山口の中高生と映画を撮ってわかった「人はなぜ演技をするのか。なぜ映画は物語を描くのか」

山口の中高生と映画を撮ってわかった「人はなぜ演技をするのか。なぜ映画は物語を描くのか」

三宅唱監督(撮影:神山靖弘)

 今、日本映画界で大きな注目を集める若手監督がいる。昨年、佐藤泰志原作の『きみの鳥はうたえる』が話題を呼んだ三宅唱。20代の若者たちの日常を瑞々しく捉えた前作に続き、新作『ワイルドツアー』も私たちを驚かせてくれる。山口情報芸術センター(YCAM)の滞在型映画制作プロジェクトから生まれた本作。出演者は全員、地元の中高生。劇中では、元々YCAMで実施されている、野山に生えた植物からDNAを採取するワークショップを舞台に、中高生たちの友情や甘酸っぱい恋愛模様が描かれる。前作とは大きく異なり、とてもミニマルな制作スタイルだが、こちらも見事な青春映画に仕上がった。

■繊細かつ大胆な、ワイルドな姿

──『ワイルドツアー』は、まず、YCAMに8カ月滞在して自由に作品を撮る、という企画からスタートしたそうですが、どんな作品にするか、プランはいつ頃決まったんでしょうか。

三宅 当初は、何をやるか全く決めずに滞在し始めたんです。たとえば僕が東京からスタッフやキャストを全員呼んで、ふだん通り映画を作るという方法もあった。でもそれだとYCAMと一緒につくる意味がない。今回はこの街で出会った人たちと映画のアイデアをゼロから一緒に考えようと決め、まずはとにかく散歩しました。そこで山口の自然や、地元の中高生たちに興味が湧きました。YCAMは国内外のアーティストが日々出入りしている場所ですが、同時に中高生の放課後の憩いの場にもなっていて、勉強したり友達と遊んだりしてるんですよ。彼らと一緒に映画作りができたらおもしろいかもな、21世紀生まれの人間と一緒に仕事してみたいな、というのが出発点。そこでまずは中高生を対象に、2日間で映画を作ろうという企画を実施しました。20人くらい集まってくれて。

──そのときに作った作品はどういうものだったんでしょうか。

三宅 シナリオは、女の子ふたりが男の子ひとりを取り合う、みたいな恋愛モノの短編です。参加者を3つのグループに分けて、僕が書いたシナリオをもとにそれぞれ撮ってみよう、という形式です。僕はみんなの見守り役で、彼らが自分たちで演出を考えて、カメラポジションも考えて、編集もする。同じシナリオなのにグループごとに解釈や狙いが違うから、全然違う映画ができました。

──そこに集まった子たちと一緒に改めて長編映画を作ろう、ということで、『ワイルドツアー』の制作が始まったんですね。

三宅 全員に出演オファーを出しました。みんな、なかなか普通の映画では見ることができないような「ホンモノの中高生の顔」で、惹かれました。はじめての恋や将来のことで真剣に悩んでいたり、と思ったら全力でふざけ出したり、延々とスマートフォンをいじっていたり、野生動物みたいでかっこいいというか、笑えるというか。そういう彼らの繊細かつ大胆な姿を撮りたくなった。僕はそれを今回「ワイルド」と呼んでるんですが。

■何億円もかかっていたDNA解析が今は数百円でできる

──オファーの段階でシナリオはすでにできていたんですか?

