「水が黒くて、変な味がする」とクレーム、ホテルのタンクに緑色に腐乱した女子大生の裸体が…LAで起きた怪死事件の映像がネットで大拡散されたワケ

「水が黒くて、変な味がする」とクレーム、ホテルのタンクに緑色に腐乱した女子大生の裸体が…LAで起きた怪死事件の映像がネットで大拡散されたワケ

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 2013年1月31日、中国系カナダ人のエリサ・ラムがロサンゼルスのダウンタウンにあるセシル・ホテルから忽然と姿を消した。連絡が取れないことを心配したエリサの両親が警察に通報するも、エリサの痕跡は一切見つからなかった。

 そんな中、ホテルの客から「水の出が悪い」と苦情が寄せられ始め、ホテルの担当者がその件について調査した際に、ホテルの屋上の貯水タンク内でエリサの遺体を発見した。エリサの遺体は全裸で、衣服や所持品は遺体の近くの水の中に浮いていた。ロサンゼルス郡検死局は4ヶ月後に検死報告書を公開し、遺体には外傷の形跡はなく、死亡した原因は不慮の事故によるものだったとした。

 しかし、警察が遺体が発見される5日前に公開した生前最後の映像では、エリサはエレベーターを出たり入ったりし、時折エレベーターの中に身を隠すような怪奇な行動を見せていたことから、この事件は世界中から関心を惹き付け、広く議論の的となった。アメリカでは重大なミステリー事件の一つとして今も注目されている「エリサ・ラム怪死事件」とは何だったのか? 本当にただの不慮の事故だったのか? 

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■監視カメラが捉えていたエリサの不可解な行動

 ロサンゼルスのダウンタウンには、“スキッド・ロウ”と呼ばれる、ホームレスの人々が多数居住し、犯罪も多発している地区がある。2013年2月19日、そのスキッド・ロウからわずか数ブロックのところにあるセシル・ホテルで変死体が発見された。

「水の出が悪く、黒っぽく濁っており、変な味がする」という宿泊客たちのクレームを受けて、ホテルのメインテナンス係が屋上に設置されている貯水タンクの点検に行ったところ、水の上に仰向けに浮かんでいる、緑色に腐乱した裸体を見つけたのである。それは、1月31日から行方不明になっていたエリサ・ラム(21歳)という、中国系カナダ人の女子大生の遺体だった。

 検死の結果、性的暴行を受けた痕跡や肉体的外傷がなかったこと、また事件性も見出されなかったことから、ロサンゼルス警察は、エリサが患っていた双極性障害に起因する、不慮の事故による溺死と判断した。

 しかし、遺体が発見された場所が貯水タンクの中だったことや、行方不明になった当日、エレベーターの監視カメラがエリサの不可解な行動を捉えていたことから、今でも、その死は、“未解決のミステリー”となっている。

■客がホテルに訴えたエリサへの不満

 エリサは、当時、バンクーバーにあるブリティッシュ・コロンビア大学の学生で、カリフォルニア州に1人旅に訪れていた。サンディエゴ動物園を訪ねた後、1月26日にロサンゼルスに入り、28日にセシル・ホテルにチェックインしている。

 最初は相部屋に宿泊していたが、同室の客がエリサの態度がおかしいとホテルに不満を訴える。エリサが「家に帰れ」「向こうへ行け」などの書き置きを残すというのだ。また、部屋に鍵をかけ、同じ部屋をシェアしている宿泊客に入室するためにはパスワードを言うよう求めたりもしたと言う。ホテルのマネージャーに対しても「クレイジー」と罵倒。そのため、エリサは1人部屋に移された。

 エリサは、ホテルを2月1日にチェックアウトし、その後、サンタクルーズへと北上することになっていた。旅行中、両親に毎日のように連絡をしていたエリサだったが、1月31日、両親の元にエリサからの連絡は入らなかった。心配になった両親は娘が行方不明になったと警察に通報、警察はホテル内を捜索したものの見つからず、19日後、屋上の貯水タンクに浮かんでいるエリサの遺体が発見されたのである。

 ちなみに、最後にエリサを目撃したとされる、ホテルのそばにある書店のオーナーは、エリサが家族にあげるための本を買っていたと話している。

 事件は様々な謎を呼んだ。

■何者かに追いかけられていたのか

 エリサが行方不明になってから2週間後、警察は、エリサが最後に目撃された1月31日に、エレベーターの監視カメラが映し出したエリサのビデオを公開したが、その様子が奇妙だとネットで大きな話題になった。エリサの両親の母国である中国のネットでもそのビデオが拡散され、何百万人もの人々が視聴した。

 エリサは、開いたままのエレベーターの中で慌てた様子でボタンを押しまくったり、エレベーターの外に身を乗り出してまるで誰かいないか確認でもするかのように左右を見ている。かと思えば、身を隠すかのように、エレベーターの隅に縮こまって直立している。また、エレベーターの外で、目に見えない誰かと話でもしているように、両腕をヒラヒラと動かしたりもしている。

 犯罪心理学者もこの時のエリサの様子について「彼女は誰かから隠れようとしているように見える。とても奇妙だ」と指摘した。

 エリサは何者かに追いかけられていたのだろうか? 実際、エリサは旅行中に誰かと出会えたらとタンブラーのブログに書いていたという。そのため、ネットでは、エリサは誰かと出会い、その人物と上手く行かず追いかけられていたのではないかという憶測もされた。また、エレベーターが閉まらなかったのは、誰かが閉まらないように押さえていたのではないかという声もあがった。

