「つきあったのは3年間で5人。セックスした相手は…」発達障害の41歳男性が高1から“性行為に依存”した理由

「つきあったのは3年間で5人。セックスした相手は…」発達障害の41歳男性が高1から“性行為に依存”した理由

写真はイメージです ©AFLO

 近年、発達障害への知識や理解が広まり、関連する書籍が数多く出版されている。しかし、発達障害者の性行動について詳しく掘りさげた本はほとんど見当たらない。性の問題は非常に切実なはずなのに、「障害者と性」はタブー視されている。

 ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)を併発した文学研究者・横道誠氏は、発達障害者の性行動を深く知るために、当事者8名にインタビューを実施。その証言をまとめた書籍『 ひとつにならない 発達障害者がセックスについて語ること 』(イースト・プレス)を今年1月13日に上梓した。

 横道氏は同書の中で「読者のみなさんにとって、いささか不愉快に感じられる証言も紛れこんでいるかもしれないから、フラッシュバックに心配があるかたは、注意してほしい。彼ら彼女らの行動には、ときに一般常識、倫理、法律を逸脱している面がある」と前置きしたうえで、「彼ら彼女らは、しばしば不当な被害や暴力の被害者でもある。みな『サバイバー』なのだ。同じような苦しい人生を体験したことで、命を絶ってしまった人も無数にいる。その意味で本書はひとつの鎮魂歌でもあることを理解していただきたい」と出版の意図を説明している。

 ここでは、そんな同書から一部を抜粋。注意欠如・多動症、自閉スペクトラム症、双極性障害Ⅱ型(鬱状態と軽躁状態を反復する精神疾患)、自己愛性パーソナリティ障害(誇大的に振るまい、賞賛への欲求が強い人格を呈する精神疾患)疑いと診断されている41歳男性、「青さん」の体験談を紹介する。(全2回の1回目/ 2回目 に続く) 

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■マセた坊やは性欲旺盛な中学生になる

 青さんが恋愛に目覚めた時期は早かった。「幼稚園のときです。まだ年長さんなのに彼女がいて。廊下の端から相手の名前を呼びあって、ダーっと走りあって、廊下の真ん中でしっかり抱きあったりしました。マセてたんです」。

 小学生のときは「普通でしたね」と若干の皮肉をこめて回顧する。「ADHD特有の人懐っこさがうまく働いてました。おとなびているから、賢い坊やとして愛されて。子どもなりに気を遣ってた、とかではなくて天真爛漫で物怖じしなかった。商店街で店をやってるおとなたちとすぐに仲良くなってかわいがってもらいました。母は気を遣って、その商店街の店でしか買い物ができない、と言ってました」。 

 青さんはいまに至るまで「人たらし」だ。中年になったいまでも、職場や取引先で年上の人たちから「〇〇ちゃん」とファーストネームで呼びかけられ、贔屓される。「基本的に人が好きなんです。それが若者だったころには、女ったらし、ということにもなってしまったわけです」。

 小学生時代には恋愛経験がなかったが、5年生のときに友だちに教えられてオナニーを覚えた。「真似したらすごいことが起きた。ショックで死んでしまうんじゃないかなと思いました。それからは、いじりまくりでしたね。ふやけるまで触って」。

■性的興奮はマンガやアニメのキャラクター

 中学に入って、体育会系の部活動に打ちこんだ。プロ野球選手の父の素質を継いで、運動能力が高い。自閉スペクトラム症があると、発達性協調運動症(複数の部位を連動させる運動が難しい障害)を併発しやすく、運動音痴の人が多いが、それと対照的だ。私はまさに「運動音痴側」そのもので、「運動が得意な発達障害者」の話を聞くと、「反則だ!」と憤慨しそうになる。青さんは語る。「恋愛に走るのはグレてる人たち、ヤンキーたち、という年頃でしょう。僕はまじめに部活をやってましたね」。

 でも性にはやはり飢えていて、先輩から裏ビデオを借りた。永作博美などを輩出したタレント育成講座の乙女塾にハマり、「BOMB!」とか「DUNK」などの男性向け芸能雑誌で性的なグラビアを見て興奮した。「11PM」や「おとなのえほん」といった「お色気番組」をVHSに録画して、こっそり鑑賞した。ダイヤに電話して、3万円ほど請求されて親に叱られた。私は思わず自分と比べてしまうのだった。私の場合は長らく芸能人に興味を持てず、思春期のころの性的興奮はマンガやアニメのキャラクターにしか向かわなかった。当時の典型的な「オタク」だ。年代の近い青さんと私の違いはどこから来るのか、よくわからない。 

 しかし青さんが「異常なくらいの量のズリネタを収集してましたね」と語るのを聞いて、やはりおおむね同じなのかなとも思う。自閉スペクトラム症があると、「こだわり」の特性から収集癖を発揮しやすいのだ。私はじつに、さまざまなものを集めてきた。その一部には性的なニュアンスのものもある。

■人気者の自分と気持ち悪い自分が同居

 青さんに「いわゆる『顔面偏差値』が高いですよね」と外見に関する話を振ると、 「生まれてからずっとこの顔だから、よくわからないところがあって。好きじゃなかったんですけど、周りの意見を聞いているとオレ、イケてるんだって気づきました」。

