東急電鉄「Qシート」の大井町線ユーザー優遇ぶりがスゴい

東急電鉄「Qシート」の大井町線ユーザー優遇ぶりがスゴい

「Qシート」に使用される6020系車両 写真提供:東急電鉄

 東急電鉄は昨年(2018年)12月14日から座席指定車両「Qシート」を始めた。大井町線から田園都市線に直通する急行電車の一部を指定席として運行する。田園都市線沿線住まいの筆者は、いままでに3回乗った。「快適」といえば大袈裟だけれど、疲れた身体にとって「座れる」は正義だ。400円の料金の価値はある。

「Qシート」は大井町線の起点、大井町駅から田園都市線の長津田駅まで走る急行電車のうち、平日の夜に5本が設定されている(2019年2月現在)。大井町駅の発車時刻は19時30分、20時30分、21時20分、22時27分、23時09分。だいたい1時間おきだ。つまり、お仕事でお疲れの方に着席を保証するためにある。しかし、私が最初に乗った理由は「酔っ払って辛かったから」。ゴメンナサイ。

■発車間際の争奪戦がスゴかった

 初めて「Qシート」に乗った日、それは内輪の新年会の帰りだった。大井町線の急行停車駅、旗の台付近は私が高校卒業まで暮らした街。この駅から100歩くらいの場所に、「鳥樹」という鶏料理屋がある。中学の同級生がやっているだけに、酒に弱い私にも優しい。居心地が良い。つい長居してしまう。テレビの酒場紹介番組にときどき出ている。先日、スペインのテレビ番組から取材依頼があった。なぜか私に。

 それはともかく、私にとってちょっと困ることがある。店ではなく「帰りの電車に座れない」だ。旗の台は大井町線の中間駅だ。急行も各停も、座席は起点の大井町駅で埋まってしまう。旗の台駅は池上線も通っていて、大井町線に乗り換える人も多い。だからわりと混雑している。私はいままで、旗の台から立ってポールや壁に寄りかかり、なんとか耐えてきた。

 しかし、これからは「Qシート」があるじゃないか! 指定席券は大井町駅、旗の台駅、大岡山駅、自由が丘駅の窓口で買える。スマートホンでチケットレスサービスも利用可能。いつか乗る日が来るだろうと、事前に会員登録を済ませている。ブラウザでチケットレスサービスサイトを開き、シートマップ方式で空席を探す。旗の台駅の発車まであと15分。窓際席はほとんど埋まっていた。

■途中駅から乗る人のためのサービスと言えそうだ

 夜で景色が見えないくせに、なんとなく窓際を選んでしまう。これは私の旅の癖。残り少ない窓際席を指定して、決済へ進んだところ「この席は販売済」というメッセージが現れた。しまった、もたもたしていたら取られてしまった。もういちどシートマップに戻り、別の窓際席を指定したら、またもや販売済。3回目でやっと窓際席を確保した。「Qシート」は発車間際にどんどん席が埋まっていく。まだサービス開始から半月だった頃、すでに人気は上々のようだった。

 旗の台駅で「Qシート」付き列車に乗り、座る。ありがたい!! 大井町駅から座ろうと思えば、並んで次の列車を待てばいい。しかし途中駅では並んでもダメ。つまり「Qシート」は、途中駅から乗る人のためのサービスと言えそうだ。

 東急大井町線は大井町駅と二子玉川駅を結ぶ路線だ。さらに二子玉川駅から田園都市線の溝の口駅まで、複々線にする形で直通している。

 大井町線のほとんどの列車は大井町と溝の口を往復する。ただし、夜間に田園都市線に直通し、鷺沼や長津田まで足を伸ばす列車もある。「Qシート」は急行に連結されており、停車駅は大井町、旗の台、大岡山、自由が丘、二子玉川、溝の口、鷺沼、たまプラーザ、あざみ野、青葉台、長津田だ。

