春日太一とジェーン・スーが語る「デートにふさわしい映画」と「東京のもてない街」

春日太一とジェーン・スーが語る「デートにふさわしい映画」と「東京のもてない街」

春日太一さん ©平松市聖/文藝春秋

 映画史研究家の春日太一さんが、読者に「息苦しすぎる」とまでつぶやかれた著書『 泥沼スクリーン 』をめぐって、同世代のジェーン・スーさんと対談しました。話はあっという間に脱線し、デートにふさわしい映画とは? もてない「街」はどこ? など語りあうふたりですが……女子校育ちのスーさんと男子校育ちの春日さんの噛み合わないあれこれと、噛み合うあれこれをどうぞ!

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■メールでちょいちょいやりとりしてる2人

春日 春日太一です。

スー ジェーン・スーです。よろしくお願いします。

春日 こういうかたちでスーさんと人前でお話しするというのは初めてですね。この組み合わせというのは意外に思われた方もいるかもしれませんが、実は知り合いではありました。表立っての接点はなかったのですが、TBSラジオの番組やイベントですれ違うことがあって、ご挨拶はしていて。

スー 初めてちゃんとお話したのは、女性誌「CREA」での対談でした。3年前くらいですね。けっこう長くしゃべりましたよね。3時間くらい?

春日 そのあと個人的にもお会いしたり、人生相談のってもらったりして。そのあともメールでちょいちょいやりとりして今日に至るという。
 さて、今回「週刊文春」で連載している日本映画に関するコラムをまとめた『泥沼スクリーン』という本を出しまして。連載では普通に映画の解説やったり、亡くなった方の追悼記事を書いてるんですが、本にするとき、そういうのをことごとく削って、青春時代の暗黒とか、性癖だったり私生活を吐露してる記事を中心に並べたんです。それで、発売後ツイートでエゴサーチした「読んでて息苦しすぎる」という読者の意見があって変に納得したのですが、スーさんはいかが思われました?

■自分の内臓の裏側まで見せてる本

スー 以前、自著の『 生きるとか死ぬとか父親とか 』を春日さんにお送りしたら連絡をいただいて「よくここまでご家族のことを書きましたね、よく向き合って書かれましたね」と言っていただいたんですけど……『泥沼スクリーン』を拝読して、「貴様もな!」と思いました。私の比じゃなくない? って。

春日 え、そうですか?

スー これまでの春日さんの著作は、意識的に自分語りをしていらっしゃらないように感じるものばかりでした。第三者として、いかに虚実含めた映画のリアルを追求するかがテーマなんだろうと思ってて。でもこの本では、完全に自分の内臓の裏側まで見せていらっしゃる。連載の中から特に濃い出汁だけ引いてきたというか。今に至るまでに、かなりハードコアな青春時代があったんだなと。

春日 自分でも読み直してみて、もうちょっとバランスとってまとめてもよかったかなっていうのを思ったり……。

■何?「吸血鬼ゴケミドロ」?

スー ふふふ。読み始めは「紹介されている作品、1本もちゃんと観たことがない!」って不安になりました。いつかは出てくると思いながら読んでいたんですけど……。そのうち「吸血鬼ゴケミドロ」って何? どうしよう、ぜんぜんわからない! なんで「刑事物語2」なの? となりまして。

春日 刑事物語、取り上げたの「1」じゃないんですよね。

スー 「探偵物語」や「野性の証明」、「櫻の園」は時代として記憶にありますし、「吉原炎上」なんかはテレビで観た記憶があります。そういう大作映画か世代的によく観られていた作品だけでした、観た記憶がかろうじてあったのは。「ゴケミドロ」は本当にびっくりしましたよ。何?「ゴケミドロ」? って。

■男子校の部室のノリで「痛さマウンティング合戦」

春日 この本は僕の話だけでは商品として弱いだろうなと思って、ライムスターの宇多丸さんとの2時間半くらいの対談も掲載しました。青春時代の映画を語る、というテーマだったんですけど、互いの「痛さマウンティング合戦」というか、どっちが痛い青春時代だったか競い合うみたいな感じになってしまいまして。我々双方と親交のあるスーさんはどう読まれたか、気になりました。

スー 楽しそうだなぁ、と思いました。デートで観る映画は何が正解かで散々盛り上がってるけど、デートで成功しようという気概はさらさら感じられないんですよ! 「俺たちダメだったよなあ」って、なんか飲み屋の会話みたいで、そこが楽しそうだった。

春日 まさに飲み屋ですねー。あるいは男子校の部室のノリっていうか。こういうノリって、女性からするとどういう風に見えたりするんですか。

スー 女子校、女子大あがりの私からすると、異文化です。

■女子校はファンタジー空間じゃない!

