元受刑者すら哀れむ名古屋の刑務官たちの“異様な生態”とは「俺らは何年かで出られるけど、あっちは『無期懲役』だからね(笑)」《22人が暴力、不適切行為は462件》

元受刑者すら哀れむ名古屋の刑務官たちの“異様な生態”とは「俺らは何年かで出られるけど、あっちは『無期懲役』だからね(笑)」《22人が暴力、不適切行為は462件》

写真はイメージです ©iStock.com

 愛知県の名古屋刑務所で、20~30代の刑務官総勢22人が、男性受刑者3人に対して手やスリッパで叩くなどの暴行を繰り返していたことが発覚し問題になっている。

 名古屋刑務所では2001年に刑務官が受刑者の肛門に消防用高圧ホースで放水して死亡させる悲惨な事件が起き、2002年にも革手錠のついたベルトで腹部を締め付けられた受刑者が死亡している。そんないわくつきの名古屋刑務所で再び発覚した暴行事件。

 犯罪者ですら「一番行きたくない刑務所」と恐れる“名刑”(名古屋刑務所の略)。しかし元受刑者から話を聞くと、その実態は想像を超えるものだった――。

 府中刑務所(東京)、大阪刑務所と並ぶ日本最大規模の名刑は収容定員が約2500人に達する。重犯罪を犯した受刑者が集められ、内訳は暴力団員なども含む日本人の再犯者が約2000人、外国人が約500人という構成だという。

■「受刑者が暴行を受けたのも、おそらく他の人の目が届かない保護房でしょう」

 数年前まで約6年間服役していた関西在住のX氏(50代)は、名刑の特殊さをこう語る。

「あそこは刑務所というより、刑務官による刑務官のための王国なんですよ。俺ら受刑者は王国の奴隷みたいなもので、生きていくには自分の子供みたいな年齢のオヤジ(刑務官)の犬にならないとやっていけない。作業中に少しよそ見をすれば怒鳴られるし、言葉遣いも常に高圧的です。そんなオヤジが喜ぶように、時には他の受刑者のことを教えてあげたりもしましたよ。今思い出しても屈辱的で『ふざけんな』と気分が悪くなる。とは言っても、オヤジの多くは王国の一般兵でたいしていい生活をしているわけじゃないんですよ」

 受刑者の多くは6人部屋などの雑居房で過ごすことになるが、模範囚には独居房が与えられることもある。そして精神的な病を抱えるなどして工場での刑務作業ができない受刑者は“保護房”に隔離されるという。

「2500人も受刑者がいるから、いいヤツもいれば悪いヤツもいる。ピンク(性犯罪)や志願兵(寒い時期などにあえて犯罪行為をして刑務所で過ごす受刑者)は、刑務所でも最底辺の扱いを受ける。一方でシャバでとんでもない強盗をしてた外国人のギャングが妙にピュアだったりして、刑務所のことを『修学旅行みたいで楽しい』なんてやつもいました。

 ただどんなに軽蔑されてる受刑者でも、人目があるところではそうそう殴られたりはしません。他の受刑者が黙っていませんから。今回の受刑者が暴行を受けたのも、おそらく他の人の目が届かない保護房でしょう」(X氏)

 しかしX氏は自らが受けた仕打ちについては「屈辱的」と憤りながらも、刑務官が受刑者に暴行を加えることについては「わかるような気がする」と意外な反応を示す。

「1日中壁に向かってしゃべっているやつとか、すぐに叫んで暴れるやつもいるわけで、中を見てきた俺にすれば、手が出る気持ちはわかりますよ。オヤジたちは受刑者を制圧するのが仕事なわけで、中指を立てたり土下座させるくらいはあるだろうなぁというのが正直なところ。刑務所に入ったことがない人はわかんないだろうけど、あそこは特殊な場所だからね。それに刑務官って仕事は想像以上にしんどいんですよ。給料も安いしね(笑)」

 受刑者にすら哀れまれる刑務官の業務実態とは、どのようなものなのだろうか。

「刑務官の世界もヤクザと一緒で完全に縦社会でね、制服に入ってる線の数で階級がわかるようになってる。銀の線が1本だとペーペー、2本で中堅、3本だと現場の中では偉い方。で、その上に線が金色の“金線”と呼ばれる若いキャリアがいる。毎朝その“金線”が刑務作業の工場を巡回する時は、いつもは偉そうにしてるオヤジたちが“金線”の顔色を窺ってビクビクしてるのがわかる。いいところを見せようとして、やけに受刑者を厳しく怒鳴りつけたりしてね」(X氏)

■「日本のエリートってこんなもんかって思っちゃいましたよ」

 刑務官にとって、受刑者をいかにコントロール下に置くかが“評価”のポイントになっていて、高圧的な態度を取ることにつながるようだ。その価値観はキャリアたちも同じだという。

