女子中高生とリア恋、“地雷男子”を恫喝、売春を禁止…“トー横の王”ハウルは一体何者だったのか「家出少年や家出少女を相手に自分の王国をつくりたい」
2023年01月22日 12時00分文春オンライン

※写真はイメージです ©文藝春秋
《トー横男女の恋とカネ》「未成年女子が“おぢ”と売春して地雷男子に貢ぐ」見惚れるようなイケメン大学生(19)が明かす“異常な実態” から続く
東洋一の繁華街、新宿・歌舞伎町。その華やかな世界の裏で、貧困にあえぐ女性に焦点を当てたルポルタージュ『 歌舞伎町と貧困女子 』(宝島社)が話題を集めている。
「トー横キッズ」「地下アイドル」「ホス狂い」「街娼」「風俗嬢」「外国人売春婦」「ヤクザの妻」――。
コロナ禍の危機的状況から復活した街の主役は、中年男性からZ世代の若者にとって代わられ、売春が日常風景となっていた。そして“欲望の街”に引き寄せられる女たちは、「貢ぐ」ために貧困化している。
#1ではトー横に通う「見惚れるようなイケメン」だという大学1年生の大泉健斗くん(仮名、19歳)が、トー横に蔓延する歪な“恋愛”について明かしている。そして彼の話は、2022年6月に未成年女性への淫行容疑で逮捕され、その後拘置所で死亡した「ハウル」に及んだ――。
貧困女子たちの生態を追い続けてきたノンフィクションライターの中村淳彦氏が明らかにする、歌舞伎町の裏側と貧困女子たちのリアルとは。『歌舞伎町と貧困女子』から一部を抜粋し、転載する(転載にあたり一部編集しています。年齢・肩書等は取材当時のまま)。
(全4回の2回目)
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■卍會が未成年のトラブルを解決
トー横を語るうえで欠かせない「ハウル」の話が出てくる。ハウルとは2022年6月22日、当時16歳の未成年女性に対する淫行で逮捕された小川雅朝被告のことだ。小川容疑者はハウル・カラシニコフと名乗り、2021年6月に未成年のトー横キッズを支援する「歌舞伎町卍會」を結成、総会長を務めていた。
「卍會は最初から清掃団体と言っていました。いま広場はめちゃめちゃ汚いけど、当時はそんな汚くもなかった。掃除は団体を立ち上げるための大義名分。入会資格はハウルが気に入るか入らないかだけ。メンバーに40代、50代のおじさんもたくさんいた。やっていたことはトー横キッズの相談・援助とか、食事提供とか。未成年の集まりなのでトラブルは何かしら起こる。恋愛関係だったり、お金のこととか。それを卍會の大人たちが解決するみたいな関係でした」
■ハウルはダブスタ「独善を押し付けるタイプ」
トー横キッズを支援する歌舞伎町卍會を立ち上げたハウルは、歌舞伎町の新宿東宝ビル周辺とシネシティ広場をだんだんと仕切るようになった。気に入らない者が立ち入れば脅して追い返し、未成年の女の子や地雷男子に対して貢ぎや貢がれを禁止した。
「彼はあまり誰にも慕われてはなかった。たぶん未成年の女の子と仲良くなりたいとか、何も知らない未成年を支配したいとか、そんな目的だったと思う。2021年の夏なら女の子と仲良くなって肉体関係を持つとか、誰でもできる環境だった。ハウルは女の子たちに売春は悪いとか、地雷男子に貢ぐのはよくないとか言いながら、自分が『うちに猫を見に来ないか』って、未成年の女の子を誘っていた」
ハウルは未成年の女の子の売春や、貢がれる地雷男子の行動を時に恫喝して禁止しながら、自分は「未成年の女の子を誘って肉体関係になって、自分も女の子から貢がれていた」ということのようだ。
「ハウルはダブルスタンダードでした。だから、みんなハウルを嫌っていた。東新宿か大久保に住んでいて、いろんな女の子が泊まりに行っている。みんな、禁止しながら自分がヤルからダサいよねって。嫌われた理由は、それがいちばん大きい。独善を押しつけるタイプ。ハウルは揉めた相手に対し、トー横とか広場に入れさせないとか、嫌がらせした。加害性がある人にそれをやるならまだしも、本当に飲んでいるだけの人にやるから。反感をすごく買っていた」
2021年夏以降、ハウルや歌舞伎町卍會がトー横やシネシティ広場を支配し影響力を強めるなかで、殺人事件が起こった。
2021年11月27日、歌舞伎町卍會のメンバーだったホームレスの氏家彰さん(当時43歳)が4人の若者にリンチを受けて死亡した。この事件で26歳、24歳の成人男性と2人の少年が逮捕されている。送検される模様が報道されたが、主犯である2人の成人男性はいかにも不良といった風貌だった。
