その数400校! 中国で「ニセ大学」による入試詐欺が増えている理由

中国全土にニセ大学は392校存在か 入学金や学費名目で10万〜50万円程度振込ませる

記事まとめ

  • 中国のネットニュースではニセ大学の話題が活発になっているという
  • 中国全土に存在するニセ大学の数は392校で、「住所」は北京の151校が最多だそう
  • 入学金や学費の名目で10万〜50万円程度を振り込み、その後は音沙汰なしというパターン

その数400校! 中国で「ニセ大学」による入試詐欺が増えている理由

その数400校! 中国で「ニセ大学」による入試詐欺が増えている理由

2018年の大学入試「高考」の様子。多くの家族が会場の外で受験生を待つ  ©AFLO

 ここ5〜6年ほどで、中国製のニセモノ製品や怪しいニセ組織に関するニュースはずいぶん減った。もちろん、婚活サイトなどで軍人を名乗って女性を騙す「ニセ人民解放軍」事件が頻発したり、今年2月にネット商店主の女性が大手IT企業アリババの元幹部を自称してウソがバレた「ニセアリババ」事件が起きたりはしているが(ただしこの女性はアリババでの勤務経験自体はあった)、いずれも個人レベルの詐欺やフカシにとどまっている。

 だが、中国には現在もなお、スケールのデカいニセモノ話は残っている。その代表的なもののひとつが「ニセ大学」だ。中国語での表記は「野鶏大学(野良ニワトリ大学)」もしくは「虚假大学(虚偽大学)」である。

「野鶏大学」については、アメリカなどに多いディプロマミル(就学実態がなくてもカネで学位を与えてくれる学歴商法)についても同一の訳語が使われているのでややこしいが、中国のニセ大学の事情はもっと複雑である。一応はニセ学位をもらえる学校もあるのだが、入学金や学費を騙し取るだけの、より悪質な詐欺も多々見られるからだ。

 毎年6月に実施される、中国の全国統一型の大学入試「高考」(普通高等学校招生全国統一考試)まで100日を切った現在、中国のネットニュースではこの手のニセ大学の話題が再び活発になっている。

■400校近い「ニセ大学」が存在している

 2017年6月の高考後に明らかにされたところによれば、中国全土に存在するニセ大学の数は392校。その「住所」は北京が151校と最多で、他に上海市や山東省などでも30校近くが確認されるなど、中国に31地方ある省・自治区・直轄市のうち26地域で存在が確認されたという。

 校名の多くは「北京工商学院」(→北京工商大学)、「中国郵電大学」(→北京郵電大学)、「広州理工学院」(→広東理工大学)といった既存の大手大学のパクリや、「北京医科大学」「華北師範学院」のような、いかにも実在しそうな名前だったということである。

 2016年に四川省で明らかになったニセ大学・四川信息工程学院のホームページ上の住所は成都市内にある実在の大学・成都信息工程大学とほぼ同じ。同じくニセ大学の四川経済管理学院も、実在する四川科技職業学院の分校と住所が同一だったという。ニセ大学のホームページは多くが国外のサーバ上に置かれていたとのことであり、こうした特徴は他地域の大学も似たり寄ったりだ。

 昨年6月には「武漢経貿大学」を名乗るニセ大学が、実在する河北経貿大学のサイトをまるごとコピーした公式ウェブサイトを作っており、河北省当局から閉鎖させられる騒ぎもあった。

 こちらでは湖北省の武漢市の大学(という設定)にもかかわらず、大学案内のなかで「河北省共産党委員会・河北省政府が示した目標を実現し……」といったコピペ元サイトの文言を修正せずにそのまま使っていたとのこと。ウソをつくにしても、かなり雑な仕事ぶりだ。

■なぜ“いかにも”怪しい詐欺に騙されるのか?

