あおり運転取締り進まぬ理由
2023年01月05日 07時00分文春オンライン

月の摘発件数はわずか8件程度…死亡事故も起きているのに「あおり運転」の取り締まりが進まない“致命的な理由”の画像
2017年に東名高速道路上で起きたあおり運転による死亡事故を契機に、2020年6月の道交法改正で「妨害運転罪」が新設された。厳罰化による大きな抑止効果が期待されたが、今なお道路上での悪質な威嚇行為は後を絶たない。
警察庁交通局によれば、2021年中の妨害運転罪の適用件数は96件。2022年は7月末までの数字で58件。厳罰化から2年が経過したが、月に8件程度のペースは当初から変わらない。あおり運転の発生頻度や、その危険性を鑑みると、十分な成果とは言いがたい。
■妨害運転罪による取り締まりのネック
こうした足踏みの原因は、具体性を欠く妨害運転罪の構成要件にその一端がある。そもそも妨害運転罪は、飲酒運転のように客観的な事実によってのみ認定されるものではない。すなわち、車間距離不保持など「妨害運転の10類型」に該当する事実的行為に加え、「相手を妨害する目的」および「危険を生じさせるおそれ」という2要件が揃ってはじめて認定されるのである。
このように違反者の「意図」を解釈しなければならない点が、取り締まりの1つのネックである。警察庁によれば、この意図の有無は「個別具体的に判断」されるとのことであり、また大阪府警は「複合的な要素を含む罪状ゆえに統一的な基準を設けることが難しい」との見解を示す。加えて、重い罰則規定を含む罪状でありながら、判断が恣意的になりかねないことから、運用にあたり慎重姿勢を取らざるをえない面もあるだろう。
もちろん、法律の文言は実際の運用を通じて具体化されていく面もある。たとえば「ながら運転」の規制にあっては、条文にある画面の「注視」という文言が示す具体的な程度について、運用のなかで基準が明確になっていった。とはいえ、妨害運転罪の場合にはさらに多くの観点が必要であり、たとえば車間距離不保持のケースに限っても、どのくらいの時間、どのくらいの距離まで詰めていれば「妨害する目的」が判然とするのかなど、客観的な基準を設けてはかえって非効率的になりかねない。
■あおり抑止のカギは行政のデジタル化
あおり運転の抑止に劇的な効果をもたらすのは、取り締まり基準の明確化よりも、むしろドライブレコーダーの映像をもとにした捜査体制の整備かもしれない。ドラレコ映像の有用性は警察側も認めるところであり、ウェブサイト上に専用の情報提供窓口を用意する都道府県警もある。全国で初めて専用窓口を設置した岡山県警には、1年間で1000件以上の情報が寄せられ、妨害運転を含む38件の検挙につながった。
さらに警察庁によれば、第三者による映像提出であっても妨害運転罪は立件可能だという。あおり運転の映像が巷にあふれる現状、被害車両以外からの映像提出は捜査の有力な手がかりとなるはずだ。とはいえ現状、この形での摘発件数は警察庁では把握されておらず、また厳罰化から1年間の妨害運転の摘発件数が全国1位であった大阪府警でも、これに該当する事例はまだないとのことだった。
■警察側も捜査の充実化に向け新技術を導入
そもそも各都道府県警の情報提供フォームは、映像を受け付ける窓口としては相当に使い勝手が悪い。情報提供者は一度文面で詳しく状況を説明し、警察側の要請を受けてからでないと、映像を提出できないのである。
そこで期待を寄せられるのが、2023年4月の本格運用を目指し試験運用が開始された「110番映像通報システム」だ。スマートフォンなどを介し、通報者が撮影する映像をリアルタイムに共有するシステムであり、危険運転のほか現場状況の把握が初動対応を左右する事件・事故全般への活用が見込まれる。ただしこれは直通のテレビ電話のようなものではなく、通報者は通報後、SMSに送られるURLから、口頭で伝えられたパスコードを入力してログインする必要があり、被害に遭っているドライバーがその場で状況を伝えられるとは考えにくい。
このように、警察側も映像をもとにした捜査の充実化に向け新技術を導入しているが、依然として「現場とのシームレスな情報共有」には課題が残される。抜本的な解決に向けては、通信技術と情報処理技術を応用した「テレマティクス」への対応が求められるだろう。たとえば「通信型ドライブレコーダー」は、車体への衝撃や後続車の接近などをトリガーに、登録した連絡先やオペレーターに自動で通知し、クラウドを介してリアルタイムに映像を共有する。あおり運転の被害を受けている映像を、その場で第三者に共有する技術的な地盤はすでに存在するわけである。
■テレマティクス関連サービスのクリアすべき課題
ドライブレコーダー以外にも、先進安全装備の普及とともに、車両には数多くのセンサー・カメラが取り付けられ、さらに今後は通信機能を介して車両側のデータがクラウドで共有可能になっていく。個別的な取り締まりよりも、こうして張り巡らされる監視と管理の網が、将来的にはドライバーを「健全化」させていくのかもしれない。
たとえば近年損保会社や自動車メーカーが導入するテレマティクス保険は、クラウドに蓄積した走行データをもとに運転特性を判別し、それを保険額に還元する制度である。これは直接にあおり運転を防止するものではないが、ここには「データ解析による高リスクドライバーの特定」および「高リスクドライバーへの不利益措置」という可能性が示されている。つまり「免許の色」よりも実際的な区分方法により、保険や行政手続きにおける差別化を図るなど、実利の面から安全運転を促す方向性も考えられるのだ。
もちろん、テレマティクス関連サービスに行政機関が介入するにあたっては、セキュリティやプライバシーといった面でクリアすべき課題も多い。情報提供窓口の整備を進めつつ、今後は「国家権力による監視と管理がどこまで許されるのか」についても議論していく必要がある。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『 文藝春秋オピニオン 2023年の論点100 』に掲載されています。
(鹿間 羊市/ノンフィクション出版)
そのうち秋田犬エヴィータの仮想通貨コインが世界に流通するんじゃないか? サツにメッシの絵を描いて高額売りつけやってる動画流れてたけど。
そもそも、煽り運転は「取り締まり」という定義の範疇には入らないでしょ。 信号無視、スピード違反、飲酒、歩行者妨害等は違反者を見つける目的でその場にいるかたまたま警察官がそこにいて検挙する。 煽り運転の場合はその場に警察官がいるわけではない。 取り締まりが進まないではなく、検挙数が上がらないが正解でしょ。 要件が厳しいなら要件を緩和すればいいじゃないか。ドラレコの映像と被害者の心情だけで判断して検挙すればいいだけのこと。 "取り締まり"というのはパトカーなり白バイがのべつ道路を走りまくって、煽り車を見つけるという目的でする行為じゃないの。 サボってるのではなく、検挙の要件を自ら厳しくしてるだけ。
煽らせ運転、居座り運転の方が多いからなのでは? YouTubeはかなり煽りやった後、切り取りして、悪質運転にしてしまう映像出してますけど。 30年以上毎日高速、一般道と都内近県へ仕事行ってるけど 平日は煽り運転見たことないですけどね。