を約束。冒頭で紹介した垂れ幕の写真は、この時に撮影されたものだ。

 歴史的な対面を果たした2人は、その場で義兄弟の契りを交わした。年齢は金氏が8つ年上。会談で交わされたやりとりを、統一教会の大江益夫広報部長(当時)は後々、小誌にこう明かしている。

「文先生は『私のお兄さんになってください』と言い、金主席が『いいでしょう』と答えたそうです。そこで文先生が『私たちは義兄弟です。お兄さんに頼みがある。これからはあなたの息子(金正日氏のこと)の教育を私たちに任せてください』と言いました。金主席は『分かりました』と答えたんです」(94年7月28日号)

 当時、統一教会の信者だったジャーナリストの多田文明氏は、文氏の方針転換をこう受け止めたという。

「それまで北朝鮮は『サタンの国』という位置付けでした。統一教会には『恩讐を愛する』という教えがあり、金氏との会談は『そのサタンがメシアの愛によって屈服した。さすがメシアだ』というのが、当時の信者たちの感覚です。これを機に文氏が南北統一を果たすのではないかとすら思いました。実際はお金の力だったわけですが……」

■文氏の故郷を訪ねる信者向けの“聖地巡礼ツアー”が盛んに

 トップ会談を経て統一教会は、北朝鮮経済に深く浸透していく。平壌市にある国営の普通江ホテルや大型レストラン安山館の経営権を手中に収め、後に礼拝堂を完備した世界平和センターも市内に建設する。

「普通江ホテルは、韓国出身の女性実業家の『マダムパク』こと朴敬允氏が会長を務める『金剛山国際グループ』が経営していましたが、総支配人や従業員は統一教会の信者でした。91年に名古屋と平壌を結ぶ空路直行便を開拓し、北朝鮮政府に代わってビザを発給していたのも同グループです」(前出・教団関係者)

 こうして90年代以降、文氏の故郷を訪ねる信者向けの“聖地巡礼ツアー”も盛んに行われるようになった。北朝鮮は新たな集金手段となったのだ。

「ツアーを担当するのは統一教会系の旅行会社で、旅費は当時30万円弱。“聖地”の近くに世界平和公園が造成され、文氏の生家には『聖金函』と書かれた献金用の壺が用意されていました。多い人だと、献金額は100万円程度。“聖地”が誕生した直後の90年代前半頃は、日本から年間約1000人の信者が訪れたとされています」(同前)

 統一教会は「現在、平安北道定州巡礼ツアーは開催されておりません。世界的にコロナ感染症が蔓延する中、再開の目途も立っておりません。参加規模はその時々で異なり、開催自体不定期でしたので、頻度というかたちでお答えすることはできません」と回答した。

■統一教会は宗教と産業の宗産複合体

 一方、北朝鮮の軍事方面に統一教会の影がチラついたことも。米紙「ニューヨーク・タイムズ」が「ロシアから北朝鮮に老朽化した潜水艦が売却される」と報じたのは、94年1月のことだ。この取引を仲介したのは、91年に設立された日本の小さな商社T。日本に帰化した韓国出身の社長以下、4人の役員全員が合同結婚式に参加している統一教会の信者だったのだ。

 在日韓国人3世で、ジャーナリストの李策氏は話す。

「T社は仲介の目的を『スクラップにして、鉄くずを中国に転売する』と主張しましたが、この時、国内に持ち込まれたロシア製潜水艦の技術が、後の北朝鮮によるSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の開発に繋がったのではないかとも言われています」

 その年7月8日、金氏が82歳で死去すると、北朝鮮政府は文氏に葬儀出席の招待状を送る。文氏は北京の北朝鮮大使館に弔花を届け、13日には側近で韓国『世界日報』社長の朴普煕氏が訪朝し、告別式と追悼式に参列。朴氏は、金主席の死去後に初めて訪朝した韓国人だった。

 金正日体制に移行後も、統一教会との蜜月関係は続いた。ジャーナリストの有田芳生氏が指摘する。

「統一教会は、韓国では経済団体の側面が強い。宗教と産業の宗産複合体です。文氏は経済協力を約束して訪朝を果たしましたが、統一教会が出資して、北朝鮮との合弁企業『平和自動車』を設立したのは98年。社長に就任したのが統一教会幹部の朴相権氏でした」

■北朝鮮で自動車を製造する

 ベースは、イタリアのフィアット社製の小型セダン車。2002年4月、北朝鮮南浦市の工業団地に組み立て工場が完成し、操業が始まった。北朝鮮国産自動車第1号に命名されたのは「口笛(フィパラム)」。平壌市内に初の商業看板が設置され、話題を呼んだ。

 他方、日本では1970年代から80年代にかけて、北朝鮮による拉致が繰り返され、「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」が結成されたのは97年のこと。保守政治家はこぞって拉致問題を政治課題として取り上げるようになった。

「98年にテポドン1号が日本海に向けて発射されると世論は反北朝鮮で沸騰。食糧援助の凍結や経済交流の停止など、北朝鮮への独自の制裁に舵を切りました」(政治部記者)

 その裏で、統一教会は日本人を中心に吸い上げた金を、北朝鮮に援助し続けていたのである。

 だが、やがてダイナミックな連携もなくなり、2011年12月には、金正日氏が他界。翌12年9月3日、朝鮮半島統一を夢見た文氏も、92歳で生涯を終えた。

■長らく掲げてきた「反共」は看板だけだったのか

 金正恩氏が後を継いだ北朝鮮側は同7日、平壌の万寿台議事堂で文氏に「祖国統一賞」を授与する行事を開催。統一教会側からは文氏の7男・亨進世界会長が出席した。

「その2カ月後、平和自動車社長の朴相権氏は、会社の経営権を北朝鮮に無償譲渡し、自動車事業から撤退しました。統一教会が関わってきた普通江ホテルや安山館の経営権も、北朝鮮に戻しています」(前出・教団関係者)

 以降は、文氏の死去から1年の13年、3年の15年、そして今年と、北朝鮮から統一教会側へ弔電を送る、形式的なやりとりが続いている。

「総裁の韓鶴子氏は、文氏ほど北朝鮮に関心がないようです」(前出・李策氏)

 ただ、北朝鮮のロイヤルファミリーが3代にわたって、統一教会との関係を維持しているのは事実だ。13年には、金正恩氏から統一教会側に北朝鮮産の豊山犬2匹が贈られたことも分かっている。雌雄の犬は共に北朝鮮で生まれた文夫妻の故郷に因んで「定州」「安州」と名づけられた。

 これまで対北事業に莫大な投資をしてきた統一教会。前出の多田氏が指摘する。

「統一教会は長らく反共を掲げてきながら、『愛』という理屈で北朝鮮と手を結んだ。そして、反日の立場でありながら、日本の保守政治家を支援し、味方につける。機を見るに敏ともいえますが、要はご都合主義なんです」

 日本の保守が群がった文氏の「反共」は看板だけのものだったのである。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2022年9月8日号)

関連記事(外部サイト)

  • 1

    ダラダラと的外れな記事多すぎ。自省なし図々しい文春

すべてのコメントを読む