キューピッド役だったはずの高校生の僕は、恋するゲイ少年となった

キューピッド役だったはずの高校生の僕は、恋するゲイ少年となった

(c)平松市聖/文藝春秋

連載「僕が夫に出会うまで」

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2016年10月10日に、僕、七崎良輔は夫と結婚式を挙げた。幼少期のイジメ、中学時代の初恋、高校時代の失恋と上京……僕が夫に出会うまで、何を考え、何を感じて生きてきたのかを綴るエッセイ。毎週連載。

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(前回までのあらすじ)中学生の頃まで「オカマ」と言われ、いじめられていた僕は、高校でたくさんの友だちに恵まれた。ある日、悪友のアズと一緒に生活指導室へ呼び出された僕は、先生から「通学中のバスでは静かにするように」とあまりに普通のことで叱られ、少しうれしくなったのだった。

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(#1「 とある夫夫(ふうふ)が日本で婚姻届を出したときの話 」を読む)

( 幼少期編 ( #2 ・ #3 )を読む)

( 中学生編 ( #4 ・ #5 ・ #6 ・ #7 ・ #8 ・ #9 )を読む)

(高校生編( #10 )を読む

(前回の記事「 『男らしくしなさい』と怒られていた僕が、先生に叱られて嬉しかった日 」を読む)

 高校入学から少し時が経ち、暑い季節がやってきた。同じクラスの男友だちが僕に言った。

「1組の長谷川って奴が、七崎のアドレスを知りたいって言うんだけど、教えてあげていいかな?」

「いいけど、その人の事を知らないし話した事もないんだけど。なんでだろう?」

「なんか、お願いしたい事があるって言ってた。内容はよくわからないや」

「そうなんだ、わかった、メール待ってると伝えて!」

 その日の夜、早速メールが届いた。内容はこうだった。

「長谷川です。七崎にお願いがあります。俺、津田さんの事が好きなんだけど、七崎は津田さんと仲が良いから、仲を取り持ってもらえないかな」

■校内でも指折りの美人だった津田っち

 僕は女友達が多かった。中でも津田っちは校内で指折りの美人で、身長も高くスタイルもいい、僕のクラスの女友達だ。めちゃくちゃ美人だが、男に媚びない性格のせいか、それとも美人すぎると男子はビビッて近寄れないのか、モテている印象はない。

 ハセからのお願いを受け、そんなの簡単じゃん! と思った僕は快諾した。ハセは津田さんと二人きりでは緊張してしまうらしく、何人かで動物園へ行きたいようだ。僕は、次の日学校で津田っちを見つけると、「津田っちー!」とさっそく駆け寄った。

「ねぇ、津田っち、1組のハセって人が、津田っちの事が好きなんだって。だから円山動物園に行くことになったんだけどいい?」

「え〜、なにそれ、どんな人なの? ウチ、その人のこと、何も知らないけど」

「そうだよ、だから動物園にみんなで行って、知り合いたいんじゃないの?」

「そういうもん? まあ、ななぴぃも行くなら、別にいいけど」

 ななぴぃとは僕のあだ名だ。動物園行きが決定した時、ハセがちょうど僕のクラスを覗きにきていた。この時が僕にとって、ハセとの初対面であった。

■ハセの第一印象は「サッカー選手にいそうなイケメン」

 ハセは一重で、サッカー顔というか「サッカー選手にいるよね、こういうイケメン」って思えるような顔をしていて、とてもカッコいい人だと思った。この人と仲良くなりたいと心が叫んだ。僕は廊下に出てハセと挨拶をした。

「ハセ、初めまして。津田っちね、動物園行くって! 良かったね!」

「良かった! 七崎、本当にありがとう! でも、どうやって言って、誘ってくれたの?」

 ハセは声までカッコよかった。ハセの顔と声で、僕の心臓は、誰かに絞られているみたいにキュウウ……となった。

「どうやってって、普通に。ハセが津田っちの事が好きだから動物園に行き…」

「え? 俺が津田さんの事を好きだって言っちゃったの?」

 ハセが驚いていることに僕も驚いてしまった。

「言わないと始まらないじゃん。ダメだったの?」

「……いや、動物園来てくれるんならよかったけど……普通言わないだろ! 噂通り、七崎は変なやつだな。ある意味、すげえやつなのかもしれない!」

■「すげー」と言われ、照れた

 僕にはハセの言う「普通」がよくわからなかった。「普通じゃない」「すげー」といわれ、僕は照れた。

「ありがとう」

「七崎はどうしてすぐ女の人と仲良くなれるの? 俺は緊張して喋れなくなるんだけど…… 緊張しない秘訣とかあったりするのかな」

「慣れれば良いんじゃない? ちょっと待ってて、津田っち呼んできてあげる!」

 僕が、ハセと二人で話をしていて、緊張していることは、彼も気づいていない。

「津田っち、この人がさっき話したハセだよ!」

「あぁ、なんか、すみません。はじめまして。津田です」

 津田っちの態度は少しよそよそしかった。ハセもそれを感じとったのか、硬直していた。

「あの、はい。 ……動物園。よろしく、お願い、します」

 ハセはやっぱり、うまく喋れないようだった。そんなハセがすごく可愛く思えた。教室に戻ると僕は津田っちに言った。

「ハセってかっこよくない?」

「えー、私のタイプじゃなかった〜。だって、あの人の喋り方こんなんだったよ?」

 津田っちは、ハセのしゃべり方を真似て笑った。

「ハセは緊張してたんだよ。僕と喋ってた時は普通だったよ。動物園楽しみだね!」

■「なんで勝手に言っちゃうんだよ!」ハセは僕の身体をブンブンと

 動物園当日、僕は最初から最後まで本当に楽しむことができた。一緒に行ったメンバーはともかく、ハセが四六時中カッコよかったからだ。ただ、ハセと津田っちはたまに会話をしていたが、二人はその先なんの盛り上がりもなく一日が終わってしまったようだ。ハセと僕が二人きりになった帰り道、ハセは言った。

「今日津田さんとうまく喋れなかったのは、七崎が勝手に、俺が津田さんを好きなことを伝えてしまったからだよ。なんで勝手に言っちゃうんだよ!」

 ハセは僕の身体をブンブン揺さぶった。僕は悪いことをしたつもりは全くない。「ドンマイ!」と彼を励ました。僕が津田っちに話をしていようがいなかろうが、ハセがうまく喋れようが無かろうが、うまくいかないものはうまくいかないのだ。僕は直感でわかっていた。そんなことよりも、僕はハセと仲良くなれたことが、嬉しくて仕方がなかった。

 それから、僕とハセはいつも二人でいるような仲になったから、周りからは「あいつらデキてるんじゃないか」と噂されたくらいだった。もちろん噂通りではないが、気がつけば僕は、ハセのことしか見えなくなっていた。

(続き「 ハセとの拷問温泉 」を読む)
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写真=平松市聖/文藝春秋

(七崎 良輔)

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