「パワハラは日常茶飯事」東京女子医の女帝に仕える“謎の側近”に流れた「疑惑のカネ」を徹底追及!「労働者派遣法違反の可能性が高い」不法な“業務委託”のカラクリとは

「パワハラは日常茶飯事」東京女子医の女帝に仕える“謎の側近”に流れた「疑惑のカネ」を徹底追及!「労働者派遣法違反の可能性が高い」不法な“業務委託”のカラクリとは

岩本氏が大ファンの彩輝直は宝塚月組トップだった(「女医界」より)

「巨額のカネを不正に流用した『背任罪』の疑い」東京女子医の“女帝”が警視庁に刑事告発された! から続く

 高度医療と安全体制が崩壊して、存続の危機に立っている東京女子医科大学。国内トップレベルの医師に約束していた金額分の給与支払いを拒み、退職に追い込むなど不可解な対応が目立つ。

 その一方で、岩本絹子理事長は自身の側近2人に破格の給与を与えるため、違法な契約を交わしていた可能性が浮上した。学内でかねてから問題視されていた謎の側近2人の正体、そして新たに判明した「疑惑のカネ」についてお伝えする──。

◆◆◆

■総額1億円の契約と深く関係している側近XとY

 2019年10月、ホテルオークラで500人を超える招待客が集まり、岩本絹子氏の理事長就任祝賀会が盛大に行われた。その時に撮影された集合写真には、当時、自民党の幹事長として強い影響力を持っていた二階俊博氏がまるで守護神のように岩本理事長の横に鎮座している。

 その斜め後ろに立つ黒いドレスの女性は、宝塚歌劇団の月組トップだった彩輝なお氏(当時の芸名:彩輝直)だ。無名時代から、岩本氏が熱烈なファンとして応援してきた女優である。

 隣は同じく宝塚歌劇団で活躍していた彩輝氏の実妹で、その夫は株式会社ケネス&セルジオ(以下、ケネス社)の取締役を務めている。そして、岩本氏が理事長になった翌年、ケネス社は女子医大と総額1億円超の契約を結んだ。

 その総額1億円の契約と深く関係してくるのが、元宝塚スター姉妹の背後に立つ、女性の「側近X」と青いネクタイを締めた男性の「側近Y」である。

■「側近2人には何も情報がなく、素性が謎」

 さかのぼること8年前の2015年。当時、副理事長だった岩本氏は、赤字経営を立て直すという名目で、ヒト(人事)・モノ(管財)・カネ(経理)・情報(情報システム)を集約した「経営統括部」を新設して、担当理事に就く。

 こうして女子医大を“実効支配”した岩本氏は、腹心の部下として側近XとYを、この経営統括部に迎え入れた。長年、女子医大で勤務していた元事務職員Aは「この2人は謎に包まれていた」と振り返る。

「女子医大で新たに働く場合、必ず学歴や職歴の資料が添付されているものですが、側近2人には何も情報がありませんでした。教育機関かつ医療機関なのに、素性が謎なんて、あり得ませんよね。しかも2人には次長という職位が与えられ、驚くような高給取りです。違和感しかありませんでした」(元事務職員A)

 記録によると、側近2人は2015年10月に、岩本氏が会長を務める女子医大の同窓会組織「至誠会」からの「出向」として女子医大と契約していた。この時点で、側近Xの給与は月額55万円、Yは月額80万円とある。

 ただし、岩本氏の裁量で、側近Xの給与は異常なペースで上積みされていく。2016年7月に月額80万円、2018年1月には月額150万円と、当初の3倍の給与となった。側近Yも最終的に90万円にアップされた(詳細は後述)。

 女子医大の規定では、准教授や正規次長職で月額50万円台なので、側近2人の待遇は破格といえる。しかもこの時期、女子医大は巨額の赤字経営が続き、教職員のボーナスを大幅に引き下げていた。その結果、退職する教職員が相次いでいたのだが、岩本氏は自分の側近に大盤振る舞いをしていたのである。

■政治家とのパイプ役を務める側近Yは風呂敷包みを手にして…

 女子医大の教職員に素性を明かさない、謎の2人の存在。調べると意外な事実が分かった。

 まず、側近Yは1960年代生まれで、オーストラリアの大学を卒業。福祉関連の仕事を経て、北関東の自治体で市議会議員を務めた。2009年には市長選に立候補したが、4人中最下位で落選している。

