23年ぶりセンバツ 文武両道・米子東ナインが“わざわざ”小学生に野球を教える理由

センバツ高校野球が開幕 文武両道の米子東、小学生に野球を教え「生きる力」高める

記事まとめ

  • 23日に開幕したセンバツ高校野球で、2日目に札幌大谷高校との対戦が決まった米子東
  • 米子東は進学校だが中国大会では倉敷商業や開星といった甲子園常連校を立て続けに撃破
  • 米子東の野球部員は学童保育施設に通う子どもたちとの野球交流会で学んでいるという

23年ぶりセンバツ 文武両道・米子東ナインが“わざわざ”小学生に野球を教える理由

23年ぶりセンバツ 文武両道・米子東ナインが“わざわざ”小学生に野球を教える理由

昨秋の中国大会準優勝し、センバツ出場を決めた米子東。野球部員は16人のみ ©米子東高校

「本当にこの子たち、高校生なのかなぁ。ビックリするくらい、しっかりしているな」

 そんな思いを巡らせたのは、ある高校の野球部の活動を見せてもらった時だ。

 昨年12月、鳥取県の県立米子東高校野球部に取材に伺う機会があった。鳥取でも1、2を争う進学校である同校だが、昨秋の中国大会では倉敷商業(岡山)や開星(島根)といった甲子園常連校を立て続けに撃破。準優勝という成績を収め、センバツ出場をほぼ確定的なものとしていた。そこで、部員わずか16名の県立の進学校が躍進できた理由を探りに現地に向かったのである。

■「今日は子どもたちと野球交流会の日。練習はお休みです」

「文武両道」の高校らしく、どんな効率的な練習をしているのか。それともなにか新しい、革新的な手法でのトレーニングをしているのか――そんなことを考えながら現地で練習を見学させてもらおうとすると、チームの川下忍部長から、意外な答えが返ってきた。

「実は今日は地域交流の一環で、市内の学童保育施設に通う子どもたちを訪ねて野球交流会をやる日なんです。通常の練習はお休みなんですが、もしそれでも良ければ見て行ってください」

 2017年の12月から行っているというこの活動。プロ野球チームや社会人チームがこのような活動をすることはよく耳にするが、公立高校の野球部が取り組むのは、全国的にも非常に珍しい。その狙いについて、川下部長はこう説明する。

「いまは野球をやる子どもたちの数も昔と比べて減ってきています。なので『野球の面白さ』を知ってもらうために、定期的に交流活動をしているんです。鳥取はプロ野球のチームがあるわけでもないし、強豪の社会人チームがあるわけでもない。そうなったら、高校の野球部がやるしかないでしょう」

■小学生を飽きさせず、テンポよく楽しませるために

 実際に交流活動を見せてもらって感じたのが、高校生たちのコミュニケーションスキルの高さと、進行能力の秀逸さだ。

 子どもたちは最初から野球そのものに大きな興味を持っているわけではない。だからこそ、ひとつひとつの種目でいかに飽きさせずにテンポよく楽しんでもらうのかが重要だ。また、年齢も小学校低学年から高学年までばらつきがあり、それぞれが楽しめる形にしなければならない。これは想像以上にハードルが高い作業だ。

 まずはみんなでストレッチをして、ウォーミングアップを行う。ここではミニハードルを活用してサーキット的な動きを通して身体を暖めさせていた。単なるジョギングではなく動きをつけることで、子どもたちも楽しみながらアップができていた。

 それが終われば今度は重ねた段ボールを的に見立てて、スローイング。それと並行して、ナイロンボールを使ったトスバッティングも行っていた。子どもたちに野球の入り口を提示しつつ、それぞれの種目に得点をつける……ゲーム性を与えるためにじつに上手く考えられているのだ。