三宅 大枠だけです。中高生が野山で植物を採取してDNAを調べる「森のDNA図鑑」プロジェクトに参加する、という枠組みだけです。そして、きっとそこでは恋愛や友情物語が生まれるだろうな、というくらいの想定。

──DNA採取のあの活動は、もともとYCAMで実施している企画なんですよね。

三宅 YCAMにはバイオラボという施設があり、「YCAMバイオ・リサーチ」としてDNA採取のワークショップなどを実際にやっています。僕も一度参加したんですが、SF映画みたいな実験に僕のような素人が気軽に参加できたことがすごく面白くて。かつては、植物からDNAを採取してその塩基配列を調べることは、どんなに安くても何億円とかかる作業だったのが、今では数百円くらいで簡単に調べられるようになったらしいんです。そのおかげで、かつては植物の名前を知りたいと思ったら植物図鑑を使って推測する他なかったのに、今は、DNAを調べることで特定できるようになった。そういう、以前はお金がすごくかかって専門家しかできなかったことが、安く手軽に誰でもできるようになったという歴史の変化は、映画においても同じだな、と。映画も、かつては大会社がフィルムで作るもの、ごく限られた人しか携われないものだった。それが今では、iPhoneで誰でも撮れてしまう。そこで、バイオ科学の先端と映画の先端が交われば、安く手軽にSF映画ができるってことか!と考えました。それに、中高生たちが植物を発見する表情にカメラを向ければ、彼らの生き生きした姿が撮れるかなと。

■「演じた方が楽だから演出して!」

──映画は、バイオ・リサーチの場面から始まって、だんだんとラブストーリーに発展していきますよね。

三宅 もともと一本の完成されたシナリオがあったわけではないんです。毎週平日に「次の土日は誰と誰が来るから、あの山でこういうドラマを作ろうか」と、日記のような形で書いていきました。劇中で提示される日付はほぼ撮影日と一緒。印象に残っているのは、彼らは演技経験がほとんどないけど、「演じた方が楽だから演出して!」と自ら要求してきたこと。それでシナリオもどんどん劇映画としての強度が増していきました。実は当初、どこまで演出すべきか悩んでいたんです。一方的に何かを命じるような関係はイヤだし、こっちから余計な要求をしすぎて彼らの鮮度を損なってしまうのも怖かった。でも、生々しさを捕まえるために劇や演出が必要なこともある、ということを彼らに教えてもらいました。それと、例えば一目惚れする瞬間って僕らの人生にはあるけど、その瞬間は簡単には映らないから、それを表現するためには劇や物語が必要だね、ってことも一緒に考えられた。で、そうとなったらちゃんと物語を作ろう、と思って、じゃあ恋愛モノをやるか、と。人はなぜ演技をするのか、なぜ映画は物語を描くのか、その根本を辿る作業を、『ワイルドツアー』で体験できた気がします。

■いい意味で空気を読まない

──シナリオ自体も、出演者の彼らの意見がかなり反映されているんですか。

三宅 そうですね。たとえば朝集まってもらって「こういう話とこういう話、ふたつ書いてきたけど、どっちがいいと思う?」と聞いて、両方の本読みをして、「こっちのほうがしっくりくるね」となったらそっちを選んだり。あとは撮影しながら一緒に台詞をブラッシュアップしています。彼らは平気でダメ出ししてくるし、つまらないアイデアに正直に反応してくるので、ずっと気が抜けなかったです。おじさんおばさんは「なるほどですねえ」とか言ってごまかすけど、彼らはいい意味で空気を読まない。

──三宅監督の前作『きみの鳥はうたえる』も、とても自然体な3人を映し出しながら、やはり決定的な瞬間を劇のなかで描いていきますよね。単純に3人の物語、ということだけじゃなくて、2作品のつながりを感じてしまいます。

三宅 男ふたりと女ひとりの物語になったこと自体は偶然なんです。でも、『きみの鳥〜』が恋にだらしない姉兄だとしたら、『ワイルドツアー』という野放図な妹弟ができた感じだなあと思っています。

──それぞれの制作時期は?

三宅 2017年6月末に『きみの鳥〜』を撮り終わり、8月末から山口で滞在をはじめ、翌年の2月から『ワイルドツアー』を撮り始めました。山口に滞在中もずっと『きみの鳥〜』の編集をしていて、かなり並行して作業をしてましたね。結局『ワイルドツアー』のクランクインの3日前に東京のスタジオに行って『きみの鳥〜』が完成しました。

──大きな違いとして、やはり『きみの鳥〜』は職業俳優を使って撮った劇映画であり、『ワイルドツアー』は職業俳優ではない人たちを使って撮った劇映画である。そこの演出の違いというのはいかがでしょうか?

