敗戦続きで指揮官の命令を信じられない…ロシア軍の「士気の低さ」5つの理由

敗戦続きで指揮官の命令を信じられない…ロシア軍の「士気の低さ」5つの理由

兵士の訓練を視察するプーチン大統領

〈何のために国民を戦争に送るんだ? 1948年製のヘルメットだと?〉

 布がほつれ、青いガムテープで補修された防弾チョッキを手にカメラを睨む若者。「動員されたロシア兵らの訴え」とされる写真に付けられたコメントだ。

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■ロシア兵の半分近くが“戦闘不能”

 ウクライナ侵攻の開始から250日が過ぎ、ロシアの劣勢が露(あら)わになってきた。筑波大学名誉教授の中村逸郎氏が話す。

「当初、19万人が動員されたというウクライナ侵攻ですが、実際には15万〜17万人だったという見方があります。このうち少なく見積もっても3割、多くて5割ほどが、既に戦死するか、戦闘できないほどの重傷を負うか、逃げ帰る、投降するなどして、戦場から『消失』したとされる」

 アメリカ国防総省は、8月の段階で、ロシア軍は7万〜8万人が死傷したとの見方を発表しており、半分近い兵力が戦闘不能であることは間違いないようだ。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が語る。

「ウクライナの反転攻勢が9月から続いています。南部のヘルソンでは、ロシア軍はドニエプル川西岸で橋を壊され、最大25000人が孤立している」

 クリミア大橋での爆発を受け、ロシアは「報復」として10月にはウクライナの首都キーウを含む全土のインフラ施設をミサイルやドローンで攻撃。続いて核ミサイル演習を実施、さらにプーチン大統領は「ウクライナが『汚い爆弾』(放射性物質を拡散する爆弾)を使用する」と喧伝している。

「派手な動きは、プーチンが不利な戦況を認めたくないゆえの“嫌がらせ”の域を出ません」(黒井氏)

■C型肝炎患者やHIV感染者も動員

 プーチンの焦りが最も現れていたのは、9月21日に発令された予備役を対象とした部分的動員令である。ロシア国防相は、以後1カ月でおよそ30万人の動員を完了したと発表した。中村氏が解説する。

「動員された人は予備役とはいえ職業軍人ではなく、一般の生活をしていた人々。各地域に動員人数が割り当てられ、知事たちが集めた。行政の顔色をうかがう企業が、自分のところの工場労働者らを“差し出した”ことも。徴兵担当の役人が職場に来て召集令状を渡し、そのまま連れて行かれるのです」

 基準も曖昧になっていると指摘するのは、国際ジャーナリストの山田敏弘氏だ。

「平時では動員されないC型肝炎患者やHIV感染者まで集めている。それぞれ、色の付いたバンドをつけさせ一目でわかるようにしているとされます」

■ボロボロの防弾チョッキを持ったロシア兵の写真

 新兵が投入されているが、状況は開戦時よりも過酷だ。10月半ばには、SNS上に、テープで補修したボロボロの防弾チョッキを持ったロシア兵の写真が拡散した。別のロシア兵は、「軍隊には何もなかった。装備は自分で買わざるを得なかった」と西側メディアの取材に答えた。

「徴兵が決まってからネットであわてて装備品を買ったケースもあるようです」(山田氏)

 配属されても自分が向かう戦場の事はロクに聞かされない。中村氏がある兵士の悲劇を紹介する。

「最近、新兵の証言がロシア語で広まっています。〈私たちは草原にまるで犬のように捨てられた〉と題するもの。〈カラシニコフ(小銃)と刃物だけ受け取って、草原に送り込まれた。他の装備はない。自分がどこにいるのかもわからないし、指揮官もいない。何をすればいいのかよくわからない〉〈同僚は体調を崩して血を吐いているが、薬もない。いつ敵の攻撃を受けるかわからない。夜は0℃を下回る寒さで、草原で眠る。針の筵にいる心地だ〉というのです。これをもはや軍隊とは呼べません」