■座席の下にコンセントがあって充電も可能

 1月下旬の月曜日、大井町駅22時27分発の「221号」に乗ってみた。大井町駅からの乗客は20人。45席の半分ほど。窓側はほとんど埋まり、車端部のロングシートに3名。「Qシート」の車両は、基本的には窓に背を向けるロングシートで、指定席として運行する時だけ中央部の座席が90度回転し、進行方向の2人掛けとなる。3人グループ客はロングシートが会話しやすいようだ。

 旗の台駅で6人乗車。池上線と交差する駅で乗換客も多い。大岡山駅で5人乗車。この駅は目黒線と同一ホーム乗り換えができる。東横線と交差する自由が丘駅で5人乗車。「Qシート」専用車両は車掌2名。停車駅には2名から3名の駅員がいた。自由が丘駅は混雑する駅で、駅員3名と警備員2名が整理していた。この自由が丘駅までが「乗車専用駅」だ。降車はできない。「Qシート」は大井町線内の利用はできない。二子玉川より先、田園都市線利用者のための列車だ。

「Qシート」車両は空いていて見通しがいい。貫通扉の窓の向こうを見ると、隣の車両の混雑ぶりがわかる。それとは対照的に、こちらは落ち着いた雰囲気で、1人はノートパソコンで作業し、他のほとんどの人がスマートホンを操作している。座席の下にコンセントがあって充電も可能。これは帰宅時にありがたい。

■車掌と数名の駅員が「乗れません」と声を掛けつつブロック

 二子玉川駅から降車専用区間だ。しかし降りる人はいない。この駅は田園都市線と同一方向同一ホームの乗換ができる。渋谷から田園都市線に乗ってきて、ここから大井町線の急行に乗り換える人も多い。とくに「Qシート」は車体色が目立つ。窓の中は空いていて快適そうだ。混雑に疲れた人が乗りたくなる気持ちもわかる。しかし、車掌と数名の駅員が「乗れません」と声を掛けつつブロック。駅員はブロック係だ。

 隣の車両の混雑が増して、人いきれで窓ガラスが曇っている。溝の口駅で1名降車。ここは駅員が少なく、1名が扉前で阻止され、車掌の隙を突いて3名が乗り込む。このうち2名が追い出され、1名は発車間際のため、隣の車両へ促された。「Qシート」を知らない人にとっては納得しがたい仕打ち。反感を買われないか心配になる。

 鷺沼駅で1名下車。全体的に下車客が多い駅で、両隣の車両も空いてきた。「Qシート」に乗り込もうとする人はいない。もっとも、このあたりは田園都市線全体でも降りる人が多いエリアに入る。発車後に車内放送があった。「たまプラーザ駅からはどなたでもご利用いただけます」。そう、指定席区間はたまプラーザまで。そこから先は、指定席に座った人は既得権で座っていられる。

■たまプラーザ駅で「Qシート」空席を狙うのが賢い

 たまプラーザで3名下車。意外と少ない。通路側の人が空いた窓際に移動する。乗車客は数人。ここからは乗降自由だから制止されない。そもそも車掌2名もここで降りてしまった。隣の車両から乗り移る人が1名。この人は賢い。私も「Qシート」が満席なら、隣の車両に乗ってたまプラーザ駅で空席を狙う。あざみ野駅では1分ほど停車し、隣の車両から移る人が2名ほど。「Qシート」の仕組みが田園都市線利用者には周知されていない印象だ。

 東急電鉄は田園都市線の二子玉川駅〜渋谷駅の混雑を緩和するために、二子玉川から大井町線へ通勤客を分散させたい。そのために大井町線を溝の口まで延伸し、大岡山駅を改良して目黒線と乗り換えしやすくした。

「Qシート」もその作戦の1つ。帰りに「Qシート」に乗りたいなら、定期券を大井町線経由にしてください、と暗に促している。東急電鉄としては、渋谷から帰る通勤客を「Qシート」に乗せない。そこに強い意志を感じる。二子玉川駅と溝の口駅の「乗車客との攻防」が、象徴的な場面だった。

(杉山 淳一)

関連記事(外部サイト)