■「グループ、2つに分ける?」「ボール、足りてる?」

「そろそろ種目を変えないと飽きるぞ」
「グループ、2つに分ける?」
「ボール、足りてる? 少なかったら言って!」

 そんな言葉が高校生たちの間で飛び交う。みんなが能動的に動くことで、子どもたちとのコミュニケーションも欠かさない。

「あと10秒で種目を変えよう」
「こっちの列の人はバッティングをやろう」 

 そんな風に時間を区切りながら、子どもたちを盛り上げていた。

 最後はゲーム形式のチーム対抗戦だ。

 ただ、通常の野球とは少しルールを変え、捕ったボールに守備陣全員が集まるまでにどれだけ進塁できたかを競う形に変更。そうすることで、低学年から高学年まで平等に楽しめるように工夫がされており、チームとしても団結して楽しめるようにできていた。

■「甲子園出場以上のインパクト」

 これらは、昨夏に高校のプロジェクトとして、筑波大学で行われた野球普及の研究会に参加したメンバーを中心に、部員たちが自分で考えたのだという。この日も率先してチームを引っ張っていた福島康太主将はこう語る。

「旧チームの時からやっていてちょうど1年ほど経ったので、だいぶ慣れてきたと思います。少しルールは違うんですけど、筑波大の研究でやっていたものを、簡単にしたり逆に複雑にしてみたり、すこし変化をつけてやっています。監督も『自分たちで(メニューを考えて)やってみたら』と言ってくれたので、自分たちでどういう風にしたらいいのか考えました。この時期は寒いですし、どうやったら動く前に体が温まるのか。園児や小学生がどうやったら楽しめるのか。それを考えてメニューを組みました」

 自分たちと年代の違う子どもたちに野球に興味を持たせつつ、コミュニケーションを取りながら楽しく遊ぶというのは、大人でもかなり難易度が高い。それを16歳、17歳の少年・少女がすんなりこなしている姿は、正直甲子園出場以上にインパクトがあった。

■肝心の野球の練習をしたい気持ちにならない?

 一方で、夢舞台の出場が決まった今くらい課外活動よりも、肝心の野球の練習をしたい気持ちもあるのではないか。そんなことをつい考えてしまったが、福島主将の言葉はそんな邪推を一蹴してくれた。

「普段は高校生が相手じゃないですか。そういう意味ではどんなことでも伝えるのはすごく楽なんです。でも、小さい子たちが相手の時は一発で伝わらなかったり、伝え方によっては相手を傷つけてしまったりする。相手のことを考えるという意味ではすごく勉強させてもらっている気がします。練習の面だけではなくて、やっぱり自分たちが将来、親になった時に小さい子たちにどうやって接すればいいのかを学ぶことができますし、こういう経験は学校では触れ合えない機会なので、すごく貴重だと思っています」

 野球の練習だけではなく、それ以外の部分からいかに必要なことを吸収するのか。小さなことに手を抜かず、レベルアップを目指していく。計らずも、この活動を通して米子東躍進の一端が垣間見えたような気がした。

 チームを率いる紙本庸由監督も「文武両道」という分りやすいテーマが持ち上げられがちな中で、それ以上に大切な学生たちの「生きる力」については胸を張る。

「学力はともかくとして、社会人基礎力や生きる力という意味ではウチの子たちはすごく高いと思います。自分とは異質なものと交わる力と言うんでしょうか。僕みたいな異分子とも上手くやってくれているし、彼らは社会に出てもやっていけるなと思いますよ――」

 23日に開幕したセンバツ高校野球では、2日目に優勝候補の一角である札幌大谷高校(北海道)との対戦が決まった米子東。もちろん試合内容は楽しみだが、勝っても負けても、きっと彼らはその経験を「生きる糧」へと昇華することができるはずだ。

 高校の部活動というものが持つ本来の意義を感じさせてくれる米子東というチームが、夢舞台で輝くことを期待したい。

■(関連記事)鳥取一の進学校・米子東をセンバツに導いた「超合理的思考法」とは
https://bunshun.jp/articles/-/10511

(山崎 ダイ)

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