《独裁体制に反旗》「頑張った分だけ、怒られる」「優秀な人は絶対に来ない」無理難題を押し付ける“女帝”に抗議した女子医大・外科医の“矜持”

《独裁体制に反旗》「頑張った分だけ、怒られる」「優秀な人は絶対に来ない」無理難題を押し付ける“女帝”に抗議した女子医大・外科医の“矜持”

東京女子医大病院のICU(HPより)

東京女子医科大学病院の「ICU崩壊状態」を招いた、患者の命を軽視した経営方針と恐怖政治 から続く

「頑張った分だけ、怒られる現象が起きている。こんなところに人(医師)、来ませんよ! 優秀な人は絶対に来ない。こんな事を誰も分からないのは、おかしいんじゃないですか」

 一人の外科医が厳しく批判した相手は、東京女子医科大学の岩本絹子理事長。意見すら言わせない強権的な“女帝”に、初めて公然と反論した瞬間だった。

 不可解な経営方針によって医療崩壊が始まっている女子医大で、現場の医師たちから新たな動きが起きていた。これは岩本理事長による独裁体制の“終わりの始まり”なのか? 遂に声を上げた医師たちの動きを、前後編で緊急レポートする。(後編 #8 を読む)

◆◆◆

■重要な人材が流出しても、岩本理事長の経営方針は人件費の徹底的な削減

 3億9600万円の赤字──。

 これは“本院”と呼ばれる、東京女子医科大学病院(新宿区)の今年7月単独の収支だ。4月から6月まで、毎月2億円余の赤字で推移していたが、ここにきて2倍近くも悪化していたのである。

 さらに、集中治療科に所属する専門医10人中9人が一斉辞職に追い込まれ、9月から女子医大にICU(集中治療室)の専属チームはなくなった( #5 、 #6 を読む)。

 臓器移植などの高度な外科手術は、術後にICUで患者の全身管理が必要となる。大学病院にとってICUは“命の砦”。今の状況を本院に勤務するベテラン外科医が証言する。

「報道で心配になった患者さんから『ICUの先生がいなくて、手術を受けても大丈夫ですか?』と、何度も聞かれました。私の診療科は自分達で術後の管理はできますが、対応できない診療科もある。女子医大には、他で断られるような難しい症例を治せる優秀な外科医がいますが、ICUの崩壊でそれができなくなると、最大の不利益を被るのは患者さんです」

 集中治療科の医師が一斉退職した際に、経営側は強く慰留しなかったという情報もある。

 重要な人材が流出しても、歯止めをかけないのには理由があった。そもそも岩本理事長の経営方針が、人件費の徹底的な削減に重点を置いているからだ。

 岩本氏が理事長に就任する前年(2018年)と今年を比較すると、本院だけで412人の教職員が減少していた(HP公表値。内訳は医師=131人減、看護師134人減、その他事務職など=147人減)。

 この結果、入院病棟を次々と閉鎖せざるを得なくなり、手術件数も減少して、収益が悪化するという“負のスパイラル”に落ち込んでいる。

■「大学の経営に世襲制度があること自体が間違っている」

 行き過ぎた人件費カットで収益悪化したのは、本末転倒であり、明らかな経営判断のミスだ。しかし、岩本理事長に指摘する人は誰もいない。それは一体なぜか?

「岩本氏が創立者一族だからです。彼女の場合、臨床医としての評価が高いわけでもないし、教育者の経験もほとんどない。経営者として能力があるのかも疑わしい。でも、女子医大の理事長は代々創立者一族で占めている。本来、大学の経営に世襲制度があること自体が、間違っているはずですが、誰も何も言えない」(前出の本院・外科医)

 もう一つは、徹底した“恐怖政治”だ。岩本氏に不満や疑問を呈したらしい、という話が伝わると、左遷や降格、そして懲戒処分で追放してしまう。

 一方、病院経営者たちを戦々恐々とさせる問題が、女子医大経営陣にも迫っている。2024年4月から適用開始となる「医師の時間外労働の上限規制」だ。

 長時間労働で過労死する医師が相次いだことを受けて、約2年後に医師の残業時間の上限が、原則「年960時間以下/月100時間未満」に規制される。違反した場合、「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」という罰則規定が付けられた。

■一人の教授の発言に、病院運営会議に居合わせた他の教授たちは固唾を飲んだ

 9月9日の夕方、教授らが集まる病院運営会議で、岩本理事長は残業時間の削減をめぐり、早口でまくし立てた。(*会議の録音データを独自に入手し、その場での様子を再構成する)

「一部の診療科に(残業が)集中している傾向がありますので、診療対応そのものを少し変えていただくとかしないと、このまま残業時間が100時間あるいは80時間1人でもいたら問題になります。私が知っている国立の某大学は、午前中の麻酔(※手術のことか)が終わったら、午後はさっさと帰れと言われるそうです。残って少し勉強したいと言うと、いやダメだと、時間外になるから服を着替えて出て行きなさいと言われる」

「すみません! 肝胆膵外科の本田ですけど、一言、言わせていただいていいですか」

 岩本理事長が話し終えると、間髪を入れずに外科医の本田五郎教授が発言を求めた。すでにマイクを手にしている。

「うちが(残業で)上位に何名も上がっておりますが、手術件数も相当やっておりますし、手術件数が多いから若い人が集まってきてくれるわけです。途中で帰れということになると、多分みんな辞めてよそに行くと思います。人はいなくなりますし、そうしたら先生、やめろと言うんだったらやめるしかないです」