三宅 『きみの鳥〜』の役者たちは、本当にどえらい役者たちですから。そういう意味では、まったく違うといえば違う。でも僕の仕事はどちらにせよ、なるべく彼らにリラックスしてもらって一緒に楽しみたいというのは変わらないです。そのためのやりとりはプロの役者でも一人一人ちがいます。

■三宅唱とゆかいな仲間たち

──映画のなかで、彼らはどんどん自然のなかに分け入って、彼ら自身が野生動物のようになっていきますよね。それをiPhoneという最先端の技術でとらえていく、その対比がおもしろいなと思いました。

三宅 映画のなかでは、実際に彼ら自身がiPhoneで撮った映像もたくさん使っています。雪がものすごく降った日なんか、普通のカメラが壊れそうだったので、彼らにiPhoneを渡して自分たちで撮ってもらった。だから撮影クレジットに彼らの名前も載せています。劇中で彼らが採取する植物も彼ら自身で決めている。監督のクレジット自体を「三宅唱とゆかいな仲間たち」にした方がいいかもしれないですね。ちなみにシュンという役名も、「名前何がいい?」って聞いたら本人が「小栗旬がいい」って答えたからでした。本人としてはボケのつもりだったと思うんですが、僕が「いいじゃん。それ採用」って言ったもんだから、「あ、この人なんでも受け入れちゃうからボケてる場合じゃない」と気づいたみたいで、それ以降はそういう冗談は言わなくなりました(笑)。

──彼らは編集の段階にも立ち会ったんですか?

三宅 編集には立ち会ってないですが、現場で撮ったカットをその場ですぐにモニターでプレビューしながら、いろんな話をしました。「これはちょっと間が悪いね」と自分たちを客観視したり、「今のはうまくいかなかったからもう一回やりたい」って言い出したり。あと、心の中でどれだけ感じてもカメラには映らないから目に見えるように演技しよう、なんてことも彼らは自分たちで発見しました。彼らを子供扱いしない、ということは決めていた。子供だからわかんないよな、とは絶対に言わずに、対等な人間として普段通りしゃべれば彼らもついてくるし、わからなかったらわからないと素直に言ってくれる。そういう信頼関係はつくれたかなと思います。

■映画の最初と最後では顔つきが全然違う

──映画のなかでは、三宅監督が大好きだというトニー・スコット監督の『デジャヴ』のような素晴らしいシーンも出てきますね。パソコンをいじりながらモニターで自分が撮った映像を見る主人公たち、という場面。カメラが反転すると、撮影された映像越しに、楽しそうな彼らの顔が見えます。

三宅 モノマネはなるべくやらないと決めているんですが、『デジャヴ』はとんでもなく好きでして、ついやってしまいました。『デジャヴ』を繰り返しみながら、これはセットが2つあるんじゃないか、そうじゃないとありえないカットだろ、と。それで僕らもセットを試行錯誤して作りました。

──別のセットでもう一度同じ演技をする、となると、かなり本格的な演技になるわけですよね。

三宅 この場面に限らず、撮影が進むにつれて、どんどん高度な演技になっていきましたね。ほぼ順撮りをしてるので、映画を見ていると、彼らが実際に成長していったさまがよくわかる。最初と最後では彼らの顔が全然違いすぎて、思わず笑っちゃうほどです。

■メジャーな商業映画とインディーズ映画

──三宅さんは、以前、トークイベントで「『きみの鳥はうたえる』は初めての商業映画とよく言われるけれど、今までも依頼を受けて映画を作り、それを自分たちなりに公開して商売してきたので、これが初めての商業映画ではない」とおっしゃっていましたよね。『ワイルドツアー』についても、これまでの作品との違いはそれほど感じないのでしょうか。