■事件の最大の謎は…

 警察は、エリサの奇妙な行動は、双極性障害という、エリサが患っていた病気に起因しているという見方を示した。

 薬を十分に服用していなかったエリサが双極性障害の症状に襲われ、誰かに追いかけられていると妄想し、その誰かから逃れるために屋上に行き、タンクの中に身を隠そうとしたところ、誤って落ちたのではないかというのだ。

 エレベーターの中で見せた不可解な行動も、誰かに追いかけられていると感じたために取った行動ではないかという。実際、エリサの姉も、エリサが時々誰かに追いかけられていると訴えることがあったと話していたようだ。

 しかし、もし仮に誰かから逃げていたとして、最大の謎は、エリサがどうやって、屋上にあるタンクにアクセスすることができたのかだ。屋上に入るための扉はロックされており、鍵やパスコードを持っている従業員だけしかアクセスできないからである。

 また、安全上、屋上に誰かがアクセスした場合、警報器が鳴るシステムになっているが、その警報器を解除できるのは従業員だけ。また誰かがアクセスした場合、ホテルのフロントに通知が行くシステムになっていたという。しかし、ホテルでは警報器が鳴らず、フロントにも通知が行っていなかった。

 もっとも、火災時の非常階段を使えば、屋上には簡単にアクセスできたことから、エリサが非常階段を使った可能性も指摘された。実際、警察犬も、非常階段に通じる窓のところでエリサのにおいをキャッチしていたという。しかし、屋上では、彼女のにおいをキャッチできていなかった。

■重量を減らすために服を脱いだ可能性

 仮にエリサが非常階段を通じて屋上に入ることができたとしても、巨大なタンクの中に1人で入るのは容易ではないとホテルのメインテナンス係は話している。また、タンクの中に入るには高さが約3メートルある梯子を上る必要もあった。

 水に浮かんでいた遺体が裸体で、そばにはエリサが着ていた服が浮かんでいたのだが、それも不可解だと考えられた。事故による溺死だったとしても、なぜ裸体なのか? これについては、捜査官は、タンクの中に誤って落ちたエリサが、水に浮き続けるためには重量を減らす必要があると考えて服を脱いだ可能性があるという見方を示している。

 しかし、結局のところ、どれも推測止まりだ。なぜ、エリサがエレベーターの中で奇妙な行動をしていたのか、なぜ屋上に行き、遺体が貯水タンクの中で発見されたのかは、わかっていない。

■ホテルと未解決殺人事件の関係性

 また、エリサの変死は、セシル・ホテルの黒い歴史と関係があるのではないかという見方もされた。セシル・ホテルは自殺や殺人が起きたり、連続殺人犯が宿泊したりした、ロサンゼルスでも恐ろしいホテルとして悪名が高く、Hotel Death(死のホテル)とまで呼ばれることもあったからだ。50年代、60年代は飛び降り自殺が相次ぎ、未解決の殺人事件も起きていた。薬物売買や売春といった犯罪の温床にもなっていた。

 1947年には、“ブラック・ダリア”と呼ばれた女優のエリザベス・ショートが殺害される事件が起きたが、ショートは殺害される前にこのホテルのバーで酒を飲んでいたと言われている。ショートの遺体は腰のところで半分に切断されていたが、この事件も犯人が見つかっていない有名な未解決事件の一つとなっている。

 1985年には、深夜、家に忍び込んで少なくとも13人もの女性を殺害したとされる、「ナイト・ストーカー」と呼ばれた連続殺人犯リチャード・ラミレスがこのホテルの最上階に住んでいた。ラミレスは殺人の証拠となる返り血を浴びた服をホテルのゴミ箱に捨て、半裸でホテルに戻っていたと言われている。

■超常現象がエリサを貯水タンクへと運んだのか

 1991年には、3人の娼婦を殺害したジャック・アンターウェガーというオーストラリア人ジャーナリストもこのホテルに滞在していた。

 自殺が多発し、悪名高き殺人鬼も住んでいたセシル・ホテルは、死を招く呪われたホテルとして悪評が高かったのだ。そのため、エリサは、霊や悪魔に取り憑かれたり、超常現象に襲われたりしていたのではないかという見方までされた。

 たしかに、エレベーターでのエリサの様子は奇妙で、両腕を動かしている時は、カメラに映っていない、目に見えない誰かと話しているようにさえ見える。エリサは霊や悪魔のような存在に追いかけられ、逃げ込んだ屋上の貯水タンクに誤って落ち、溺れてしまったのだろうか?

 警察犬はエリサのにおいを非常階段に通じる窓のところで見つけたが、屋上では見つけられなかったのも不可解である。エリサが屋上を通らなかったとしたら、どうやって貯水タンクの中に入ったのだろうか? 超常現象がエリサを貯水タンクへと運んだのだろうか?

 エリサの怪死はまた、鈴木光司原作の邦画『仄暗い水の底から』をハリウッドがリメイクした作品『ダーク・ウォーター』(2005年公開)のプロットに似ているとも言われた。また、当時、ダウンタウンで行われていた結核検査の名前が“ラム - エリサ”と偶然にもエリサと同じ名前だったことや、エリサの携帯電話が見つからなかったこと、また死後、なぜか彼女のブログが更新されていたことも奇妙だと考えられた。

 エリサの死は数々の謎を残したまま、来年、事件は発生から10年を迎える。

(飯塚 真紀子)

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