さくさくコロッケがそばつゆに溶けて…創業93年、茨城の老舗が作る「コロッケそば」が絶品だった
2022年11月22日 12時00分文春オンライン

11月1日から新発売になった「コロッケそば」
茨城県石岡市に創業93年の人気老舗そば屋「そば処 丸三」がある。この店が今年11月1日から4種類の新メニューを発売したのだが、その中にポテトを使った「コロッケそば」が含まれていて俄然注目されたわけである。
「コロッケそば」といえば、東日本の立ち食いそば屋ではよく見かける。もちろん、讃岐や大阪、九州のうどん店、また、日本全国の大衆食堂などにはトッピングとして「コロッケ」が置かれている。つまり「コロッケそばうどん」は容易に提供できる存在だ。しかし、老舗のそば屋で発売しているところは滅多にない。
銀座6丁目にある明治18年創業の「そば所よし田」は「コロッケそば」の元祖的存在だが、ポテトコロッケではなく鶏ミンチを揚げたコロッケを使う。東急東横線都立大学駅近くにある昭和20年創業の「そば処 大菊総本店」では余ったそばをつなぎにした「コロッケそば」を販売している。老舗で販売している店は他にもあるとは思うが、知る限りではこの2店である。
■なぜ老舗店で「コロッケそば」を販売するのか
さて「そば処 丸三」に話を戻そう。こちらの老舗店でなぜ「コロッケそば」を発売することになったのか。訪問して聞いてみることにした。
JR常磐線石岡駅はJR東京駅から特急ときわで約1時間。柏駅を過ぎて利根川を渡ると急に田園風景が広がってくる。到着した石岡駅は比較的大きな橋上駅舎で東西口ともロータリーなど広いスペースが配置されている。石岡市は南に霞ヶ浦、西に筑波山を望む豊かな土地である。
西口側に出て、駅前すぐの路地を西の方へ歩いていく。人影は少なく古い家並みが続いている。ゲートボールの公園などを見ながら10分程歩くと、そばうどんの幟(のぼり)と洒落た格子状の外観に老舗らしい「そば処 丸三」と墨で書かれた木製看板がみえてきた。
入店すると3代目店主の溝口光幸さん(68歳)と奥さん、出前から帰った直後の4代目の溝口俊介さん(40歳)が笑顔で迎えてくれた。
店内は白色が基調となる明るい雰囲気で広い。昭和30年代のメニューや溝口光幸さん撮影の筑波山の写真が飾られている。3代目の溝口光幸さんが2代目から店を継いだのが35年前。4代目が18年前から経営に参加し、約2年前から新メニューの開発などを行っている。
■賑やかなメニューを眺めると…
テーブルの上にあるメニューがなんだか賑やかだ。大きなA3サイズのメニューをみてみる。茨城産の銘柄ポーク「弓豚」を使った「カツ丼」や「ソースカツ丼」もあれば、「つくば鶏親子丼」、「ハンバーグ御膳」、「カレー南ばん」、「つけカレーそば」もある。このあたりは3代目の光幸さんのメニューだ。
他にA4サイズのメニューが何枚かあるのだが、こちらが4代目の俊介さんが主に開発したメニューだ。
4代目の俊介さんになぜ新メニューの開発を進めたのか聞いてみたところ、納得できる状況がみえてきた。
「メニューを考案する仕事を私が父と交代する時期とコロナ禍がちょうど同じタイミングになったんです」と俊介さんが切り出した。俊介さんが店を手伝い始めた18年前頃から、人口の過疎化や景気の低迷が徐々に進んでいて、何かやらないと打開できないという状況だったという。そこで最初は既存メニューのポスティングや常連さんへの割引券などで状況を打破しようとしたが売上は下がる一方。そんな矢先、コロナ禍が始まった。
「お店にお客さんがほとんどいらっしゃらなくなってしまって……」相当な危機感を持ったという。