春日 ぼくは高校が男子校だから、逆に女子しかいない空間ってわからないんですよね。だから女子校はファンタジー空間なんですよ。

スー 現実はそんなことないんですけどね。この本では「blue」を始め、女子が出てくる映画がいくつも紹介されていますよね。もちろんファンタジーがどこまで現実に責任を持つべきかはまた別の議論になるし、観ていない作品のことをこう言うのもなんですけど、「出てくる女は、ひどい扱いを受けてるか極端に美しく描かれてるかのどっちかだ!」と思いました。

春日 あー、確かに、両極端ですね。確かにそうだ。そうだな。

スー ものすごく美化された女か、男の無頼を証明する道具としてひどい仕打ちを受ける女ばかり……。

■等身大の女性がいない……

春日 そうですね、危ないですね。今気づきましたけど、リアルな、というか等身大の女性のことって全く触れてないですね。……俺、初めて気づきました。

スー 紹介されている映画をひとつくらい観ておかなきゃと思ったんですけど、「徳川いれずみ師 責め地獄」かー、うーん、と思っちゃって。あと春日さん、「女に男惚れする」って何度か書いていらっしゃるじゃないですか。人間として尊敬できる女は、性別が女じゃなくなっちゃうのが不思議でした。 

春日 たしかに、たしかに。「0課の女 赤い手錠」とか「女囚さそり けもの部屋」とかは女性がひどい目にあう系で、「美少女戦士セーラームーンR」とか「スケバン刑事」とかは女性に対して「男惚れ」している。それから「blue」であったり「1999年の夏休み」「櫻の園」では女の子だけの世界をファンタジーとして憧れ、「幕末純情伝」とか「はいからさんが通る」だとアイドルに憧れるとか。そんなのばっかりですね。あとは「ヌードが見たい」とか、松本清張映画を観ては恋愛は怖い、女は怖いって言ってるわけですかね。

スー そうそう。

春日 うわー。自分では気づきませんでしたよ。それで、この本を読んだみなさん、感想を言ってくる時になんかニヤニヤしてるというか……。

スー 好きなものを並べていくと、自分がプロファイリングされちゃうんですね。

■初デート映画問題、勃発

春日 宇多丸さんとの対談ではお互いのデート映画の痛い思い出ですごく盛り上がったんですけど、スーさんはデート映画ってどう思われます?

スー 「デートでは映画に行かない」が正解かと。人によって観たい映画は違うし、映画を通してお互いの価値観があぶりだされちゃうのもヘビーだから。いままで付き合いがなかったふたりがいきなり映画に行くのは、過剰にスリリングでしょう。そう言えばすんごい昔の話ですけど、映画好きの子と初めてふたりで出掛けようってなったとき「二十日鼠と人間」に行こうとしたんですよ。

春日 うわー、そこに行きますか。

スー 結局、上映時間を間違えて観られなかったんですけど、代わりに「ザザンボ」を観て。

春日 うわはははは。「ザザンボ」ですか!

スー 「ザザンボ」が観たいっていうのはもともと私もあったんですけど、「ザザンボ」を観たい自分と初デートでめかしこんでいる自分はちょっと違う次元のオルターエゴみたいなもんで、統合させてはいけない。ふわっとしたニットにエタニティの香水を漂わせながら「ザザンボ」を観てしまった。失敗ですよね、当然。何も起こらないですよね、「ザザンボ」のあとのふたりは。1番いいのは「サニー」とかああいう感じでしょうかね。

春日 あー、そうですね。

スー 男性も「女の子の友情ってあんな感じなの?」とか、映画のあとも話しやすいんじゃないかな。女性も「私が学生だったときはー」って語れるし。「サニー」は初デートのためにずーっと上映しておいたほうがいい。

春日 シネコンの1番小さいスクリーンをたえず確保しておいて、座席もカップルシートみたくして。ただ、われわれの青春時代、90年代だと「サニー」みたいなちょうどいい映画ってないじゃないですか。何があのころの正解だったんだろうっていまだに思うんですよ。

■「サニー」がまだなかった90年代の正解

スー 「ボディガード」とか?

