《宮台真司襲撃》愛読“宮台本”に「日本では幸せは『自分次第』が約35%」“引きこもり中年”倉光容疑者(41)が陥った“逃げ道の無い孤独”とは
2023年02月03日 07時00分文春オンライン

警視庁が公開した容疑者とみられる男の画像[警視庁提供] ©時事通信者
《宮台真司襲撃事件》登壇イベントに届いていた「何通もの“嫌がらせメッセージ”」と近隣住民が見た倉光実容疑者(41)「自殺前日の“ある異変”」 から続く
東京都立大・南大沢キャンパスで講義を終えた社会学者・宮台真司さん(62)が11月29日、突如何者かに刃物で切りつけられて重傷を負った事件。
目撃証言も少なく捜査が難航するなか、発生から2カ月後の1月30日、事件は犯人と思われる倉光実容疑者(41)の自殺が判明するという衝撃の展開を迎えることになった。その後の捜査で、倉光容疑者の自殺前後の状況が徐々に明らかになってきている。
社会部記者が解説する。
■倉光容疑者の自宅に残る「証拠隠滅」の気配
「警視庁は倉光容疑者の自宅を捜索し、父母と共に暮らしていた自宅や自殺の現場となった別宅から、凶器とみられる斧1本のほか、母親から3万円をもらって購入したナイフ1本、自転車や本など計約70点を押収したと発表しました。この斧からは宮台さんの血痕は確認できていませんが、形状などから犯行に使用された可能性もあるとみています。
また捜索で、自宅から倉光容疑者のパソコンやスマートフォンが発見できなかったようです。母親の証言では、倉光容疑者は携帯電話を契約したことがなかったといい、パソコンについては公開捜査後に捨てており、『壊れた』とその理由について話していたとか。捜査の網が狭まるにつれ、倉光容疑者が証拠の隠滅を図ろうとして焦って捨てた可能性もありえます」
警視庁は昨年12月12日と今年1月27日、2度にわたり倉光容疑者が現場から立ち去る防犯カメラ映像の写真などを公開。社会学者として日本でも指折りの知名度を誇る宮台さんが襲撃されたとあって、事件は世間の注目を集め、メディアでも繰り返し倉光容疑者の写真は放映された。
にもかかわらず早期に特定につながらなかったのは、こうした“証拠隠滅”も影響していたようだ。近隣住民の女性が話す。
「倉光容疑者がリュックを背負っている姿も見たことがありませんでした。マスクをしていることもあってか、ニュースで倉光容疑者の写真を見ても、普段のイメージと違うので正直全然ピンとこなかったんです。いつも1人で引きこもっているイメージで、そもそも見かけることも少なかったですし、今になってよく見ればわかるぐらいで……」
警察が押収した所持品の中からも、カメラに映っていた帽子やリュックなどは発見されておらず、倉光容疑者は犯行発覚を逃れるため、事件後に捨てた可能性もあるようだ。
■「あの事件の犯人だ」気づいた母親の苦しすぎる胸中
あの事件の犯人だ。
そう気づいていたのは母親だけだった。公開捜査当時に倉光容疑者が犯人ではないかと思ったものの、「親の気持ちとして犯人ではないと信じたい気持ちが強かった」と胸の内に抱え込んでいたようだ。現在は警視庁の調べに対し「息子で間違いない」と話しているという。
なぜ孤独な中年男性は突然宮台さんの襲撃を決意したのか――。警察が倉光容疑者に辿り着いたときにはすでに自殺後だったことから、動機を解明することは難しい。ただ、ここにきて自宅から宮台さんと倉光容疑者を結び付ける、ある本が発見された。
前述の社会部記者が話す。
「『おどろきの中国』という2013年に出版された本です。内容は、存在感を増す中国について宮台さんら社会学者3人が様々な観点から分析しているものです。特別、中国を礼賛して日本を堕とすような内容でもありませんが、倉光容疑者が過大に問題視して宮台さんに敵意を持った可能性もあります。本は倉光容疑者の父親が買い与えたもので、自宅のリビングに置かれていていつでも読める場所に置かれていたようです」
もっとも宮台さんは著名なだけあり、数々のニュース番組にも出演するなど、この本以外が犯行の動機となった可能性は否定できない。近隣住民らによれば、倉光容疑者は高校2年時から不登校になり、そのまま退学。「精神病を患って」、アルバイトも含めて一度も仕事をしたことがなかったようだ。携帯電話も契約したことがないなど、外部の人間との接点は乏しかったとみられる。
倉光容疑者と息子が同級生だという女性は首をかしげる。
「事件について息子と話したんだけど、息子は印象に残ってないと言うのよね。昔から悪さをしていたら覚えているだろうから、そんな大それたことをするような子じゃないんじゃないかって……。
それに倉光さんのご両親はしっかりしていて、朗らかな人たちなのよ。ただ、お母さんが病気になり一時期入院していて、病気を煩いながら息子さんの身の回りのことをやっていらしたから、ご苦労はあったでしょうね。倉光さん自身は、家族以外とあまりお付き合いがないんじゃないかしら」
■「引きこもりのなか図書館通い」倉光容疑者を支えた「本」
そんな倉光容疑者が心の支えとしていたのが、「本だったのではないか」と別の近隣住民はみている。
「倉光容疑者は仕事をしていないと聞いていたから、自転車でいつもどこに出かけているかお母さんに聞いたことがあったのよ。そしたら、『図書館によく行っている』って。図書館に行かないときは、家の2階で本を読んでいると話していたの」
その中の一冊に『おどろきの中国』があったのだろう。宮台さんはこの本の中で幸せについて、こう触れている。
〈《よく知られている調査データに、次のようなものがあります。「幸せにいきられるかどうかは自分次第なのか、社会の秩序が必要なのか」を問うと、日本以外の国、アメリカもヨーロッパも中国も、6~7%しか「自分次第」という人が出てこないんだけど、日本では「自分次第」という人がだいたい35%いるんですよ。(中略)われわれほど自己決定的でない存在はおらず、われわれほど依存的な存在もいないような気がします》〉
本好きで物好きな男は、人と関わりのない孤独な状況が、「自分次第」であるがゆえに負い目を感じていたのだろうか。
インターネット上では、宮台さんの孤独な引きこもり男性を批判するような発言について取り上げられている。宮台さんは、ニコニコ動画のコメントを取り上げ、「友達いないだろう」「ひとり寂しく死ね」などと発言していたこともあったという。
倉光容疑者は一体なぜ宮台さんに狂気を向けることになったのか。自死してしまった今、彼の口から真相が明かされることはない。
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