そこで、2020年3月にTwitterを開始。店の情報を毎日、投稿するようにした。すると、身近な存在だった石岡出身の人気アーティストやそのファンの方々、ラーメン関係のインフルエンサーの方々を中心に「そば処 丸三」の知名度が少しずつ各方面に広がっていったという。そして、「何かインパクトのあるメニューを作れないか」と新メニューの開発に取り組んだという。そして考案したのがまず「弓豚ラー油そば」だったという。結構ロングランヒットしているメニューだとか。
「コロッケそば」を発売したきっかけを聞いてみると、これもまた納得の理由だった。「今年になって大学時代に大好きで学食でよく食べていたことを思い出し、自分の賄いに作ってTwitterに投稿したら思いのほか食べたいという反応が多かったんです。そこで思い切って今月から新メニューに入れてみようと決めたんです」と俊介さん。
■まずは「コロッケそば(コロッケ2つ)」を注文
コロッケは注文が入ってから揚げるスタイルだという。そこでさっそく「コロッケそば(コロッケ2つ)」(720円)を注文することにした。注文後、冷蔵庫からコロッケ種を出してフライヤーに入れて揚げ始めた。これは期待が膨らむ。待つこと5分程で「コロッケそば」が到着した。大きなコロッケが2つ、カイワレ、ナルト、若布(わかめ)がのる。薬味のネギが美しい。
つゆをひとくち。鰹節と昆布の出汁が香る。返しは本返しだろう、やや甘みのあるつゆが澄んでいる。コロッケははやくもつゆを吸って解(ほぐ)れだしている。壊れぬうちにガブリとひとくち。ジャガイモの甘さが口いっぱいに広がる。しかもアツアツだ。かじったところからハラハラとコロッケが溶けていく。あとはレンゲを使いポタージュのようになるまでコロッケを楽しむわけである。コロッケ2つは最高の選択だった。そして、このそばだが加水の少なめの硬めのそばでなかなかよい。
■「小弓豚カツ丼セットもりそば」を追加注文
どうしても、冷たいそばを食べたくなったので、お店の一番人気だという「小弓豚カツ丼セットもりそば」(1030円)を追加注文した。こちらもとんかつは注文後に揚げるスタイルだが、ほどなくして登場した。「もりそば」を入れた朱の器は50年以上使用しているというから驚きだ。
まずもりそばを辛汁につけて食べてみる。引き締まったそばでコシもよい。そして辛汁はキリっとした絶品。並木藪のような辛さはないが上品なクリアな味が特徴だ。そして、弓豚のカツ丼のカツをまず食べてみる。これは頬張ると肉の旨味が染みわたる。一番人気なのも頷ける。
■そば湯をいただいて〆
〆にそば湯をいただき、地元の柿をサービスしてくれた。最後に3代目の光幸さんから挨拶をいただいた。
「コロナ禍で大変な状況が続いています。自分も2代目から仕事を継いで35年になりますが、これほど厳しいことはありませんでした。しかし、地元の皆様や御贔屓にしてくださるお客様に、変わらぬおいしいそばを提供することをいつも肝に銘じています。4代目も奮闘中です。新メニューもこれからもどんどんチャレンジしていこうと思っております。石岡にお越しの際には、是非、お立ち寄りください」
再訪を約束し店を後にした。また特急ときわにのって帰路につこう。前出の「そば処 大菊総本店」もそうだが、こちらも地元に愛され繁盛してきたメニュー豊富な老舗店だ。この際、他の老舗店も肩ひじ張らず、「コロッケそば」を大々的に発売してもいいのではと思うのだがいかがだろうか。その位、印象に残る「コロッケそば」だった。
INFORMATION
「そば処 丸三」
住所:茨城県石岡市国府3-4-10
営業時間:月~土 11:00~14:30 17:00~19:30
定休日:日、第2月
https://marusansoba.com/
https://twitter.com/marusansoba
(坂崎 仁紀)
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