春日 「ボディガード」か。「レオン」はもうちょっと後ですかね。

スー 「レオン」は危険でしょう。

春日 僕が行ったときはカップルだらけの中、ひとり学生服だったっていう記憶があります。

スー 「レオン」は映画が終わったあと男の子がちょっと気取って背中を丸めて映画館から出てきたりしたら、うわ! ってなるかも。

春日 こいつジャン・レノぶってるな、みたいな感じですね。

スー あと自分がオカッパだったら、ナタリー・ポートマン意識してると思われてないかな?! と情緒不安定に。

春日 それも気まずいですね。

スー 「レオン」は危険。「ボディガード」が楽しめるカップルは末永く幸せになるような気がする。

春日 ただ、「ボディガード」を当時デートで観たところで、女の子が感動して泣いたりしたら、逆にこっちが冷めちゃうみたいなところがたぶんあったと思うんです。今は違いますよ。今は「ボディガード」観て泣くような女性のほうがよかったりするわけですけど。当時は尖ってましたからね……。あと、あのころは自分の女性に対するプレゼンテーションを間違っていた。映画に詳しいというのを売りにしていたせいで、デートに行くとなった時に女性は映画に行こうって言うんですよ。

スー そうなりますよね。

■部屋で彼女と映画を観るなら?

春日 あと、高校時代にそんな仲良くない同級生にデート映画を聞かれたことがあったんです。明日、彼女が部屋にくるからビデオ借りて一緒に観たいんだ、で、春日映画詳しいだろ、って。この大喜利もなかなかややこしくて。こっちは「ゴケミドロ」とか見ていた時代ですからね。そんなもん何にも浮かんでこないんですよ。で、笑える映画がいいと言うから、1番笑えると思ってすすめたのが「サボテン・ブラザース」。

スー あー。恋愛において万人受けするタイプの映画ではないかもしれない。

春日 月曜日の朝、そいつがきて、いきなり殴られそうになって。ぜんぜん盛り上がらなかったぞこの野郎って。

スー 「サボテン・ブラザース」を観てゲラゲラ笑ったとしても、そのあといいムードにはならないかも……。

春日 そうですね。女の子の立場だったら、彼氏が家で「サボテン・ブラザース」持って待ち受けていたら、それはもてない側のフィールドに入れられちゃうってことですもんね。今ならわかるんですよ、答えが。「恋人たちの予感」を紹介すればよかったなって。あれ笑えますしね。ロマンチックな気分にもなりますし。

■高校時代のイケセイと東武百貨店

春日 ぼくの高校時代はほぼ名画座とプロレス会場なんですけど、スーさんはどんなところで遊んでいたんですか?

スー 高校は埼玉だったので、渋谷はほとんど行ってないんですよ。学校終わって渋谷に着くころには夜だもん。だから池袋。池袋西武百貨店です、イケセイ。

春日 ぼくは池袋だと東武でした。高校は新大久保にあったんですけど新しくできた東武のメトロポリタンプラザに旭屋書店があって、こんな大きな本屋があるんだって入り浸った記憶がありますね。

スー 東武百貨店といえば、ブラウン管のテレビが30個くらい並んでる待ち合わせ場所がありましたよね。80年代の人が想像する近未来の精一杯っていう風情の。あれ、もうないんですよ。

