「人気だが、自分では絶対選ばない」「軽視すると痛い目に遭うのは…」不動産屋が語る、“住んではいけない賃貸物件”
2023年03月12日 12時00分文春オンライン

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春からの新生活に向け、今まさに住まい探しに奔走している人も多い。何度も内見を重ね、賃料の予算と物件の条件を熟考して賃貸契約を交わしたつもりでも、引っ越してから住みにくさがわかった、なんてケースも少なくないだろう。
そこで今回は「物件選びで失敗したくない!」というみなさんに代わって、不動産のプロに“住んではいけない部屋”の特徴をズバリ訊いてみた。(※単身向け集合住宅の賃貸物件が対象)
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■「絶対に選ばない」と断言した部屋
都内を中心に不動産仲介業を営む中村伸樹さん。彼が「自分は絶対に選ばない」と断言したのは、一般的には好条件とされているアノ部屋だった。
「私ならマンションの“最上階角部屋”には住まないですね。ほかの部屋に比べて日当たりはずば抜けて良好で、開放感もありますが、窓が多いので夏は暑くて冬は寒い。一年通して冷暖房費がかさむ部屋でもあるんです」
その一方で、角部屋に挟まれて窓がひとつしかなく「うなぎの寝床」と揶揄されがちな中部屋は、四方を壁に囲まれているので外の騒音が聞こえにくく、冬は暖かいなどのメリットがあるという。そして、最上階の部屋にはもうひとつデメリットがある、と中村さん。
「角部屋、特に最上階にあるマンションタイプの部屋は漏水リスクが高いんです。角部屋は、階数問わず外壁にクラック(ひび)が入ったら、浸水リスクあります。
マンションの屋上は、雨漏りを防ぐために専用の防水塗料を塗ったり、シート状の防水材を貼ったりなどの防水加工を施しています。マンションタイプは、防音・耐震・火災には強い反面、水に弱いという性質があります。
確かに築浅物件の防水性は高いですが、古いマンションはシートが経年劣化している可能性も考えなければならない。大雨で屋上がプール状態になってシートに穴が開くと、真下にある部屋の天井に漏水が発生してしまいます。昔、賃貸物件の管理会社で働いていたのですが、最上階部屋の漏水被害はいくつも目撃しました」
防水シートは10年ほどで貼り替えの工事が行われる。しかし、自分が住みはじめたタイミングが貼り替え直後とは限らないため「築年数が古い物件の最上階は、避けるのがベター」と、中村さんはアドバイスを送る。
「雨漏りをすると、改修のために数日間さまざまな業者が部屋を出入りして、不自由な生活を強いられます。補償が出るので工事費用を払う必要はありませんが、自ら選んで最上階に住んでいる経緯から、法律上、漏水は、借主も少なからずリスクを負う責任がある。
なので『雨漏りの工事中、部屋で生活ができなかったので損害賠償請求したい』と考えても、借主が請求したいと考える精神的な損害も含め、全ての賠償請求が認められるとは限らない、ということです」
また、角部屋には外壁のクラックからの浸水リスクもあるという。
築年数の古い物件の最上階に住むには、上に住人がいない解放感と引き換えに、雨漏りの不安を抱えなければならないようだ。
■軽視すると痛い目を見るのは…
内見の際に“収納”に目がいかず、住んでから後悔する人が多い、と話すのは、不動産仲介業者の市場俊介さん(仮名)だ。
「4.5~6畳のワンルームや1Kなどの単身者向け物件は、何かの条件を満たすために収納を削るケースがあります。たとえば、マンションを建てるときに入居者からのニーズが高い “バス・トイレ別物件”にするため、クローゼットや収納スペースを削るケースは非常に多いです」
バス・トイレを別にする場合、およそ1畳分(1.6平米)ほどのスペースが必要になる。その増えた分を賃料に反映すると5000~6000円前後プラスしなければならず、借り手がつきにくくなってしまう。そこでオーナーは現状の専有面積を維持して賃料を上げすぎないように “収納を削る”という。
「収納は部屋からなくなってはじめて、その大切さが身に染みる要素。よっぽど荷物が少なければなんとかなりますが、収納なしでの生活はなかなか難しいのが実情です。自分の予算と希望する条件との兼ね合いにはなりますが、安さのために収納を軽視しすぎるのは考えものです」
■家具・家電は内見の際にサイズを把握していく
内見時の印象の良さだけで部屋を決めるのも、リスクが高い、と市場さん。
「高級賃貸マンションは、内装にこだわりすぎて収納がゼロなんて物件も珍しくありません。また、キッチンが広く作られているマンションの場合、その分“冷蔵庫置場”が狭くなっている可能性もあります。手持ちの冷蔵庫のサイズを考慮せず、引っ越ししてから冷蔵庫のスペースに置けないと気づいたり、奥行きが足りず壁から冷蔵庫が飛び出したりして、使い勝手が悪くなります」
家具・家電は買い換える予定がないなら、内見の際にサイズを把握していくのも失敗を防ぐコツだという。
■本当に起きた、下階の天井が落ちる悲劇
近年、築年数が古いマンションは入居者の退去後に部屋の清掃だけでなく、リフォーム工事を行うケースが多い。新たな入居者としてはありがたいが、そんなリフォーム済みの部屋の“床”には落とし穴がある、と、前出の中村さんは語る。
「とくに注意してほしいのは、元々洋室の部屋に“ウッドタイル”を敷き詰めたリフォーム済みの部屋です。これらはフローリングの上に敷くだけでフローリングに見えるアイテムなのですが、床下に湿気が非常に溜まりやすいという特徴があります。
雨が降って窓のサッシに水が溜まると、クッションフロアに雨水が染みていき、時間の経過とともに重くなっていく。すると、ある日突然、その重みで下階の天井が落ちてしまった、というケースを見たことがあります」
中村さんが現場に向かうと、リフォーム工事のときに古いフローリングの上にウッドタイルを敷いた事実が判明したという。
下階の天井が落ちるリスクを考えると、オーナーにとってもデメリットが大きいように思えるリフォーム方法だが「彼らにも事情がある」と、斉藤さん。
「畳や老朽化したフローリングから本物の新しいフローリングに貼り替えるには、畳や元々のフローリングを剥がして基礎工事をするなど多くの手間と費用がかかるので、畳のまま、古いフローリングのまま入居してほしいのがオーナーの本音。
ですが、かつて主流だった畳の和室や80年代のバブル期に流行したカーペット貼りの床は、令和になると清潔感がない印象になり、借り手が敬遠する要素になっています。
その折衷案として、クッションフロアやウッドタイルを敷いて入居者を呼び込むのが、近年の傾向です」
時代とともにニーズは変化する。仮に、築年数が古くてリフォーム済みのマンション購入を検討する際も、素材をチェックすれば下階天井が抜け、損害賠償しなければいけない悲劇は免れそうだ。
世の中で“好条件”とされている物件が、自分にとっても住みやすいとはかぎらない。賃貸といえど、物件探しは慎重に行いたいものだ。
(清談社)
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