中国在住ITウォッチャーが語る「QRコード決済って本当に必要ですか?」

中国在住ITウォッチャーが語る「QRコード決済って本当に必要ですか?」

QRコードでスキャンしてセルフ決済ができるスーパー。アリペイかウィーチャットペイで決済可能  ©山谷剛史

 日本でQRコードを使ったキャッシュレス決済サービスが次々に登場しています。CMで見かけるPayPayほか、メルペイ、楽天ペイ、LINE Pay、Origami Pay、ヨドペイ、ファミペイ、d払い、pring、Amazon Pay、au Pay、ゆうちょPay、セブンペイ、はまペイ、YOKA!Pay、EPOS Pay、PAY ID、ピクシブペイ……随分できたものです。

 店によって使える決済サービスも違う中で、複数のサービスを使いこなせている人はいるのでしょうか。日本のスマホ決済アプリの登場は、選択の幅を広げたこともあり肯定的に捉えられます。一方でこれだけたくさんアプリを入れれば、安価で非力なスマホはそれだけで動作が遅くなりそうです。

■中国に行ったことないからイメージで語る

 アジア各国でもQRコードによる決済の新サービスが登場しています。中国でテンセントの「ウィーチャットペイ」と、アリババ系の「アリペイ」が普及したことが背景にあるでしょう。

 日本では、中国のキャッシュレス決済を論じるときに「中国は昔からひどい国だから中国を低く評価したい」、あるいは「中国はスゴイから中国をすごく評価したい」という両極端な意見があまりに多いように思えます。中国に行ったことないからイメージで語るという気持ちはわかりますが、だからといってイメージばかりが先行するのはよろしくない。

 またQRコード払いによるダメなところや、日本で進んでいるFeliCaのほうがいい面はいくらでもあるのに、QRコードによるキャッシュレス決済をむやみに評価する意見もあって、それもまたよろしくない。

■結果的にニセ札をつかむことはなくなったが……

 前者の中国をディスるキャッシュレス論は、「中国はニセ札ばかり。ニセ札に悩まなくていいから普及した」という説です。違います。

 最初にPayPayの「100億円ばらまきキャンペーン」のような利用者へのキャッシュバックを行い、さらにUberのようなシェアライドの「滴滴」や「快的」が登場して、ドライバーにも乗客にも還元されるキャンペーンを行って利用者が増えました。その後も、数角(数円)ながら毎日買い物が安くなるキャンペーンを行っています。利用者が増えたので、ウィーチャットペイやアリペイ経由での爆速の送金が可能になりました。さらにそのチャージ金額を銀行以上の利率で預けられる投資信託が登場し、ますます魅力を高めました。

 利用した後、結果的にニセ札をつかむことはなくなったというメリットはあるけれど、サービスがリリースされた当時に、ニセ札のリスクがなくなると政府や企業が訴えたわけでもなければ、ニセ札がなくなると皆がキャッシュレスのアプリに走ったわけでもありません。

■「利用者のQRコード離れ」も嘘

「でも中国のキャッシュレスはニセ札が原因なんでしょ?」とそれでも言う人は絶えず、一人歩きしています。NHKの「ニュースウォッチ9」ですら、大学の先生がニセ札対策だという始末です。

 中国で実際に店舗や市場などで現金でやり取りする場面を見てください。店員が現金を偽札かチェックしてない場面なんていくらでもありますから。政府だってニセ札のためにキャッシュレスを普及させるなんて目標は立てていません。中国はニセモノが蔓延するから、ニセ札もひどかろう、だからキャッシュレスとドヤ語りですか。イメージだけでモノ語るのはいただけません。

 中国に関するネガティブ報道としては、他にも「他人のQRコードを不正に読み取ったり、不正なQRコードを読ませる金融犯罪多発により、利用者のQRコード離れが起きている」というものもありますが、これも嘘。中国現地在住者としては、人々はまったく変わらずキャッシュレスによる支払いを行っている様子を日々見ています。

 中国にネガティブなイメージを持つ人は、デマであっても「中国は狡賢い人間が多いから、問題も発生しやすい、だからQRコードのキャッシュレスでも犯罪多発」というイメージしやすいストーリーに納得するのではないでしょうか。

■日銀が発表した「モバイル決済利用率98.3%」レポート

 一方で、「中国のQRコード決済は普及していてすごいんだ」という結論ありきの言説も悩ましい限りです。

 例えば、中国のキャッシュレス決済を紹介する記事の中で、野菜や肉を売る市場でQRコードを掲示する写真が使われることがあります。しかし、QRコードが支払い手段のひとつとして掲示されているからといって、QRコードによるキャッシュレス決済が利用されることはまた別です。写真手前で印刷されたQRコードが置かれていようと、奥で店員と客が手を伸ばしていれば、現金の受け渡しをしていると考えたほうが自然です。

