「午前中は調子が悪い」「“問題意識”は伝えたが“記憶がない”」……二転三転する統計不正問題の参考人発言を整理してみた

「午前中は調子が悪い」「“問題意識”は伝えたが“記憶がない”」……二転三転する統計不正問題の参考人発言を整理してみた

衆議院予算委員会で挙手する厚生労働省の姉崎猛・元統計情報部長。左は同省の藤沢勝博政策統括官=25日、国会内 ©時事通信社

「毎月勤労統計」の改ざんについて首相官邸の関与があったのではないか――。統計不正問題についての追及が国会で続いているが、参考人がよくわからない理由で欠席を連発した。過去には「記憶にない」を連発していたこともある。統計不正問題の参考人らの発言は二転三転しており、非常にわかりにくい。彼らの発言を追ってみた。

姉崎 猛 元厚生労働省統計情報部長
「午前中は調子が悪い」
朝日新聞デジタル 3月5日

藤沢勝博 厚生労働省政策統括官
「急に具合が悪くなった」
朝日新聞デジタル 3月5日

 3月4日、参院予算委員会で新年度予算案の審議が始まったが、この日は統計不正問題をめぐって出席を求められていた参考人の姉崎猛・元厚労省統計情報部長と藤沢勝博・元厚労省政策統括官が相次いで欠席した。当時の厚労省で統計部門のトップだった姉崎氏の欠席の理由は「午前中は調子が悪い」、藤沢氏の欠席の理由は「急に具合が悪くなった」だった。また、野党は西村清彦・総務省統計委員長の参考人招致も求めていたが、西村氏は対応が難しいとして欠席した。与野党が合意しても、参考人には出席の義務はない。

 質問を予定していた国民民主党会派の森ゆうこ氏は「お見舞いを申し上げるしかない」と皮肉をこめて答弁。立憲民主党の福山哲郎幹事長は、中江氏と姉崎氏について「証人喚問も含めて考えなければいけない」と言及した。なお、姉崎氏は2月22日の午前中に開催された衆院予算委員会には出席している。「午前中は調子が悪い」という欠席の理由は答弁逃れとしか思えない。

■中江氏が厚労省に伝えた「問題意識」の中身

中江元哉 前首相秘書官(現財務省関税局長)
「経済の実態を適切に表すために、タイムリーに表すために、改善の可能性について考えるべきではないか、という問題意識を伝えた記憶がある」
FNN PRIME 2月15日

 2月15日に行われた衆議院予算委員会に参考人として安倍晋三首相の元秘書官である中江元哉氏が出席した。中江氏は秘書官だった2015年3月、毎月勤労統計について厚労省から説明を受けた際、サンプルの入れ替えによって賃金の数値が大幅に変わってしまう調査手法について「問題意識」を伝えたと述べた。「問題意識」を伝えた相手が姉崎氏である。

 中江氏は「政府に都合のいいデータが出るように、統計手法上、不適切な方法をとらせる、そういった意図に基づくものでは全くない」と首相官邸としての関与を否定したが、なぜ首相秘書官が「改善の可能性」を伝える必要があったのかは謎のままだ。安倍首相は自らの関与は否定しつつ、「秘書官が見識をもとに意見を述べるのは当然」と述べている(産経新聞 2月25日)。

■「問題意識」を伝えたこと以外は「記憶がない」のオンパレード

中江元哉 前首相秘書官(現財務省関税局長)
「検討の途中や結果の報告を受けた記憶はない」
毎日新聞 2月15日

中江元哉 前首相秘書官(現財務省関税局長)
「全く記憶がない。客観的に言えない」
毎日新聞 2月20日

中江元哉 前首相秘書官(現財務省関税局長)
「9月14日に厚労省の人から説明を受けた記憶がない」
朝日新聞デジタル 2月21日

 中江氏は厚労省に「問題意識」を伝えたことは認めたが、それ以外のことは「記憶がない」のオンパレードだった。

 中江氏から「問題意識」を伝えられた厚労省は2015年6月、調査方法を見直すための「毎月勤労統計の改善に関する検討会」を発足。8月7日に開かれた検討会の5回目の会合では阿部正浩座長が「総入れ替え方式で行うことが適当」と表明したが、9月14日に「部分入れ替えを検討すべきではないかと関係者から意見があった」と厚労省の職員が阿部氏にメールを送った。

 中江氏は2月15日の衆院予算委員会で検討会について「検討の途中や結果の報告を受けた記憶はない」と主張。しかし、阿部氏に送られたメールにあった「関係者」について、2月20日の衆院予算委員会で根本匠厚労相が「事務方に確認したところ、詳細は不明だが、中江元哉首相秘書官のことだと思われる。当時の担当部長からそういう話を聞いている」と答えた(朝日新聞デジタル 2月20日)。つまり、中江氏は検討の途中や結果の報告を受けていた、ととれる。

