高価なものは数十万円、なんと利益を生み出すケースも…不思議な形の「塊根植物」人気のナゾを聞いてみた!

高価なものは数十万円、なんと利益を生み出すケースも…不思議な形の「塊根植物」人気のナゾを聞いてみた!

「RAFLUM」店内にところ狭しと並ぶ塊根植物や灌木

「パキポディウム グラキリス」「オペルクリカリア パキプス」――なるものが流行っている。

『ポプテピピック』の派生マンガでもなければ、ナメック語で願いを叶えようというわけでもない。これらはコーデックスと呼ばれる塊根(かいこん)植物の種類で、いま30代半ばから40代の男性を中心に人気を博しているという。

 高いものでは数十万円にも上る塊根植物。なぜ話題を呼んでいるのか? そこには思わぬ理由が潜んでいた。

◆◆◆

 “こ、これが税込246400円ッ!? サッカーボールより少し小さいくらいのこの植物が、なんでそんなにするの……”

 目の前のパキポディウム グラキリス(以下、グラキリス)を見た、筆者の素直な心境である。

 念のためもう一度伝えておこう。こちらのグラキリスのお値段、246400円である。

 たしかに、独特なフォルムに魅せられ、「部屋にあったらいいな」と購買意欲は掻き立てられる。しかし、鉢込みとは言え、一植物がデロンギのコーヒーメーカーよりも高いというのは、いささか理解に苦しむ。

 筆者と同じように「高すぎでは?」と感じる人は少なくないだろう。ところが、こうした塊根植物は男性を中心に人気を集め、昨年は、新宿伊勢丹本館でイベントを開催するほどの人気というから驚きだ。

■数年前からじわじわ人気が

「7年ほど前からじわじわ人気が出始め、ここ2~3年で拡大している印象です。コロナ禍によって在宅時間が多くなり、自宅用にお洒落な観葉植物などを探している中で、塊根植物の存在を知るという方も多いです」

 そう話すのは、原宿にある塊根植物などを扱う完全予約制の専門店「RAFLUM(ラフラム)」の代表取締役・小寺信仁さん。「RAFLUM」は、先の新宿伊勢丹本館に加え、阪急うめだ本店のポップアップイベント「GREEN AGE」にもブース出店する人気店だ。

 特筆すべきは、「Patagonia」「THE NORTH FACE」といった有名ブランドも出店する全ブースの中で、「RAFLUM」は来客数、売上げともにナンバーワンを記録した――というから、その人気、ホンモノである。こうした背景から、「塊根植物はテレビやカルチャー・ライフスタイル誌、人気YouTuberなどからも取り上げられる機会が増えている」と小寺さんは話す。

■塊根植物にハマったわけ

 それにしても、なぜこれほどまでに人気なのか? 最近、塊根植物にハマったというAさんに話を聞いてみた。

「見た目のかっこ良さや、今まで見たことがない容姿に魅力を感じて購入したのがきっかけでした。自分で育成していく中で、同じ樹形の株が2つとないことや、毎日の日課の中で植物のコンディションを見ながらその植物にあった育て方を模索していく楽しさも魅力的なんです」

 ちなみに、いかほどのお値段の植物を購入したのか? 

「僕が購入したのは、19800円の『アガベ チタノタ ブラック アンド ブルー』という植物です。アガベは、塊根植物ではなく多肉植物ですけどね」(Aさん)

「良心的なお値段」とホッとしてしまいそうになるが、よくよく考えると19800円もそれなりに高いから金銭感覚が麻痺してしまう。高いものは数十万円に及ぶが、安いものになると数万円で購入可能。価格帯がピンキリという点も、塊根植物沼にハマる一因と言えそうだ。

 前出・「RAFLUM」の小寺さんが説明する。

「当店は、塊根植物をメインに多肉植物、灌木なども扱うのですが、平均単価は4万円前後です。たとえば、日本で栽培された株の場合、小さいものだと10000円~16000円ほどです。一方で、原産国から輸入した希少価値が高いものになると数十万円になります」

■日本では栽培できない理由

 では、何をもってして希少価値が高くなるのか。先の初心者Aさんは、「同じ樹形の株が2つとない」と話していたが。

「仰るように、同じグラキリスであっても、同じ個体は二つとありません。グラキリスはぷくっとしたフォルムが人気を集めているのですが、すべてフォルムは異なります。珍しい、美しい……そういった造形ほど価格が高くなる傾向があります。また、グラキリスや(オペルクリカリア)パキプスといった塊根植物は、マダガスカルにしか生息していません。そのため価格が高くなるんですね」(小寺さん)

