国葬が開かれた日本武道館に“あの日”の国技館…令和の今「消えた犯罪」の“ヤバい裁判”

国葬が開かれた日本武道館に“あの日”の国技館…令和の今「消えた犯罪」の“ヤバい裁判”

国葬も開かれた日本武道館 ©iStock.com

 今年9月27日に安倍晋三元総理の国葬が日本武道館で行われました。日本武道館って様々なイベントが行われている建物ですが、名前通りの武道の催し物はあまりやってないイメージですよね(調べてみると週に一度のペースで行われているようですが)。

 個人的にも29年前に筋肉少女帯のライブを見に行ったのが初めての武道館で、一度だけテレビ番組のイベントでステージに立ったことはありますが、それ以外は全てライブを見るために訪れた場所です。武道よりもコンサートやライブ会場という認識の人も多いでしょう。

 あとは、道すがらにチケットを売買するダフ屋が何人も立っている場所というイメージの人もいるかも知れませんね。今はルールも厳しくなってダフ屋はほとんど見なくなりましたし、ダフ屋の裁判も東京地裁では年に1つあるかどうか。もう平成で途切れた犯罪なのかも知れません。

 今回は、そんなまだダフ屋が活躍していた頃の裁判傍聴記です。

■11年前のあの頃、とあるチケットが注目を集めた

 2011年6月24日に東京地裁で行われた裁判。

〈罪名 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反

被告人 無職の男性(44)〉

 起訴されたのは、2011年5月16日12時27分に被告人が東京・両国国技館前の歩道上で大相撲技量審査場所9日目の入場券を男性(70)に3000円で販売したという内容です。

 11年も経つと忘れてる人も多いでしょうけど、大相撲は八百長問題というスキャンダルで注目されていて、それを受けて2011年3月の本場所を取り止め。そして、五月場所を大相撲技量審査場所という名前にして入場無料で開催すると決定したんです。

 入場券の申し込みは殺到して、すぐに予定枚数に到達。当日券も1000枚ほど用意してたんですが、連日すぐになくなっていたというのが当時の状況です。大相撲がタダで観戦出来るとなれば興味のない人も見たくなりますからね。

 イメージ的に黒星続きだった相撲協会が、八百長の徹底調査や暴力団の入場禁止などを掲げ、技量審査場所では力士のケータイを持ち込み禁止にするなどのアピールはしていたんです。しかし、ダフ屋の排除までは手が回らなかったようです。

■「券を持たずに両国国技館へ行くと、男から『5000円だよ』と声を掛けられた。断ると…」

 検察官の冒頭陳述によると、被告人は高校を卒業後は数々のアルバイトをして、犯行当時は無職だったという。被告人は1995年からダフ屋行為で生計を立てていて、2001年と2002年に本件と同じ罪で罰金刑を受けていて前科2犯。

 入場券を購入した男性は取り調べに対し「券を持たずに両国国技館へ行くと、男から『5000円だよ』と声を掛けられた。断ると『3000円でどう?』と言われて入場券を買った」と述べたそうです。

 一方、被告人は「週に5日ほどダフ屋行為をしていた。普段は宝塚、クラシックコンサート、演劇などのチケットでやっていた。暴力団などとは関係なく個人で活動していた。今回の入場券は、金券ショップで500~1000円で買った券だった」と供述したそうです。

 元々は無料のチケットが金券ショップでは1000円で売られ、末端価格が3000円にまでなっていたという事ですね。あまり語られない事実ですが、相撲の歴史の1ページとしてここに記しておきます。

 週5日活動してプロのダフ屋として生計を立てていた人物。芝居やライブと同じように、金になると思って技量審査場所の入場券にも手を出したという感じでしょうか。

■そしてはじまった被告人質問。浮かび上がった「珍しいパターン」

 被告人質問です。まずは、弁護人から。

〈弁護人「まず、起訴状の内容に間違いないですね?」

被告人「はい、間違いないです」

弁護人「暴力団との付き合いは?」

被告人「ないです」

弁護人「会場とか劇場の前でダフ屋行為をしてる同じような人がいると思うんですが、そういう人と話すことは?」

被告人「ないです」〉

 ダフ屋行為って他の裁判を傍聴して知ったのは暴力団などが組織的に行っているケースが多いんです。しかし、被告人は同業者と喋ることもしない一匹狼。ちょっと珍しいパターンです。

■ダフ屋行為で得たお金で演劇鑑賞。その数「年に500本」

〈弁護人「ダフ屋行為で得たお金の使い道は?」

被告人「演劇鑑賞です」

弁護人「どれ位の頻度で鑑賞してたんですか?」

被告人「1日に1~2本で、年に500本程です」

弁護人「どんなのを観てたんですか?」

被告人「様々ですが、中小劇団です。下北沢とかでやってるような」

弁護人「年数としては?」

被告人「本格的には15年位です」〉

 宝塚などの演劇のチケットを転売して得たお金で演劇鑑賞ですよ。しかも、年間500本って! 映画を年間500本見る人はいても、演劇となるとなかなかいないんじゃないですかね。時間的にも金額的にもそう簡単には出来ませんよね。小劇団に最も詳しいダフ屋ですよ。

■「打ち上げにも行くんですか。どんな話をするんですか?」「自分で言うのもなんですが…」

〈弁護人「それだけ足を運ぶと、劇団の人と話すこともあるんじゃないですか?」

被告人「はい」

弁護人「打ち上げに行ったりもするんじゃないですか?」

被告人「はい。誘われれば」

弁護人「どんな話をするんですか?」

被告人「自分で言うのもなんですが、ご意見番的な」〉

 演劇をよく見てるだけじゃなく、役者に意見してたんですね。小劇団界隈では権威ある有名人だったかも知れません。まさか裏では演劇のチケットを転売して稼いでる人物とは誰も思ってなかったでしょうけど。

■「ダフ屋はやめます!」「家宅捜索で自宅からチケット7枚が見つかったそうですけど…」

〈弁護人「そうなると招待券を貰ったりは?」

被告人「はい」

弁護人「それを売ったりするんですか?」

被告人「いやいや」

弁護人「それは売らない、と」〉

 商業演劇は飯の種、小劇団は趣味と被告人の中ではハッキリと区別していたようです。

〈弁護人「観劇は続けるんですか?」

被告人「はい」

弁護人「仕事はどうするんですか?」

被告人「定職に就くかアルバイトを探します」

弁護人「長年ダフ屋やって来て、簡単にやめられます?」

被告人「気持ちを切り替えて、やめます!」

弁護人「家宅捜索で自宅からチケット7枚が見つかったそうですけど、どうしましたか?」

被告人「破って捨てました」〉

 売れ残ったチケットを破り捨てるように過去の自分とは訣別すると決意してるようです。今後はダフ屋を辞め、演劇鑑賞を続けるために真っ当な仕事に就くと約束して質問終了です。

“チケット転売問題”のかげで「消えたあの犯罪」…儲けた男が裁判で語った「予想外のカネの使い道」とその末路 へ続く

(阿曽山大噴火)

関連記事(外部サイト)

  • 記事にコメントを書いてみませんか?