 新兵に施される訓練は「長くても1週間程度との証言が多い」(同前)という。軍事研究家で陸上自衛隊の予備一佐でもある関口高史氏はこう解説する。

「国によって事情は違いますが、一般の人が戦える兵隊になるには平時3カ月、有事でもひと月は必要です」

■貧弱な武装のロシア軍と最新兵器で武装したウクライナ軍

 ウクライナ国防省は、〈新兵の一部は、要所ヘルソンの市街戦に備えた「砲弾の餌食」として配置される〉と公表し、ロシア軍に揺さぶりをかける。冒頭の写真の兵士も間もなくヘルソンへ送られるとみられる。

「彼らは貧弱な武装のまま、欧米の最新兵器で武装したウクライナ軍と対峙させられ、これから大量に戦死するでしょう。塹壕に隠れるロシア兵たちは、ウクライナのドローンに上空から監視されています。位置が捕捉されて砲撃され、無残に倒れているのです」(前出・黒井氏)

 しかし、ここまでのロシア軍の苦戦は、予想外でもあったとするのは、関口氏だ。

「攻撃第一主義を掲げるロシア軍ですが、最近では攻撃もままならず、防御でも苦戦している。これには驚きました。ロシア軍はハイテク化していたはずなのに、当初から最新武器の取り扱い、戦い方(電子戦やドローン戦術)に不慣れな兵士があまりにも多い印象です。空挺部隊など精強な部隊が実戦に投入され失敗を続ける中、新たに動員した兵士を前線に送ったとしても、十分な戦果を獲得できるとは思えません。精鋭部隊を温存しているのか、他の理由があるのか。現時点では見えてきません」

■ロシア軍の士気の低さ、5つの理由

 虎の子の精鋭は隠し、一般の国民が動員されて前線に送られている可能性があるのだ。一度、動員されると戦場から逃れるすべはない。逃亡や降伏ができないように、忠誠度の高い部隊が兵士たちを監視している。

「ウクライナ東部ルガンスクでは戦いを拒否したロシア兵約140人が、刑務所より頑丈な鉄の扉の部屋に押し込められた。別の地域ではアスファルトに一晩寝かせられ、上官から首に機関銃を押し付けられ脅された事例もある。ウクライナが立ち上げた逃亡兵向けのホットラインには開始3週間で2000〜3000人のロシア兵からの相談が相次いだといいます」(中村氏)

 ロシア軍の士気の低さについて、関口氏は、5つの理由があると分析する。

(1)敗戦続きで指揮官の命令を信じられない

(2)編成、装備、訓練が十分でないため、戦闘に没入できない

(3)日常生活の場からいきなり戦場へ連れていかれた兵士もいて、部隊の強固な団結が醸成されていない

(4)ウクライナやその他の国の心理戦(反戦やロシア軍の被害状況などのプロパガンダ)が効いている

(5)ロシア・ロシア軍が持つ人命軽視思想が、今の時代の若者たちに符合しない

■プーチンの語りはロシアの若者に響いてなかった

 プーチンは大統領就任後、2005年ごろから愛国主義の柱として第二次世界大戦の犠牲者を顕彰してきた。第二次大戦でのソ連の民間人を含む犠牲者は2700万人とされる。拓殖大学特任教授の名越健郎氏が話す。

「プーチンは、『ソ連の兵士は世界とドイツの人々をファシズムという疫病から解放した』と語り第二次大戦を国家団結のイデオロギーに結び付けて語ってきました。歴史教科書もこの考えに基づいて改訂されています。しかし、動員令発表後に起きた20万人を超える大量出国からもわかる通り、ロシアの若者には響いていなかったのが事実です」

 新兵を投入しても劣勢を押し返すには至らず、ウクライナ側の反撃は続くとの見方が強い。ロシア国内では、近く全国に戒厳令が敷かれ、さらなる動員が行われるとの噂が広がっており、動揺が収まる気配はない。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2022年11月10日号)

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