■事件化した卍會は「小学生と遊んでいる中学生みたいな感じ」
事件現場は“歌舞伎町の魔窟”と呼ばれる星座館ビルの屋上だった。星座館は歌舞伎町の区役所通りにある大きな雑居ビルである。
「あの事件にトー横キッズは誰一人、関係していなかった。被害者も加害者も卍會のメンバー。加害者は全員やんちゃだったり、あれな人たち。輩です。卍會はヤバイ人がたくさんいた。リンチは男子中学生の喧嘩のノリ。気にくわないとか、そういう理由。卍會ができてからトー横界隈に輩っぽい人が増えて、小学生と遊んでいる中学生みたいな感じというか。現実の不良社会では大きな顔をできないから、未成年相手に威張りたいみたいな人ばかりだった」
ハウルを頂点とする卍會メンバーの多くは、支援活動を名目としつつ、「何もわからない家出少年や家出少女を相手に自分の王国をつくりたい」という意識を持っていたようだ。卍會の成人メンバーにはハウルと同じく、支援しながらも本心では未成年の女の子たちを狙っていた者も少なくなく、地雷男子のように未成年の女の子たちに貢がせる卍會メンバーもたくさんいたという。
「卍會ができる前のトー横は、未成年ばかりの楽しい場だった。けど卍會ができてから輩みたいなのがどんどん入ってきて、おかしくなった。無害な人間に対しても一方的に嫌がらせして排除とか。ハウルは統治者としての能力が低かった。あと器が小さかった。女の子たちに対しても自分に貢ぐのはいいけど、他の男に貢ぐ女の子は嫌っていた。露骨にヤキモチを焼く、そういう人」
女の子が男にお金を払うことが常態化しているいまの歌舞伎町は、これまでどこの繁華街でも聞いたことがない様相を呈していた。
支援者と自称して近づいた成人男性が未成年の女の子に売春をさせて、そのお金を貢がせる。
それは昭和や平成時代に頻繁に見られた暴力団関係者や不良が、自分の恋人や配偶者を風俗に沈めたり、売春をさせる“ヒモ”的な行為とは明らかに違う。
■未成年を食い物にする“異常な世界”
死者や淫行の逮捕者を出したトー横界隈を冷静に見続けた健斗くんは、そんな大人たちをどう思って見ていたのだろうか。
「一応、日本が先進国と定義したうえで、中学生とか高校生の未成年の女の子を大人の男が色恋をかけてカラダの関係を持って、恋愛状態にさせて、子どもに売春をさせて貢がせるってことを集団としてやっているのは、世界的に見てもトー横界隈しかないんじゃないですか。異常な世界だと思う」
未成年のトー横キッズの相談・援助や食料支援をしていたハウルは、女の子たちの地雷男子への貢ぎをホストみたいだと憤り、警察代わりになってその行為を取り締まった。しかし、ハウル自身は自分が貢がれることは「よし」とした。そして、最終的には殺人と淫行が引金となって、トー横界隈は崩壊している。
■ハウルが憎まれたワケは「リアコだったから」
「ハウルの周りにいた女の子は、ホストの担当と姫みたいな関係じゃなく、普通寄りの女の子だった。彼氏彼女みたいな対等な立場だった。それでたくさんの女の子と、ホストみたいなリアコじゃなくて、普通に恋人同士みたいになって浮気しまくったから問題が起こった」
リアコとは「リアルに恋をする」という意味で、ホストでいうと姫と同じ意味という。これもトー横界隈の共通語だ。
「ハウルは一般人の恋愛みたいな感じで中高生と関係を持ったから、女の子たちに憎まれた。それで訴えられた。普段からそういうことをしていたから、ざまあみたいに思っている人もたくさんいる。いいこともしていたから一方的に悪人とは思わないけど、偽善と独善が強すぎたことが失敗を生みました」
ハウルの逮捕によって名を轟かせたトー横界隈は終わった。
いまトー横に行っても、去年まで健斗くんが一緒にいた知り合いや仲間たちは、ほとんどいない。歌舞伎町は常に人が入れ替わる。トー横キッズ第二世代、歌舞伎町卍會の第二世代が誕生したという噂も聞くが、離れてしまった健斗くんはトー横キッズ第二世代のことは「詳しくはわからない」と言う。
( #3 につづく)
《歌舞伎女子の貧困》事故物件に住んでホスト通いする風俗嬢(25)の告白「週6日の鬼出勤と出稼ぎソープで働き詰め。月100万円がホストに消える」 へ続く
(中村 淳彦/Webオリジナル(特集班))
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