 翌年、至誠会第二病院に入職して、現在も同院の事務長を兼務している。この側近Yが女子医大でどのような仕事をしていたのか、別の元事務職員Bが証言する。

「彼は政治家とのパイプ役を務めています。風呂敷包みを手にして、どこかに出かける場面を度々目にしました。風呂敷包みの中身と行き先は誰にも明かさないので、学内で様々な憶測が飛び交いましたね。彼と直接話す機会があって、『自分は金融には強いが、あまり病院には詳しくない』と言っていました」

■側近Xのパワハラは日常茶飯事で、人前で部下を大声で怒鳴り散らす

 もう1人の側近Xは、岩本氏が経営する産婦人科医院の事務員になって、以来30年以上も仕えているという。部下だった元事務職員Cは、側近Xの強烈なキャラクターに驚いたという。

「彼女は、岩本先生の特別秘書です。洋服の着替えや自宅からの送り迎えまで、いつも影のようにぴったり付いていました。岩本先生は怒るとヤクザみたいな口調になり、みんな萎縮してしまうのですが、側近Xも同じように凄く威圧的でしたね。パワハラは日常茶飯事で、人前で部下を大声で怒鳴り散らしていることもありました。

 強烈だったのが、岩本先生とすれ違って、挨拶をしなかった職員がいた時です。『あの職員を追いかけろ! 名前と部署を控えてこい』と側近Xがいきなり叫んだので、ぞっとしました」

 岩本氏のスケジュール管理は側近Xが行い、秘密主義が徹底されて、他の職員が知ることはできなかったという。

「これまで理事長たちの行動は、公用車(*注1)の運行記録を見ると、いつどこで誰に会ったか、把握できましたが、側近Xが運行記録を取り上げてしまったのです。ある事務職員が『業務に支障が出る』と抗議したところ、すぐに異動させられました。以来、誰も怖くて口出しできなくなったのです」(同前)

*注1:公用車とは、一般的に公務で使用される公的機関の自動車をさすが、女子医大では学校保有の自動車の呼称として使われている。

■新校舎に当初の設計図になかった理事長室と側近Xの専用個室が…。追加費用は約4.9億円

 暫くすると、側近Xの肩書きは「次長」から「部長代行」に昇格する。そして新校舎の建設や、足立医療センター(附属病院)の移転など、重要な交渉役となった。

 女子医大には「建築設計室」という部門があり、一級建築士の資格を持つ正規職員が在籍している。にもかかわらず、なぜか非正規職員で、特別な資格もない側近Xが、大手ゼネコンとの交渉の一切を仕切っていたという。

「大手ゼネコンの幹部でさえ、側近Xには腫れ物に触るように低姿勢でした。足立医療センター(2022年に荒川区から移転)の打ち合わせは、話を聞かれたくなかったのか、必ずVIP用個室がある第1病棟9階に設置された貴賓室でやっていました。そこはカッシーナ(イタリア製の高級家具)で統一されたゴージャスなお部屋で、岩本先生のお気に入りです」(同前)

 2020年2月、新校舎の「彌生記念教育棟」が完成する。だが、当初の設計図にはなかった理事長室などを移転するため、約4.9億円(*注2)の追加費用を大手ゼネコンに支払っていたことが内部資料で判明した。移転は岩本氏の強い意向だったという。さらに、“非正規”職員の側近Xの“専用個室”が併設され、理事と同等の広さだったことも内部資料で明らかになった。

*注2:稟議書では移転費用に約6億円の見積が記載されていたが、最終的に約4.9億円を支出

■側近Xが“お車代”や“心付け”を個人で立替えたとして支払い請求

 絶対的な権力を手にした岩本絹子理事長の庇護を受け、不可解な行動が目立っていたという側近X。彼女を取り巻く“疑惑”の一つが、常識を超えた金額の「立替払い請求」である。

 前述の2019年に開かれた岩本氏の就任祝賀会では、招待者のお車代「151万円」、ホテルスタッフ64人分の心付け「34万円」の合計「185万円」を、側近Xが個人で立替えたとして女子医大に請求していた。

 さらに、2020年の新校舎竣工式では、来賓のお車代「23万円」、翌年の足立医療センター竣工式でも同じ名目で「40万円」を、同様に個人の立替え分として、側近Xは現金での支払いを請求していた。

「必要経費は“仮払い”を受けるのが一般的ですし、これだけ大きな金額を個人で立替えをするなんて、常識的に考えられません。“お車代”や“心付け”は領収書がないので、本当に適切な使用がなされているのか検証できず“闇”のままです。経理課の人間から『ウチの大学にはコンプライアンスはないのですか!』と怒りをぶつけられました」(元事務職員B)