 店内に置かれたグラキリスを比較するとわかるのだが、たしかに同じ品種でもフォルムや色合いが違う。日本でグラキリスを栽培すれば価格帯を抑えられ、もっと手ごろな値段になるような気もするのだが、なんでも日本で栽培しても、マダガスカル産のようにはならないそうだ。「諸説あるのですが」と前置きした上で、小寺さんが続ける。

「日本の環境よりもはるかに過酷な環境下に自生しているので、風や土埃などにより長い年月をかけて表皮がツルッとしていくと言われています。また、現地の野生動物の毛繕いも影響がある(動物が植物に肌をこすり付ける)と言われています。こうした条件から、マダガスカル特有の丸みを帯びたグラキリスになると言われ、希少価値が高くなる。他の国で育成しても、このような美しいフォルムには、なかなかなりません」

■園芸は「カッコいいモノ」に

 こうして眺めていると、御朱印のようにそれぞれに個性があり、収集心をくすぐる面白さがあるのもたしかだ。一昔前は、磯野波平よろしく年配者の趣味というイメージが強かった園芸だが、御朱印集めもいつからか世代関係なく楽しむ趣味になったではないか。そう考えると、園芸だって進化していてもおかしい話ではない。

 実際、人気ファッションブランド「NEIGHBORHOOD(ネイバーフッド)」は、アザーラインとして植物グッズに特化したブランド「Specimen Research Laboratory (SRL) 」を展開する。今では、園芸は「カッコいいモノ」でもあるというから時代は変わった。

「RAFLUM」をよく訪れる塊根植物歴が長いBさんは、こう力説する。

「個体により育ち方も違いますし、コンディション管理なども変わってくるところがペットを育てている感覚に近く、難しさもあり魅力的な部分になりますね」

 なお、Bさんは330000円の「オペルクリカリア パキプス」を購入した猛者である。330000円――。筆者は膝を震わせながら、塊根植物の世界の取材を続けることにした。

 こうした趣味を、「お金に余裕のある人だけが楽しめる貴族的な趣味」と一刀両断することは簡単だろう。

 しかし、塊根植物がブームになっている背景は、もう少し複雑のようなのだ。

■「あるとき突然、枯れてしまうことも」

「塊根植物は生きていますから、花を咲かせます。グラキリスであれば、冬に休眠期を迎え、温かくなるにつれ葉を出し、1年~2、3年に1度黄色い花を咲かせます。しかし、このプロセスが難しい。光、水、温度、風という生育条件をきちんと管理していても、あるとき突然、枯れてしまうこともあります。一方で、ほったらかしにしていても生きる個体は生きるんですね」(小寺さん)

 造詣の深い小寺さんでさえ、その判別は読めないといい、塊根植物を育てることは一筋縄ではいかないそうだ。ひるがえってそれは、株から根を出す作業にも言えることだという。

「我々は、ベアルート株と呼ばれる根がむき出しのままの状態の株を輸入し、自分たちでグラキリスの根っこを出す作業を行います」(小寺さん)

 ベアルート株は、鉢から栽培株を抜き、コンポスト(植え込み材料)が取り除かれた根が裸の状態のことを指す。言わば、仮死状態のようになっている株なのだが、検疫上、現地の土や虫が付着している状態のグラキリスを輸入することができないため、「ベアルート株として輸入するしかない」と小寺さんは説明する。

 根っこを出すプロセスは、グラキリス以外の塊根植物も同様で、昨今、人気が急上昇している多肉植物のアガベも変わらない。発根することに成功して、はじめて塊根植物は葉を出すようになる。つまり、息を吹き返すというわけだ。

「初心者の方は、すでに根っこが出ている植物を専門店などで購入されますが、ある程度理解が深まってきた経験者は、発根作業から始めたいということで、ベアルート株を独自に購入し、根を出そうと試みます」(小寺さん)

■動産的価値をはらむ塊根植物

 たとえば、一般的なサイズのグラキリスの場合、ベアルート株は大、中、小とあり、相場は1万円から~5万円ほど。一方、最初から根が出ている同サイズのグラキリスを購入する場合、樹形にもよりけりだが価格は1.5倍ほどとなる(樹形の良いまんまるとした株はそれ以上に)。自分で根を出すことに成功すると、“利益が生まれる”ことになる。

 実は、こうした動産的価値(リセールバリュー)も、少なからず塊根植物が人気になっている一因というから興味深いだろう。まるで命を持つ美術品だ。

「たとえば、個体差こそありますが、アガベは繁殖しやすい植物です。さらに、親株のDNAを子株が色濃く引き継ぐと言われています。そのため、アガベを中心部から切る“胴切り”を行う販売者も多くいます。中心部の成長点を失ったことで、アガベは子株を作り出し、生きようとします。この子株が2000円から10000円くらいで売れることもあります」(小寺さん)

 よもやここまで価値のある植物だったとは。

■購入時の注意点は?

