「100人くらい殺すつもりでした」実の家族5人惨殺の兄弟(18歳・16歳)が語った「世にも恐ろしい殺人計画」《べバー家の惨劇》
2022年12月29日 18時00分文春オンライン

なぜ家族5人を殺害したのか? そして兄弟の胸に秘められた「恐るべき殺人計画」とは? 写真はイメージです ©getty
一晩のうちに、家族9人中5人を殺害……逮捕された長男(当時18歳)と次男(当時16歳)が明かした「あまりに恐ろしい殺人計画」とはいったい?
犯罪大国アメリカで実際に起きた凶悪殺人事件の真相に迫る、 同名の犯罪ドキュメンタリー番組 を書籍化した『 トゥルー・クライム アメリカ殺人鬼ファイル 』(平山夢明監修)より一部抜粋してお届けする。(全3回の1回目/ #2 、 #3 を読む)
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■閑静な住宅で発生した夜更けの惨劇
「2人の兄に家族が襲われています……、いますぐ助けに来て!!」
オクラホマ州ブロークン・アローから、そんな一本の緊急通報が入ったのは、2015年7月22日、午後11時30分のことだった。
通報者はダニエルという12歳の少年。パトカーはすぐにブロークン・アローのベバー家に急行した。
車を降りた警官たちの目にまず飛び込んできたのは、玄関前のポーチに見られる血痕だった。即座にこれがいたずら電話の類でないことを彼らは察した。
周囲は住宅街で、ひっそりと静まり返っている。警官は、ピストルに手をかけながら、恐る恐るドアをノックした。
すると、家の中からかすかに助けを求めるような声が聞こえてきた。警官が慌ててドアを開けて飛び込むと、1人の少女が大量の血を流しながら、床に突っ伏しているのが見えた。13歳のクリスタルだ。
「おい、大丈夫か! いったい何が起きているんだ!」
警官が彼女にそう尋ねると、クリスタルは力を振り絞るようにして、こう答えた。
「兄たちが……家族を……」
どうやら、家庭内の凶行らしい。警官は邸内を見回した。そこかしこにペンキを撒き散らしたかのような血痕が確認できる。しかし、そんな惨状とは対照的に、物音はひとつも聞こえてこない。
警官は引き続きピストルから手を離さず、慎重に周囲を検めはじめた。
ふと、室内から家の外まで、血痕混じりの足跡がつづいているのが見えた。すぐに外の警官に連絡を入れ、警察犬を投入させる。
犬たちもこれがただならぬ状況だと感じているのか、時折、興奮気味に「バウ……バウワウ!」と吠え立てながら、足跡をたどっていく。
警察犬の向かう先は、ベバー家の裏庭のすぐ近く、小さな林の茂みだった。そこにうずくまるようにして身を隠していたのは、18歳のロバートと16歳のマイケル、ベバー家の2人の息子たちだった。
返り血と泥にまみれた2人の姿を見て、警官は迷わず身柄を拘束。しかし、内心ではにわかに信じられない思いであった。茂みの中に身を隠すような幼稚な2人が、これほど凄惨な事件を巻き起こすことなどあり得るのだろうか?