■事務職員のXにもコロナ補助金「60万円」が支給された

 さらに、コロナ補助金でも不可解な点がある。厚生労働省では、令和2年度から新型コロナ患者の入院を受け入れている医療機関に対して、現場で対応する医療従事者の手当について補助金を用意した。女子医大でもこの補助金を財源として、教職員に一律15万円、新型コロナに対応する医師、看護師には15万円を上乗せするとした。

 しかし、厚労省は補助金の対象として「新型コロナ患者等の対応を行わない職員の給与は、対象となりません」とする注意書きを添えていたにもかかわらず、事務職員である側近Xにも「60万円」が支給されていたのである。

 このように、女子医大の中枢で、側近Xは部長代行という肩書を得て、岩本理事長に次ぐNo.2のポジションを確立したが、それでも彼女の扱いは“非正規”のままだった。その謎を解く鍵は、女子医大との契約に隠されている。

■「業務委託」という契約に職員からは疑問の声が

 前述したように、2015年10月から約4年間、側近XとYの2人は至誠会から女子医大の経営統括部に「出向」していた。2人分の給与合計は月額240万円だった。(*金額はすべて税込)

 その後、2020年4月に、岩本氏が長年の大ファンである、元宝塚スターの親族企業・ケネス社の「業務委託」に契約が変更されると、月額385万円になった。実に145万円もアップしたのである。(業務委託契約の場合、2人の報酬額などの内訳は不明)

 この契約変更に対して、職員からは疑問の声が上がっていたという。

「側近2人は出向元の至誠会の職員だと思っていましたが、ケネス社の業務委託に契約が切り替わっても、以前と変わらずに岩本理事長の指示命令を受けて働いていました。2人が本当にケネス社に移籍したのか、それとも業務委託という契約に不正があるのではないか…。職員の間で話題になっていました」(元事務職員A)

 こうしたなか、2022年4月、筆者が週刊文春で「疑惑のカネ」として、岩本氏とケネス社の関係性を報道すると、すぐにケネス社は契約解除を女子医大に申し入れた。

■規定以上の報酬を与えるために“非正規”契約だったのか

 そこで女子医大は暫定的な対応として、翌5月から至誠会と「業務委託」契約を結び直し、側近2人をそのまま継続して業務にあたらせた。この時、契約金額は、月額合計330万円に減らされている。(*この契約金額には、2人とは別に運転手分が含まれている)

 その後、同年8月に側近Yは理事長特別補佐として月額44万円、同年10月に側近Xは月額121万円で、女子医大と個人として業務委託の契約を交わし、現在に至っている。

 このように“非正規”で契約を重ねた理由として考えられるのは、2人に高額な報酬を与えるためのカラクリだった可能性である。

 仮に2人が女子医大の正規職員になると、給与(報酬)は規定の計算式が適用され、月額50万円前後になってしまう。これに対して「業務委託」の場合なら、2人の報酬は自由に設定可能だ。つまり、規定以上の報酬を与えるために“非正規”のほうが、かえって都合が良かったのではないか。

 問題なのは、「業務委託」契約に変更後も、2人が以前のまま、岩本理事長の指揮命令を受けて仕事を継続している点だ。法政大学法学部の沼田雅之教授(労働法)は、次のように指摘する。

■偽装請負、労働者派遣法違反の可能性が高い

「業務委託とは、契約により請け負った業務を自己の業務として、当該契約の相手方から“独立”して処理するものであること等によって判断されます。したがって、岩本理事長の指示命令の下で2人が業務を遂行していたことが事実であれば、実際は労働者派遣であり、いわゆる『偽装請負』の可能性があります。また、ケネス社と至誠会が、労働者派遣事業の許可を受けていない場合は、『労働者派遣法違反』が成立します」

 現時点で、東京都の派遣事業者として登録している中に、ケネス社と至誠会の名は見当たらない。

 これらの疑問について、女子医大と、側近2人が所属している(とされる)至誠会の代理人に対して質問状を送付したが、期限までに回答はなかった。

 複数の元職員の証言を重ねると、側近2人は、「部長代行」「次長」という肩書を得て、経営統括部の一員として岩本理事長の指示を受けている。したがって彼らは偽装請負であり、労働者派遣法違反の可能性が高いと言えるだろう。

 強引なコストカットを進め、人件費を抑制してきた岩本理事長が、その裏で側近に破格の報酬を与えるために、“業務委託”というカラクリを使っていたとしたら、許されることではない。

 違法性が判明した以上、女子医大と至誠会には真摯な説明が求められている。(了)

(岩澤 倫彦/Webオリジナル(特集班))

関連記事(外部サイト)

  • 記事にコメントを書いてみませんか?