 また、動産的価値をはらむからこそ、昨今は、個人が塊根植物のベアルート株を購入しようと、専門店ではなく、オークションサイトやフリマサイト経由で安価で手に入れるケースもあるそうだ。

 先述したように、根が出るかどうかは極めてデリケートだ。そのため、購入後に、「根が出ない。どうなっているんだ」と出品者との間でトラブルになるケースもあるという。

「塊根植物がブームになりつつあるからこそ、正しい知識と情報のアップデートが必要です」とは小寺さんの弁だ。

「我々は事前にしっかり調査し、信頼している方々とお取引きさせていただいていますが、それでも(オペルクリカリア)パキプスのベアルート株を10本購入して、3本ほどしか根が出ないということもあります。それくらい自分で発根させるというのは難しいんですね」(小寺さん)

 投資的な側面こそ持つが、あくまで趣味の範疇で楽しむことが望ましいと言えそうだ。先に話を聞いたAさんもBさんも、「自分の所有している品種の価値が高騰していくことはとてもうれしいが、気に入った株を育成してみたい気持ちや、所有したい欲求が強いので、リセールはあまり考えていない」と口を揃える。

■「アガベ」が世界的なブームに

 しかし、複合的な魅力を有する塊根植物やアガベが、その枠の中にとどまり続けられるかどうかはわからない。というのも、まだまだ過熱していく可能性の根っこを秘めていそうなのだ。

「現在、アガベは世界的なブームになりつつあり、自生するメキシコやカリフォルニア産の株が高騰しています。そのクローンを育てるべく、気候条件が適している台湾では『台湾アガベ』としてブランド化されているほどです」(小寺さん)

 たかが植物と侮るなかれ。グラキリスやパキプスが自生するマダガスカルは、これら塊根植物の輸出が大きな国益になっているとも言われ、現地にはこうした植物で財を成した「グラキリス御殿」「パキプス御殿」が建つほどだ。世界的な人気を誇る塊根植物やアガベは、種苗業者にとっても“金のなる植物”となる。

■塊根植物による国益が大きいという話もあるマダガスカル

 それだけではない。ワシントン条約(CITES/サイテス)による、希少植物の輸入規制次第では、塊根植物ファンを巻き込む狂騒曲に発展しかねないというのだ。

「現在、グラキリスとパキプスは『附属書Ⅱ』に該当します。『附属書Ⅰ』になると、商業目的の国際取引が禁止されてしまうため、輸入ができなくなります。マダガスカルに自生するグラキリスとパキプスの数が減少してきているため、『附属書Ⅰ』に格上げされるという噂話が毎年あります。もちろん、しっかりとした会議がなされているとは思いますが」(小寺さん)

 このうわさが現実になれば、グラキリスとパキプスの価格はさらに高騰することになる。

「マダガスカルは塊根植物による国益が大きいという風なことを聞きますので、それが本当ならそうならないとは思いますが」と小寺さんは牽制しつつ、「海外の輸出業者の中には、『いま買っておいた方が将来的にはいい』と交渉してくるケースもある」と明かす。

「個体数の減少は避けられず、環境保護の観点から良いバランスを保てたら良いなと思っていますが、売り手側にとって、とても有利な状況になりそうな点は懸念しています。世界的なブームになりつつあるからこそ、我々も常に情報をアップデートしていかなければいけない状況にあります」(小寺さん)

 これだけの希少植物を手軽に購入できてしまう今だからこそ、初心者は専門ショップなどでしっかりとした情報を入手したほうが良さそうだ。そもそも、植物という命を扱っていることを忘れてはいけない。

■塊根植物ブームから見えてきたもの

 それにしても――。目の前のかわいらしいフォルムの植物たちを眺めていると、「これが数十万もするのか」と不思議な気持ちになってくる。

 半面、美術品のような価値を持ちながら、年に一度(アガベにいたっては一生に一度)しか花を咲かせないといった生命力を持ち合わせる姿に、なんとも言えない愛着を抱いてしまう。しかも、リセールバリューまで秘めているのだから、人気になるのも納得してしまう。塊根植物の人気は、まだまだ広がりそうだ。

「私は草木の栄枯盛衰を観て人生なるものを解し得たと自信している」とは、“日本の植物学の父”と呼ばれる牧野富太郎の言葉だ。

 塊根植物を見ていると、人間の“欲”が伝わってくるようだ。

(我妻 弘崇)

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