一体この家で何があったのか。そして彼らの目的は何なのか。
すべては法廷で明らかにされることとなる――。
■人知れず募らせた無差別殺人への興味
デイビッドとエイプリル、ベバー夫妻のもとには7人の子供がいた。
事件発生時の年齢で、18歳の長男ロバート、16歳の次男マイケル。そして13歳の長女クリスタル、12歳の三男ダニエル、7歳の四男クリストファー、5歳の次女ビクトリア、2歳の三女オウタム。
両親は子供たちを学校には通わせず、アメリカで認められているホームスクーリング制度を利用しながら家庭内で教育し、常に自分たちの目の届く範囲に置いていた。子供たちには日頃から、「外の世界は危害を加える人たちが大勢いて危ない。だから家の敷地から出てはいけないよ」と言い聞かせていたという。
そんな教えを子供たちもよく聞いていたようで、たまに隣家の子供がベバー家の子供たちに外から声をかけるようなことがあると、皆、黙ったままそそくさと家の中に閉じこもってしまうのが常だった。
そうかといって、ベバー家の子供たちにとって、家庭が安住の地であったわけではない。両親は子供たちに対し、日常的な虐待を繰り返していたからだ。
つまり子供たちは、家の中にも外にも安息のない、閉ざされた生活を強いられていたのである。
そうした異質な生活の中で、ほかの弟妹たちより一足先に思春期を迎えた長男のロバートと次男のマイケルは、いつしか過激な妄想に駆られるようになる。
ロバート15歳、マイケル13歳の時。彼らは「殺人」に強い興味を持つようになっていた。
1999年に起きたコロンバイン高校の銃乱射事件や、2012年にコロラド州オーロラ市でおきた銃乱射事件などは、彼らの関心を助長する悪しき手本となり、それらのニュースを食い入るように見つめるうち、2人は無差別殺人やシリアルキラーを崇拝するような感情を抱くようになったのだ。
もし、彼らのように銃を乱射して家族を一掃できれば、開かれた自由な生活が手に入るかもしれない。両親の言うように、外の世界が危険に満ちていたとしても、銃さえあればどうとでもなるだろう。
そう考え始めた2人が、インターネットで銃や弾薬を購入できることを知ったのは、2015年6月のことだった。
もはや2人に迷いなどなかった。閉塞したこの環境から解放されたい一心で、すぐに銃と弾薬をオーダー。しかし、もしこんな買い物をしたことが両親にバレてしまったら、すぐに取り上げられてしまうだろう。そうなると、計画が台無しになるばかりか、どんなひどいお仕置きが待っているかわからない。
それでも、もうオーダーは成立してしまった。グズグズしてはいられない。
2人は話し合った末、荷物が届くよりも前に計画を実行するのがベストであると判断した。
「よし。決行日は、荷物の到着予定日の前日、7月22日にしよう――」
■一家を襲ったその夜の惨劇
「パソコンで面白いものを見せてあげるからおいでよ」
午後11時。マイケルはまず、13歳の長女クリスタルをそう言って自室に招き入れた。
そして、何も知らずに部屋に入ってきたクリスタルの背後からロバートが口を塞ぎ、用意していたナイフで手早く喉を搔き切る。クリスタルが断末魔のような悲鳴をあげたことに慌て、さらに念を入れて、腹部と両腕にもナイフを突き立てる。
これだけ傷つけられても、クリスタルはまだ死なない。これは2人にとって想定外のことだった。
最後の力を振り絞って抵抗するクリスタルに2人が手こずっていると、物音に気づいた母親のエイプリルが、「どうしたの?」と部屋に飛び込んできた。
するとロバートは矛先を母親に向け、迷うことなく頭や首、腕、胴体を滅多刺しにする。後の検視では、エイプリルの体には実に48ケ所の傷跡が残されていたというから、2人の興奮ぶりが窺える。
母親の死を確認した2人は次の獲物を探そうと周囲に目をやった。そこで、あることに気がついた。虫の息であったはずのクリスタルがいない。――家の中にけたたましい警報音が鳴り響いたのはその時だった。
マイケルが慌てて外へ飛び出すと、どうにか家から脱出しようともがくクリスタルの姿があった。彼女を室内に引きずり込んだマイケルは、首を絞め上げる。
一方、ロバートはその時、突然の警報に混乱して室内を徘徊していた父親のデイビッドを見つけ、その胸に力一杯ナイフを突き立てていた。