 また、9月14日に姉崎氏らと面会したことについて、中江氏は20日、21日の衆院予算委員会で「記憶がない」と釈明した。しかし、中江氏は「当時の私の問題意識からすれば、専門的な検討を進めてもらったらよいと言ったかもしれない」とも述べている。

■中江氏は「記憶がない」と言う一方、姉崎氏は面会を認めた

姉崎 猛 元厚生労働省統計情報部長
「秘書官からは『コストというよりも、ちゃんと実態を把握するような観点から言うと、部分入れ替えということもあるのではないか』というようなコメントがありました」
TBS NEWS 2月22日

 中江氏との面会を認めたのは、当の姉崎氏である。2月22日、姉崎氏は問題発覚後、初めて衆院予算委員会にて答弁。2015年9月14日に中江氏と会った際、調査方法の変更について意見を受けたことを明らかにした。

 2日後の9月16日、検討会の6回目の会合が開かれ、姉崎氏が「総入れ替え方式ではなく、部分入れ替え方式を検討したい」と要望し、承認された。厚労省職員らは検討会の委員に対して「来年3月まで任期がある。また検討会を開催させていただく」としていたが、検討会は一度も開かれることなく、調査方法の変更が決定した。

 9月14日に姉崎氏は中江氏と面会し、再び「問題意識」を伝えられた後、「部分入れ替え方式」を推進した。こう考えるのが自然である。

■面会はしたが、中江氏や首相官邸の関与はない、というロジック

姉崎 猛 元厚生労働省統計情報部長
「断定的な結論をまとめるのはリスキーだと思い、私が決めて指示をした」
産経新聞 2月22日

 しかし、姉崎氏は中江氏と首相官邸の関与を完全に否定してみせた。中江氏と面会して「部分入れ替え方式」の提案を受けたことを明かしたが、調査方法の修正は面会以前に指示していたというのだ。中江氏の「問題意識」の影響はなく、自分で決めたというのが姉崎氏の主張である。

 ところが、厚労省が22日の予算委員会終了後に、担当者が検討会の阿部氏に送ったメールを公表。9月4日のメールでは「検討会での検討結果等については官邸関係者に説明をしている段階」と記されており、9月8日のメールには「部分入れ替え方式で行えばよいのではないかと言われる可能性があるため、あえて記述しないという整理にしたい」と記されていた(朝日新聞デジタル 2月22日)。9月8日のメールには「姉崎部長の意向もある」とも追記されていた(東京新聞 2月25日)。厚労省、ならびに姉崎氏が「部分入れ替え方式」に慎重だったことがメールの文面からわかる。

 しかし、9月14日のメールには「委員以外の関係者と調整をしている中で、部分入れ替え方式で行うべきとの意見が出てきた」と記されていた(朝日新聞デジタル 2月22日)。「官邸関係者」「委員以外の関係者」の影響が「部分入れ替え方式」への変更に影響を与えているのは一目瞭然だ。

■首相官邸の関与を否定するもう1人の人物

藤沢勝博 厚労省政策統括官
「検討会直前の方針変更について『統計情報部長の意見』と座長に言いにくかったため、『委員以外の関係者』という含みのある表現を用いた」
東京新聞 2月26日

 もう一人、首相官邸の関与を否定する人物が現れた。藤沢勝博・厚労省政策統括官である。藤沢氏は25日の衆院予算委員会で、藤沢氏はメールにあった「官邸関係者」が当時の内閣参事官だった横幕章人・現厚労省会計課長だと示唆した。

 藤沢氏の言っていることが正しければ、姉崎氏は9月8日の時点で慎重な姿勢を見せていたのに、9月14日の段階ではコロッと変わって「部分入れ替え方式で行うべき」と主張していたことになる。これには国民民主党の玉木雄一郎氏も「にわかには信じられない。誠実な答弁を求めたい」と批判した。

 根本厚労相は「関係者」は中江氏だと答弁していたが、「事務方が『中江氏のことだと思われる』と言っており、そのまま答弁した」と弁明した。

■休みをへて、中江氏と姉崎氏の答弁は息ぴったりに

姉崎 猛 元厚生労働省統計情報部長
「総理秘書官のコメントは、やっぱり私と同じことを言うんだな、という風に受け止めました」
参院予算委員会 3月7日

 3月7日の参院予算委員会に参考人として中江氏と姉崎氏が揃って出席。森ゆうこ氏に中江氏の「問題意識」をどう受け止めたのか、と質問された姉崎氏は、自分自身も同じ「問題意識」を持っていたと明かし、中江氏と姉崎氏はまったく同じ考えを持っていたから、あ首相官邸の意向は関係ないという主張を改めて行った。数日の休みを経て、中江氏と姉崎氏の答弁は息ぴったりだった。なお、この日の質疑は午後に行われていた。

(大山 くまお)

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