 ニセ大学は、設定上では沿海部などの豊かな大都市にキャンパスが置かれていることが多いが、応募者の多くは農村出身者や、内陸部の貧しい地域の若者たちだ。だが、中国の大学は、日本でいうセンター試験とやや似た高考という公的な全国試験を受験しなければ基本的には入学できないシステムだ。ニセ大学が介入する余地はなさそうに思える。

「通常、中国の受験生は高考が終わった後にウェブサイト上で志望校を記入(填志願)して志望先の大学に出願する形式です。このときに書いた大学名は省の教育部門で審査されるはずなので、ニセ大学の名前を書くとバレるはず。通常の『填志願』を通じてニセ大学への入学手続きがおこなわれることはまずないと思います」

 日本生まれの華人2世が立ち上げたニュースメディアの 『Chi2ese NEWS』 に、中国の学生事情について記事を寄稿した在日華人の「ちゃんしゅー」さんもこう話す。ならば、被害者たちはなぜ騙されるのか。

「オフィシャルな『填志願』プロセスをすっ飛ばす形で、ニセ大学のホームページ上で入学手続きをおこなわせる例があるみたいです。応募者側は、高考の点数が振るわなかったにもかかわらず、(パッと名前を見た限りでは)有名大学っぽい大学に入学できるということで、騙されてしまうようですね」

■ターゲットは情報が不足している農村出身者

 ニセ大学は「特招(特別招待)」などの、いわば推薦入学やAO入試に近い形式を、カモに対して提案してくる例が多いようだ。カモを探すには農村部に張り紙を出すようなレトロな方法もあるが、QQ(チャットソフト)の受験生コミュニティから個人情報をぶっこ抜き、個別に営業をかけるような方法もある。

 そもそも、中国では大学の受験資格が地域別になっていて、一部の地方出身者は省外の名門大学に進学するハードルが非常に高い。加えて日本と同様に、田舎は都会と比べて大学受験の情報が圧倒的に不足しており、両親など周囲の人に大学進学者がいない例もあることから、特例的な入試形式を不自然に感じずに出願してしまう人もいるようなのだ。

 多くの場合、「合格」後に入学金や学費の名目で数万元(日本円で10万〜50万円程度)を振り込み、その後は大学側から音沙汰なし……(もしくは「入学」前に記載の住所に行ってから騙されたことに気付く)というパターンをたどることになる。

 また、上記のような入学金・学費詐欺とは異なった、アメリカ的なディプロマミル商法もある。

 近年の中国の大学進学率は40%台に達したとはいえ、内陸部のローカルな社会では大学進学者が比較的少ない。ひとまずそれっぽい校名の大卒であるだけで、多少は社会的信用を得られるといった事情もあり、ニセ大学なのを承知の上で学位を目的にカネを支払う人もいるわけである。

■1000万人の受験者が狭き門に殺到する

 そもそも、中国のニセ教育施設の歴史は長い。過去の例を調べると、1996年に山西省太原にニセ人民解放軍のニセ航空学校(空軍学校)が登場して以後5年間にわたり学生を受け入れ、ニセ校舎でニセ教育をほどこして学費ほかの費用を騙し取り続けていた……などといった凄い話もある。

 ただ、中国全土でこれだけ多くのニセ大学が生まれたのは、おそらくここ10年くらいの話だ。前述の2017年6月の報道で大量(392校)のニセ大学の存在が暴露されてからも、中国国内の報道を見る限り、ニセ大学は生まれ続けている模様である。

 理由はネット時代に入ったことが大きいだろう。一昔前と違って紙の書類やパンフレットなどをほとんどやりとりしなくなったこともあり、ニセ大学のホームページさえ作れば、ごく少人数でも学費や入学金を騙し取る詐欺をおこなうことが可能になったのだ。昔のようにニセ校舎まで準備して騙すのと比べれば、ネットで罠を仕掛けるのはずっと楽なのである。

 今年6月に実施される2019年度の高考には、中国全土で1000万人以上の受験者が見込まれているという(ちなみに今年1月に実施された日本のセンター試験の受験者は約54.6万人)。人口大国で狭き門に殺到する若者を対象にした怪しい受験詐欺は、なかなかなくなることはなさそうだ。

(安田 峰俊)

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