 中学生のころまで「ぽっちゃりしてた」と語る。だが背が伸びると引きしまった印象が生まれた。そうなって経験したのが摂食障害。「イケてると気がついてからは、アイデンティティが見た目ですから。見た目しかないんだって思いすぎちゃって。太ったら、食べても吐いてました」。ルッキズムに悩む女性たちの心理を、青さんも知っているわけだ。

 私は「イケメン」として生きた経験がないため、自分の周りに「自分よりイケてる」と感じる相手がいるときの感情を知りたかった。彼らに対する嫉妬心に苦しむことはないのだろうか。

 しかし青さんはいかにもモテていた人らしく、余裕たっぷりに答える。「ライバル意識は湧かないですね。女子が自分のところに全員来るとは思ってはいませんから。レストランみたいもんです。中華が好きな人も、イタリアンが好きな人もいる。誰かは僕のところに来るって割りきってました」。 

■ちゃんとつきあったのは3年間で5人、セックスした相手は…

 高校時代について「多動が爆発して、行動範囲が広がりました」と話す青さん。女子校の文化祭に行って、ナンパする。高校生なのに合コンをして、高校1年生のときに童貞を喪失した。デートでカラオケに行って、尾崎豊を歌う。現在では考えられないことだが、当時は世間がアルコールに甘かったため、店内で飲酒もした。店側が未成年に配慮しなかったのだ。

 派手な男女交際になった。「つきあっては別れる。ちゃんとつきあったのは3年間で5人くらい。セックスした相手は20人くらい。友だちんちで飲んでて、男ふたり女ふたりでやるとか。ジャンケンで順番を決める」。私は息を飲んでしまった。私には未知の世界だから、「村上春樹の『ノルウェイの森』みたいですね」と平凡なコメントしかできなかった。

 おそるおそる「青さんのほうが捨てられたことはなかったんですか」と尋ねてみた。一瞬ためらったあとに口を開く。「ありますね。何度も。『心が病んでるね、重い』って言われて。ドライなやつかと思ったのに、ジメジメしてる。僕って、そういう感じですよね」。私は青さんのこういう自信なさげなところが好きだ。私も大学教員として、晴れがましいといえそうな職業についているのに、自尊心が低い。その私との同質性を「モテ度」では大いに異なる青さんに感じてやまないのだ。 

■相手が喜ぶのを見て、自分が興奮するタイプ

 私は青さんに何か気が利いた言葉をかけようかと思ったのだけれど、自閉スペクトラム症者なので、実際にはそんな自然なコミュニケーションを交わすことができなかった。頭ではわかっているのに、体が動かない。これが自閉スペクトラム症に指摘される「コミュニケーションの障害」の一形態だ。

 ところで性交渉そのものの満足感は高かったのだろうか。「すごく気持ち良かったです」と青さんは断言する。私は運動神経が悪く、性交がぎこちないから、運動能力の高い彼とは対照的なのかもしれない。だが、自閉スペクトラム症があると定型発達者に一方的な印象を与える当事者が多い。そのような悩みはなかったのだろうか。

 青さんは答える。「僕は相手が喜ぶのを見て、自分が興奮するタイプなんです。独りよがりなことができなくて。極端なくらいサービスする」。何か特殊な性交経験はあったかと尋ねると「屋外でやったりしましたね。青姦です。好んでではないけど。あえて」。

 記憶の海が私を深みへと沈めてゆく。私も初めて恋人ができたときには、相手に対する愛情と衝動が抑えられなくて、よく夜の闇にまぎれて野外で性交におよんだものだ。そしてその衝動の抑えがたさを相手に対する「愛情の深さ」だと錯覚していた。実際には、私より1歳年上だったその女性は、その時期の私の挙動にとても抵抗を覚えながら、嫌われたくなくて同意していた、とのちに打ちあけてくれたのだが。

■「みんなに好かれたいって思いが強かった」

 青さんは「いわゆるヤリチン、ヤリマンには発達障害者が多いと思うんです」と語る。「発達障害があると、依存症的ですから。そして周りに凹まされる経験が多いから、自己承認欲求が強い。オレってモテるだろっていうのを確認できるのが快感で、遊んでたって感じですね」。

 しかし、なぜ「イケメン」の青さんを、彼の自己承認欲求は駆りたてていたのだろうか。自己分析を求めると、「理由は父です」と答えてくれた。「父は元プロ野球選手としてテレビにも出るような有名人。父親の威光に惹かれて近づいてくる人もいる。だから、自分を見て! 自分を! という思いが強かったんです」。

 また自閉スペクトラム症と注意欠如・多動症につきまとうコミュニケーションの問題も関係していたと語る。「人気者のはずなのに、気持ち悪いと言われることも多かった。空気を読まない。余計なことを言う。仲間はずれになる。みんなに好かれたいって思いが強かったんです」。そのように聞いて、私は「やはりこの人は私と同じ『人種』なんだな」と感慨に耽るのだった。

「我慢できなくて、ゴムを外してやることも…」援助交際を経てセックス依存症になった発達障害女性(21)の告白 へ続く

(横道 誠/Webオリジナル(外部転載))

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