春日 メトロポリタンプラザはルミネになり、あの手前の噴水もなくなりましたしね。

スー そうそう。池袋もお洒落な感じになっちゃって。

■池袋の「童貞喪失」

春日 池袋がなんかね、友人のサンキュータツオさんの言い方を借りると、童貞喪失しているというか。

スー あー。

春日 彼女ができた。池袋に彼女できたなあ、って感じしますよね、なんかあか抜けてきて。もてる街になりました。

スー それこそ東京で彼女がいない地区ってほとんどないのでは。

春日 高円寺、阿佐ヶ谷でさえも彼女いるじゃないですか。

スー 同棲20年目くらいの女がいるでしょうね。

春日 大久保も最近彼女できましたね。東中野くらいかなあ。あ、でも東中野も隠れて彼女いそうな感じもする。

スー 私は文京区小石川の出身なんですが、昔はめちゃくちゃイナタイ街だったのに、今はいわゆる「タワマンに棲まう」みたいな感じの街になりつつあって。大きいマンションだと500人から1000人規模で新しい人が引っ越してくるんで、街の顔が変わっちゃうんですよ、一瞬にして。昔よく歩いていたところを散歩すると、なんかハイエンドな人たちがわーって歩いてて、居場所がない。端のほう行かなきゃ、という気分に……。

春日 東京原住民のほうが東京にいて肩身狭いところありますね。ただ、僕の中にあるのは、池袋から一駅のところはだいたいもてない街という法則があります。椎名町、目白、大塚、北池袋、要町。それから、板橋。中学の同級生が住んでるんで最近、板橋によく飲みにいくんですけど、板橋いい具合にもてないですよ。地方から友人が東京に引っ越してくるときにどこに住めばいいと聞かれたら、とにかく板橋に住めって言います。あそこなら「木綿のハンカチーフ」みたいにならない。

スー 「都会の絵の具」がないところ。

■もてない街にある、チェーン店

春日 あとは西武線沿線ですね。

スー 西武どっち線ですか。

春日 両方ですね。でも新宿線ですかね。下落合、中井、新井薬師前、沼袋、野方、都立家政。

スー なるほど。

春日 西武線沿線には「福しん」っていう安い中華チェーン店があって、あれがある街はもてない烙印を押されているようなもの。「福しん」がある街はもてない。

■なぜ「男よりかっこいい女」なのか

春日 ……しかし、話は戻りますが、本で女性をどう書けばよかったんですかね

スー いやいや、好きに書いていいと思うんですが、自分と同じ「人間」として女性が描かれている映画で、春日さんが共感する映画を私は知りたかったかも。春日さんは「男よりかっこいい女」と言うけれど、「そこ、女のままでかっこよくてもいいんじゃない?」とも思って。なんで「男より」なのかな、と。

春日 ただ女の人が乗り越えたときのかっこよさって男のマックスよりいい、っていうのはあるんですよね。

スー そうかー。それを「人間としてのかっこ良さ」と捉えてもらえたらなぁという欲もあります。

春日 僕はとにかく闘ってる人が好きなんですよ。闘ってる人って美しい。で、闘う姿は男性より女性がさらにドラマチックに映るんですよね。それで闘ってる女性が一番好きみたいな感じといいますか。

スー うんうん。お互い、思春期に同性ばかりと生活していたスティグマがあるんでしょうかね。私は男性を過剰に意識せず見られるようになるまで訓練が必要でした。「違うんだけど、同じ」となるまでに。

■俺は悪くない!

春日 というか、そもそも昔の日本の映画で女性が自然体で出てる映画って思い浮かばない気がします。

スー 古い映画だとなかなかないんでしょうね。

春日 今、「時代劇入門講座」ってイベントをやってるんですけど、この前、時代劇スター知っておくべき30人ってあげたら、女性がひとりも入らなかったんですよ。

スー 時代劇では男性ばかりがスターだったんですね。洋画ならあるんでしょうかね。

春日 そうか、これは日本映画の問題で、俺の問題じゃないんですよ! 俺は悪くない!

スー わはは!「ゴーストワールド」とか観てくださいよ!

春日 あ、大好きですよ。公開時に恵比寿で見ました。

スー あれくらいの、等身大の女性像。別に誰も女神じゃないし、特に蔑まれもしない。ああいう感じの日本映画はありますか?

春日 浮かびませんね。そもそもソーラ・バーチみたいな主演女優って日本にいないですよね。日本は美男美女でやってるから。

スー そうかもしれないですね。まあ、それはそれで夢があっていいですけど。

春日 日本映画の改革が必要です、つまり日本の芸能界の改革が。

スー なんだか、でかい話になっちゃった。

春日 いい気づきをいただきました!

(ジェーン・スー,春日 太一)

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