膝から崩れ落ちながらデイビッドは、「お前は、なぜこんなことをするんだ?」と、絶望した表情で彼に問いかけた。
その質問に対してロバートはこう答えたという。
「そうしなければいけないからだよ」
崩れ落ちる父親を尻目に、ロバートはマイケルと合流すると、ほかの弟妹たちの居場所を探して回ることにした。
■妹を滅多刺し
ところが、異変に気づいたのか、リビングにも彼らの部屋にも姿が見えない。
そこで、バスルームの鍵がかかっていることに気づいたのは、マイケルだった。どうやら7歳のクリストファーと5歳のビクトリアが中に隠れているらしい。
ナイフを片手にガチャガチャとドアノブを回すが、当然開くことはない。マイケルは一計を案じ、扉の向こうにいる2人にこう叫んだ。
「ロバートに殺される! 俺も中に入れてくれ!」
この言葉を信じたクリストファーが鍵を開けると同時に、マイケルはドアを蹴って中に押し入った。
兄を救おうとした幼い2人に、騙されたことを理解する時間があったのかどうかは定かではない。マイケルはクリストファーの背中や胸、肩、足など計6ケ所を刺して殺害。さらにビクトリアにいたっては全身18ケ所を刺しており、バスルームには内臓が飛び散るほどだった。
残るはあと2人。家の中を捜索してまわる2人は、父親の書斎に鍵がかかっていることに気がついた。扉の向こうから何やら話し声が聞こえてくる。中にいるのは12歳の三男ダニエルだ。
2人の兄は、クリストファーらを殺した時と同様に、「開けてくれ、殺される!」と助けを求めて扉を開けさせ、彼にナイフを突き立てた。
遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきたのは、その直後のことだった。ダニエルが通報したらしい。
慌てた2人は裏口から外へ駆け出し、近くの雑木林に身を隠したのだった。
なお、事件の翌日。べバー家には銃と3000発の弾薬が届けられたという。
■実行されなかった“その後”のプラン
これが、ブロークン・アロー史上最も凶悪な犯罪と言われる、「ベバー家殺害事件」のあらましである。
ロバートとマイケルにとって誤算だったのは、最初に襲いかかったクリスタルが、奇跡的に一命をとりとめていたことだろう。
警官に保護されると彼女は、「長男と次男が犯人である」と伝えた。やがて警察犬が投入されると、2人は雑木林に隠れているところをあっけなく発見されることになる。
長男と次男によって殺害されたのは、計5人。生き残ったのは長女クリスタルと、2歳の三女オウタムだけだった。
ちなみに、幼いオウタムが無傷でいられたのは、決して温情などではなく、単にほかの家族の殺害に時間がかかりすぎ、彼女にまで手が回らなかったというのが真相である。
なお、拘置所へと送致された2人は取り調べに対し、この夜、実行できなかったプランについても明かしている。
「家族を皆殺しにした後は、全員の死体をバラバラにして、屋根裏に隠すつもりでした。その後は親の車を使って、通りすがりの街で最低50人、できれば100人くらい殺すつもりでした」
ブロークン・アローを震撼させた2人の言葉。しかし、裁判において弁護人は、2人の無罪を主張した。
長年にわたって親から虐待を受け続け、家の中という狭い世界に閉じ込められていたことによる精神的、肉体的苦痛こそが諸悪の根源であり、「2人は刑務所ではなくリハビリ施設に通わせるべき」というのがその言い分だった。
しかし、結果として裁判所は2人に「終身刑」という有罪判決を下している。
5人の犠牲を生んだベバー家の物件。事件後、市議会は惨劇の現場となった空き家を取り壊そうと資金集めを始めていたが、2017年3月、何者かの放火によって家は全焼してしまった。
現在、ベバー家の跡地は、犠牲者と捜査関係者へ祈りを捧げるメモリアルパークになっている。
犯罪ドキュメンタリー・トーク番組「トゥルークライム アメリカ殺人鬼ファイル」
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(「トゥルークライム アメリカ殺人鬼ファイル」プロジェクト)
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