三宅 そうですね。『ワイルドツアー』は小品に思われるかもしれないけど、YCAMという市の施設からのオファーという責任感もあるし、出演した中高生の後ろには家族親戚一同がいるし、映画を作る緊張感はいつも以上だったかもしれません。だって、人生で初めて参加する映画が微妙だったら最悪ですよね。それを考えると商業性も自然と帯びるというか、とにかく、面白くないとやばい、というのはいつもと変わりません。それに、ただ面白いだけではYCAMも山口の人も納得してくれない。

──映画監督としての方向性、みたいなことは考えたりされますか? 『きみの鳥はうたえる』がいろんな賞を受賞されて、これからはいわゆるメジャーな商業映画をどんどん撮っていくのかなと期待されることも多いと思いますし、一方で『ワイルドツアー』のような作品を発表されると、今後もインディペンデントな映画作りのほうをずっと続けていくんだろうか、と思われたりとか……。

三宅 あんまり人にどう見られるかは気にしたことないんですけど、「こうあれ」みたいに言われると、なんであれイラッとするタイプなので(笑)。iPhoneで撮る『無言日記』は僕の中で最も小さな作品だけどずっと続けていきたいし、『ミッション:インポッシブル』シリーズもいつか撮ってみたい。12くらいなら撮れるかなと(笑)。取り組み方は変わらないけど、その振れ幅の中で、どこまでおもしろいことができるか、とは考えます。

■好奇心にしたがって境界を踏み越える

──今の日本映画においては、商業映画の世界と、自主映画や規模の小さいインディーズ系の映画の世界との差はやはり大きい気がするんですが、三宅さんとしては、その垣根はあまりないということですか?

三宅 ないですね。編集やライターの方も、大手媒体で書くのと同時に、自分のZINEを出すこともあると思うんです。その熱量って基本的には一緒ですよね? 僕も同時にごちゃごちゃやっている。そうしないと食えないし、楽しくないし。駅前の自分の店でこだわりの一品を出しつつ、それと同時に、コンビニとコラボしてめちゃめちゃ美味いスイーツを全国に出したい。映画の場合は一人でやるもんじゃないので、誰と一緒に仕事をするかというのが大事だと思っています。その相手次第。

──大きいシネコンで上映する映画は作らない、ということでもない。

三宅 そうですね。シネコンで見た映画の数の方が多いですし。

──『ワイルドツアー』の中で、立ち入り禁止区域がたくさん出てきますよね。でも登場人物たちは、わりとあっさりそこを踏み越えていく。ある意味で、三宅さんもどんどん立ち入り禁止の場所に入っていくんでしょうか。

三宅 さっきごちゃごちゃって言いましたけど、自分がそうするぞ、っていうより、どうせそうなるよね、という感覚です。自然とそうなるんじゃないかなと。僕が生きている間は、いわゆる大きな映画というものも依然としてあるだろうし、一方で個人映画はどんどん増えるわけで、その間にいればいろいろごちゃごちゃやることになると思います。それと、『ワイルドツアー』の彼らがどんどん境界を踏み越えていくのは、単純に好奇心が強いからですよね。境界を越えるのは結果であって目的じゃない。自分もその都度、好奇心にしたがって映画を作っていければいいなと思います。その結果、いろんな境界がごちゃごちゃになるのは……まあ、いいんじゃないですかね(笑)。

聞き手・構成=月永理絵

みやけしょう/1984年北海道生まれ。2007年映画美学校フィクション・コース初等科を修了。09年、一橋大学社会学部卒業。『Playback』で第22回日本映画プロフェッショナル大賞新人監督賞を受賞。昨年、柄本佑、石橋静河、染谷将太を起用した『きみの鳥はうたえる』が高い評価を受けた。

INFORMATION

『ワイルドツアー』
3月30日(土)より、ユーロスペースほか全国順次ロードショー
https://special.ycam.jp/wildtour/

(月永 理絵)

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