「“金線”のキャリアには東大卒とかもいるはずなのに、あいつらも現場の刑務官に負けないぐらい口が悪い。日本のエリートってこんなもんかって思っちゃいましたよ」(X氏)

 そして当然、受刑者たちも決して従順なばかりではない。

「一方の俺たちは娯楽なんてないしヤクザも多いから、服従しているフリはしていても基本的にはオヤジたちを馬鹿にしている。で、馬鹿にされてるオヤジは、だいたい変なあだ名を付けられる。つんつるてんのズボンをはいてれば“ファッションしまむら”、鼻が長くてポットみたいなやつは“象印”とかね(笑)」(X氏)

 さまざまな犯罪者が集まる刑務所では、グループ間での集団喧嘩のような受刑者同士のトラブルも多い。しかも数十人の受刑者が働く工場でも監督の刑務官は1人か2人だという。そのため喧嘩が起きそうな険悪な雰囲気を察知すると、刑務官は非常ボタンを押して“増援”を求めるという。

「非常ボタンを押すと、いろんなところからオヤジたちが湧いて出てくるんですよ。若いのは猛スピードで走ってきて、おっさんはチャリで。100人くらい集まってきて、受刑者はあっという間に地面に押しつけられて制圧される。昔は到着が早かった上位5人にうどん券が配られたらしく、全員異常なスピードです。だから喧嘩は最初の1分が勝負。抵抗する気なんてないのに、息ができないぐらい押してくる奴も多い。それにしてもあの赤チャリ懐かしいな(笑)」(X氏)

 工場の監督を担当する刑務官は“猛者”揃いで、柔道の黒帯など、1人で複数人を制圧するくらいの能力は当たり前に持っているという。中には「俺に尻餅をつかせたら仮釈(仮釈放)1年やるよ」などと冗談を言う刑務官もいるようだ。

 名刑は過去の死亡事件などの教訓から、過剰な“制圧”や暴行などを受けた受刑者が問題のある刑務官を報告するための投書箱も設置されている。しかし、X氏は「あんなもの、投書できるわけないんだよ」とその形骸化を指摘する。

「投書箱の場所がオヤジたちが詰めているところの近くで、誰が入れたかが丸わかり。自分が担当する受刑者が何か入れてるのを見たらキツく当たられるから、誰も入れてないんじゃないかな」

 X氏は一通り不満をぶちまけた後、名古屋刑務所での“感動体験”を語りだした。

「慰問は良かったな。芸能人とかも来たけど、俺が一番記憶に残っているのは毎年来てくれる愛工大名電高校の吹奏楽部。全国大会に出るようなレベルの演奏で、結構感動するんだ。でもあれ、生徒さんにとっては地獄やと思いますよ。舞台に幕がかかった体育館に約1000人の受刑者が集められて、ステージで生徒さんが準備してる間も、『動くな!』『顔を上げるな!』とか尋常じゃない怒鳴り声が響き続けてるんだから。オヤジも女子高生の前で張り切ってるんだろうけどね。

 それでいざ幕が上がると、同じ服の囚人1000人が死んだサバみたいな目をして並んでる。そりゃ音だって震えるだろうし、下手したらトラウマになるでしょ(笑)」

 演奏が終わると、肩から上に手を上げることが許されていない受刑者たちは、高校生に胸の高さでゆっくりと拍手を送るという。

■受刑者と刑務官の「どっちが悲惨かわからないよ」

 取材の最後、X氏は名刑の苦しい思い出とあわせて、刑務官たちへの“哀れみ”をこう表現した。

「名刑には二度と戻りたくないね。オヤジたちはうざいし、何より食事がまずいんだ。お湯にネギが浮かんでるだけの味噌汁とか、甘くもなんともないぜんざいとか。元ギャングの外国人とかは喜んで食べてたけど、オヤジたちは本当に検食してんのかな。俺らは何年かで出られるけどオヤジは定年までずっとだから、どっちが悲惨かわからないよ。俺らはオヤジたちのことを『無期懲役』って呼んでるからね(笑)」

 2001年から20年たっても一向に改善していないことが発覚した名刑の実態について、危機感をあらわにする法務省の関係者もいた。

「12月27日の第三者委員会の初会合でも、監視カメラの映像解析などから去年11月~今年8月にかけて3人の受刑者に対する直接的な暴力行為だけで107件あったことがわかりました。土下座をさせたり中指を立てたりといった不適正な処遇は355件にも上ります。つまり、名古屋刑務所の状況は20年前から何も改善されていないんです。行為自体は微罪かもしれませんがしっかりとした処分をしなければならないため、検察は事件を担当する名古屋地検に東京からエース級の検事を異動させることを決めています」

 暴行事件の真相解明には、刑務所という閉鎖された空間の実態を理解することが第一歩になるだろう。

(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))

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