 確かに日本人が多くいる上海や北京や深センといった都市では、市場でもQRコードをかざしたキャッシュレス決済は見かけますが、中国の省都クラスの数百万都市ではそうした光景はまだ当たり前ではありません。

 日銀が2017年6月に発表した「モバイル決済の現状と課題」というレポートがあります。この6P目に、「回答者の98.3%が過去3カ月の間にモバイル決済を『利用した』と答えたとの報道もある」と書かれています。中国のCNNIC(中国インターネット情報センター)が出している中国インターネット統計報告という大本営発表ですら、インターネット普及率が6割弱となっています。インターネット利用者が6割弱なのに、キャッシュレス利用者が98.3%とか、もう意味がわかりません。

 日銀レポートの「元ネタ」は、実はイギリスのフィナンシャルタイムズ傘下の「投資参考」が1000人を対象に調査を行ったものでした。高所得者の多い東京都港区だけで調査を行うような感じで、上海の都心で調査を行ったのでしょう。この調査レポートはフィナンシャルタイムズの中文版でも掲載されました。詳細は割愛しますが、それを中国国営メディア新華社が引用し、さらにその新華社の記事を人民日報日本語版が紹介します。それを日銀は見つけて紹介したわけです。権威ある有能な人たちが何やってるんですか。誰もおかしいと気づかなかったのかと小一時間問い詰めたい。

■中国ではクレジットカードが普及しないうちに……

 ただ、QRコードを使ったキャッシュレス決済が万能なのかといえば、必ずしもそうではありません。例えば、自動改札機を通過するには、SuicaのようなFeliCaを活用したシステムのほうが圧倒的に速い。

 中国ではクレジットカードが普及しないうちにQRコードによる決済サービスが登場して、前述の通り、お得感と利便性から利用者が増えました。さらにシェアサイクルやシェアバッテリーなど、モノを借りるサービスの利用が可能になりました。

 ただし、QRコードによるキャッシュレス決済でないと、そうしたサービスが利用できないかというとそうでもありません。

 日本のシェアサイクルを見てもシェアバッテリーを見ても、クレジットカードでの利用が可能となっています。ベトナムのハノイやホーチミンシティでは、中国のシェアなんとか系の製品が導入されていますが、ベトナムではまだキャッシュレス決済が普及していないので、現金を利用します。

 中国でQRコードが普及した先に、送金はもちろんのこと、様々な有料サービスがスマホから決済できるようになりました。たとえばテレビやパソコンで有料の映像を見るときに画面に映ったQRコードをスキャンして、スマホに表示されたお金をキャッシュレスサービスから決済すると映像が見られるようになる。また電話代や水道光熱費や交通系の罰金も、キャッシュレスアプリから支払えるようになりました。確かに便利です。

■知人への送金もアプリが違えば不可能に

 とはいえ、いずれもクレジットカードが普及している日本ではできることなのですよ。だからこそ、カード決済でのシェアバッテリーやシェアサイクルが登場している。楽天EdyやSuicaなど、FeliCa技術を活用した電子マネーも普及しています。製品や画面に表示されたQRコードをスキャンした上で、FeliCa系の電子マネーの中に入ったお金を支払うこともできるはずです。スマートフォンがおサイフケータイの機能をもてばいいだけの話で、日本ではすでに普及しています。

 中国特有の事情を無視して、単に「流行っているから」と後追いしようとする姿勢は、冷静さに欠けているのではないかと中国でウォッチしてきた人間として思います。あまつさえ経産省が「プレミアム・キャッシュレス・フライデー」なんてものを発表する始末。キャッシュレスを知らない人に啓蒙するには長すぎる名前ですが、財布をスマホに変えさせるキャンペーンなのだから、1か月に1度ではなく毎日キャンペーンをやってほしいモノ。1か月に1回だけQRコードをかざして効果はあるのでしょうか。

 個人的にはQRコードによる支払いの選択肢として増えることはけっこうだとは思いますし、知人への送金がその場でできれば便利でしょう。しかし、とりあえず我も我もとなんとかペイが乱立するようでは、知人への送金もアプリの違いで互換性がないという場面が容易に想像できますし、不便になっているだけとしか思えません。

(山谷 剛史)

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