 その場に居合わせた教授たちは固唾を飲んだ。岩本理事長に意見する者など、女子医大には誰もいなかったからである。

 本田教授は、熊本大学医学部を卒業。都立駒込病院などを経て、2020年から女子医大の消化器・一般外科に着任した。専門は難易度が高い胆道、肝臓、膵臓など。腹腔鏡下手術の第一人者として知られ、海外から手術指導を請われるカリスマ外科医である。

 若手外科医の教育にも熱心に取り組んでいる本田教授としては、岩本理事長の発言は看過できなかったらしい。

「結局、なぜこういう(残業時間が多い)ことが起きているかというと、コロナに感染した医師が出てカバーするために、みんなで残って仕事をせざるを得なかったわけです。

 あえて言わせていただくと、我々、患者も多くて手術も沢山やっています。なのに、コロナ対応とか当直業務とかは均等に分配される。そうすると結局、過剰に働く以外にないのです」

 ゆっくりと感情を抑えて話す本田教授を、目を大きく見開いて見つめていた岩本理事長。話が進むにつれ、憮然とした表情に変わっていくが、本田教授は構わずそのまま続けた。

「結局、稼いでいるのに怒られる、という現象が起きるわけです。そこを病院全体で考えていただかないと。頑張ったら頑張った分だけ怒られる、という現象が起きているわけで。こんなところに人、来ませんよ! 優秀な人は絶対来ない。こんなことを誰も分からないというのは、おかしいんじゃないですか。以上です」

 最後の言葉を吐き捨てるように口にしてから、本田教授はマイクを置いた。

■麻酔科の教授も慎重に言葉を選びながら切り出した

 実は会議の冒頭で本院の赤字について報告があり、手術を増やすように板橋道朗病院長が教授たちに要請していたのだ。その一方で、残業時間は減らせ、という岩本理事長の要求に本田教授は真っ向から反論したのである。

 この日は、これだけでは終わらなかった。

 高度な外科手術では、全身管理を行う麻酔科医が必要となる。女子医大の麻酔科では、年間約8,000件の手術で麻酔管理を行っており、国内トップクラスの症例数だ。

 ただし、この麻酔科も医師不足なので、1人あたりの残業時間が長くなる。女子医大出身の麻酔科・長坂安子教授は、慎重に言葉を選びながら切り出した。

「1人あたりの過重労働を、スタッフを増やして分散する必要があります。他院から麻酔科にきてくれる人が現れていますが、他院で助教だった方が、当院で助教の採用申請が却下されて、助手としての職位を丸義朗学長から提案されています」

 丸学長が考案した「各診療科の定員規定」は理事会で承認され、2022年4月から施行された。この規定によると、すべての診療科は原則的に「教授1、准教授1、講師1、助教3」が定員となる。(※一部、例外規定あり)

 そして助教の下に「助手」というポストが新たに設置された。当然、給与は「助教」より低い。他の大学病院から転職する場合、職位も給与も下がることを受け入れる医師は、まずいないだろう。

■あまりに診療現場の現実と乖離している「助教の定員3人」

 大半の大学病院では、専門医の資格を取得すると、「助教」の職位で常勤医に採用されるのが慣例だ。例えば、女子医大の麻酔科HPには、約30人の助教が掲載されている。この中には留学や関連病院に出向している医師もいるが、「助教の定員3人」という規定は、あまりに診療現場の現実と乖離していることが分かるだろう。

 当然だが、診療科によって患者数と必要なマンパワーは違う。一律に定員を規定するのはナンセンスの極みだが、基礎系学者の丸学長は「コスト削減」を優先させたのだ。

 長坂教授は、岩本理事長の目を見て必死に訴えかけた。

「みんなが力を合わせて盛り上げていく中で、教授が1、准教授が1、講師が1、助教が3、という定員をなんとか凍結していただきまして、医師を増やしてみんなで力を合わせていく、という方針は伺えないものでしょうか。お聞かせいただきたいと思います」

 だが、岩本理事長は、切実な現場の要望に答えようともしなかった――。

■女子医大が名門の地位を築いたカリスマ的な外科医の存在

 深刻な医師不足でありながら、さらに人件費カットの方針を進める経営陣について、前出のベテラン外科医はこう話す。

「岩本理事長の経営方針は目先の利益追求だけで、将来的な展望はない。こんな無理を強いるのは、“女子医大で働くことを名誉と思って黙って働け”と思っているからです。しかし、私たちが女子医大で働くのは、外科手術の手技と考え方を引き継ぐためです。特に私が扱っている疾患は手術に全てがかかっている。患者の命を守るため、後輩に伝える責任があるのです」

 女子医大が名門の地位を築いたのは、カリスマ的な外科医の存在が大きい。国内初の術式で心臓手術を行なった榊原仟教授、国内トップの手術件数となる脳神経外科を育てた喜多村孝一教授、肝臓がんなどで画期的な手術を切り開いた中山恒明教授。1950年代~60年代にこうしたカリスマ外科医に学ぼうと、意欲的な若い医師が全国から集まり、女子医大は高いレベルの大学病院となった。岩本理事長や丸学長らは、この系譜とは全く無縁の存在と言える。

 医療安全の要というべきICUチームの崩壊、医師不足をさらに加速させる診療科の定員規定など、女子医大を破壊するような方針を打ち出す経営陣。患者に大きな影響が出ている状況に危機感を抱いた医師たちが遂に動き出した。詳しくは、後編でお伝えする。(後編 #8 に続く)

《決起した7人の医師》“臨床の女子医大”「救急外来を閉鎖する事態も予想」「医療の質量を下げざるを得ない」医師や看護師ら賛同者400人が“女帝”に突きつけた質問書の全容 へ続く

(岩澤 倫彦/Webオリジナル(特集班))

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